第238話ーー目は口ほどに物を言う
遂に到った8000階層。
まぁそれでもまだ2000階層も存在するんだけどさ。
いつも通り1000階層毎にあるダンジョン商店街だ。ただ規模も様相もかなり違う。これまでは田舎町っていった感じだったが、ここの道は全て綺麗に揃った石畳で舗装されているし、商店や民家らしき物は煙突のあるレンガ造りになっている。さらにいえば地上にある街並みと同じように各家の前には花などが植えてあったり、剪定された木が生えていたりするのだ。そして何よりも一番奥に洋風の大きな城が堂々と構えているし、何から守る事を想定しているのかはわからないが、高々と分厚い壁がぐるりと街を囲んでいるのだ。
一見すれば中世時代へとタイムスリップでもしてしまったのではないかと、己の目を疑ってしまう感じだ。
ここが地球の中世時代ではなく確かにダンジョンであると確信できるのは、住民が全ていつも通りモンスターである事だけだろう。
門前にはこれまたいつも通りの注意書きの立札が建てられていただが、どうせいつもと同じだろうと思いながら読んでみると驚くべき事が書いてあった。
それは8001階層に行きたければ、コロシアムにてその力を示せとあったのだ。そしてそれはパーティー単位ではなく、個人の力を示さなければならないらしい。
つまりここはいつものダンジョン商店街だけではなく、節目節目のボス部屋としての機能も持っているという事である。
「ククク……強敵がいると良いな」
「然り然り、腕がなるのう」
バトルジャンキーであり戦闘民族の師匠とじいちゃんが笑みを浮かべております……
とりあえずは街へと進入して、街中をブラブラと見て回る。
街を模しているだけあって、これまでは品物を売っているだけであったのが、人型モンスターが額に汗してアイテムなどを作製している姿が所々で見受けられる。他には道を歩く住民らしきモンスターも多々歩いていたり、八百屋や肉屋で購入している姿があったりもする。
驚くべき事に街は一日では見て回る事は出来ない程に大きく、全てを見て回るのに10日も必要とした……戦闘などは一切行っていないにも拘らずだ。
まぁいくつかの宝飾店で1日を潰す女性陣があったりした事が大きかったりするのだが……それと同時に7800階層で俺が倒して得た巨大な魔晶石が消えてなくなったりもした。数多の地上では見られないような美しい宝飾品へと姿を変えて。
宝石にそれほどを費やす事に反対がなかったわけじゃないけれど、師匠は奥様たちへと贈る必要を説かれ落ち、ハゲヤクザは懲りずにも新たにと考えている女性に贈ろうとでも思っているらしく頷いた事で話は終わった。じいちゃんと俺?発言権なんてなかったです……
そんな感じで10日間を過ごしていたわけなんだけど、男性陣はちゃんと色々調べたりしていた。
そしてコロシアムについての事がいくつかわかった。挑むにはコロシアムの入口にいる鎧を纏った兵士であるミノタウルスに声掛けをすればいいとの事だ。その際に1人当たり規定量の魔晶石を差し出す必要がある。挑戦料金である魔晶石は、7999階層に出てくるモンスターの物を1人当たり200個だ。
そして肝心の戦闘相手は、ランダムで8001階層以降に出現するモンスターが出てくるらしい。
そして驚くべき事にコロシアム内での挑戦により起きた怪我や死はなかった事となるらしい。それ故に何度でも挑戦が可能となるが、1度挑んで負けてしまったら、20日間は再挑戦不可となるとの話だった。
まるでライトノベルの学園物の戦闘システムのような仕組み……やっぱりダンジョンさん、日本のサブカルチャー好きだよね?
まぁこちらとしてはありがたい事だから構わないんだけどさ。
それにしてもこの街の意味がわからない。
なぜ1000階層毎に街があり、そして敵であるはずの俺たちのようなダンジョンシーカーを支援するかのような仕組みがあるのかだ。
これはずっと不思議に思っていた、ダンジョンという存在は、侵入してくる者を拒むようにモンスターが配置され、更に力を貯めて地上へと溢れ出し生きる者へと刃を奮うのにだ。確かに俺たちシーカーにとっては、街の存在は助かるが、ダンジョンという存在と相反するようにしか思えない。
そもそも1000階層に至らなくとも、ダンジョンモンスターを倒すとドロップが出たり、所々で宝箱からこちらに有利となるような報酬が存在する理由がわからない。
この件については、たまに師匠たちとも話したりするのだが答えが出る事はない。
うどんたち召喚獣組は何かを知っているような気がするのだが、どれほど尋ねても答えは返って来る事はない。ただたった1度だけ、10000階層に到達すればわかる的な事を口を滑らせたかのように漏らした事があったので、最終階層を目指すしかないと思っている。
話は戻ってコロシアムについてだ。
死する事の無い戦闘システムという事で、俺たちは迷う事なく挑む事になった。
挑戦者は師匠、じいちゃん、ハゲヤクザ、ばあちゃん、鬼畜治療師、香織さん、そして最後に俺という順番で、大人組が先に試しに挑み、俺と香織さんはジャンケンで決めた。
ただここで問題が起きた。
それは挑戦料金である魔晶石が足りない件だ。商店街での買い物に使い過ぎたんだよね……主に宝飾店で。現状ではたった1人しか挑めないという残念な感じ。
だからまずは階層を戻って魔晶石集めにせいを出すって話になるんだけど、バトルジャンキーな人たちがそんな理由で戦いに挑むのを止めれるはずもない。
そんな訳で、次元世界内で師匠とじいちゃんがどちらが先に挑むかの決定戦が行われた。蘇生薬を用意してのガチ勝負……約5日間に渡った戦闘は、師匠の辛勝だった。
5日も戦うんだったら、魔晶石集めに精を出せよって話なんだけど、まぁ全力での勝負がしたかったんだろうという事で納得しておいた。
もちろん他の人間はその間魔晶石集めをしていたけれど、各個体が大きい事もあって集められたのは1人分だけだった……つまり2人の死闘に意味はなかったって事でもあるが、何も言うまい。
そして更に5日間経った後に、師匠とじいちゃんが挑戦する事になった。
なんで5日後か?
全力で戦い過ぎて、ポーションを使用したけれど休養を必要としたからだ……
師匠とじいちゃん……残念な子というかアホにしか見えないんだけど……
「さて、挑戦する前に肩慣らしとして手合わせを行おうか」
「うむ、儂も一太で調整しようかの」
スキルなしでとの縛りでの手合わせで、めちゃくちゃボコボコにされた。
「あんた……目は口ほどに物を言うって何度言ったらわかるんだい?」
みんなに可哀想な子を見る目で見られました……
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