第226話ーーマッドサイエンティスト多すぎ問題
中国でのモンスターの大氾濫、今回赴くのは俺たちと迅雷、更には各流派の武術班から数十名づつが選出されている。
中国は日本にとっては隣国だ。そのためいつ中国に溢れるモンスターが海を渡って日本へと上陸してしまうかもわからない。そのために自衛隊や各流派の中国へと渡らない者たち、または普通のシーカーなどは海岸線などで警戒に当たるらしい。
その中国へと渡る方法なんだけど、今回はジャンボジェット機に乗って向かう事となった……またパラシュートなしのスカイダイビングじゃなくて良かったよ。俺たちが担当するのはモンゴルの南方らしいのだけど、その場所に1番近い飛行場は既にモンスターに占拠されていたり破壊されているので、1度モンゴルへと向かってからバスなどをチャーターして現地へと向かうとの事だった。
先日の新規ダンジョン調査の時も思ったけれど、また集団行動という事で次元世界とか時空間庫が使用出来ないのがツラい。
しかも総勢300名ほどでの行動となっているんだけど、ちょっとした交流会というか修学旅行というかって感じで、これから命を掛けて戦いに行くというのに浮ついた雰囲気が漂っている事に戸惑いを覚える。
ずっと各流派の人間はみんな、迅雷が広告塔であり俺たちの隠れ蓑だという事を知っているんだと思っていたんだけど、どうやらそうではないらしい。知っているのは各流派のトップに近い人たちだけ。だから今回一緒に向かっている人たちにとっては迅雷は雲の上の存在的な感じらしい……つまり迅雷の面々はずっと輪の中心に居て、キャーキャー言われたりしているし、迅雷が共にいる事に安心感を覚えちゃったりしているようだ。
俺と香織さん、そして召喚獣たちは少し浮いた存在として周りから避けられている。まぁ師匠たちトップと共に行動しているし、迅雷の面々は怯えた表情で見てきたり、敬語だったりするからね……1部の熱狂的迅雷ファンらしき名前も知らない人たちに睨まれたりしているのが面倒くさいところだ。
ただそんな中でもチャラいヤツはメンタルが普通じゃないのか、それとも旅行気分で浮ついているだけなのか、いつものように香織さんや召喚獣たちにだけ声を掛けてくるヤツはいたけどね……威圧を思いっきり掛けて黙らせたけれど。
モンゴルに降り立ち、チャーターしたバスに乗り込んで向かったわけだけど、バスは国境までしか進んでくれなかった。
国境線近くでは、モンゴルの軍隊やシーカーたちがいつモンスターが向かって来てもいいようにと、土塁を築いて緊張した面持ちで待機していた。既に5kmほど離れた場所までモンスターはやって来ているようだ。
俺たちはそんな彼らを横目に、各流派毎に別れつつ横一列になって目的地へと進む事となった。迅雷は彼らだけで一流派扱いで固まっている。ボロが出ない事を願っているけれど……ここまでの移動の中でまた調子に乗っていたから、少しだけボロが出る事を願っていたりもする。
明らかに低階層のモンスターが見えるだけで数万、それが土煙と奇声を上げながらこちらへと向かってきている。
それを俺たちはそれぞれ迎え撃ちながら足を進めて行くのだが……正直つまらない。いや、師匠たちみたいに強敵と刃を交えたいとかそういうわけじゃないんだ、ただ他の人たちと足並みを揃えているせいでかなりゆっくりなのがツラいんだよね。だけどまだまだこのペースで担当予定場所まで進むらしい。今の行軍スピードを考えると、予定場所まで4日掛かるようだ……耐えられるだろうか、不安だ。
担当地区まで進んだら何をするか?
それは事前にどうやってかは知らないけれど、現地住民などが集団で避難したりしている場所を特定しているので、その人たちを守るための拠点を作ったり怪我を治したり、炊き出しをしたりしつつ、近隣のモンスターを駆逐するらしい。
そしてその避難場所まで辿り着いたら、俺たちは自由行動……集団と離れてモンスター殲滅に移るらしい。
それにしても酷い事になっている。
木も草も全てが丸坊主になっているし、家屋も見るも無惨に壊れている。そして住民だったであろう人間の骨や腐乱死体がそこら中にあるのだ……まるでこの世の地獄だ。
果たしてダンジョン教とやらは、この光景を見てもまだ『神の怒りだ』などと言えるのだろうかって思える。
住民が隠れていると思われる場所は、元は役所か何かだったんだろう建物の地下にある避難壕だった。ほとんどが女性と子供ばかりで、さして大きくもない場所にギュウギュウ詰めになって怯えと疲れ……そして若干の諦めを浮かべた顔でいた。
師匠たちが集団に説明や聞き取りをしている間に、土魔法などでしっかりと囲いを作ったり拠点を築き上げる。
「俺たちの目的はこの近くにあるいくつかのダンジョン内でモンスターの殲滅を行い、更に溢れ出てこないようにする事だ」
避難民が寝静まった夜、俺たちは闇に紛れて拠点から出る事となった。
ここから1番近いダンジョンは、約30㎞ほど離れた場所にある。ダンジョンに近付くに連れモンスターが増え、そして段々と強さも上がる。
本来なぜダンジョンからモンスターが溢れ出るかというと、ダンジョン内のモンスターの量が増えすぎたためである。ただ増えすぎただけではまだスタンピードとはならない。モンスターを生み出す魔力の行先がなくなり、ダンジョンが魔力を蓄え切れなくなったところで発生するという仕組みらしい。そのためにスタンピードが起きてダンジョンからモンスターが溢れ出しても、しばらくの間ダンジョンは新たなモンスターを生み出し続けるらしい。
では沈静化させるにはどうしたらいいか?
それは既に外に出たモンスターを駆逐してもダメだ、新たに生み出され続けるモノを駆逐しなければ。新たなモンスターを生み出す際に、その個体が大きかったり強ければ強いほど魔力を大きく消費する。そのためボスがいるようなダンジョンでは、階層ボスや最下層のボスを倒す事が1番沈静化が早くなるらしい。
という事で、俺たちはダンジョンへと向かいながら既に溢れ出したモンスターも、新しく生み出されたモンスターも、全てを駆逐しながら下へ下へと進み続ける。
そして1つ目のダンジョン……10箇所同時に溢れ出した内の1つのダンジョンの最下層へと着いた時、思わぬ物を目にする事となった。
それは明らかについ先日まで人が暮らしていたかのような痕跡と、階層全体の床に鈍く描かれた魔法陣のようなモノだ。
溢れ出したモンスターによって荒らされているせいで、誰が暮らしていたかという証拠は見つからなかったし、魔法陣もかなりの部分が踏み荒らされているせいで何もわからなかった。
「これはなんだ?まさか人工的にスタンピードを起こし……た?」
師匠の顔が引き攣り強ばり呟いた。
「そんな事可能なんですか?」
「わからん……ただそのような研究をしているヤツがいた……だがアイツは死んだはず……」
師匠の眉間のシワがどんどん深くなっている。
研究者で、既に死んでいて師匠がアイツ呼ばわりするのって……
「もしかして纐纈さんですか?」
「いや、纐纈と同じく中国へと渡っていて、先日の時に死んだはずの科学者だ」
纐纈さんではないのか……
でも世の中マッドサイエンティスト多すぎじゃない??
「悩んでもわからん、とりあえず他の最初に溢れ出したダンジョンがここから100㎞ほど離れた場所にあったはずだから、そこにも同じような物があるのかを確認しに移動するぞ」
確かにその通りだ。
もしかしたら意味も何も無い魔法陣っぽい物を作るのが好きな誰かが住んでいただけかもしれないしね……他のダンジョンになければだけど。
約5週間掛けて、最初に溢れ出した10のダンジョンの内の3つを廻って最下層まで行ったところ、全てに魔法陣らしきものが確認された。
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