第27話「仕事しろ若者よ」

 ポート・ナナンにキングベア!?


「キナ…これは?」

 キングベアの依頼書を示すと、

「あ、それ…」

 ちょっと顔をくもらせたキナ。


「キーファさんが、王国に出された駆除依頼を…無理矢理、ギルドの依頼クエストにしちゃったんです…」


 …はぁ?


のいい依頼クエストだからって…誰もできないなら自分ひとりで倒して見せるって…その──」

「カッコつけて言ったんだな」

 キナは微妙な顔をして頷く。


 あのアホ…

 キナの気を引くために無茶しやがる…


 自信があったのかもしれんが…『山』を甘く見るな。


 キーファは控えめに見て、どう見ても都会育ちのボンボン。

 腕っぷしには自信があったのだろうが…『山』は、道場剣法どうじょうけんぽうでどうにかなるもんじゃない。


 多分、ここにいる冒険者が束になってもかなうまい。


 キングベア相手に戦う時は──数じゃない…

 知恵と腕だ。


 要は、いくらアリが数多くともドラゴン1匹に勝てる道理はない。

 だが、小さくとも…寄生虫のような小さな虫も戦い方次第では、ドラゴンの脳を食い荒らして勝てる。──そういうこと。


 この依頼クエストは…俺がやるしかないな。



 ……


 …



「キナ? 依頼クエストって俺も受注できるか?」

「バズゥ!?」


 本業は『猟師』のバズゥが依頼クエストをしたいという。


 冒険者の仕事は危険も多い。

 小遣い稼ぎ程度にはなるかもしれないが、固定給もなく、名誉もない仕事だ。

「家計の足しになるだろ?」

「無理無理! 止めて、ホント危険な仕事もあるんだよ?」


 いや、危険とかどうでもいいから…制度的なことを聞いてるんだが…?


「バズゥはギルド員でも、何でもないから無理!」

 キナが全身で拒否オーラを醸し出す。


 …あーキナちゃぁん。


「ギルド員っていうのか? いわゆる冒険者には…すぐになれるのか?」

 ギクリとした様子でキナが振り向く。


「う…その…」

 言いよどむキナ。

「できるんだな?」


 …


「うん…」

 観念したように、項垂れるキナに、

「じゃぁ、今日から俺もギルド員───冒険者にしてくれ」


 バズゥの言葉にショボンとしたまま、キナは無言でコクリと頷く。

 家計だの、何だのと言われては──金銭面で迷惑をかけている自覚のあるキナは、うなづほかない。


「具体的にどうすればいい? もう、俺は冒険者ってことでいいのか?」

「ううん、ちょっとした書類に、必要事項を書けば…いい、と思う」


 自信なさげなキナ。


「ウチから冒険者がでるのは、…バズゥが初めて」


 キナ曰く、大きな町から冒険者が出ることはよくあることだが、こんな田舎で冒険者になろうとする者など見たことがないと、

「まぁ、そうだろうな」

 冒険者なんて言う職業? は、タダの期間労働者の名称でしかないと、皆知っている。


 仕事が冒険?

 バカ言うんじゃないよ。誰が得するんだそれ? ってね──


 頭がお花畑の若者が、冒険小説だの吟遊詩人ぎんゆうしじんうたを聞いてあこがれることはあっても、田舎の様な───ある意味現実的な環境では、誰も彼も小馬鹿にしてやまない。


「えっと……あった、これ」


 キナがアワアワと、カウンターの周りから初めて出すという、紙切れを引っ張り出す。


 名前と、住所、あとはいくつかのチェックシートだけの簡単なものだ。


「はー、これで登録ね~」


 文盲の人間のために、ちゃんと「代筆可」とまで書かれている。

 チェックシートは、犯罪行為の有無と、今後の犯罪行為についての罰則が書かれているくらい。


 要は、「お前犯罪者じゃないよね?」と「犯罪をしたら、ギルドとしても黙ってないよ?」ということらしい。


 バズゥはザッと流し見て、すぐに記入していく。


 キナの渡した羽ペンは記名しやすくて良い。

 金の掛かってそうなそれは、キーファの野郎が使っていたのだろう。───ケッ。


「こんなもんか?」

 一度、記名後の書類を流し見ると、

「う、うん…多分──」

 キナが自信なさげに頷く。


「おいおい、大丈夫か? キナ…ギルドマスターだろ? 自信持てよ」

「もうぅ、バズゥから揶揄からかわないで!」


 ぷくぅと頬を膨らませてキナが怒る。


「はっはっは。揶揄からかってないさ! キナは自信を持っていいぞ」

 カイグリ、カイグリとキナの頭を撫でる。


 目を細めて気持ちよさそうにするキナ、

「ふん、わかりました~っと、これでバズゥ・ハイデマンは冒険者となりました!」

 ピっと、書類を示して言う。


「お~感慨かんがい深いねぇ。よろしくな、マスター!」

 全然、感慨深げに言わないバズゥ。だって、ぶっちゃけ冒険者とか…どうでもいい。


「でも、ごめんね。…ウチだと、ちょっとそのぉ…正式なギルド証を発行する器材がなくて…」


 キナが言うのは、冒険者ギルドのランク等を示すタグというものがあるそうだが、大手のギルドに行かないと発行できないそうだ。

 とは言え、書類自体はここにあるので、あとは大手ギルドに提出すれば後付けで発行されるらしい。


「ま、それはいつでもいいさ。これでギルドの仕事を受注できるんだろ?」

「うん。それは問題ない、よ。でも……」


 制度のことより、危険な仕事をバズゥが率先してこなそうということに、抵抗を覚えるキナ。


「じゃあ、これ頼むわ」


 ピっ、と余った依頼書の中から『キングベア討伐』の依頼をキナに示す。

 それを見たキナは、大きく目を見開く。


「ダメ! バズゥぅぅ!」


 キングベア討伐をバズゥが受けようとする、その事実にキナが驚きの声を上げる。

 手を伸ばして依頼書クエストを奪おうと、懸命にピョンコピョンコとバズゥにまとわりつく。

 バズゥはキナの届かないところまで依頼書クエストを避難させると、


「無理…か?」

「無理よ!? キングベアよ!?」


 キナのかたくなな態度におもんばかる。


 山と森の王、キングベア。その脅威は計り知れないとは周知の事実だ。


「大丈夫だ。たかだかキングベア──俺は『猟師』だぞ? 獲物を狩るのが仕事さ」

 キナに見せるように、腕に筋肉こぶを作ってお道化どける。



〇『キングベアの討伐』→バズゥ・ハイデマン



 ささっと、サインを書きキナに渡す。


「ちょっと、バズゥ!」

 ビックリしたキナが俺を非難ひなんするような声を上げる。

「こんな…無理よ!」

 キナが慌てて、依頼書の名前に斜線を入れようとする。


「おいおいおいおい…キナ、キナキナキナぁ…俺だって、腐ってもエリンの叔父だぞ? 勇者エリンの…!」

 依頼書を奪い返して、キナの届かない位置まで持ち上げる。


 勇者エリンの叔父。


 まぁ、実際の俺はただのオッサンなんだが、こうでも言わないとキナは納得しないだろう。

 いくらなんでも、こんな田舎町に出る程度の害獣…地獄のシナイ島戦線に比べれば朝飯前だ。

 まぁ、朝飯は言い過ぎたか…キングベアはそこまで甘い相手ではない。


 だが、覇王軍と…その将軍クラスと相対することに比べれば、どうということは無い。


 ほんとに、どうということは無い。


 それくらい、魔族やら覇王軍は恐い。

 どれくらい怖いかと言うと…


 めっちゃです。


 はい、めっちゃです。めっちゃ怖い。


 だってあいつら、地形変わるくらいの大魔法とか使うんだもん…

 滅茶苦茶痛くて熱い瘴気しょうきとか放つもん…

 普通にやっても銃──効かないもん…

 強いもん…


 あれに勝てるのは───


 エリン…


 えりん、




 う、泣きそう。




「バズゥが言うなら…」

 姪を思い出してシュンとしたバズゥと、渋々しぶしぶ顔のキナ…


 依頼を受けて死んじゃう、みたいな空気が流れる。


 ポカンとした冒険者どもは、事情も何も分かっちゃいない。

 お前らには関係ないからな。


 ったく、キングベアはこれでいい。

 任せろ…って、報酬たっか!!

 

 ……


 報酬たっか!!!


 えぇぇ、キングベア討伐の基準報酬が王国金貨50枚って、どんだけだよ!?

 いや、エリンとかの給与は、そんくらいあったけどさ…


 えぇぇ?


 王国金貨だよね?


 連合じゃなく…あ、間違いなく王国って書いてあるわ。


 そして、またこれ…群れの規模に応じての追加報酬額がすごい…


 1~2頭規模なら+10枚

 3~5頭規模なら+50枚

 5~10頭規模なら+100枚

 10頭以上の場合…要相談と。


 んで、地羆グランドベア自体の駆除代金が、1頭当たり銀貨1枚、と。


 う~む…金銭感覚がおかしくなるな。


 まぁ、これらを駆除するために軍隊動員したり、人を雇ったりしたことを考えると順当なのかもな。 

 国が先導の駆除で人死ひとじにが出れば、見舞金やら何やらが必要だ。ケガをしても同様…


 むぅ、それらを考えると、安い…のか?

 わからん…


 わからんが…キングベアが大量に発生したら、キナの借金なんてあっという間に返済できちゃう──とか、悪い考えが浮かぶな…イカンイカン。


 キングベアは天災にる。

 被害の事を考えると、そんなよこしまな考えは……イカンイカン。


 バズゥさんイイ人、飯代も少しは待ってあげるくらい良い人です。


 っと、飯代と言えばこいつらのこと忘れるとこだった。

 ついつい報酬のデカさに心が動いたよ…


 だって、俺の貯めたかね以上のモノなんですもの…

 シナイ島…苦労したんだけどな~…


 しんみり…


 ん。




 で、お前らだよ。




「なぁに他人ひとごとみたいな顔してんだよ」


 ふぁ? っとばかり、まぁ~…間抜けな顔をした盗賊風の冒険者。


「ほれ…」

 ペシっと、依頼書を顔に張り付ける。


「な、なんスか? キナちゃ…マスターこれ読んで?」

「えっと、『昆布干し』ね」


 ポカンとする冒険者。


「…え?」


 ボケらっとしてるが…知らん。


「え? じゃねぇ。やれ」

「え~?」

「やれ」

「いや、だって」

「やれ」


 …


 やれ


「はい…」


 渋々しぶしぶ引き受ける盗賊風の冒険者。


 全員が「え~?」って顔してるが…知らん。

 っていうかお前らもだよ。


「並べ」


「「「「「「???」」」」」」


「並べ!」 


 ……


「きをつぇぇぇぇぇ!!!!」 


 ビビビビクン!!

 ガタタタと思わず立ち上がる冒険者ども。


「せいれつぅぅぅぅぅ!!!」


 ガタガタゴソゴソ…モジモジ

 

 チャッチャと並べや、ボンクラども…


「あ、あの?」

 先頭に並ぶ格好になった冒険者がオズオズと尋ねるが、

「ん」

 ペシっと顔に依頼書…

 「?」顔ハテナがお…チ、読めないか。


 チョイチョイと横を指さし、キナの前へ誘導…


「あ~『子守』ですね」

「え~」

「やれ」

「はい」


 ってな感じで、


「ん」

 ペシ。


「ん」

 ペシ。


 そして、「ん、ペシ」を何回か。むぅ…冒険者の数より依頼の方が少ない…ち。


 一人あぶれた。


 モンク風の男で、スキンヘッド…かと思ったが頭の後ろに髪がちょろり、弁髪べんぱつってやつだ。


 ──ねぇ、それカッコいいの? ねぇねぇ? って言いたくなるな…


 おっと、自制自制…


 こいつにゃ、バイトしてもらうか。

 お前が何で一番後ろに回ったか──俺は知ってるぞ…


 こいつ、こう見えて(どう見える?)頭が回るようだ。

 ちゃんと、依頼書の数を数えてやがった…おまけにろく依頼クエストがないことにも気付いている。

 一番最後に並べば、依頼クエストを受けなくていいと看破かんぱ


 …そんなに、ゴロゴロしたいのかね君らは…

 人の家ひとんチで?


 まぁいい、でコイツには別の仕事…まぁバイトだな。

 

「あ、依頼クエストないみたいですね…残念です…」

 

 …


 まぁ、いけしゃあしゃあ・・・・・・・・と…


「安心しろ」

 ニコっと笑って見せる……おい、なんで引く?


「え? いや、全然安心なんてーボクシゴトシタカッタナー」


 うむ。棒読みだが、いい心がけだ。


「俺と一緒に隣町まで来い」

「え?」

「あ、荷物持ちかなんかですか?」

「そんなとこだ」

「わかりました~準備しますね」

「何だ準備って?」


 バズゥも、モンク風の男も「?」顔ハテナがおだ。


「え? だって、隣町っすよね? 2~30kmくらいありますよ…結構坂も多いし…多分泊りになりますよね? 一泊二日?」


 一泊とかいうな。

 お前、もん無しやんけ。

 おごらんぞ俺は…&向こうのギルドにも泊まらんからな。


 まったく、冒険者ボンクラどもときたら…


「何言ってる? 半日ありゃ往復できる。幸いまだ朝も早い…」


「いや、無理ですって、馬もないですし…」

「ご両親からもらった、ご立派な御足おみあしがあるだろうが」


 …


「…歩きっスよね?」

「駆け足だ」

「歩き的な?」

「ダッシュだ」


 ……


「ダッシュだ」


 ……


「マジ…スか?」

「マジもマジマジだ、大マジだ──&キナも行く」





「「え??」」




 キナと弁髪べんぱつ君が声を合わせる───「え??」て、君らね。


 今度はキナも「?」顔ハテナがおだ。


 大丈夫、ちゃんと理由はあるから…──主にメシ代の徴収的な。

 それにキナくらいなら、俺が連れていける。


「絶対半日じゃ無理っス…」

「勇者軍ではな、愚痴と泣き言は口に出すなという鉄のおきてがあってだな──」

「──俺、王国軍の入隊試験にすら落ちたっス」


 ……


「勇者軍ではな…───」


「…俺、今日死ぬのかな…」

 これから屠殺場とさつじょうへ送られる豚のごとく、暗い顔をしたモンク風の冒険者──長いから弁髪べんぱつ君にしよう。


 はっはっは…大丈夫、人間意外と頑丈よ? 滅茶苦茶走ったくらいじゃ、精々せいぜいゲロ吐いて脱水症状で意識が飛ぶくらいだって。


 運が良ければ、寝てれば直るから。

 運が良ければね。


 悪けりゃ…まぁ、…そういうこともある。


 さて、今日も一日元気に仕事しましょうか!

 労働はとうといぞ~。

 お金も稼げて人生にりも出る。

 汗をかいた後のお酒は美味いし、熟睡できる。


 さぁ働け、

 やれ働け、

 いざ働け、


 行けや行けども行かねばならん、冒険者ぼんくら諸君!


 ──君らの明日は労働の先にある!!


 ってか、メシ代稼いで来いよ。…マジでな。


 パンパンと手を叩いて冒険者ぼんくらどもをさっさと追い出す。

 

 ジーマ達や、その他何人かは、残っているが…こいつらはあれだ。

 ある程度自分で仕事の時間帯を決められる依頼クエストを受けた奴らや、仕事の時間帯がやや遅めの連中だ。


 他にも、昼前に仕事が終わる奴もいたりしてテンでバラバラ。まぁそれはしょうがない。


 とにもかくにも、依頼クエストはすべてけた。

 素晴らしい。


 しかしながら、これで明日からの依頼クエストは一つもなくなってしまった。


 これは、どうにもよろしくない。


 ボケら~と待ってても、依頼はほとんど来ないだろう。

 なので、こちらから探しに行く。


 仕事は足で稼げってね。

 具体的には、隣町のギルドから回してもらうってとこ。

 そのための弁髪べんぱつ君だ。


 今日はともかく…明日以降も、俺が毎日行くわけにもいかない。──キナは言わずもがな。


 なので、隣町に行き、本日一番に依頼クエスト受注の窓口を確認し、交渉する。

 上手くいけば、後日から回してもらう依頼クエストの確保をコイツに任せようと思う。


 毎日往復と、結構な距離の駆け足になるが、まぁ運動だと思って我慢してもらおう。

 きっと半年後、君は無敵の男になるぞ──駆け足限定で。


 もちろん、ちゃんとバイト代は出してやるさ。──メシ代分くらいはな。


「バズゥ、その…」

 キナは困った顔で見上げてくる。


「どうした? 街までは俺が連れていくから安心しろ」

「そうじゃなくて、ギルドは無人にはできないの…」


 あー…

 24時間営業とか言ってたね。


 えー…じゃぁこれまで、ほとんど外出してない、とか?


「うん…基本、私しかいないから」

 しょぼん、としたキナ。


 さすがに、ずっと家にいて仕事詰めだと息が詰まるだろうに…


 キーファの野郎。キナを本格的に囲う気だったのか。

 許すまじ…


「んー…無人じゃなければいいのか?」

「まぁ、たまに村の人に代わってもらったりも…」


 キナとて、食材の買い出しや消耗品を補充する必要がある。

 まとめて買ったとしても、少女の体で運べる量には限界がある。

 注文して配達してもらうこともできるが、やはり一度現地に行って確認する方が効率は良い。


「ってことは、必ずしも、ギルドの職員でなくてもいいわけか」

「うん、依頼の受注や、成果を聞くことができれば誰でもいいみたい…隣町でも、バイトがいるみたいだし」


 なるほど。

 窓口業務ならバイトも可能ってことだな。

 字が読めないとちょっと辛いが、まぁ頭で覚えて、あとで口頭で確認すればよい、か。


 村人でもできそうではあるな。

 しかし、バイト代を出すのも勿体もったいない…



 う~む…



 あ、ちょうどいいのがいるじゃない。


「おい、そこでぐだを巻いてる奴ら!」

 仕事の時間までゴロゴロ出来るとばかりに、日の高いうちから酒を飲もうと、ジーマ達が勝手に濁酒どぶろくの徳利を、いそいそと準備している。

 

 ……


 こいつら…

 酒代はタダじゃないぞ!


 まぁいい、あとで徴収するからな。


 キナはキナで、きっちり帳面に記載中。

 あれま、抜け目ないんだか、几帳面なんだか…


「「「「????」」」」

 ジーマ達は不思議そうに自分の顔を指さし、互いの顔を見合わせている。


「留守番よろしく」


 ……


「よ・ろ・し・く」


 ギロ!


「かしこまり~!」

 

 顔を引きらせてジーマが応じる。

「ここを出ていくときはちゃんと、残ってる奴らに申し送れよ。いいな?」

 

 全く信用ならないが…

 こうでもしないと、キナは一歩も出られない。


「わかってるわよ…──バイト代はちょうだいよ」

 チ、ちゃっかりしてやがる。


「昼飯くらいは出してやる…あと、酒ぇぇ! 勝手に飲むなよ」


 ギクっとして、濁酒どぶろくを注ぐ手を留めるジーマ。


 そんでもって~…


 銅の剣ぃぃ!

 お前は、ちゃっかりツマミを用意…っていうか、それもう料理してるよね?

 お前の家ですか、ここは!?


 勝手に厨房で料理すな!


 酒代を払えと言わなかったのを、これさいわいとばかりに、勝手に酒は無料とか思いこんでいるらしい──救えないやつらだ。


 あーもう、ホント此奴こいつらはダメ人間だな。

 冒険者ぼんくらなんてものは、ロクなもんじゃない。


 酒代は、あとできっちり徴収します!


 ったくもうー! いい加減疲れて来た。

 …ギルド職員って大変だな。




 キィィィナァ…よぉく、今まで我慢してたね。




 叔父さんだったら、とっくにブチ切れですよ。

 もう、激おこプンプンですよ。


「いいかお前ら! 店のもん盗ったり、勝手に飲み食いしたらぁぁ……───衛士に突き出します」

 ここは国家権力の出番です。


 私的制裁ボッコボコを加えてもいいんだけど、こいつらはりないだろう。

 キナが優しいものだから、衛士なんて出てこないとたかくくっているんだろうが…叔父さん容赦しませんよ。


 泥棒と無銭飲食は犯罪です!


「「「「はい…」」」」


 魔道人形オートマタのような動きで、カックンカックンとしながら酒を元の位置に戻すジーマ達。



 って、銅のつるぎぃぃぃ!


 お前は、何をシレっとツマミ作って食べてるの!

 お酒だけじゃなくて、ツマミも同じ!

 バカなの君ぃ!?



「キナ、帳簿に書いといて」

「はい。えっと、ウルさんがイワシの網焼き、銅貨1枚っと」


 イワシか~…すっげぇいい匂い。

 って、銅の剣改めウル君──何、魚を厨房に戻そうとしてるのよ…


 焼いて、手を付けたら戻せません!

 銅貨1枚、決定! あ、王国銅貨ね。


 ……


 なんだよ?


 そんな目しても取り消しません。


 ……


 …


「もういい。そろそろ行くからな。ちゃんと留守番してろよ」


 もうヤダぁ…コイツ等、ホント──






 うんざりした気持ちで、冒険者ぼんくら共に背を向ける。





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