第207話ーー許そう……いや、許すまじ!!

「(英語)」となっております。

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「横川一太と如月香織だな。少し話がしたい」

「「人違いです」」

「えっ?」


 おおっ!!

 香織さんと声が揃っちゃったよ。


 ってか話しかけてきた外国人、めちゃくちゃ滑らかに日本語話すどころか、驚きの声まで日本語ってどういう事何だよ。俺なんて驚かされたり突発的な事にはつい日本語が出てしまって何度も殴られたっていうのに……ただでさえこんな素敵な休日の幸せ時間に面倒がやって来た事で腹がたっているのに、更になんか腹が立つ!!


「い、いや、横川一太と如月香織に間違いないはずだ」

「いえ、人違いです」

「そんなわけがあるかっ!!」

「そんなわけも何も、本人が違うと言っているのだから違うんですよ」


 意地でも認めない。

 絶対に面倒な事になるのは目に見えているし、だいたい初対面で呼び捨てってどういう事だよ。日本語学んだんだったら、その辺もしっかりと考えて話して欲しい。


「(クソッ!面倒だ)」

「(仕方ない拐うぞ)」


 遂に英語で話し始めた。

 多分こちらが理解してないと思ってるんだろうけれど、生憎わかるんだよね……それが例えスラングだろうと。やっと苦労した成果が出ているね。

 いやさ、あれだけスパルタで勉強させられたし、その上今はスペイン語もだし、もしかして英語圏とかスペイン語圏の国に行くのかな?なんて思ったんだけど、「そんな予定は一切ない」とか言われて少しガッカリしていたんだよね。


「拐う」という単語を出した後、目の前の5人全員が重心を落とし始めた。

 更に俺たちの後方……駐車場出口方向の車から5人ほど降りて来て囲むように立っている。


 近くの車に他に人の気配はないから合計10人っぽい。

 うーん……包囲を突破して逃げるのは簡単だけど車がな〜。でもこの状況だと、その車に何を仕掛けられているかわからないから放置しないとって感じもするし。

 あと魔力の流れが気になるんだよね。それぞれの両腕だけとか両足だけとかなんだけど、普通の人体とは思えない感じ。


「車は放置して帰ってこいだって」


 香織さんが師匠に連絡したところ、即返信があったようだ。


「連れて帰る必要は?」

「可能ならでいいらしいよ」


 あくまでも平日で人が少ないとはいえ、それなりに一般人は近くにいるから、駐車場の出入口近辺で俺たちの剣呑な雰囲気を感じ取って遠巻きに見ている人もいるから時空間庫や次元世界を開く訳にもいかないんだよね。だから連れ帰るとしたら背負って走って逃げるくらいしか出来ない……いや、それでもダメか、それはそれで俺たちが誘拐犯みたいに思われちゃう。さっきから軽く威圧は掛けているけれど、怯む様子はないしな〜


「逃げられるとでも?」

「強いと言ってもたかが2人、しかも非武装で」

「俺たちは人間ではない」


 全員普通に日本語ペラペラなんですね……

 っと、言葉が喋れるとかは今はもういいや。そんな事よりも、彼らの自信の元はどうやら人間ではないという事なのかな?

 それは俺たちも同じだけど、わざわざ教えてやる必要もない。


「異人……」


 香織さんがボソリと呟いた。

 どうやら普通に鑑定が出来たようだ。

 異人か……新人ではなく異人なのね。でも中国の実験体とはまた違うんだよね。魔晶石のような物は見当たらないし。どういう事なんだろうか。


 それにしても面倒くさいな……

 幸せ気分が台無しだよ。


「何をしているんだ!?他のお客様のご迷惑ゴフッ」

「「「「キャーッ!」」」」

「「「「「ウワーッ!」」」」」」


 駐車場の出入口で、警備員さんらしき人が見かねて注意しようと声を掛けたら、男たちの1人に無言で殴られ倒れた。そしてそれを見た一般人の人たちの口から悲鳴のような叫びがあがった。


「このままだとお前たちのせいで更なる犠牲者が出るぞ?大人しく着いてこい」


 言葉通りというか、後方ではこちらを撮影していた人のスマホを取り上げて壊しているようだ。悲鳴が更にあがっている。


 確かにこのままではヤバイので逃げますか。


「香織さん失礼します」

「へっ?……あっ」

「「what!?」」


 Theお姫様抱っこをしてみました。

 走るのも跳び上がるのも、まだ俺の方が早かったり高かったりするからね。一緒に逃げるにはこちらの方が都合が良かったりする……嘘です、いや、嘘ではないけれどこれ幸いとお姫様抱っこをしてみました。本当はこんな状況ではない時にしたかったけれど、贅沢は言ってられない。


 そして遂に奴らのネイティブを引き出せたのが地味に嬉しい。


 香織さんをお姫様抱っこしたまま跳び上がり、空歩で一気に包囲網を彼らの頭上から突破する。都合の良い事に、東山動植物園は山を背にしているので、彼らが追いにくいように山方向へと向かう。


「い、一太くん……降ろして」


 木々の間を全速力で縫うように走り、山を越えた辺りで腕の中の香織さんから蚊の鳴くような声が聞こえてきた。

 一応というか当然意識はしていたけれど、意識の大半は辺りの気配に振っていたので、そこで始めて香織さんの顔を見たら真っ赤になっていた。

 ヤバイ……可愛い。

 このまま持ち帰りたい……って、帰る場所一緒だった。


「降ろして?」


 すぐそこにある顔を見蕩れていたら、再度言われてしまった。

 でも降ろしたくない。


「嫌です」

「えっ?」

「嫌です」

「ええっ!?」


 素直に言ってみたら、めちゃくちゃ驚いているし、顔が更に赤くなったけど……また見蕩れていたら睨まれた。


「お・ろ・し・て」


 うん、これ以上はヤバそうだ。


「今回は緊急事態だったからいいけど、今度から突然はダメだからね」


 頬をぷくりと膨らませてそう話す香織さん……今度があるって事に喜んだら怒られるかな?


「確認を取ったら大丈夫です?」

「へっ?……えっと……あー……うん」


 俺の質問が意外だったのか、キョトンとしたあと顔を真っ赤にして俯いちゃったけど、OKらしい。

 外国人グループ、面倒くさくて幸せ時間を邪魔しやがってと思ったけれど、これはこれで嬉しいのでプラスマイナス0だ。いや、お姫様抱っこ出来た事も考えると、大きく感謝すべきかもしれない。もしいつか戦闘になるような事があったら、少し優しくしてあげよう。


「では周りに誰も居ないようだし、木々のお陰で死角になっているようなので次元世界に入って下さい。転移して戻ります」

「あっ、うん、お願い」


 いつまでもここで香織さんと2人で話していたいけどね、そんな訳にもいかないし、師匠にも報告しなければなのでさっさと帰らなきゃだ。


 香織さんに次元世界へと入って貰ったら、一全本部屋敷の部屋にある苦無を頼りに転移する。


「お帰り」

「ただいま戻りました」


 部屋へと戻ると、目の前には師匠が既にお茶を飲みながら待っていた。


「ふむ……で、結局どの国かわからないのだな?」

「はい、ただ香織さんの鑑定では異人と出たようですが、先日の中国発生の実験体とは違って見えました」


 師匠と一緒に香織さんが待つ次元世界へと入り、そこで今回の出来事を説明すると、師匠は悩ましげに眉間に皺を寄せた。


「昨年の出来事……まぁ中国に進軍したはいいが全く歯が立たなかった事から、魔力と親和性の高い金属やスケルトンのドロップである骨を手術によって手足の骨と変える実験をしたと聞いた事があったが……うーん」

「どこの国ですか?」

「それはアメリカだな」


 そんな実験やっているのかよ、どこの国もヤバいね。

 師匠が何を唸っているかというと、どうやら骨を変更しただけで異人になり得るのか?という事らしい。


「とにかく接触の目的がわからんからなんとも言えん。だがこれからも接触してくる可能性は高いから気をつけろよ」

「「はい」」

「車は……近衛の者に取りに行かせる。爆弾などが仕込まれている可能性もあるからな」

「すみません、買って貰ったばかりだというのに……」

「気にするな」


 気にするなと言われても気になる。

 まだ1日しか乗ってないのに!!


「さて、帰ってきたなら軽く手合わせでもするか」

「えっ?今日は休日では……」

「事務作業に疲れた」


 事務作業に疲れたからストレス解消にって事ですか!?

 なんですかその不敵な笑みは!!

 あっ!香織さんが巻き込まれないようにか、そっとリビングから出ていこうとしている!!


 クソーッ!

 やっぱりあいつら許すまじ!!


 師匠に腕をガッチリと掴まれてフィールドへと歩く最中だった。屋敷に置いてある分身が近衛の人からの緊急の伝言を受け取ったのは。


 それは迅雷の面々が来週からの探索に向けて泊まっているホテルに襲撃があったという知らせだった。

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