第243話ーー幸せにはなって欲しいんです

 師匠たちの挑戦は既にそれぞれ5回を数えるほどになったけれど、まだ誰一人として突破とはなっていない。

 師匠とじいちゃんは相手によっては、結構惜しい所までいっているんだけれど後一歩及ばない感じなんだけどね。

 ただ鬼畜治療師は以前に漏らしていた通り、3回目を終えたところで「私はここまでのようです……当面は無駄に魔晶石を使用して挑戦するよりも、修行し直します」とギブアップ宣言に近いものがあった。

 鬼畜治療師の基本的な戦闘スタイルは相手に状態異常魔法を掛けて弓や刀で攻撃するわけなんだけれど、魔法は全て弾かれるし、物理攻撃はそこまで強いわけでもないからね……まぁ、一般的にはその物理も圧倒的ではあるんだけどさ。

 ……昔は想像を絶する強さだと思っていたけれど、俺も強くなったもんだよね、自分で言うのもなんなんだけど。


 俺と香織さんは苦労しながらも、8010階層まで進んでいる。

 2人っきりの攻略……油断すれば一瞬にして灰に変わるような場所だけに、ずっと緊張しっぱなしだ。

 そうそう火竜に乗っていたのは竜人?だった。竜の頭を持ち、身体中を鱗で覆っている人型だ……まぁ鎧とかしっかり着込んでいたので、鱗が見えたのは腕とか足だけなんだけどね。

 それと驚くべき事に、竜人の言葉がしっかりと理解出来る事だった。これまで会話らしき事が出来たのは1000階層毎のダンジョン商店街だけだった。あとは突発型ダンジョンにいた人魚くらいか……まぁフィールドにいるモンスターは基本的に会話不能だし、何を話しているのかさえも理解出来なかった。だけどハッキリと何を話しているのかわかるんだよね。これは香織さんも一緒だったので、もしかしたらあのコロシアム報酬かと思って違う階層へと赴いてゴブリンなどで試して見たところ、同じように言語を理解出来たし、それどころかこちらが相手を決めて話そうとすると、自分の口から凡そ地球上の言語とは思えない言葉が発せられ……相手に通じているようだったって事だ。

 あとは浅い階層ほど知能レベルが低いのか、会話にならないって事もわかった。

 ただまぁ、言葉を交わせるからといって、戦闘しなくて済むかと言えばそうはならないんだけどね……

「暴力反対」「平和的に」と叫んでみたんだけど無理だった。

 モンスターは所詮モンスター、人間とは相容れない相手だって事だ。


 竜人がいるって事はもしかしたらエルフとかドワーフなんて存在ももしかしたらいるのかと、ちょっとだけ期待している。

 特にエルフなんて、漫画やアニメ、ライトノベルでは基本的に顔が整っているのがデフォだしね。

 あっ、別に美女エルフとどうにかなりたいってわけじゃないよ?ただやっぱり男からしたら、見てみたいと思うのは普通だと思うんだよね。

 ……怖くて香織さんにはそんな事言えないけれど。


 まぁそんな感じで初めてコロシアムに挑戦し始めてから既に1年が経とうとしているので、1度地上へと戻ってゆっくり休養し、その後また挑もうという事になった。

 これまでも一応たまに戻ってはいるんだけれどね、師匠の頭領としての役目的な事もあるし、やはり子供たちの様子も見たいという事で。あと出産の立ち会いもあったみたいだね。

 そして驚くべき事に帰る度に新たに妊娠している奥さんが現れていたりもする。毎回、夜は早くに連れ去られて行ってるからね……

 その度にこちらに助けを求めるような目を向けてくる師匠が居たりするんだけど、重なる度に師匠への尊敬とかそういった気持ちのバロメーターが目減りしていっている気がしたりしなかったり……まぁいつも心の中ではドナドナを歌っていたりもするんだけど。

 もちろん手を差し伸べたり出来るわけがない!!怖いんだよ奥さん軍団……あれは触れてはイケナイ。


 ただ余りにも地上にい過ぎると戦いへのテンションが落ちるという事で、長くても1週間とかそんな感じだったけれど、今回は2ヶ月ほどを予定している……いつでもすぐにトップギアにしか見えないんだけど、一応そういったものもあるらしい。

 だけど魔晶石集めも必要という事で、俺の分身を300体ほど7999階層に残して集めさせ続けてもいるんだけどね。


 名古屋北ダンジョンに潜る時は、基本的に本部から直接階層へと転移する……つまり入口ゲートを通らないので、協会へとドロップを販売する事もない。まぁ魔晶石はダンジョン商店街で使用するのもあるけれど、7000階層とかそんなレベルのドロップを提出出来るはずもないしね。

 それでも突発型であったり様々な件で、お金は怖いくらいに貯まるばかり……だけど使う時間も場所もないから、最近は名無しでどこかに寄付でもした方がいいんじゃないかと思い始めているほどだ。


 って事で久しぶりの地上なんだけど……

 まぁ、別に何が変わっているわけでもないよね。

 基本的に地上に戻って1番初めにする事は、スマホの電源を入れる事だ。まぁ連絡してくるのはアマとキムくらいしか相変わらずいないんだけどね。

 学校の元クラスメイトたちはそんなに仲良いヤツもアマとキム以外にはいなかったし、連絡先交換していた数少ないヤツも卒業したらそれっきりだしね……少し寂しい。

 あっ、あとは孤児院の先生たちがたまに『元気でやっているか』ってそれぞれ連絡をくれたりしている。


 よしっ!!

 未だにキムには彼女は出来ていないようだ。

 3ヶ月ほど前に3日ほどだけ地上に戻った時に、「俺もようやく彼女ができるかもしれない……次会う時に紹介するかも」とかニヤニヤしながら言っていたけれど、アマ情報によれば告白したけれど相手には旦那さんがいる事実を告げられたとの事だ。

 ……よしよし、このままもう少しだけ俺に優位な気分を味合わせておいてくれ!!

 正直なところ、アマもこっぴどく振られてくれるとなおの事楽しいと思ってる。

 そして2人に彼女がいない事を肴に飯でも食いに行きたい。

 いや、親友だからアマとキムにも幸せにはなって欲しいんだよ?だけどそれは今じゃない、最終的にって話。

 これまで2人には散々見せつけられてきたからね、イケメン&マジメそうなメガネVSモブって感じで。


 早速2人に地上へと戻った事の連絡だ。

 2人とも相変わらずハードスケジュールだから、学生時代みたいにすぐに会えるわけじゃないからね。だから現時点での予定を合わせて……当日に突発型ダンジョンが近隣に発生しない事を祈るばかりだ。実際に何回かそれで予定を潰されてるからね。

 会うのはもっぱら伊賀市内なんだけど、未だに高級食事処はソワソワしちゃって落ち着かないから、次元世界に招いて屋敷でって感じが多い。タダってところもあるんだけど、何よりアマやキムのファンが声を掛けて来たりしないのがいい……面倒とかよりも、2人のドヤ顔がウザイのが1番だったりするのは秘密だ。



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