第198話ーー張り切りすぎじゃないですか?

「(中国語)」となっております。

 日本語訳:うどん・つくね

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「(くだらん時間だったな)」

「(世界の覇権などという愚かな欲望のために作り替えられたこの身、長くは持たん故にここを死地とし全力で参る)」

「(ここで最期にお前たちと死合える機会を寄越した事だけは、奴らを評価してやってもいい)」

「(然り然り)」


 古の武を持つ中国人は3人のようだ。隙のない様子で前へと出てきて師匠とじいちゃんへと話し掛けている。


「山岡と近松、そして婆さんは如月くんや分身と共に他の者を頼む」

「儂は真ん中のをやる、2度目じゃしな」

「では俺は右のを、横川は左のを頼む」


 ハゲヤクザではなく俺が担当か……

 少しは出来るようになったと認められたみたいだ。


「儂の代わりにやるんだ、不甲斐ない姿を見せるなよ」


 ハゲヤクザが少し悔しそうな顔で俺の背を叩くと、他の15名ほどに刀を抜きつつ向かって行った。


「一太くん頑張ってね」

「一太無理するんじゃないよ」

「まぁ気張りな」


 香織さんとばあちゃん、鬼畜治療師も俺に一言声を掛けた後に、ハゲヤクザと同じ敵へと向かって行った。


「うどんは山岡たちと共に行け、他の者は横川の力となってやれ」

「はいっ!主様、ご武運を!」

「我らは主様と共に!!」


 うどんが駆け出し、つくねとハク、あられにロンが久しぶりに俺の武装へと姿を変えた。


「(場所を変えようか)」

「(武器にその身を変えるか……何だそれは)」

「(四神だそうだ)」

「(何っ!?)」


 師匠の種明かしに目を剥いて俺を見る3人。

 まぁそりゃそうなるよね……四神って元々中国の思想?だし。思想って言っても現実にしちゃっているわけだけど。


「(四神を従える者か……確かに人ではないかもしれんな。ただ、あれらが言うような、化け物という意味ではないが)」

「(最期にこのような相手と戦えるとは、武を磨き続けてきた甲斐があるというものよ!)」

『なかなかわかっている者たちですね、我らも全力で参りましょう!』


 師匠とじいちゃんがそれぞれの相手と共に離れて行く。3対3ではなく、1対1での戦闘となるようだ。

 どうやら俺の相手は日本語が全く出来ないようで、しきりに中国語らしきもので話し掛けてくるけれど答えられない、頼みの召喚獣たちは武装化しているから訳す事は出来ても話す事は出来ないからね。


 目の前にいる相手は一見無手に見えるけれど、以前ダンジョン内で襲って来た人と同じで指の間に暗器を仕込んでいるようで、針……いや、まるで爪のように指の間から刃が飛び出ているみたいだ。


「(さあお楽しみの時間だ)」


 散開し始めてから10分少々、師匠たちの姿が見えなくなったところで、敵が構え始めた。

 ハゲヤクザではなく俺が選ばれた事、そして何よりも生きるためにも全力で挑む!


 俺がつくねとロンが姿を変えた刀を両手に持ち構えると、身体を前方に倒すように、地面と身体を平行にしてこちらへと走り込んできた。顔も下を向いているので視線の先がわからないが、師匠たちとの日頃の手合わせで慣れているので問題ない。


 暗器に魔力を纏わせ、まるで大きなハサミのようにして左右から同時に奮ってくるのを少し下がりつつ刀で受け止め……


「グガッ!」


 つくねとロンが張り切っているお陰か出力が大きかったようで、受け止めようとした片手の爪は溶けてしまい、もう片方の爪は絶縁体ではなかったらしく、迸る雷に感電したようで小さな悲鳴を漏らして後ろへと数歩……30mほど飛び下がった……感電によって燃えたのか、ぶすぶすと白い煙を上げながら。


「(ただの人の身では神をも従える者には太刀打ち出来んか……)」


 顔を顰めながらそう呟くと、懐から人造魔晶石を取り出すと口に含んだ。

 すると、秋田さんのような身体自体の変化はないが、額から黒いツノが大きく突き出したと同時に腕から煙が消えた。そして暗器を新しく指の間にしまい込んだ。


「(仕切り直しだ、いざ参る!)」


 先程と同じような姿勢だが、明らかにスピードが上がった……確かに早くはなったが、まだ対応出来るスピードだ。体感的には師匠より少し遅いくらいだし。

 待っていても後手に回るばかりだし押し込まれてしまうので、こちらも前へと踏み込み右手で真っ直ぐに突き出しながら左手を斜めに振り上げる。


 さすが……絶対に避けられないと思う場所へと突き出したのにも拘わらず、耳しか落とせなかった。

 そのまま腕を取られるかと思ったが、左から振り上げていたのが功を奏したらしく大丈夫だったが、また後方へと逃げられてしまった。

 だが暗器では分が悪いと感じたのか、短刀を両手に構えだしたようだ。ロンによるとワイバーンの骨から削り出した物らしい。

 ……ロンさんが鑑定出来るなんて初めて知りました。


 っと、そんな事考えている場合じゃなかった、集中しなきゃだ。


 お互い決め手を欠きながら上下左右で剣を捌き合う。少し離れた場所から魔力を具現化したり、息が掛かるほどの近距離で打ち合う事数十分……

 少し大きく離れたと思ったら、どうやらスピードに自信があるのか、俺の周りをぐるぐると回り始めた。

 うん、リアル分身ってやつだ。

 右斜め後方……いわゆる死角から突っ込んで来た。だけど残念ながら目で追えるんだよね、そのスピードだったら。

 余程自信があったのか攻撃に集中していたらしく、振り向きざまに刀を全力で振り抜くと、見開いた目のままの首と胴を残して下半身だけが俺にぶつかった。


「(相手にもならんとは……無念だ)」


 首を切り落としたのがつくね刀で切り口を燃やし血を止めたせいか、それとも人体の本来の仕組みなのかはわからないけれど、地面に転がった首が喋っていた。

 一応魔晶石を刀で貫いて念を押しておく。


 やはりつくねたちが変化した武装は過剰戦力だった気もするが、傷なく切り抜ける事が出来た事を喜ぼう。


 それよりも師匠たちはどうなったのだろうか?

 それぞれに散開した事や、じいちゃんの弾むような声だった事を考えると、助太刀は必要ないのだろうか?

 それともここは戦場だという事を考えて、助太刀に行くべきか。


 逡巡した結果、まずは香織さんたちの様子を見に行く事にした。

 人造魔晶石を拾って向かうと、ちょうど決着が着いた直後のようで人造魔晶石を拾っている姿がそこにはあった。

 どうやら誰も怪我をしていないようだ……良かった。


 科学者たちの方はというと、外国人の科学者たちと相田くんは地面に横たわっているけれど、纐纈さんの姿がない。


「あれは己の身も実験台にしておったようじゃ、若狭の叔母のやつもな。魔晶石が合ったから抜いたら灰に変わったわ」


 俺の視線に気が付いたハゲヤクザが、呆れたというか疲れた顔をして教えてくれた。

 ハゲヤクザと鬼畜治療師は、何だかんだ言っても組長として長らく共に仕えてきたんだから思うところがあるんだろうね。「愚か者めが」ってボソッと誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いていたよ。


「一太や、科学者共を時空間庫にしまっておくれ。聞きたい事もあるからね」

「はい」


 どうやら死んではおらず、ただ気絶しているだけのようだ。

 分身に手伝わせながら時空間庫へと収納していると、まずは師匠が、そして数分後にじいちゃんが少し手傷を負った程度の姿でこちらへと戻って来るのが見えた。


「誰も大きな怪我はないようだな……科学者共は?」

「時空間庫に」

「うむ。よし、ビルの中に入った所で次元世界へと行って尋問するぞ」


 次元世界へと戻り、フィールドに科学者たちを放り出した所で俺は休むように言われた。

 相田くんと少し話してみたかったが、「情が移るだろう」と言われたんだ……その言葉に彼のこの先がわかってしまったんだ。この状態で話せる事はないし、師匠たちの気遣いを無駄にする事もないので俺は大人しく屋敷の部屋へと戻る事にした。

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