リバースワールド・原初・ 転生したので黒猫として事物の配達いたします!  

黒目朱鷺

転生よろしくプロローグ!


 これからどうしたものか。

 訳も分からず、首筋に痛みを感じたかと思えば森の中とはこれ如何に…。


 ことは数分前。いやそれ以上前かもしれないけど、俺は家の庭で抜刀術の練習をしていた。

 やり始めてはや十数年。十七歳の時に抜刀術で日本一となり、今年は二連覇をかけてさらに腕を上げようと練習していたのだ。

 そんな最中。庭に作った藁を丸めて立てた的に竹刀を当てていた時、突然後ろから鋭い痛みが奔ったかと思えば、次に目を覚ませば森の中。

 本当に訳が分からない。

 誘拐にしたってそんな年ではない。もしかしたらそんな物好きも…。

 俺は思わず変な方向へと思考が奔り、急いで頭からその思考を振るい落とした。

 危ない…。やばい展開を想像して吐き気と悪寒が…。


 どうにもこうにもまずはさっさとこの森を抜けなくては。夢ではないはずだ。なにせ、顔に当たる風が本当に冷たい……!


「なにかもの…。もの…」


 あたりを見渡しても何か特別なものはない。

 うーん。誘拐された挙句、森の中へと放置されてしまった。と仮定しよう。

 まずいな。陽が落ち始めてる…。なんにせよ早く森を抜けなきゃ危険だ。


「うわっ!」


 一歩、歩みを進めた時、足元に何かが突っかかりそのまま転んでしまった。

 足元を見るとそこには分厚い辞書のようなものが枯葉に隠れ、置いてあった。


「なんだこれ?」


 辞書のような分厚い本に手をかけようとしたとき、自分の体の異変いへんに気付いた。

 あれ? 俺ってこんなに手、小さかったっけ? ていうかさっきからやけに視線も低いし。


 …………。

 ……………。

 ………………。

 …あれ? 俺ってまずこんなロリボイスだったっけ?


「ま、まさかね? いや! そんなはずねーからぁーーーー!」


―――――――


「はぁ…。はぁ…」


 どうやらこれはかなりリアルかつ悪い夢のようだ。

 まさか俺が女になってるなんてそんなはず……ない。


 スッ…。


「っ!///」


 悪い夢すぎる!

 抜刀術をやってて、俺の声が元から低めのこともあって掛け声で技の採点が低くて、横でやっていた女子の部の声を聴いていいなとか思って!? 自分が女だったらな? とか思ったこともあったけどよ!


「それは…。ねぇだろ…」


 こういう悪い夢を見た時ってどう目を覚ませばいいんだ?

 はっ!

 もしかしたらこの本の中に抜け出すヒントなんかがあったりして!


「さーてどれどれ」


 カサッ…。


「ん?」


 なにやら表紙を開くと二枚の紙切れが挟まっていたのか抜け落ちてきた。

 これは…。手紙?


『この度は我が主である生を司る神の不手際によって、貴殿「秋凪瑞姫」を前世にて殺害してしまったことを当人の代理として、側近の者よりお詫び申し上げます。またこのような不手際で二十歳にも満たずに人生を終わらせてしまってはいけないと主が申し、問答無用で異世界へと転生させたことを、私より再度深くお詫び申し上げます。また、気付いていらっしゃるかもしれませんが、秋凪様のお姿は前世の物であり、この異世界にはうまく適合しなかったため、側近十名が誠心誠意新しい体をお創りしましたのでどうかお納めください。というかそれ以外の体はないのでそれ相応の生活をしてください。謝罪します。

改めて、このような事態のすべての原因は我が主の「生老」様のせいです。

この手紙を挟ませていただいた本はこの世界のあらゆることについておまとめしてあります。今後の人生にお役立てください。

何かありましたら、心の底から「出てこいやクソボケ神様」とお叫びください』


 なんだこの手紙。

 夢にしてはユメユメし過ぎだろ。俺の頭の中どんだけメルヘンなんだよ。


「はぁ。夢、はやく覚めねーっかな」

「手紙、読んでいただけたようで」

「うわっ」


 突然背後からの声にびっくりして枯草の地面へと尻もちをついてしまった。


「…。これは失礼しました。お怪我はございませんか?」


 声をかけてきたのは芸能界屈指の女優と比べても負けず劣らずな美人だった。

 差し伸ばされた手はすらっと伸び、真っ白な肌。

 非の打ちどころのないとはまさにこのことであろう。と間抜け面を晒しながらしみじみに思っていると、首を傾げられ、とっさに伸ばした手に触れる。


「お怪我はなさそうで安心しました」


 ぐいっと引っ張り上げられ、一瞬体が浮いた気がした。

 こんな華奢な体のどこにそんな力があるのだろうか…。


「えっと…あなたは」

「生老様に使える十の天使の一対。エリアノールと申します。特技はけん玉です」


 つまりは、あの手紙の差出人なのか?

 てか、天使がけん玉って………。

 これって本当に夢なのか……?

 けん玉が特技だという天使なる存在が平凡な十七歳が見る夢の登場人物とは到底思えない。


 ましてや。俺は、抜刀術一筋でけん玉だとかそんなものに触れた思い出などない!


 夢はその人間が記憶したことだったり、衝撃的だったりしたことを再び脳内で再生されるとかそんなところだと認識している身からすれば、これは夢ではないのでは? と思ってしまう。


「秋凪様? どうかなさいましたか?」

「え? あ、ああ。すみません…。これって夢です…」

「ではないです。秋凪様は我が主の手によって死神により亡くなられました。詳しい死因が気になるならばお答えできますが?」

「い、いやいいよ! 首筋に痛みが走ったのは覚えてるからきっとそれで死んだんだと……」

「どうやらまだ。死んでしまったということが受け入れ切れていないようですね…」


 そろそろぶちまけてやろうか。この積み重なった意味不明な状況への不満を。

 いや。彼女にそれをぶつけるのもお門違いな気がするな。


「その生老(?)様へ直接文句を言うことはできますか?」


 かんっぺきだ。怨念ぎっしり笑顔。この姿の顔は見たことないが、いい感じの笑顔になっているのではなかろうか!?


「出来かねます…」


 え。

 アフターサービスというのも変だが、殺しておいて何の文句も受け付けないだと?


 こんのくそ神様めがぁ!!!

「こんのくそ神様めがぁ!!!」


「それについては、私からも深くお詫び申し上げます。なので、伝言だけでしたらお伝え可能だと思うので…恨みなどは私が丁寧にそのままお伝えできるよう人力します」

「いいんですか? そんなことを天使様がしてしまって」

「まあ…。大体恨みやらもっていっても聞き流すのが生老様の癖ですのであまり、ご期待なさらないでください」


 微妙に聞いたことと答えが一致していないのだが?

 そうもなれば彼女にそんな罵詈雑言を持たせるわけにもいかない。

 ここは紳士(?)としてグッとこらえるとしよう。


 いつか真向からいえる日を夢見てなぁ!?


「いえ。なら、大丈夫です。あと念を押すようで悪いのですが本当に俺は死んでしまったのでしょうか?」


 やはり、こんな夢ですら見ることのないような経験。死んだのだと自覚すべきだとは分かっている。

 でも、俺は異世界など望んでいなかった。ましてや死ぬ予定など先四十年近くなかった。

 いざ死んでみるといろいろと考えさせられるな…。


「はい。それは生憎ですが事実であり、転生したのもまた事実です」

「転生…かぁ……。はぁーーー」


 長いため息が出るのも必然だ。

 神様とかそんなの願掛け程度。的な考えが仇となったのか…?

 災難といえば災難だな…。


「それと、申し上げにくいのですが前世はもしかして男でした…?」

「……。男…ですよ…?」

「…あー。謝ることがもう一つ増えてしまいました」

「まさか…。いや、やっぱりこの体って…?」

「その体の性別は紛れもなく女で、天使十人が名前だけで判断してしまったので…これに限っては私共の完全なる不注意でした…」

「もうこの際はっきりというけど! 転生って時点でほかの情報のインパクトなんざ薄いわ!!」


 ああ。森に響き渡る俺の言葉…。

 全くだ。転生って時点で頭おかしいのに? 性別も違うよ。とか再確認させられたって…。転生って時点で感情は出し尽くしてるわ!


「さ、左様ですか…。とりあえずある程度の現状説明は以上なのですが…。他に何かありますでしょうか?」

「いいや。なんか大声で叫んだら少し気分が落ち着いた。手紙の最後の一文はこの後も継続する?」

「はい。極力私が出るようにしていますが、十人全員が秋凪様を心配していますので、私が出れないときは他の天使の誰かが出るかもしれません」

「そっか。まあそこら辺はしっかりしといてよね。全く分からない土地で一人だなんて。寂しさやらなんやらで人生損しそうだから」

「そう言ってもらえると助かります。あとのことは…これを参考にしてください」


 彼女が指さした先は、俺が抱きかかえるように持った本。

 どうやらこの本はただただ分厚いだけではないようだ。


「それでは。私は天界の方へと戻ります。もし何かありましたら私の名前を叫ぶなりなんなりしてください。それだけで天界には伝わりますので。あと、この人生に秋凪様へ課せられた使命などは何一つありません。好きなように生きてください。基本的に憲法とか法律なんてありませんから。では」


 そういって彼女は姿を消した。




 神様によって殺された俺は第二の人生を異世界で。かつ性別が変わって、歩き始めることとなったのだ。


 そしてこれが、第二の人生を謳歌するスタート地点となり、日常の通用しない日々の幕開けとなる出来事となった。



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