第197話ーー卑怯者
「まずはお前たちの全てのスキルを封じてやる!」
ヒステリックな叫びと共に指パッチンをしようとしたらしいが、カスッと何かが擦れる音しかしなかった……ダサすぎる。
まぁ若狭のカッコつけて失敗した恥ずかしい場面はともかくとして、スキルで作られたこの空間の特性なのだろうか?俺の次元世界の石碑でのコントロールと同じように指定できるのかもしれない。
叫んだ直後、顕現させていた分身たちの姿が消えた。だがうどんたちは顕現したままだ……同じくスキルのはずなのに。
「うどんちゃんたちは消えないの?スキルなのに」
「私たちは主様に付き従う眷属扱いですからね、召喚獣というスキルの括りには入ってますが」
「そうなの?」
「そうです」
どうやら純粋なスキルとは違うらしい……よくわからないけれど。後でしっかりと聞いてみよう、今は一応戦闘時だからね。
「フハハハハッ!我らに恐れをなしてスキルで数を増やしていたみたいだな!だがそれもここまでだ残念だったなっ!!」
腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔してるよ。
もしかして師匠たちはスキルなんか関係ないってわかってないのかな?若狭が部下と言い張る中国古の武を持つ人たちと一緒にいるのに。
「おい、横川!!お前は俺が直接相手してやるよ!ありがたく思え!!」
「主様、我らにお任せを!」
「いや、いいよ。俺にご執心みたいだし、一応元クラスメイトだからね」
「あんなモノ、その手を汚す程の者ではないと思います」
「ありがとう、でもいいよ俺がやる」
つくねもハクも既に臨戦態勢で、しかも久しぶりに本気って感じで弓からは炎が立ち上がり、手甲脚甲の周りには白い氷みたいなのを纏っているけれど、ここは俺がやらないといけないと思うんだ。気持ちは嬉しんだけどね。
「洗脳された女たち!俺がお前たちを解放してやるっ!そして俺の物になれっ!!」
さっき香織さんがうどんたちに消えないのか聞いていた話は聞こえていなかったようだ。横に運命の相手がいるっていうのに顔をいやらしく歪めて叫んでるよ。
「さあかかってこい!一発目は打たせてやろう」
丸腰で手を広げているんだけど、そんなに防御力に自信があるのかな?
「えっと、武器とか構えなくていいのかな?」
「俺は人間を超越した力を手にしたんだよ!お前のような人から力を盗んだだけの紛い物とは違うんだ!格の違いを見せてやるから打ち込んでみろっ!」
俺の細胞を植え付けたんだから、その言葉はそのままブーメランになると思うんだが……
「いいんですかね?」
「ククッ本人がああ言っているんだし、お言葉に甘えて本気で打ち込んでやれ」
丸腰の相手に斬り掛かるだなんて……って戸惑って師匠に尋ねたら、笑いながらOKサインが出た。
若狭の周りの人間もドヤ顔しているから、余程自信があるのかもしれないな。危険だったら普通心配するとか止めるはずだもんね。
jobだけではなく心身共に魔王となった若狭が、集団から少し前に出てきて腕を広げてドヤ顔っているので、俺も少し前に出て刀を構える。
龍牙の刀にしっかりと魔力を通し、振り上げ……踏み込み飛び出しながら一気に振り下ろす!
「ぅぇぇ"!?」
なんか一切の抵抗を感じる事もなく、振り下ろす事が出来たぞ?名古屋北ダンジョン1階層のゴブリンの方がまだ斬った感があるような……
いや、そんなわけないよね、魔王なんだから。油断はダメだこのまま返す刀で斬り上げ更に胴へと刀を振るう。
「キィャアアアアア!!ヤダアアアアア!!」
あっ……
若狭だったモノが6分割となって崩れていく……
同時に秋田さんが悲鳴を上げながら必死に回復魔法を掛けているようだ。
まさか感触そのままにちゃんと斬れているなんて……
「えっと……」
「ククク……見かけ通りだったな」
どうしようと助けを求めて師匠の方を向いたら笑ってたよ。
「一発って言ったじゃない!!卑怯者!!何が人間よ!!やっぱりモンスターじゃない!!」
ええっ……
確かに3回斬っちゃったけどさ、そんなに脆いなんて思ってもいなかったよ。
それに卑怯者って言われてもなぁ〜それはちょっと違うんじゃないかな?
どうしようかと必死に回復魔法をかける姿を見ていたら、さすが魔王だね、6分割にした状態だったのにくっついて息を吹き返したみたいだ。
魔晶石を抜かないとダメなのかな?
なんか魔王というよりゴーレムみたいだけど。
「オーガエンペラーの攻撃さえ跳ね返す事ができるというのにどういう事だ?」
「……す、少し手を抜きすぎたようだな」
ええっ……まだそういうスタンスでいくの?
それに相田くんと科学者の皆さん、オーガがどうのって驚いているけど、逆にオーガ程度でなんで驚けるの?ヤバくない??
後ろにいる中国人たちが明らかに失笑を漏らしてるんだけど?
「相田、剣を寄越せ!俺の本気を見せてやる、俺に楯突いた事を後悔しながら死ね!!」
相田くんから少し長めの剣を受け取ると、横に構えながら向かってきた……
向かってきたんだけど、遅い、遅すぎる!
前に相対した実験体と同じで、異人化すると力は得るけれど俊敏さは失っちゃうのかな?
……なんて思ったけど剣を振る速度も遅い、余裕を持って刀で弾く事が出来るよ。
卑怯者と言われたからじゃないけれど、さっきは打ち込ませて貰ったので反撃はせずに5分ほど弾き続けていると、段々と更に剣を振る速度が遅くなってきた……どうやら疲れてきたようだ。
「横川、終わらせてやれ」
呆れたような声色の師匠の言葉が聞こえてきたので、大きく弾き飛ばしつつ踏み込み貫手で魔晶石を引き抜く。
すると途端に糸が切れたかのように若狭が崩れ落ちた。
「イヤアアアアアッ!なんで!なんで魔法が効かないの!?」
秋田さんの絶叫がこだまする中、若狭のスキルが解けたようで本来の韓国の街並みが現れた……やはり民間人の姿形は一切見受けられないが。
「横川分身をさっきまでと同じ数出して、科学者たちを捕えさせろ」
「はい」
「抵抗するようなら手足は切り落して構わんし、最悪死んでも構わん」
「わかりました、分身800!」
指示に従いつつ、500を直ぐに影へと潜らせる。隠れさせるのは、衛星などで戦闘の様子を確認しているであろうアメリカ軍にあまり手の内を見せないようにするためで、これは事前に師匠たちから言い含められていた。
未だ泣き叫ぶ秋田さんをしり目に、首や肩を回しながら半笑いの武装集団が武器を構え出した。
どうやらここからが本番のようだ。
「なんでっ!なんであんたみたいな化け物が生きていて、綺羅くんが死ななきゃいけないのよっ!?」
灰へと変わった若狭を胸に抱きしめながら、秋田さんが髪を振り乱し泣きながら叫んでいる。
「他人の力を羨み妬み、他人任せに力を望むだけの人と、毎日血を吐きながら努力する一太くんが一緒なわけないよ」
「ふざけないでよっ!親は金持ちのお嬢様が、なんの努力もせずに美貌まで手に入れて……その上勇者なんてjobまで貰ったあんたが言わないでよっ!!」
「香織さんだって努力「うるさいうルさいうるサイウルサイウルサイウルサイ!コロシテヤルッ!」」
うるさいと叫びながら胸元から取り出した小さな魔晶石を、若狭の灰と一緒に飲み込んだ秋田さんの姿は瞬く間にあの実験体のように膨れ上がり頭からは太いツノが1本生えてきた。
そして傍にあった若狭が使っていた剣を振りかぶりこちらへとドスドスと音をたてて走ってくる。
「一太くん、ここは私に任せて」
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。でも私が引導を渡してあげたいから」
俺が前に出ようとするのを香織さんは止めつつ刀を抜いた……覚悟を決めたようだ。
「ごめんね、そしてサヨナラ」
――一閃……
――二閃……
そして刀を垂直に持つと、魔晶石がある胸元へと突き出した。
微かにパリンと魔晶石が砕ける音が聞こえ、秋田さんだった個体は後ろ向きに倒れ……そして若狭であった灰の上でその身も同じく灰へと変えた。
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