第一機動部隊

@kuwanayuuki

第1話 グアム占領作戦

二〇八八年五月一日

大日本帝国海軍南鳥島監視防空駆逐艦隊

「対空電探にて米軍の大編隊を捕捉。五分以内に敵機、帝都上空に侵入の可能性あり。」

 この報告を受け帝国陸軍航空司令部は十五機の彩雲偵察機を飛ばした。偵察機の報告は、我国を攻撃することを意味する内容だった。

「米軍陸軍機に接触。翼下に250キロ爆弾を視認。敵機銃座発砲せり。」

 この報告が大本営に伝わると同時に米国からの宣戦布告の通達があった。これに伴い、接近中の編隊は大日本帝国を空襲させるためであることは明白でこれを迎撃すべく57機の局地戦闘機雷電を発進させた。発進した57機の雷電は敵爆撃機の高度一万五千メートルに達するまでに敵戦闘機百機の大歓迎を受け、敵戦闘機と大規模な空中戦になり、雷電十機を失いながら敵戦闘機を殲滅したが、爆撃機を見失ってしまい発見したのは爆撃が終わった後だった。爆撃機を追撃しようとした時だった。雷電が次々と爆発した。統制を崩した雷電はまともに戦闘することなく全滅したのだった。雷電がいなくなった今、飛行を妨げるものはなく帝都上空を我が物かのように飛んでいた。帝都は火の海と化しており、悲鳴が一晩中間絶えなく響いていた。

米軍機による空襲の報告をうけた第一機動部隊艦隊司令長官角田中将は米軍拍地を叩くために第一機動連合艦隊に出撃を命じた。第一機動部隊は空母六隻を基幹とし、巡洋艦8隻、駆逐艦十隻で編成されている。艦載機は全て国産であり、名が烈風など日本名である。第一機動部隊はグアムの泊地を攻略すべく、上陸船団を伴いながら呉鎮守府から出撃したのだった。

 五月四日午前九時三〇分 グアム島北一三〇浬まで第一機動部隊が進撃してきたときだ。呉鎮守府から帝都の状況が打電されてきた。

「敵爆撃機により帝都壊滅。横須賀鎮守府が焼失し機能を失う。関東周辺海域を呉鎮守府の管轄下に決定。」

 第一機動部隊旗艦加賀の艦長の杉本中佐が言った。

「惨敗‥‥です。帝都は効力を失い、大阪に帝都が移されたようです。迎撃にあがった雷電も全滅し、横須賀周辺で行動していた艦隊が迎撃しましたがその艦隊も返り討ちになって大破した駆逐艦一隻を除いて全滅です。恐らくグアムだけでは大規模な空襲が行えないので恐らくマリアナから多くの爆撃機が発進したでしょう。」

「確かに。しかも、グアムには敵艦隊の泊地や航空基地もある。敵艦隊には空母も。」

「断言はできませんが、十中八九でいるでしょう。」

「偵察機を一三機あげろ。念のため艦載機を対艦兵装で待機。」

 彩雲偵察機が飛行甲板を蹴って次々と発艦していった。彩雲偵察機からの報告は二十分で来た。

「敵艦隊発見。艦隊西一四〇浬。空母一五隻含む。艦隊上空直掩機百機以上。」

 角田中将は空母全隻に命じた。

「第一波、二波攻撃隊発艦用意。目標敵機動部隊。第一波攻撃隊発艦開始予定時刻十時四〇分。第二波攻撃隊は待機。」

第一次攻撃 第一波攻撃隊 

加賀 烈風一二機 彗星八機 流星六機

 赤城 烈風一三機 彗星六機 流星九機

 飛龍 烈風一〇機 彗星八機 流星一六機

 蒼龍 烈風五機 彗星一八機 流星七機

 翔鶴 烈風一〇機 彗星九機 流星一六機

 瑞鶴 烈風九機 彗星一〇機 流星一五機

第一次攻撃 第二波攻撃隊

 加賀 烈風九機 彗星七機 

 赤城 烈風八機 彗星一〇機 流星六機

 飛龍 烈風彗星八機 流星一五機

 蒼龍 烈風六機 彗星一五機 流星一〇機

 翔鶴 烈風一一機 彗星一〇機 流星一四機

 瑞鶴 烈風八機 彗星一一機 流星一三機

 アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊所属一七任務部隊司令長官官ミッチャー中将の任務は敵艦隊の殲滅だったが敵艦隊は周辺海域に存在しないと踏んで索敵を潜水艦に一任して万が一敵機動部隊からの急襲を受けたとしても戦闘経験のない搭乗員ばかりで被害がでないと確信していた。だが、上空に飛来してきた。索敵機を搭載しているのは勿論空母だ。偵察機が飛来したということは周辺海域に敵機動部隊が存在することになる。索敵機は接触を続けていたが突如急降下してミッチャーが乗艦する空母サトラガに雷撃すべく低空に舞い降りてきた。

 彩雲偵察機の森田少尉は敵空母を発見して全体が見えてきたときあれは米空母のサトラガと確信した。さらに敵空母の艦種を報告すべく打電をするとともにサトラガに対して雷撃を行うことを決めた。急降下で強烈なマイナスGがかかったが夢に見た大日本帝国第一機動部隊で最初に空母への攻撃が行えることを栄光に思い、たとえ撃墜されても本望だと思った。敵駆逐艦の対空射撃が開始された。

 だが、完全に不意を突かれた攻撃であり弾幕が薄い。後部座席の通信員が言った。

「距離一〇〇〇。」

 森田の声は興奮がにじみ出ていた。

「まだだ。外すわけにはいかない。」

 この時、通信員は森田には撃墜されても命中弾を与える覚悟があることを悟った。

「距離六〇〇。」

「発射用意‘‘‘。撃(て)っー。」

 機体から魚雷が発射されて海中を疾走しはじめた。雷速は八九ノット。六〇〇メートルの距離は回避する艦側からすれば瞬間に過ぎない。サトラガの左舷対空見張り員が叫び声で報告してきた。

「敵機魚雷を投下。距離五〇〇。」

ミッチャーは増速と面舵を命じた。

「速力いっぱい。取舵いっぱい。なんとしても魚雷を避けろ。」

 しかし、回避運動が仇となり、魚雷は艦尾を直撃し、機関部に大量の浸水を招いた。

 艦の速度が二四ノットに低下して傾斜が九度を超えた。二四ノットでは機動部隊の旗艦としての役目が果たせないどころか足手まといになる。だが、艦を簡単に見捨てるわけにはいかなかった。艦長のサレー大佐に問った。

「ダメージコントロール。速力は回復しそうか?」

サレーはしばらく艦を救うべく指揮を執っていたが残念そうな顔で言った。

「残念ですが、浸水が激しく傾斜が止まりません。機関部は3基の機関を残して水没したので使用は不可能と応急修理班から連絡がきましたので確かです。発艦は可能ですが着艦は困難です。」

「そうか。旗艦を2番艦エンタープライズに移す。本艦は駆逐艦2隻を護衛につけて戦闘行動を続行。全空母に通達。索敵機に攻撃隊を随伴させて随時発艦せよ。」

 帝国海軍の第一波攻撃隊は予定通り十時に発艦を開始一〇分後に空中集合が完了し、敵機動部隊に向かって進撃していき、飛行甲板には第二波攻撃隊の機が並べ始められていた。

 角田は陣形を第三警戒序列に移行すること命じた。陣形の移行が完了したその時だった陣形前方の第一水雷戦隊より敵潜水艦発見の電文が届いた

 「敵潜水艦三隻発見。艦隊前方一六浬。これより制圧す。」

 この潜水艦は米機動部隊の索敵中の潜水艦だった。水雷戦隊が発見する前に第一機動部隊の前衛である第一水雷戦隊を発見し、サトラガに報告しようとしたが、水雷戦隊が爆雷を威嚇で投下したため潜航を余儀なくされた。

 その後も第一水雷戦隊に追い掛け回され追撃を振り切った時には第一機動部隊を完全に見失っていた。浮上し打電しようとした時だった。艦が激しい振動と共に真二つに裂け魚雷が誘爆し爆沈した。潜水艦を撃沈したのは通商破壊任務にあたっていた伊一六八だった。

 伊一六八は敵輸送船団を奇襲すべく深度五〇〇にいたが第一水雷戦隊の爆雷攻撃で敵潜水艦の存在に気付いていた。爆雷攻撃の音がやむと前方に機関音を盛大に出しながら航行する艦があった。その艦の浮上音があって爆雷攻撃を振り切った潜水艦だと考え追尾魚雷を発射した。敵潜水艦は機関音を出して全速で航行していたので発射音に気付くことなく沈んだのだった。

 第一波攻撃隊の直掩戦闘機の隊長の嶋少尉は攻撃隊の陣形を鶴翼陣形に変更するように指示した。丁度、敵機動部隊との距離が半分になった時だった。攻撃隊の雲に近い赤城流星隊から通信が来た。

「雲に光ったものあり。警戒を。」

 直掩隊の飛龍航空隊が四機雲の中を探りに行った。その時だった。雲の中から出てきた。ミサイルが流星五機を直撃し火だるまになって墜とした。雲から敵戦闘機が飛び出してきた。嶋は不意打をくらったことを後悔したが空戦を行い、攻撃機を援護する役目がある。

 たとえ、自機で盾になってでも護らなければならない。飛龍航空隊の3機が敵戦闘機を四機撃墜して他の機をも空戦に巻き込んでいる。さらに加賀航空隊も援護に駆けつけて敵戦闘機を全機撃墜した。攻撃隊直掩の翔鶴航空隊が急上昇して対空ミサイルを放った。ミサイルの行く先には雲に隠れて見えなかった敵攻撃隊の姿があった。次々と敵攻撃機が火を噴いて墜ちていった。敵攻撃機の生き残りが増速して振り切ろうとしたが翔鶴航空隊にすぐに追いつかれて四〇ミリ機関砲で吹き飛ばされていった。飛龍航空隊雷撃部隊隊長の友永大尉が叫んだ。

「いたぞっ。敵機動部隊だ。」

 敵機動部隊の上空には直掩機が100機いたが追いついた翔鶴航空隊によって空戦に巻き込まれ次々と墜ちていった。彗星が増速して九四〇ノットにし、敵艦隊上空に侵入した。加賀航空隊の道坂中尉が彗星隊を指揮していて攻撃する艦を次々と示していった。

「加賀彗星隊は手前の空母に赤城彗星隊は遅れぎみの空母に蒼龍航空隊は前衛空母に飛竜彗星隊は待機。その他彗星隊は自由にねらえ。」

 各機が指示された艦に向かって襲い掛かった。空母と護衛艦は対空ミサイルを放ちまくったが一切の効果はなかった。最初の攻撃は加賀航空隊だった。彗星が急降下にはいると対空機銃やVT信管入りの高角砲が一斉に火を噴き青い空を黒煙と曳光弾の色で染めた。

 加賀彗星隊は曳光弾の間を縫うようにして避けていく。急降下に入った直後だった。対空機銃の勢いがさらに増し、2機が大爆発を起こして砕け散った。空母の飛行甲板に航空機が整列していることに気付いた。飛行甲板では必死の発艦準備が進められている。投弾高度に入り投弾索を引いた。機が一瞬で軽くなり、操縦桿を目いっぱい引いた。僚機も投弾に成功し、爆弾が空母飛行甲板中央めがけて空気を割く音を出しながら落下した。投下されたのは徹甲弾だった。

狙われたのは空母ワスプ。上空見張り員が対空機銃を撃ちながら無線機に向かって叫んだ。

「敵機直上急降下!」

 艦長のスワン中尉は報告を受け、回避運動を命じた。

「取り舵いっぱい。最大戦速。」

 艦はゆっくりと左に向かって回頭し始めたが遅かった。投下された徹甲弾が飛行甲板中央を串刺しにして、四発が命中し、そのうち2発が飛行甲板を貫き弾薬庫内で爆発した。しかも、飛行甲板で炸裂した徹甲弾2発が火災を発生させて整列していた攻撃隊の機に引火、誘爆していた。急降下爆撃隊が攻撃を終えた時に今度は流星隊六機が雷撃を加えた。               

火災の煙で視界が悪く、水中調音機も偵察機の雷撃で故障して発見できず、投下された魚雷六本全て左舷のど真ん中に命中した。直後、艦体が裂けて五分で海中に没した。ワスプは攻撃隊の発艦準備中に火災が弾薬庫付近で発生し、消火作業に整備兵もが出ないといけないくらいの大火災で鎮火後、発艦準備を再開したが、その時には帝国海軍の第一波攻撃隊の空襲が始まろうとしていた。被弾時の誘爆も考えられ、誘爆時には整備兵は命がないことを重々承知の上で我が機動部隊の勝利を信じて発艦準備を行っていた。だが、空母戦は先手が後手に比べて比較的有利である。索敵を怠れば必ず後れを取る。例を挙げるのならまさにこれだった。迎撃にあげた艦戦は敵戦闘機に圧倒され各自の攻撃目標に向かっていく攻撃機に手出しすることが出来なかった。蒼龍航空隊が攻撃したのは護衛空母テキサスだった。テキサスは輸送船攻撃の目的で、建造されたいわゆる軽空母だった。テキサスは空母に比べて艦載機数、対空火器数、防御が劣るため機動部隊に編入されないが、広大な太平洋に潜水艦がそこらにいて輸送船を発見次第撃沈するため対潜に特化した空母の需要が増し、試験的に編入されたのだった。この大日本帝国海軍精鋭の攻撃をしのげば価値がある空母として見なされ機動部隊における対潜役として活躍できる。士気の上がったテキサスは対空射撃の弾幕が激しくなり、蒼龍航空隊を寄せ付けない。忘れられていた彗星隊が急降下爆撃を敢行し、上空警戒を怠ったため回避運動をせず被弾した。機銃の集中する左舷側に命中し、爆風で機銃員を艦から叩き落した。左舷の対空射撃が緩まり流星隊が魚雷を肉迫して投下して四本を命中させた。四本目を受けたとき機関が全て浸水し、自力航行が不可能となり、さらに左舷に大量の浸水が発生し、傾斜が三〇度を超えて、壁が床になって歩くことすら困難な状況になり、浸水が激しくなり十分後には海に没したのだった。第一機動部隊の空襲によって空母三隻が中破、一隻が小破、護衛空母が沈没、駆逐艦一隻が大破という損害を受けた。

第一機動部隊はいまだグアム航空基地に空襲をしておらずいまだ健在のはずだった。グアム基地からの増援を望むのはいいが、空襲を受ける前に敵艦隊の存在を知らせる電波を放ったのだ。多少受信が遅れても増援が来てもおかしくないはずだった。だが、来ないということは敵から攻撃を受けて戦闘状態にあるのだろうか、それとも壊滅的損害を受けたのだろうかという心配があるが自分の目の前で発生していることの対処が先決だ。

「直ちに消火を完了させ飛行甲板を修復しろ。」

 一方、第一機動部隊は第十七任務部隊が放った攻撃隊によって空襲を受けていた。

 だが、機動部隊上空には第二波攻撃隊の佐伯中尉率いる直掩戦闘機が多数存在し、進撃中に多数攻撃機を失った攻撃隊はさらに数を減らして加賀に至近弾を与えたに過ぎなかった。全速で逃げていた敵攻撃隊の生き残りも撃墜された。

 第一七任務部隊が空襲を受けたことはグアムの海軍基地も知っていたが救援どころか自衛だけで精一杯だった。第一機動部隊が出撃する三時間前に戦艦二隻が基幹をする第三水上打撃部隊が第七駆逐隊との対抗演習を行っていたところ、佐世保鎮守府からグアムの敵飛行場及び泊地への艦砲射撃を行うことを命じられて進撃を開始した。第一機動部隊が一七任務部隊と交戦を開始する三時間時間前にグアム北六〇浬に到達し、射程一〇〇キロを有する黄燐弾の射撃を開始した。黄燐弾は炸裂と同時に五〇〇度近い高温の爆発し着弾周辺を徹底的に焼き払う。巡洋艦は四〇浬にまで迫り三式弾で射撃を開始した。三式弾はもともと対空弾だが、爆発と同時に小型の焼夷弾をまき散らし敵機の編隊ごと吹き飛ばす兵装だった。地上物への効果があると考えられ第二次世界大戦では日本軍がガダルカナル島のヘンダーソン飛行場に艦砲射撃を行い大きな戦果を上げた。第七駆逐隊は南に位置する泊地を叩くべく速力四〇ノットで進撃していた。第三水上打撃部隊の発砲音が響き、その後に爆音が轟いていた。三〇分に及ぶ艦砲射撃で飛行場は粉砕され、いたるところで火災が発生して市街地にも被害が及んでいた。第七駆逐隊は泊地に到達した時には戦艦が多数停泊していたが補給中であったため反撃は一切なかった。補給中で速力は12ノットであり、帝国海軍自慢の水素魚雷を打ち込むのには丁度いい標的だった。水素魚雷は酸素魚雷の後継型であって追尾機能はないものの雷速は一〇〇ノットを超えて射程は25キロで炸薬は七六〇キロで戦艦でも一発で撃沈か大破させる威力だった。さらに水素の量で威力を増し、大半の水上打撃部隊とでもやりあえるものだった。第三水上打撃部隊の艦砲射撃が終了した五分後に泊地に到達した。グアム基地は完全に破壊されていて基地航空隊による迎撃もなく泊地に襲いかかった。補給を途中で取りやめた戦艦、巡洋艦、駆逐艦は一斉に砲撃を開始した。巡洋艦、駆逐艦はしきりに対艦ミサイルや魚雷を放ったが次々と破壊されていったが魚雷を駆逐艦曙が魚雷をかわしきれずに船体中央に被弾し大破した。曙は傾斜が二九度を超え撤退を余儀なくされた。戦艦の砲撃は接近に伴い熾烈を極めたが四〇ノットの快速を誇る駆逐艦に命中弾を与えることができない。戦艦の副砲の射程に駆逐隊が侵入してきた時だった。戦艦の見張り員が叫んだ。

「左舷より魚雷二〇本以上接近。雷速九〇ノット。」

 戦艦はいまだ給油が終了しておらずもろに魚雷を食らった。魚雷はバルジによって被害が抑えられたものの左舷の大部分に大穴が空き三万トンもの浸水を招いた。防水区画が破壊されて海水は際限なく艦内に押し寄せてきた。甲板では大火災が発生したがポンプが水没したため消火作業は不可能となった。戦艦は左に傾斜し、射撃不可能となっていた。その時だった。弾薬庫に引火して大爆発を起こした。そのまま艦は海中に没して三分後には着底したのだった。第七駆逐隊は射撃を続行し機関が停止していた艦も少しずつ始動して速力が一二ノットになった時だった。また、悪夢は迫っていた。第七駆逐隊旗艦吹雪の水雷長が大手柄になることを発見した。

「おい!左から三番目の戦艦。あれってアリゾナじゃないのか⁉」

 水雷長の判断は正しく、まさしく米水上打撃部隊主力戦艦アリゾナだった。伝声管を通して艦橋に報告を行った。

「敵泊地停泊中戦艦左三番の艦のアリゾナの可能性大。」

 艦橋が歓喜で沸き立ち魚雷を全艦がアリゾナに向けて放った。次々と不気味なとても薄い航跡がアリゾナに向かってくる。見張り員はもうだめだと思い拳銃で自決してしまったため、魚雷に気付くものはなかった。魚雷が二〇〇メートルを切った時だった。横に戦艦ニューメキシコが盾となるかたちで横に並んだ。駆逐隊は並ぶのを確認してアリゾナに第二弾を放つべく発射管に装填作業をしていた。ニューメキシコは魚雷60本を同時に食らい巨艦が大爆発を起こし、収まった時には海の藻屑となっていた。

 戦艦ニューメキシコは2050年に竣工し、二〇六八年に第二次湾岸戦争で艦砲射撃をアリゾナと共同で行い大きな戦果をあげている。

 死ぬほどの訓練を行っていた。練度は申し訳ない程で5万メートル先を34ノットの快速で航行する標的艦に初撃で夾叉し第二撃で艦尾に命中させている。しかし、戦場離脱を行った敵艦は一隻のみで敵駆逐隊は砲撃、雷撃、ミサイルで攻撃してきてもう、艦隊が全滅するのは時間の問題だった。

 一方、第七駆逐隊も残弾が底を尽きかけてきた。魚雷は三斉射分、砲弾は四九発程度で帰路の分も考えるとかなり厳しかった。旗艦吹雪ではありったけの魚雷を打ち込んで撤退するか、弾薬が底を尽くまで戦うかの選択を迫られていた。

「司令、弾薬が底を尽きます。砲弾が十斉射、魚雷が三斉射、対艦ミサイルが二斉射分しかありません。一時撤退を要請します。」

 第七駆逐隊司令佐波少佐ははっきりと告げた。

「ならん。弾薬庫が空になっても撤退は許されない。たとえ体当たりしてでも任務を全うする。」

「しかし、司令。司令は第七駆逐隊の将兵四千名の命を預かっておられます。その命を生かすも殺すも司令、貴方次第です。」

「分かった。魚雷を全弾射撃し、終了後砲撃を続行しながら戦場を離脱。第一機動部隊の北方三四浬の補給船で給油、弾薬の補充を受ける。各艦全ての魚雷を発射せよ。」

 駆逐隊は陣形を解き、ばらばらに魚雷を発射した。魚雷発射の報を受けた戦艦アリゾナ座上のヒューイ中将は全艦に撤退を命じようとした時だった。艦左舷に巨大な水柱が乱立した。魚雷か?とヒューイは思ったが艦に命中時の立っていられないほどの衝撃はなく応急修理班からもまだ被弾の報が入っていない。水柱の大きさから戦艦ぐらいの着弾時の大きさだった。ヒューイは戦艦が敵駆逐隊の増援に来襲したら異様なほどの威力を持つ魚雷と戦艦との砲撃戦の両方に苦しめられるので全滅は免れないと判断した。旗艦アリゾナから全艦に向けて電波を放った。

「敵駆逐隊に増援あり。逆転不可のため全艦退艦せよ。」

 アリゾナ以下六隻から水兵が次々と橋頭保に走って退艦していく姿が艦橋の司令部にいたヒューイにも見えた。とうとう退艦中の艦の横腹に魚雷が一斉に命中して旗艦アリゾナ含む四隻の戦艦がグアム海軍泊地に沈んだのだった。ヒューイ中将は戦艦アリゾナと運命をともにした。第七駆逐隊は全艦が魚雷を全て放ったあと北へ進路をとった。第三水上打撃部隊は飛行場への艦砲射撃を終えた後第七駆逐隊の戦う泊地へと向かった。観測機から第七駆逐隊が優勢だが残弾に不安があることを発光信号で伝えらそれを旗艦扶桑に伝え第七駆逐隊の援護を行うことを決定したのだった。第七駆逐隊が残弾なしで撤退する最後の魚雷発射の三〇秒前に射撃し着弾が魚雷発射一〇秒前で戦艦群の視界が遮られ正確な射撃ができなかった。もし、あと五秒着弾が遅れていれば戦艦群は射撃し第七駆逐隊の魚雷発射は不完全だっただろう。第七駆逐隊が撤退を開始した報を受け、残弾が底を尽きたと悟り、全速で泊地に進撃して追撃を受けるのを防いだのだった。飛行場、泊地攻撃では、第三水上打撃部隊旗艦扶桑が小破、第七駆逐隊旗艦吹雪が中破、深雪が小破、曙が大破し修理に六か月を要することになった。対する米軍は飛行場が完全に破壊され、その周辺設備も焼きはらわれ、泊地では戦艦五隻が着底、一隻が大破し、修理が不可能の状態にあり、上陸を空、海から妨げられる心配がなくなったのだった。グアム、マリアナ守備隊指揮官サモラー大将は大日本帝国のある北の海を見て悟った。大日本帝国の上陸が近い、と。サモラーはマリアナ、グアム守備隊全軍に向けて激励電を打った。

「敵の上陸が近い、だが我々は心配しなくてもいい。後ろには太平洋艦隊所属第十七任務部隊がいるのだ。この敵の上陸をしのげば必ず勝つ。」

 だが、サモラーも心中はこの島が戦場になると思ってもみず、泣きたくて仕方なかった。サモラーの心境に反して大日本帝国陸軍、海軍陸戦隊が第二駆逐隊を連れて接近しているのだった。

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