第205話ーー結果発表
師匠の開始の掛け声と共に全員が一斉に走り出した。
年代が古い船が1番手前にあり、奥に行くに連れて近代的になって行くようだ。なので今俺の前にある船は教科書で見た事があるような小型の船だったりするし、近くには明らかに丸太を削っただけのような物もある……筏まであるようだ。このダンジョンは船の歴史が勉強出来るみたいだね。
モンスターは船とフィールドの両方にいる。得物が明らかにただの棍棒や動物の牙や魚の歯を棒に括りつけた物を構えているところを見ると、こちらも奥に行くに連れ変わっていくのだろう……ちなみに防具も毛皮だったり腰蓑だけだったりする。
ここはあくまでもダンジョンの中、それなのに船や宝物、モンスターの得物の再現率が高いのが不思議だ。
気になるモンスターの強さは、名古屋北ダンジョンの101階層のゴブリン程度なので大して問題はない。魔法の使用は禁じられていないので、サクサクと数匹づつ纏めて倒しながら進んでいるんだけど、分身がいないから拾う方が大変だったりするんだよね。
あと肝心な宝箱なんだけど、確かにそこら中に落ちていたり埋まっていたり、船室に隠されていたりするようだ。ただ厄介な事に罠が仕込まれていたり、ひっくり返って埋まっているので掘り起こさなければならなかったり、宝箱の中にモンスターが隠れていたりするので面倒だ。
今のところ、俺が見つけた宝箱のほとんどから珊瑚か銀貨、酷いとちょっと綺麗な貝殻しか出てこないんだけど……焦る。
走り回りながら屠り、拾い、開け続ける。
モンスターは人型……人間のゾンビやスケルトンしかいないのかと思ったら、憎々しい思い出のある人魚さんや半魚人のゾンビもいるようだ。
それにしても広い。
広いから他の人と船を取り合うって事はないのがいい所だけど、たった12人でやるのは時間が掛かりそうだ。既に開始から2時間ほど経っているけれど、未だに木造船だしボス部屋……今回はボス船かな?の影も形も見えないし。
「こんなもん宝物じゃないわっ!」
「宝石結構出ますよー!!」
ハゲヤクザの怒鳴り声が聞こえてきた。
どうやらいつも通り俺とハゲヤクザの運は悪いようだ……
俺たち2人以外からは、時折はしゃぐような声が聞こえてくるし。
クソッ!
もしかして競走開始前から結果は決まっていたんじゃ……
いや、諦めたらそこで試合は終了だとかどこかの誰かが言っていたし、最後まで探し続けよう。
沈没船のはずなのに大砲を撃ち込んでくるんですけど、これはどういう事でしょう?
火縄銃をゾンビが撃ってくるのも、なんか納得がいかないというか……
まぁダンジョンに道理を求めてもダメなんだろうけどさ。
日本の鎧兜を着けたゾンビやスケルトンも現れてきたし、中国っぽい装備や、バイキングっぽい装備な敵もいる。世界の沈没船博覧会ダンジョンなだけはあるって感じだ。
ようやく近代的になり、鉄の船がそこら中に転がっているようになった。
ここでも軍艦が大砲や機関銃をぶっぱなして来るし、モンスターも銃剣や拳銃を装備していたりする。
宝箱の中身は、さすがに綺麗な貝殻って事はなくなったけれど、宝石なんてほとんど出ずに古ぼけたコインばっかりだ。
開始から9時間後、ようやくボス船前に着いた。ボス船は円盤型のUFOのようだ、半径300mほどのバカでかい物が地面に斜めに突き刺さっていて、接地面に入口らしき扉が口を開けている。
到着順は師匠・ばあちゃん・うどん・ロン・じいちゃん・つくね・ハゲヤクザ・ハク・鬼畜治療師・俺・あられ・香織さんだ。
みんな自信満々な顔をしているし満足気だ。
きっと童心に帰っての宝箱探しだったんだろうね。
気になる結果は、帰って探索者協会にそれぞれ中身を提出しての売却結果をもって決めるそうだ。
軽くお茶をしながら話を聞いてみたところ、宝箱いっぱいに宝石が詰まっていたとか、金銀プラチナの豪華な装飾品がザクザク出てきたとか言っていた。
それに比べて俺なんて……1番多い物って土偶だからね?俺と同じくみんなの話を聞いて遠い目をしているハゲヤクザの結果だけが気になるところだ。
一息ついたところでボス船突入となった。
中はメタリックで近未来的な様相をしていた、所々光ったりしているし。まるで迷路のようになっているので、傾いた道を登ったり下ったり、扉を開けたりと結構面倒くさい。しかもどうやらUFO全てがボス部屋ってわけではないらしくて、道中にもモンスターがいるんだ。それはスライムのような粘液状でありながらも、目や口、そして何本もの触手のような物で光線銃やラ〇トセイバーを振り回しているのだ。
宇宙人を模したモンスターなんだろう、ちゃんと魔晶石を体内に抱えているし。これはゾンビ化けしてこれなのか?それともこれがデフォルトなのか気になるところだけど、まぁどちらにしても気持ち悪い生物には変わりない。
ぐるぐると周りながらも少しづつ円が縮まり、3時間ほど掛けてようやく中心部に繋がる大きな扉前に到着した。
ここまでは大した敵ではなかったので、ボスもそこまで気合いを入れる事もないと思うんだけど、万が一もあるから分身を出してそれを先頭にして突入した。
中に待ち構えていたのは大きな人魚ゾンビと、三叉を持ったお付と見られる半魚人が10数匹だった。
宇宙人を期待していただけにガッカリですよ。
しかも人魚はぽっちゃり気味……いや、ハッキリ言うと太っている。お腹は三段腹だし、二の腕とかもぶよんぶよんしている。更に胸は大きく垂れているし、崩れていたりもするからなんにも楽しくない!!
「一太くんの好きな相手だよ、良かったね」
「横川のためのボスのようだな」
「思いっきり楽しんで来ていいぞ、我らはここで見ている」
「行ってらっしゃい」
「いや、それはちょっと……」
「いいから行ってこい」
先日の人魚事件が未だに尾を引いているようだ……
香織さんの声がめちゃくちゃ冷たい。
「山岡さん、先日俺だけが楽しんでズルいって言ってましたよね?どうぞ」
「こ、小僧っ!!」
「好きよのう……お主も行っていいぞ?」
「そろそろ落ち着いたらどうだい?」
「節操を持て」
せっかく譲ったのに、睨まれたよ……
まぁみんなからこれだけ集中砲火に合えばしょうがないか。
「っと!危なっ!!」
「問答無用!!」
刀を抜いたからボス討伐に行くのかと思って見ていたら、顔真っ赤にして俺に襲いかかってきた!
しかも真剣だし、ガッツリ魔力纏わせているし!シャレにならん。
「逃げるな!」
「逃げますよ!」
「似た者同士とっとと行かんか!!」
襲い来る刀を弾きながら逃げまくり言い合っていたら、じいちゃんまで刀抜いて参戦して来たよ……
じいちゃんまで真剣で魔力纏ってるし、香織さんの視線が氷点下のままなので、勢いそのままにボスの元へと移動して細切れして魔晶石を引き抜いた。
ってかハゲヤクザがしつこい!!
しかも運が悪いワースト2の俺とハゲヤクザだったせいか、宝箱も出ないし!!
ボスを倒したのが原因だろう、沈没船を模しているのに艦内はずっと輝いていたのに、全ての光が消えて薄暗くなったので、ドロップを拾ってUFOから退出した……その間もずっと襲いかかってきていたけど、何とか逃げ切ったよ。
その後の深海航海はダンジョンに出会う事もなく終わった。
途中何度がリアルな遺跡や沈没船を見かけたけれど、突発型ダンジョンで散々拾ったからね、素通りした。
日本に着いてドックに宇宙戦艦を入ったけれど、もし誰かに見られると面倒になるという事で次元世界に仕舞った。
何のためのドックかといえば、入出港用のみという贅沢な使い方。何か伊賀の人たちに申し訳ない気がしないでもない。
そして探索者協会での買取結果は、1位が運の良さ通りに香織さんで、ドベはハゲヤクザだった。俺?俺はもちろんドベ2だけど、ドベじゃないから問題ない。
罰ゲームは、1位の人はドベに1つ命令出来るというものだった……
それを聞いたらドベでも良かったような……でも最初はわかんなかったからな〜
肝心の内容は……後日発表となるらしい。
香織さんは悩んでいてうどんたちに相談していたから、きっと面白い事になると予感している。
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