第173話ーー影に生きし者
お正月は去年と同じように一全の人たちと初詣に行ったり、お年玉を貰ったり、近隣住民への餅つきとかの行事に参加した。
去年とは違うのは、香織さん家族や召喚獣たちが顕現した状態で参加した事かな。
あと去年よりはお年玉の中身は減った。
まぁご隠居さんや5男さん以下の数名が居なくなったから仕方ない事なんだけどさ。
で、その居なくなった人たちは結局どうなったのかはわからない……地下牢にいるのか、それとも既にこの世にはいないのか……怖くて聞けないしね。
ちなみにお年玉は俺から召喚獣たちにも渡した、各10万円づつ。この金額については悩んだんだけど、日々色々頑張ってくれているのもあるけれど、最近はよくばあちゃんや香織さんと出掛けたりしてるんだけど、その時いつも奢って貰っているようだからね。あとたまには欲しい物……まぁだいたいは食べ物か美しい物なんだけど、それを買えるようにってのもある。でもあまりに渡しすぎると、宝石を買いに行くのは目に見えているので、10万円にしたってわけだ。
あぁそうだ、肝心な事を忘れていた。
例の人造魔晶石なんだけど、世界最高峰の研究施設で分析しているようなんだけど、それでも未だに詳細はわかっていないらしい。ただ人間の身体の一部が使われている事だけが判明しているそうなんだけど、どうやったらアレが出来上がるのかはわかっていないようだ。
ついでと言ってはなんなんだけど、中国は人を魔物化させてシーカーの力を増させている訳だが、他国……例えばアメリカは人体の一部を機械に替えている者もいるという話を聞いた。だがそれは強さと言うよりは打たれ強さに貢献しているらしいが、師匠たちでさえあいまみえた事はないらしいので、どれほどのものかはわからないようだ。
中国の魔物化の研究が今どこまで進んでいるのかはわからないけれど、先日俺たちが迅雷を連れて300階層まで到達した事と、襲って来た者たちを退けた事を考えると、現時点では俺たちの方の武力が上と判断しているだろうから、すぐにまた襲って来る事はないとの事だ。
だけど若狭が未だに俺にこだわっている事や、自分たちの力を試すためにも遠くない未来にまた襲って来る事は明白との事らしい。
しかも前回の実験体は未だ完成ではないのだ。
そのために師匠たち共々修行を更に積まないと、次も退ける事が出来るとは限らないという事だ。
ダンジョン内での修行の方が身体に影響を与え易い訳だが、うどん曰くそれは1階層よりも2階層……つまり、階層が深ければ深い方が結果は顕著に出るらしい。
そもそもステータスが上がるという事は、空気中に漂う魔力をより多く取り入れるという事らしい。修行などで負荷を掛けると、その部分を補い強化しようと空気中の魔力が細胞などに宿る事による結果との事だ。だから例えば力の値がAAAになろうとも、わかりやすく筋骨隆々になるわけではないらしい。
そしてその魔力は、階層が深ければ深いほどに空気中に漂っているために、深い場所で修行を行った方が効率的という話だった。
という事で、より力が欲しい俺たちは、ダンジョン内で転移する術も得た事から、修行がてらより深く潜って行く事を師匠から言い渡された。
迅雷の面々は有名になった事もあり、当面は広告塔としての本分を果たすのに忙しいらしい。そのせいか最近はよく雑誌の表紙やテレビなどでよく見かけるようになっている。相変わらずみんな無駄にキラキラしているんだよね……そしてなんとファン人気が1番高いのはナル森らしい。なんか腹が立つから、今度手合わせした時はまた河童状態にしてやろう。
その雑誌の1つをコンビニでパラパラっと眺めていたんだけど、インタビューの中に驚くべき事が書いてあるのを見つけてしまった。
それは……『初心者にオススメの武器ですと、伊賀市にあるKs'って工房の物がいいと思います』ってキムのブランド名が出てたんだよ!!しかも注釈でキムに教えて貰った工事中の店の地図とかオープン予定日、更には工房主であるキムの顔写真まで写っていたんだよね……なんか斜めを向いて明らかにカッコつけた顔で。あとその顔写真の下には『イケメン鍛冶師木村さん』って黒字で書いてあった……ちょっとイラっとしたのは内緒だ。
もちろんその雑誌は買っておいた。
ただアマのインタビュー記事も違う雑誌で見ちゃったんだよね。
こちらは薬師関係の専門誌らしく、コンビニなんかには並んでないような雑誌だった。じゃあなんで俺が手に入れたかってなるわけだけど、蘇生薬の特集が組まれていて、その中には一全の人たちも少し載っているって事で、師匠がそれを見たところアマが載っているのを見て俺にくれたってわけだ。
こちらもなんか澄ました顔で相変わらず無駄に眼鏡をキラリとさせて映っていたよ。キムと同じように、写真の下には『若手のホープである天野くん』とか紹介文が書かれていた。
2人からは何も聞いてなかったからビックリしたよ……まぁ自分から言うのは恥ずかしいのかもしれないけどね。自分で「若手のホープ」とか「イケメン鍛冶師」とか言われたら、絶対からかっていた自信あるし。
それに迅雷の記者会見を見て2人とも散々笑っていたからね、「カッコ付けすぎだろ」ってさ。
まぁ、どちらにしろ2人の黒歴史としてしっかりと保管しておこうと思う、色褪せたり無くしたりしないように時空間庫に厳重にね。
そして今度会った時に目の前に置いてやろうと思う……アマの方はインタビューも合ったから読み上げてもやろう。
そんな2人とは違って影に生きる俺は、予定通りに名古屋北ダンジョンへと潜っている。
迅雷の面々が居ないのであればわざわざ1階層ゲートを通る必要もないだろうという事で、本部屋敷から転移で一気に301階層まで跳んだ。
301〜320階層までは身長5mほどの巨人で、以前隠し扉で遭遇したモンスターハウスの中の敵の劣化版のようなモノだ。ただ単体での強さは劣化版ではあるけれど、集団戦においては罠を張ったりと策を弄して来るのでそこそこ厄介ではあった。だけどパーティー分断とかはなかったので、それほど苦労する事なく抜ける事が出来たのは幸いだった。
321階層の人一人が通るのが精一杯といった細い道が延々と続いており、その道以外は全て溶岩湖だった。赤黒くボコボコと溶岩が煮え立っていて、熱さで先の道が陽炎のように歪んで見えているぐらいだ。そのために水・氷の召喚獣であるハクは苦痛らしいので、次元世界でのお留守番だ。
もちろんそんな環境でもモンスターは容赦なく襲って来る。種類としては溶岩湖の中を泳ぐ魚やトカゲみたいなモノが牙を剥いて飛び掛ってきたり、熱く燃えた石を吐き飛ばしてくるのが厄介だ。
溶岩湖の中に落ちれば一瞬で燃えてしまいそうだし……いや、普通の紙などを表に出せば一瞬で火が付いて燃え尽きてしまうほどの熱さなので、落ちなくともこの場所にいるだけで危険なのだ。
ただハクがダメな代わりにつくねは最適環境らしくて、元の姿へと戻って無双状態だ。どうやらつくねの熱の方がここのモンスターたちより高いらしくて、片っ端から消し炭に変えている。
不思議なんだけど、つくねの熱を俺たちは感じる事はない……本人が言うには、つくね自身が敵と認識したモノしかその熱さは感じない仕組みらしい。
まぁそんなわけなので、俺たちはこの危険な階層をつくねにほぼ任せて通り抜けて行く事になり、それは330階層まで続いた。
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