第227話ーーまさか……

 避難民を保護している拠点へと、モンゴルから何台ものトラックが列をなしてやってくる。

 トラックが積んでいる荷物の全ては日本からの義援品で、飲食物に毛布や衣類などが大量にある。驚く事にこれは日本政府の支援ではない、全て民間からの寄付なのだ。

 事の発端は、俺たちがせっせとモンスターを殲滅しつつダンジョンを攻略している時に起きた。


『俺たちは今、中国へとやって来ている!周りの光景を見て欲しい……俺たちの仲間が作りあげた拠点以外に何もない。周りにあるのはモンスターたちによって起こされた悲劇の残骸だけなんだ!みんな!これは対岸の火事じゃないんだ、もしかしたら明日の日本かも知れないんだ……』


 とかなんとか迅雷の面々が1人づつ大袈裟な芝居付きで撮影し、それをモンゴルまでわざわざ移動して動画サイトにアップロードしたところ、大量の義援金や現物の寄付が集まったらしい。

 しかも迅雷人気は日本のみではなく世界中にファンがいるらしくて、世界中から今も指定した伊賀の倉庫宛に色んな物が届き続けているようだ……迅雷人気恐るべし!!

 正直なところ、アイツら何のために来たんだろ……なんて思っていたけれど、こういうために必要だったみたいだ。

 ちなみにモンゴルから拠点までの道のりだが、俺たちがモンスターを殲滅したのもあるけれど、ここでも迅雷人気が作用しているらしい……荷物を運んで来るのに迅雷が同行したのだが、「世界的TOPパーティーがいるなら安心だ」と、拠点まで直接トラックで運んでくれたってわけだ。

 ただ俺たちは何も知らなかったので、拠点へと1度顔を出しに戻ったらそんな事になっていてビックリしたよ。


 師匠たちは各流派の引率というか、幹部や幹部までとはいかないもののそれなりに立場のある人たちと、近隣の状況の説明やこれからの行動予定を話し合っている。

 ただダンジョンの最下層に見かけられたあの痕跡は話さないようだけどね。確定ではないし、無用な不安を与えても仕方ないという事で。


 俺と香織さんや召喚獣たちは休憩と言われたんだけど、次元世界が開けないとやる事がなくて困って避難所の片隅に固まっていたんだけど……そんな時に問題が起きた。

 約5週間、俺たちはこの1団から離れてずっと別行動していたわけなんだけど、今師匠たちと話し合っている引率者たち以外は行動理由を全く知らない。その事からずっと見かけなかったのは何でかと質問してくるヤツや、サボっていたんだろうと決めつけて来るヤツがいたんだよね……まぁようするに絡まれたって事。しかも俺がちょっとトイレとかに香織さんたちから離れて1人になった時を見計らって。つまりは香織さんたちに声を掛けたいけれど、俺が邪魔だし……的な事なんだろう。

 ちなみに、さすがに一全流からはそんな事を言ってくるヤツはいなかったけどね。それどころか近くから離れて行くくらいだったけど……俺を抑制の効かない暴れ馬だとでも思っているんだろうか?


 とっとと威圧かまして退ければいいだろう?

 うん、さっきから威圧掛けまくっているんだけど、なんか次々にオカワリが現れて……失禁して気絶した奴らが溢れている。そしてそれを見てまた騒いでイチャモンを付けてくるヤツが来て……と、終わりが見えないんだよね。

 ……失禁くんたちが30名を超えたところで師匠へと助けを求めたよ、避難民の人たちが気付いちゃって怯え始めちゃったし。


 結果お咎めはなかった、なかったけどまた似たような事が起きる可能性が高いという事で、俺たちは単独行動をとる事となった。日本への帰還なども全て別行動だ。

 理由は絡まれたってのもあるんだけど、元々帰還も全て別行動へとする予定だったらしい。他のダンジョンの最下層を確かめて、証拠を探したいのもあるし、何より次元世界や転移の素晴らしさを知っちゃってるからね。


 そうとなればとっととこの場を離れようという事で、後始末は残った人たちに任せてさっさと移動したよ。

 彼らの感知外の所まで移動してからは大鷲を喚んでね……危うく迅雷たちがいる場所で出しそうになったけれど、「召喚おおわ」のところで師匠に口を塞がれて怒られた。ナル森の部下発言の件もあるからまた大騒ぎになる所だからね。


 それから約3週間、基本的には大鷲で移動しつつモンスターが地上を闊歩しているのを発見次第殲滅、沈静化されていないダンジョンを見つけたら全速で潜りつつ駆逐するといった感じだ。

 3週間で潜ったダンジョンは7つほどだけど、最初に溢れたダンジョンはその内1つしかなかったが、やはり他と同じような痕跡があった。


 どうやら中国入りしてから約8週間ほどで、全土で起きたスタンピードは沈静化したようだ。各国の軍やシーカーたちの動きがあってこそといったところだろう。ただ沈静化したといっても、地上で生命活動をしているモンスターはまだそれなりに見受けられるので、完全に安全になったとは言えないが。それにダンジョンが消えたわけでもないしね……いつまた同じようにスタンピードが起きてもおかしくないし。


 だけど俺たちはまだ帰国するわけにもいかない。きっとあの魔法陣が何か関係しているのだろうとは思うけれど、アレがどのように作用しているのか?どれほどの期間掛かったのか?誰が企んだのか?など何一つわかっていないから、少しでも情報を得るために残りの6つのダンジョンの最下層を確認しなければならない……

 結果どうだったか?

 どのダンジョンも魔法陣は壊れていて、元がどのように描かれていたのかはわからなかった。だけど1つのダンジョンの最下層にあった拠点らしき残骸の奥……隠れる事を目的としたような穴蔵に死体が2つあった。

 死体が消えずにあるという事は、死んで間もないという事だ。つまりつい先程まで生きていたのだ。

 ようやく俺たちは大きな手がかりを手にしたという事になる。


 早速次元世界へと移動し、2人を時戻しスキルで復活させての尋問タイムとなった。

 まぁ、いつも通り俺たちは尋問タイムは立ち会わせて貰えないので風呂に入ったりしていたんだけどね。


「何かわかりましたか?」


 険しい顔をして屋敷へと戻ってきた師匠たちへと問いかけると、その答えは予想もしないものだった。


「どこまで本当かわからん、わからんが心して聞けよ?今回のスタンピードは我らが予想した通り人工的に無理やり引き起こしたものらしい。そしてその魔法陣の作成方法などを指示した者の名は……纐纈と名乗っていたそうだ」

「えっ?」

「本人は纐纈と名乗っていたし、顔写真を見せて確認した所あの纐纈に間違いないようだ」

「死んだんじゃ……殺し……ましたよね?」

「あぁ、儂がこの手で魔晶石を引き抜き殺したはずだ」

「どういう事ですか?」

「わからん……」


 まさかあのマッドサイエンティストの纐纈さんが生きている?

 ではコメディアン魔王若狭や、コメディアンヌ魔王妃秋田さんも生きているのか?


「でもその纐纈さんだとして、裏に誰かいるんですか?支援している人たちがいるとか」

「あぁ、どうやらそれはアメリカのようだ。ただアメリカという国の考えなのか、それとも一部が暴走しているのか……な」

「どちらにしろ、1度日本へと帰ってこのスタンピードの件を各所に伝えて、警戒させるべきじゃろう」


 どうやらとんでもない事態になっているようだ……

 まさか、まさかの真実だよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る