第2話 第十七任務部隊大敗北

第十七任務部隊司令長官ミッチャー中将は出撃した艦載機が全滅したという目の前で発生していることは夢であってほしかったが残念ながら事実であり、全空母の艦載機が四分の一になってしまったことを受け止めるしかなかった。攻撃隊が最後に発した電波には空母から東に一三〇浬と報じていて全艦で敵艦隊に全速力で突撃しても敵艦隊の第二波攻撃隊によって艦隊の戦力を喪失することは見えきっていてどう考えても無理だった。そこで全艦の指揮官を集めて作戦の練り直しが行われた。ミッチャーは手負いの空母三隻をどうするかを問った。

「空母三隻が中破でそのうち空母ニュージャージは傾斜がひどく、飛行甲板を修復しても発着艦は困難だ。速力は一二ノットまでに落ちて使い物にならない。どうするか。」

「空母ニュージャージを戦場離脱させ、艦載機をサイパンから艦載機を飛行甲板にめいっぱい乗せて我が艦隊に戻り、艦載機を補充しましょう。イギリス海軍東洋艦隊に救援を求めるしかないでしょう。」

ミッチャーは、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「栄光あるアメリカ合衆国がたかが小さな島国の日本の艦隊に屈したことを全世界に広めることになるのだぞ。断じてならん。」

「しかし、長官。ここでグアムを失えばマリアナ近海の制海権を奪われ、下手をすればフィリピンも敵の手に落ちるでしょう。そうなればアリューシャンやハワイだけでなく、南方も制海権が奪われるでしょう。そうなれば戦局の転換は不可能でしょう。」

「貴様は太平洋戦争を知らないのかね。貴様の言ったとおり南方、アリューシャン、ハワイまで敵の攻撃を受けたが巻き返したではないか。小国日本が大国アメリカにかなうはずがなかろう。」

「では、太平洋艦隊に救援を頼みますか?今頃救援を呼んでも太平洋艦隊から派遣された艦隊が到着したころには我が艦隊は海の藻屑になっていますよ。」

「黙れ、貴様ごときに何が分かる。そこまでいうなら、上官に逆らった罪で軍法会議にかけてやる。」

ご自由にどうぞと言おうとしたその時だった。ソナー見張り員が叫んだ。

「敵潜発見。艦隊の真下。深度四〇〇。」

ミッチャーはこれですんだと思うなと言い残し駆逐艦に号令をかけた。

「全駆逐艦は短魚雷及び爆雷攻撃を開始。敵潜を撃沈せよ。」

 駆逐艦が一斉に魚雷を放った瞬間だった。対空レーダー見張り員がこの状況として最悪の場面になることを告げた。

「北八〇浬より敵機大編隊を確認。到達まで一〇分。」

 もちろんこの攻撃隊は第一機動部隊の放った佐伯中尉率いる第二波攻撃隊だった。潜水艦と攻撃隊と同時に攻撃されるというこれ以上にないくらいの最悪度だった。ミッチャー自身もパニックになっているようでこれ以上になくあり得ない命令出してしまった。駆逐艦はそのまま潜水艦を制圧せよ。目立つような真似をして魚雷が誘爆しないように対空射撃はするな。空母はなんとしてでも敵弾を避けろ。随伴艦は対空射撃を行い、空母が被弾しないように盾になれ。」

 さすがにこの命令に東洋艦隊に救援を求めることを反対していた者も反論した。

「お言葉ですが長官。そのようなことをしてしまうと随伴艦が全滅してしまいます。直ちに駆逐艦の潜水艦撃沈の命を解き、対空射撃を行わせるべきです。でないと艦隊が全滅してしまいます。」

「ええい、文句があるのならカッターでさっさと失せろ。」

 指揮官の一人が通信機に叫んだ。

「全艦に通達。潜水艦撃沈を中止し、対空射撃を開始せよヴッ‥。」

 その場にいた全員がその場の光景がありえないかのような顔で固まっていた。その指揮官は腹部を撃たれ、軍服が真っ赤に染まっていた。ミッチャーは息を荒らし、手には拳銃を持っていた。

 撃たれた指揮官を介抱するエンタープライズの艦長に拳銃を向け言った。

「君は反逆者を助けるのかね。なら、貴様も死刑にしてやる。」

 引き金に指をかけ撃とうとしていることに気づいた指揮官達がミッチャーを取り押さえ拳銃を奪った。

「長官、何故味方を撃つのです?この方は航空戦の専門家で国防省に掛け合ってあって司令長官の座にいないだけで本来ならばこの方が司令長官になられるはずだったのだ。ハル少将、指揮権は今あなたにあります。そして、大将への昇格が決定しましたご命令を。」

「何?そんなはずがあるか。こいつは少将だ。俺は中将だ。こやつの処分は私に決める権利がある。」

「残念ながらあなたは司令長官の任を解かれグアムに更迭すると太平洋艦隊司令部を通して国防省より通告されました。そして、貴方の階級は中将から少佐に降格が命じられました。襟章を返しなさい。」

 仕方なく襟章を渡した時だった。崩れかけの陣形を直し終えた駆逐艦、随伴艦が対空射撃を始めた。ミッチャー少佐に手錠がかけられ、監視役をつけ指揮官達がエンタープライズからトランシーバーを使って号令をかけ始めた。対空ミサイルが次々と発射され敵攻撃隊に向かって行った。

 佐伯中尉は上空に敵戦闘機がいないことは確認し、全機突撃の命を発しようとした時だった。機に搭載されている電探に消えたりするものの反応があった。これは対空ミサイルに違いないと判断した佐伯は全機に回避運動を行わせた。

「対空ミサイルがくるぞ。全機、フレア射出。攻撃機は回避運動を。戦闘機は対空ミサイルに向けて対空ミサイルを発射しながらフレアを射出しろ。」

 五秒後には電探にはっきりと映り距離二〇〇〇を切っていった。

佐伯が電探に映っているものが対空ミサイルだと考えていなければ手遅れとなり、フレアを射出しても避けることはできなかっただろう。対空ミサイルを次々と放ってから機をバンクさせ回避する戦闘機、フレアを大量に射出しながら回避する攻撃機をかすめるくらい近くで対空ミサイルが通り抜けた。対空ミサイルの第二波が来たが戦闘機から放たれた対空ミサイルで半分以上が撃墜されてしまったが対空ミサイルは突撃してくるがフレアに騙されて何もない所へ行ってしまう。駆逐艦の対空ミサイルの連続発射はこれで限界であり装填しなければならなかった。

だが、そんな暇はない。全員が対空機銃や対空砲などの新たに発表された臨時の戦闘配置につき攻撃隊に向けて射撃を始めた。ミッチャー少佐がそのまま指揮していれば対空ミサイルによる時間稼ぎもできなかっただろう。第十七任務部隊の将兵はまだミッチャー少佐が指揮権を失い、ハル大将が指揮していることは知らないがミッチャー少佐のとる戦術ではないことは感じていた。そして、こう感じていた。空母戦らしくなってきた、と。

佐伯少尉は対空射撃の弾幕の濃さに驚いていたが逆に闘志がみなぎってきた。マリアナの七面鳥撃ちと呼ばれていた空母決戦はこの付近の海域で行われていたよな・・。死ぬほどのもう訓練に耐えてきた第一機動部隊の練度を見せてやる。そして、空襲の始まりを告げる命令を発した。

「全機突撃。各機自由に空母を優先的に狙え。弾幕が濃いようなら駆逐艦を狙ってもよい。」

死ぬかもしれない状況下に置かれても興奮気味に指揮を執る佐伯に搭乗員の士気が上がった。敵艦隊になめられるのは嫌だが本気になって対抗してくるのなら大歓迎だ。全機突撃の命令を受けた攻撃隊各機が一斉に編隊を解き、空母に襲いかかった。その中ですさまじい戦闘を繰り広げたのは佐藤中尉率いる飛龍急降下爆撃隊と丘少尉率いる翔鶴艦攻隊だった。飛龍航空隊は他の航空隊が編隊を解いても密集陣形で空母上空に侵入した。駆逐艦の撃ちあげる対空砲火は激しくなり、飛龍急降下爆撃隊は三機失いながらも敵艦隊上空に達し、空母群の中で最も傾斜がひどいニュージャージとエンタープライズに狙いを定めた。

「全機真下の空母と前方の手負いの空母を狙え。」

 命令を受けた僚機が急降下を始めた。急降下時は舵が思うように効かない。故に急降下開始のタイミングを間違えると爆弾が的から外れてしまう。

 空母エンタープライズの上空見張り員が急降下爆撃隊の確認し、叫んだ。

「敵機艦首、急降下。」

 治療を受けながらでも艦隊の指揮を執っているハル大将はまさに指揮官として最良の人だった。

 だが、いくら頑張って指揮をしても先手を打てなかったことに変わりない。それでも諦めずに回避の指示をした。

「面舵いっぱい。最大戦速。」

 三九ノットで航行する空母には狙いがつけにくく佐藤少尉の編隊は対空砲火でさらに二機失いながらも爆弾を四発命中させた。命中した爆弾はいずれも五〇〇キロ爆弾で飛行甲板をえぐったが格納庫にまでは達しなかった。命中した場所は艦載機の運用が不可能になる飛行甲板中央だった。命中と同時に飛行甲板中央で大火災が発生したが、飛行甲板に艦載機はなく誘爆による自滅は防げそうだった。ハルは火災鎮火の命令を出した。

「消火を開始せよ。この空襲をしのげば我々の反撃だ。」

ソナー見張り員が敵潜魚雷発射の報を入れた。

「敵潜魚雷発射音探知。ソナー魚雷探知。本艦及び二番艦ホーネットに向かう。距離四〇〇。」

 ハルはすかさず命じた。

「デコイ一番、二番発射‼取舵いっぱい。」

 潜水艦と空母のほぼ同時に行われた攻撃は偶然でなかった。潜水艦を撃沈した伊一六八は換気のため浮上した時第一機動部隊旗艦加賀から電波を受信した。「敵機動部隊に攻撃を艦載機の空襲とともに仕掛けよ。目印は空襲時に爆弾を海上に投下す。安全な深度にいられたし。」まさにこれは機動部隊との連携攻撃だった。潜水艦と空襲が同時に発生すればいくら優秀な指揮官でもパニックに陥り正確な回避ができないことをねらいとしたものだ。デコイが左舷から発射された。ハルは青い顔をして祈っていて、願いが叶ったのか潜水艦から発射された魚雷はデコイに騙されて行ってしまったがホーネットは一本がデコイについていかなかった一本が左舷中央に命中してしまった。幸いにも中央部に重装甲を施していて浸水による傾斜は一度と被害を抑えることに成功したのだった。 

 だが、空母からの対空射撃は潜水艦の魚雷を回避するために艦が回頭したため精度が一瞬落ちた。その隙を狙ってさらに飛龍急降下爆撃隊の二機が急降下を開始した。それと同時に伊一六八も魚雷を発射した。上空見張り員とソナー見張り員が同時に叫んだ。

「敵機艦尾急降下。」

「敵潜魚雷発射音探知。距離三〇〇.」

 さすがのハルも愚痴を漏らしながらも命じた。

「くそっ、また同時にきやがった。面舵いっぱい。デコイ三番、四番発発射。」

 またもや回頭を始め対空射撃の精度が落ちた。それでも高射砲のVT信管の威力はあり、主翼の近くで炸裂したらしく白煙をひいている。下手に回避行動をとると機銃の雨に突っ込んでしまうため回避しにくい。だが、もう狙いはついたし、投弾の高度に達した。思い切り投弾索を引くと同時に操縦棒もめいっぱい引いた。機体が軽くなり、眼下に投弾の目標だった空母が爆発するのが見えた。

 回避しきれなかった空母エンタープライズは艦尾に命中し、エレベーターが飴のように曲がっていた。その惨状を目にしたハルは息をのんだが中央と艦首のエレベーターが生きていれば何とかなると将兵に言った。エンタープライズに降り注ぐ爆弾はなくなったが潜水艦の放った魚雷は艦尾に命中したがどうやら不発弾だったようで被害がなかった。飛龍艦攻隊は手負いの空母三隻を翔鶴航空隊と共に攻撃していた。飛龍艦攻隊の二機が傾斜のひどい空母を狙った。いまだ黒煙を噴き上げ、傾斜がひどい空母は速力が九ノットまでに落ち戦闘行動が絶望的の状況にあった。だが、指揮官がエンタープライズから指揮をとるため上空見張り員が見えないところも見えるため敵機の早期発見を期待できた。上空見張り員が艦攻を発見し、叫んだ。

「左舷、敵艦攻二機。」

 対空砲火が左舷に集中し、機銃弾が水面を叩き、その中を流星が決死の覚悟で突っ込んでいく。

「敵機、魚雷投下!」

「取り舵いっぱい。第五戦速。」

 艦攻から投下された魚雷は海中を疾走し、艦尾に一発、中央に一発の命中弾を与えた。二本目の命中弾を受けた時艦の運命は決まり、浸水が激しくなり、転覆しそのまま五分もたたずして海中に没した。これで、手負いに空母は残り二隻となり彗星五機、流星八機が各空母に突撃した。どちらの空母も消火が完了しておらず、対空戦闘配置につける者は少なかった。それでも炎の中に走り対空戦闘配置についたのだ。死に物狂いで撃ち上げる対空砲火は第二次世界大戦や一連の対空戦闘で見たことないような対空砲火でどこも銃身が真っ赤になって今にも機銃弾が暴発しそうだった。それを至近弾で周囲に飛び散った水で冷却して撃ち続け、向かってきた流星二機が砕け散った。それだけにとどまらず彗星を二機撃墜している。だが、決死で突撃してくる彗星、流星は止めきることは出来ず、命中したのは魚雷五本、爆弾二発で同じくもう一隻の空母は撃墜することが出来ず、肉薄して投弾され魚雷六本、爆弾四発と受け両艦は乗組員ごと海に沈んだのだった。その他航空隊によって、空母三隻が沈んだのだった。これによって日米両機動部隊の空母数は同じ六隻となった。ハルは新たに索敵機を飛ばし、初めて日本軍の空母が六隻であることを初めて知ったのだった。そのことを知ったハル以下機動部隊の将兵はたった六隻の空母に一五隻の空母機動部隊が半数にまで減らされたことを初めて知ったのだった。だが、本当の空母決戦は今始まったのだった。

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