百叡くんのパパ

明智 颯茄

パパはミュージシャン

 みんな仲良く――という法律しかない神様の世界の話。


 神様たちは私たちと同じように家族を持って、空の上で暮らしている。学校があって、パパとママがいて、兄弟がいて、平和な毎日を送っている。


 そんな日々の一コマ。


 小学校一年生の百叡びゃくえいくん。名字みょうじは明智という。将来の夢はピアニストになること。だいぶ前に飛べるようになった能力を使って、学校の廊下をふわふわと浮遊してゆく。


「ふふ〜ん♪  ふふ〜ん♪」


 ピアノの曲を口ずさみながら、さわやかな秋風が入り込む廊下を飛んでいると、十字路で右側から同じ学年の男の子がやって来た。ずいぶん慌てた様子で、少し息を切らしている。


「あぁっ! 百叡、いいところにいた!」

「ん?」


 話をする時には、床の上に降りて話すが校則のひとつ。百叡はストンと廊下に靴で立った。百叡を探していたような男の子は、突然こんなことを聞いてきた。


「百叡のパパって、R&Bやってるディーバさんだよな?」


 百叡は思った。ディーバさんとは名前の略で、ディーバ ラスティン サンダルガイアが正しい。しかもそれは、


「パパの芸名だけど……」


 百叡のパパは正確にはディーバではないが、そこは細かいところで、


「そうだよ」


 間違いなく百叡のパパであり、うなずいたが、男の子はなぜか首を傾げた。


「パパがディーバさん、だよな……。じゃあ、さっきの話何だったんだ?」

「ん?」


 いきなり呼び止められた百叡にもよくわからない話で、一緒になって首をかしげた。しかし、男の子はぶつぶつと自問自答しながら、やがて、


「あぁ、ありがとう」


 お礼だけ言って、遠くへ歩いて行ってしまった。半ズボンの裾を、さわやかな秋風が揺らしていたが、百叡はまぶたをパチパチさせていた。

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