【短編小説】島国。

くっしー🐬

【短編小説】島国。

ここは、とある島。


僕はひとり。周りには砂浜と、ボートがひとつ、掘り返された穴。


そして近くに、サッカーコートほどの大きさの島が確認できる。


ボートを使ってその島へつくと、そこには誰かがいる。若いスーツの男と、板垣退助のような髭を蓄えた老人がいる。


スーツの男はSFにでもでてきそうな白い手袋をはめている。その手を開いたり、結んだり、弾ませたりしている。彼は僕に尋ねた。

「やぁ、あの砂浜からやって来たんだね。」

「そうだよ。何をやっているの?」

「今僕は仕事しているんだ。3DCGのいわゆるモデリングさ。この島には大したものはないけれど居心地がよくて。モデリングの邪魔になるものもないからね。」

-彼はその手袋を操り、空中に見える光の像を動かしたりしていた。オフィスに行くこともなく、この島で優雅に過ごしながら、仕事をしているようだ。-


「やい、そこのおまえ」

髭の老人が話しかけてきた。

「そいつはいったい、なにやってるんだ?おれにはさっぱりわからん。気味が悪い。昔はもっと良かった。木を削って彫刻していた時代が。なぜそんなニセモノが好きなんだ?今の時代は狂っとる。」

-髭の老人の右の手には使い古して黒くなった彫刻刀が握られていた。左の手には木でできた黒猫があった。-


「おい、なにか話さないか。お前も気味が悪いな。」

「どうして僕もスーツの若者も気味が悪いの?」

髭の老人は、黒猫をおいてその左の手でたくわえた髭を上から下へもみながら、

「それはだな、あれだ、彫刻刀のようなものがいいじゃないか。一から削って作るその時間がいいんじゃないか。あんな手袋なんぞ、けしからん!」


僕はこのサッカーコートほどの島をあとにした。




次は軍艦ほどの大きなテーブルが2つある島だった。

それぞれ食卓を囲んでいる。


が、彼らの身体は椅子に固定されていて、しかも、長い箸が手に縛り付けられていた。


一方の黒いテーブルでは、みな苦しそうな顔をしている。

「目の前に料理があるのに、こんな長い箸じゃ、食べれっこないよ、もう飢え死にしそうだ。」

「あれ?僕が見えないの?」

彼らはどうやら僕がわからないらしい。そうか、彼らはもう死んでいるんだ。


もう一方の白いテーブルでは、みな楽しそうに食事をしている。

「はい、君の好きなものだ、あーん。どれ、私のところのも口に運んでやくれないか。あむうむんむ。おいしい。なんて素晴らしいところだ。」

-どちらも同じ状況にも関わらず、一方は自分の料理を食べることに必死で、長い箸では食べれずにいる。対してもう一方では、お互いに食べさせ合うので、長い箸が不便ではないようだ。まるで地獄と天国にもみえる。-


僕は軍艦ほどのテーブルのある島をあとにした。




次の島は、アルプスのふもとにでもありそうな島だった。


そこには二足歩行のブタたちと、四足歩行の人間たちがいた。

そこでは村を形成しているようだ。

「やぁ、二足歩行の人型はめずらしいな。」

「そちらこそ、二足歩行のブタに四足歩行の人間なんてめずらしいです。」

「君も招待されてきたのか?」

「いいえ、丁度あの島から来ました。」

「あぁそうか。そこには人間たちがたくさん逝くと聞いているが。今宵もひとり逝くのだよ。」

そこには二足歩行のブタたちが、ひとりの四足歩行の人間を洗っている姿が確認できた。


「あら、二足歩行の人間なんてめずらしいわ。」

「そっちこそ、四足歩行の人間なんて、めずらしいよ。」

「あはは、それより聞いて。今宵はとっても名誉なことがあるのよ。ついにわたし、クレナイ様のお膳に立てるの!」

「クレナイ様?お膳に立てる?」

「そうよ、日々の努力のおかげ。もしかしたらひき肉やソーセージ、ましてや肥料になっていたかもしれない。でもせっかく生まれたのだから、それは許せないの!でも日々の努力が認められたから、クレナイ様に食べてもらえるの。最高の名誉だわ!わたしは、とってもおいしい自信があるわ。」

「え?」

-彼女はクレナ。この島にある小さな村の出身。誰も彼女を止めないし、彼女もクレナイ様という豚に食われることに抵抗していない。この島では、クレナイ様に食われることが名誉である。いまやクレナは島中で称賛されている。誰もが生まれたときから、100年にたった一人選ばれるクレナイ様のお膳にむけて、努力する。そしてクレナはお膳に選ばれた。クレナは小屋を飛び出し、神殿で活け作りにされることを望んだ。おいしく味わってもらうためだ。誰にも食べられずに終わる人生より、誰かに食べてもらってその舌を喜ばせることが、最高の人生だと、この島では常識である。-

「クレナは怖くないの?食べられちゃうんだよ?」

「うん、怖いよ。でも誰だって初めてのことは怖いわ。はじめて歯医者に行ったときは怖かった。でももう平気。それに食べられずに死ぬくらいなら、食べられて死にたい!せっかく生まれたのに誰のためにもならないなんて、何のために生まれたのかわからないじゃない!そうでしょ?」


クレナはとっても笑顔でいた。


僕はアルプスのふもと島をあとにした。




次の島は、ものすごいビル街の島だった。都会だ。


そこには高そうな服に高そうな腕時計に高そうな鞄を持った、高級品でいろどった男がいた。顔をうつむいて、ベンチに座っている。

近寄っても男は黙っていた。

高級品でいろどった男は錠剤の箱を持っていた。そこには、<超時短!たった1錠で喉の乾き24時間ゼロに!>と書いてあった。ほかにもチケットがそばに落ちていてそこには<格安ロケット極寒島行き30分>と書いてあった。そして置いてあった本には<読むだけでムキムキになれる本>とあった。


僕は高級品でいろどった男をあとにし、ビルへ入ってみることにした。そのビルはなぜか他よりも断然低く、古く見えた。

そこには陽気な音楽が流れていた。

「よお!お客さんか?」

「こんばんわ。」

まるで宴のように賑わっていた。そこで飲んでいたものたちに声をかけられた。

「おいおい、きいてくれよ。昔大変なときにさ、この店長に助けられてよ。にしても店長のつくる料理はまずくて癖になるよ」

「おいまたその話か?ん?まずいだと?うめぇだろ!」

「そうだ!俺も助けてもらったんだ!砂漠に墜落したときだ。助かったが、飛行機の修理ができず、もう終わったと思った。けど店長は、「きっとどっかに水があるかもしれねぇ。どっかで助かるかもしれねぇ。死ぬまで諦めんじゃねぇ。」ってよ。そしたらもう、どっかに水がある!隠れてるんだって、その水が飲みたくて命がけで探した。結局見つからなかったけど、救難信号キャッチしてくれて、救助されたんだ。あのとき励ましてくんなかったら死んでたよ。」

「あんときはやばかったな。それにしてもあのときのヘリでもらった水はほんとにうまかった。あんなおいしい水は飲んだことねぇ。」

「そうだよ。この酒よりもうめぇ。」

「この酒もうめぇだろ!」

「おーい、店長!また運転してくれよ。あんたと乗ってると楽しいんだ。あの下手くそな運転!あれで何で事故らねぇんだ??」

「そりゃ運転うめぇからだよ」


-ここは活気にあふれていた。ほかのビルではレジは無人化、配達も何か浮遊したものが運んでいたし、料理もスポーツも運転もロボットや機械が行っていた。しかしここでは一部機械に任せて他はすべて店長が切り盛り。しかしお客のみんながこの店長を慕っているし、店長のことが好きなのだ。そんな属人的なところだった。-


僕は少しお酒を飲んでから、活気にあふれたここを出た。




次の島は、工場だけがある島だった。


その工場には、動き続ける大量のロボットアームと、ハンガーのようなものに吊るされている人型の物体が、上のレーンに並んで奥の光の指す出口に運ばれていた。

そこには僕と同じ姿がたくさんあった。僕と同じ姿が運ばれていた。そんなレーンの右手に、扉が開けっ放しの管理室と書かれた部屋があった。しかしこの島に人の気配はまったくない。その部屋に入った。

その部屋の真ん中には、書類の散らかったデスクと、書いている途中の日記があった。


2037年 3月13日 (金)

ハッキング防止のため、手書きを続ける。今日は試作品が逃げ出してしまった。発見自体はGPS搭載や帰省本能システムのため、問題はないのだが、それよりも、「脱走の意志があること」が問題だ。このままでは、試作を大量生産したのちに、どのように適正カスタムをしても、試作の遺伝アルゴリズムがここにきて問題になる。本来、耐改ざん性や耐障害性のためのブロックチェーンもここにきて我々にとっての障害になる。とはいえこれは公表すべきだが、上がもたついてやがる。これだから現場にいないやつはうっとうしい。これなら埋…

日記の横にはメモ書きとスマートマイクロスチームチップがあった。

-このチップは、よくあるSDカードの概念と異なり、パスワードを唱えることによってチップから必要データが空気中に気化し、対象にインストールされる。-


僕はそのパスワードを知っていた。そして唱えた。

少し体が痺れる感じがした。

インストールの内容によると、この日記についてだ。しかし、書いた内容ではなく、書いた経緯や、書いた、ということをインストールしたようだ。なのでほかの日記も読んだ。


どうやらインストールした後、破壊する機能がついているようだ。つまり僕はあと13時間で破壊してしまう。


そして僕は人間ではなく、人間の好奇心によって生み出された<クグツ>という存在のようだ。そしてこの工場では、そんなクグツを大量生産し、各島々に、人間の代わりに自動的に探索へ向かうようにプログラムしているようだ。このプロジェクトに至ったのは、理不尽を無くすには、生まれと遺伝子をまずは同じ条件にするべき。というまるでゲームのような思想が起源のようだ。その人間が今どこにいるかはわからないが、手がかりは<チキュウ>という島の<日本>にあるようだ。また、インストールしてしまったクグツは、もう他のクグツとのコミュニケーションも遮断されるらしい。


-彼は名前もなければ人間でもない。ただ人間の好奇心によって生み出されたテクノロジーの産物<クグツ>の試作。感情も持たず、ただ探索の目的のために存在する。クグツ自身には好奇心などない。ただそうプログラムされた通りに探索する。エラーやバグのあるクグツは、この管理室に導かれ、壊れるさだめにある。人類は発展と共に、何か大切なものを見失いがちになるのかもしれない。-



次の島は、"日本"というところだ。


港には船がある。他の島から戻ったその船は、たくさんの食料らしきものを乗せて、着いたとたんにその半分を海に棄てている。いったい何がしたいのだろうか。


上陸した。ここにはもう人間はいないようだ。しかし、国の抱えた問題を見て見ぬふりをしている人型のたんぱく質がたくさんいる。人型のたんぱく質は手に透明の容器を持ち、中の液体などを使い終えると海に棄てている。海に棄てて汚すことが彼らの習性なのだろうか。


女型が子型を数体引き連れて、荷物をたくさん抱えているが、他は見て見ぬふりだ。僕は荷物を手伝った。感謝された。おそらくこの人型は<カンジョー>を持ち合わせているようだ。そのあたりは日記にあった人間に似ている。


また、スーツを着た男型が数体確認できる。おそらく一番無能な老体型が率いているが不思議だ。本来の統率とは異なる。エラーやバグだろうか。筋肉型は排便にも老体型の許可がなければいけないらしい。筋肉型も、ここにいるのは不思議だ。肉体的な分野が適正率もある。なので頭部に注射して、念のため各分野に振り分けた。老体型は、細かく刻んで昆虫類や細菌類によって分解してもらった。


そんなとき、ビルから飛び降りたたんぱく質が飛散した。これもバグだろうか。


この島は老体型が多い。あそこでは万引きをしている。あそこでは事故を起こしている。あそこでは介護してもらっているのに暴力を奮っている。これほどのバグやウイルスをデバッグできないのか。それとも全く異なる要素があるのか。また彼らは女型の巣くう場所に入り浸り、棒のようなものを見せてはくわえさせたり握らせたりしている。これがこの島を支える経済の仕組みの軸にもなっているようだ。


ほかにも女型をした性質は男型のもの、その反対のものがいる。


ここは少し都心部から離れたところか。たくさんの家が並ぶ。ここはあの人型の住み処と見えたが、脱け殻だ。誰もいる気配がしない。もしかすると、ここは元いた人間の家かもしれない。


ここは病院か。椅子には体調を崩した人型のたんぱく質が座り並んでいる。白い服の人型たちは、冷静なのか、疲れはてているのか。この島では彼らを<オイシャサン>と呼ぶそうだが、まるで足りていない。この島も他の島のようにおかしなところが多い。


目の前で地盤が沈下した。そこには大きな水道管が見える。いわゆるインフラの老朽化か。この程度であれば予見して防げる。彼らは見て見ぬふりをする習性もあるようだ。


すると、突然揺れた。大陸は唸りをあげ、突風と豪雨。これでは破壊するまえに砕け散るかもしれない。そんなとき、ひとつの女型たんぱく質が僕に声をかけた。

「大丈夫ですか!外国人の方?日本語わかる?」

「日本語はわかります。大丈夫です。」

「よかった、折角の日本なのにね、よかったら家においで!」

この女型は僕を介抱してくれた。驚きの習性だ。これは日記に書かれていた人間に似ている。


僕はもうじき破壊する。だんだん塵になる。この島にはもう人間はいなかった。女型の彼女だけが、人間を思わせてくれた。

「うそ??塵になってる?どういうこと??」

「本当にありがとう。」

こんな僕を、クグツの僕を。


-試作のクグツは力つきた。その目には涙があった。しかし皮肉なことに、これは人間に似せて作ったプログラムによるもので、死ぬ前や破壊の前に涙を流し、また、その場に居合わせた者に、感謝の言葉を適切な言語に直し、発するだけのものだった。そこには感情はなかったと思う。試作のクグツ。日本という島にて破壊。-


「どうしようかしら。」

「そうだわ。この塵は、とある島に埋葬しましょう。」

「きっとそれがいい。」




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