第9話「それでもお前がいるなら俺は全てを──」
罵倒されたんだよ──。
お前はいらないって……。
キナの碧金色の眼差しに見つめられる
この子なら、黙って聞いてくれるからと────。
あの鉄錆びの籠ったような匂いのする、ホッカリー砦での一室を思い出し……、
胸の内を
※
挙手にて決めよう───。
挙手を求めるエルランに
挙手の結果、
バズゥ排除に賛成したのはエルラン、ミーナ、シャンティの三名。
意外といえば意外な結果。
少なくとも女性陣からは全員総スカンを食らうと思っていたのだが……。
神殿騎士のクリスは、難しい顔をして腕を組んだまま瞑目している。
「クリス!?」
「どうしたです!?」
驚いたのは、ミーナ達女性二名だ。
当然、バズゥを追放するものと思っていたのだが──。
「む。どうしたもこうしたもない。先の件とは分けて考えるべきだろう」
重々しく口を開く。
ミーナとシャンティもその件では少々バツが悪いのか。
「いや、まぁそうなんだろうけど……」
と口が鈍る。
その空気のままであれば、半数はバズゥの残留を希望しているようにも思える。
「ただ、な。分けて考えたとしても……バズゥ殿がこの先、無事に戦っていけるのかという問題に目を向ければ……む、正直わからん」
真剣に悩んだ様子でクリスは
「お、俺は…今までだって生き残ってきた──これからも」
「ちょっとお前は黙っていてくれ」
キザったらしい様子で言うのはエルラン。
「クリスは残留に──賛成というわけではないんだな?」
「ン……む。二択で言われるとだな……む、そう、だな……む」
「なら、今は保留としよう。……で、だ」
ジロっと睨む先は男性陣。
ゴドワンとファマック。無口な重装の騎士と、老練な賢者だ。
「君らの意見は? 棄権票だなんて卑怯な真似をするのか?」
卑怯と言われてピクリと表情筋をうごめかせたのは重装騎士のゴドワン。全身鎧は、一度脱ぐと着るのが面倒ということで、今は兜だけ脱いでいる。その下にあるのは如何にも頑迷そうな顔つきのソレ。四角い顔に、同じく四角に切りそろえた黒い短髪と黒い瞳。顔を無数に彩る大小の傷は、血管が浮き出て
「
「それは棄権票と同じだ……それでいいのか?」
もう一度、ジロリとエルランを睨み付けると、「好きにしろ」といって押し黙る。
ヤレヤレと大げさな身振りで呆れを表現している。
キザ野郎め……。
「爺さんは?」
それなりに長い付き合いなのか、気安い様子でファマックに聞くと、
「人は多いほどええ」
「は?」
ポカンと聞き直すエルラン。
「人が多ければワシも生き残る可能性があるしの……カカカ」
あっけらかんと言ってのけるクソ爺。要は、弾除けになると言っているのだ。
「呆れた爺さんだね。ま、いいや。爺さんは残留賛成ってことね」
「どっちでもええわい。ファァァァ……ワシは寝るぞ」
それだけ言うと、どうでもいいとばかりに出ていく。
なんか一番感じ悪いんですけど……。
「爺さんはああ言っているけど、実際問題として、足手まといがいると──正直こっちの身も危ないんだよ」
ペンペンと右手を叩いて見せ、チラッとわざとらしくゴドワンを流し見るエルラン。先日の戦いで、右腕を骨折したというゴドワンが苦々しい顔をする。
「そ、そうよ! 大体アンタって何の戦力にもなって無いじゃない!」
ミーナが勢いを取り戻して猛然とバズゥに食って掛かる。
「『猟師』なんてね、戦闘職じゃないし、武器だって貧相! 魔族相手に火縄銃なんか効くわけないでしょ!」
バズゥが背負う、仰々しくも二丁立ての猟銃をこれ見よがしに指し示す。
「そ、そんなことは!」
バズゥとしては心外だ。
『猟師』のスキルだって戦闘に十分活用できる。
「『猟師』の気配察知系スキルだって、警戒ができるスキルだって馬鹿にはできないだろう!」
直接的には戦闘に寄与できないので、バズゥは基本サポートに回っている。猟師の専用スキル、気配察知系スキルや警戒スキルは敵の探知に
「はぁぁ? そんなもん私の『殺気探知』の方が優秀だし、ファマックの『千里眼』ならもっと範囲が広いわよ」
と、
「サバイバル技術だってある…食料に困ったら魔物の肉だって……」
猟師スキルの『解体』は、サバイバルになくてはならない。山の知恵の一環として食用の植物だって見分けがつくし──。
「はぁぁ? あのゲロまず料理で貢献してるつもり!? あんなもの、田舎育ちの
うぐぅぅ……。
「じゃ、じゃぁ、銃の狙撃で援護もしてるぞ!」
猟師スキルがMAXの状態では、射撃技術はもはや神域に達している。
飛ぶ鳥だって撃ち落とせる精度だ。
「いや、それ!!」
「うん、それ……」
「あーーそれな……」
ミーナだけでなくシャンティ、エルランもウンウンを
ゴドワンとクリスもピクリと反応……え? え? なんぞ?
「それさー、すっげぇ
「
「うるさいし、目立つ……あと、火薬が臭う……」
えーーーーー……。
火縄銃全否定じゃないですか?
「そもそも、飛び道具とか魔族に意味ないし! うるさいし!」
「せっかく隠れてるのに、自分で居場所をバラしてるです……あと、うるさいです」
「エレガントじゃないよ。スキルも乗せられないし、牽制にもならないし……うるさいよね」
ミーナさんにシャンティちゃんにエルランさぁぁ~ん……今言う、今日言う?
「む。うーーーむ……確かにちとウルサイ……かな」
「……確かに鎧と兜に反響するが……ぬぅ、ウルサイと言える、か……」
えー武人コンビもちょっと思ってたの?
「え? っていうか、……え?」
ジロっと睨まれるバズゥ。
「銃、うるさい?」
コクコクコクコクコク、頷く頭が、い~ち、にぃぃ~……ごぉぉ~……。
えーーー……ボクイラナイコデスカ?
………………。
「さて、色々意見があるようだな。で、だ──」
ねっとりとしたネト付く目でこっちバズゥを見るエルラン。
どうしても俺を追い出したい気配を感じる。
でも、それはできない……エリンを置き去りになんて!
「ま、勇者様にお伺い立てようじゃないか?」
え────?
??
……ギィ──と扉が開き。
俺の最愛の姪がそこに佇んでいた。
茶髪交じりの赤毛は短くまとめられているが、精いっぱいのオシャレとしてツインテールを
バズゥと同じやや黄みがかった肌だがは、むしろ全体の調和がとれており色白な印象を際立たせている。
そして、髪と同じく赤みがかった瞳は──今は暗く伏せがちで、長いまつ毛が寂しげに揺れる。
全体的に小柄な体は、白く輝く軽装鎧に包まれて尚、年相応の女性らしい曲線を描いている。
それでも細身の印象はぬぐえず、スラリとした体のせいでむしろ年相応以上に
「エリン?」
「……」
「───叔父さんは……帰った方がいいと思う、よ……」
エリンは生気のない顔で、──ボロボロの姿をしたバズゥを見る。
スッと、それだけ言ってエリンは去っていった。
「お、おい! エリン!」
思わず追いかけようとしたバズゥをエルランが押さえる。
「行ってどうするんだ?」
「そ、それは……」
「取り消してくれとでも言うのか? 彼女はお前の身を案じて、ああ言ったというのに」
うぐ──────。
本能的にエルランの言葉に反論したくなるが……エリンが俺の身を予てから案じていたのは事実。
だが、エリンが俺を否定?
帰れ?
カエレと……?
バカな!?
エリンが俺の身を案じていたのは事実……だが、それでもこれからも守るって、一緒に居て欲しいって、ずっとずっと……。
それが……──なぜ?
…………。
確かに……。
確かに。
今回は手ひどくやられたというのもある。それがゆえに、必然的に今日という日がを招かれいたのかもしれない。
しかしどうにもそして、エリンの様子は、取りつく島もないと言った感じで不自然だ……。
なによりも、絶妙のタイミングで、まるで狙っていたかのような
もっと、言葉を重ねる必要もあるのだろうが……それ以上に、俺は打ちのめされていた────。
「勇者様を入れれば、お前の残留反対は四人──他も決して賛成というわけじゃないみたいだな。ま、
エルランの言葉に何も返せない。
「どうするんだ? 帰るなら早い方がいい。定期便は今夜にも出るらしいぞ」
エリンに別れを……。
「君のせいで遅れた北部軍港の奪還作戦──明日から本格的に戦いは始まるんだからね」
無理……か。
そうさ、
どんな顔をして会えというのだッ!
正直、
エリンに、
最愛の姪に――。
否定されてしまったら───何の意味がある?
意味なんてあるのか──────。
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