月の鏡

@rairahura

第1話

先日手に入れたばかりの書物を解読していたらすっかり日が暮れてしまった

時間を忘れて熱中するなんていつ以来かしら

のびをして凝り固まった体をほぐす

さて 今日はこれくらいにしておこうかしら

パタリと本を閉じる

集中も途切れてしまったし


気づいてみれば思っていたよりも時間が経っていたようで 高く昇った月が窓から覗いている

食べ物を取りに行こうにもこんな時間ではもう食堂には残っていないでしょうね

さてどうしたものか

このまま眠るのも手ではあるけれど さっきまで集中していた精神は高揚していてどうもそんな気にはなれない


考え込んでいると窓から差し込む月明かりに影が差した

ふとそちらを見やるとよく見知った顔が張り付いていた

いつものようにニヤニヤした笑い顔(本人は普通ににこやかなつもりらしいけれどとてもそうは見えないわね)で手には何かを携えている

「ライラ」

吐き出した声は自分でもわかるくらい面倒くさそうな響きを伴っていた

こんな時間にこんな登場の仕方をするなんて絶対にろくなことを考えていないだろう


「やあやあ失礼」

全く失礼だなんて思っていない声でライラは窓から部屋に入ってくる

窓を閉めておくべきだったわ 私としたことが

ため息をついているとライラは音もなく床に降り立った

「部屋に入る許可をした覚えはないのだけれど?」

「まあまあそうお怒りにならずに」

わざと煽っているのかわざとらしい身振りで私の方に何かを差し出す

酒瓶と グラスと 何かの包み

「何となく寝る気にならなくてさ」 

持ってきたものを掲げて上機嫌そうにその侵入者は笑う

「こんな夜は一緒にお酒でもいかがでしょう お嬢さん?」

私より年下の小娘が良く言うわね まあでも寝る気になれなかったのも事実だし


たまにはこんな夜もいいかしら

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