第172話ーー不穏な年明け

 免許受かった〜!!

 しかも全員一発で受かった〜!!

 俺とキムはギリギリだったけど……まぁ受かれば一緒ですよ。


 アマとキムもまだ住民票は孤児院にあるために名古屋で受験したんだけど、帰るのはこちらで3日ほど過ごしてからという事になった。

 なぜなら明後日、明明後日はクリスマスだからね。伊賀のそれぞれの生産施設でもみんなクリスマスは奥さんや彼女とかと過ごす人が多いらしくてお休みらしい。もちろん去年と一緒で師匠たちはそれぞれ婚約者や家族で色々あるらしいので俺もお休みだ。


 先日の香織さんの口から発せられた「好きだよ」はどうやら俺の空耳だったようだ……特に変化ないし。まっ、気長に返事を待つとしよう。


 そんな香織さんは家族でクリスマスパーティーをするらしく、召喚獣たちもお呼ばれしているようなので、俺は毎年と同じようにアマとキムの3人で過ごす事となった。

 召喚獣たちが呼ばれたのは、お母さんが発案らしいから絶対に毛皮目当てだと思うけど、本人たちは喜んでいたのでwin-winだからいいだろう……というか羨ましい。


 そして先日のアマの件があるからね、街中に出かけるのは少し躊躇いがある。いや、正直あの程度だったら楽に切り抜けれるとは思うんだけどさ、それで家族や恋人と楽しんでいるであろう関係者を呼び出してしまう事が申し訳ないんだよね。

 だからと言って何かしたい事もないんだよね……3人とも修行ばかりで趣味とか特にないし。


 なんかクリスマスに男3人、何もやる事がないとかヤバい気がする……


 イブの日はおもちゃ屋に行って、子供の好きそうな物やみんなで遊べそうな物を大量に買った。これはそれぞれの孤児院にそっと届けるためだ。一応在籍するのは今回のクリスマスが最後だからね、残ったみんなが喜んでくれたりしたらいいなって思ってさ。

 あと俺は香織さんにはベネチアングラスの時計を、召喚獣たちにはスワロフスキーの置物、師匠たちやじいちゃんばあちゃんには瀬戸焼のぐい呑みをいくつかづつ買った。ただあの酒飲みたちのペースを考えると、ぐい呑みでは小さすぎて用を足せないかと思って、同じ作家さんの瀬戸焼の抹茶茶碗も買っておいた。


 そして深夜、事前に連絡しておいた職員さんにドアを開けてもらって、広間に設置されたクリスマスツリーの下に大小50個ほどの箱を3人で重ね並べておいた。1番上には『メリークリスマス!職員さんの言う事をちゃんと聞いて、取り合わないようにみんなで楽しく遊んでね。サンタより』って書いた手紙を置いておいた。3箇所とも院長先生や職員さん喜んでくれたのでめちゃくちゃ嬉しかったよ。

 ちなみに俺は正月は今年も職員さんたちを始めとして子供たちにもほんの少しのお年玉を渡す予定なんだけど、アマとキムは伊賀にいるから渡せないと言うので、事前に預かっておいて当日俺が渡しに行く事になっている。


 翌日、クリスマスである25日は午前中は香織さんや召喚獣たちにそれぞれクリスマスプレゼントを渡したんだけど……なんと香織さんからも俺にプレゼントがあった。貰えるなんて全く予想していなかったからめちゃくちゃ嬉しくて、了解を貰ってその場で開けたら、俺が送ったのと同じように時計だった。それは銀色の懐中時計で、蓋の内側には『KAORI TO ITTA』って刻印がされていた。


 どうしよう……

 顔がニヤけて仕方がない。

 これは家宝にしようと思います!!

 もしかして、アレって空耳じゃなかったのかな?

 いや、でもな……まさかな……

 クッ!聞きたいけど、みんなが居るから聞けない……

 でも、毎年クリスマスなんて……って思っていたけれど、クリスマス最高です!!


 あと召喚獣たちからもそれぞれプレゼントを貰った。

 それは以前俺がそれぞれにアンクレットにして贈ったのと同じ宝石のピアスだった。クリスマスなんて初めてなので何を贈ったらいいのかわからなくて、結局自分たちが好きな宝石にしたらしい。宝石ってところが彼女たちらしいのが少し笑えるところだ。

 俺はピアス穴なんて空いていないんだけれど、ご丁寧にピアッサーまで付いていたので、この機会に空けてみたよ。


 ちなみに香織さんと召喚獣からアマとキムにもプレゼントがあった。俺だけに渡して、何も無いのは可哀想だと思ったんだろうね。中身は香織さんからは万年筆、召喚獣たちからはTシャツだった。そして「一太くん(主様)をよろしくね」の言葉付きだったんだけど、香織さんの言葉を聞いて俺は嬉しすぎて、危うく失神してしまうのではないかと思うほどだったね。


 やっぱりクリスマスは最高だと思います!!


 師匠たちやじいちゃんばあちゃんへのプレゼントは、みんな居ないので次元世界の中の各部屋に置いておいた。年明けにはまた一緒に行動するので、受け取ってくれるだろう。


 で、結局25日はプレゼント交換した後はずっと次元世界で遊んでいた。

 その次元世界なんだけど、レベルが上がった事により色々な温度調節が可能になったので、海モードで海の温度を温水にしてみたり、大気の温度を夏っぽくしておいて海だけは流氷が浮かぶ極寒とも言える水温にする事も出来るようになった。なので、海で泳いだりして遊んだり、飽きたら屋敷でバーベキューしたり、ビリヤードで遊んだりとそれなりに充実した1日になった。

 男3人だし、他に誰もいないし来る事もないわけだから、裸で泳いでも問題はないんだけどさ……まだ俺はキムへの疑惑を捨てきれていないので、プレゼントを買いに出掛けた時にそっと買っておいた水着を2人に渡したんだ。だけど「えっ?水着いる?誰も来ないんだろ?」ってキムが言うんだよね……やっぱり疑惑が深まったのは言うまでもないと思う。


 翌日2人は転移で送って行ったんだけど……


「便利だな」

「将来を考えて色んなところに行って設置しておけよ」


 という、明らかに将来俺を使って交通費無料の旅行を企む発言があったので、これからはタクシー代を請求しようと心に決めた。


 梵字の組み合わせ上、25箇所しか現在のところ転移場所は設置出来ない。

 今あるのは、301階層、一全本部、伊賀本部、鎌倉のじいちゃんの家だ。そう、じいちゃんの家にも設置されているのだ。

 なのでじいちゃんたちを鎌倉に送って行ったのも俺だし、年明け迎えに行く事も決定している。先日の水晶モンスターハウスの時の鬼畜治療師もそうだけど、みんな俺を便利なタクシーだと思っている節があるんだよね……

 全く困ったもんだよ。

 やっぱりタクシー代を請求しないといけないかもしれないよね、うん。


 そしてあっという間に正月を迎える事となった。

 朝一で各孤児院にお年玉を渡しに行ったんだけど、俺の孤児院はビックリする事があった。

 それはアインシュタイン気取りの相田くんが、中国に研究職として迎えられたって話だ。

 彼は大学に行って名実共に博士になる事を望んでいたはずなのに、まさか就職しているなんて……

 そして中国ってのが気になる。

 しかも渡って行ったのは、院長先生によると若狭や秋田さんたちが亡命した時期と一緒なんだよね。

 実験体が「博士が……」って言ってたのって、まさか相田くんじゃないよね?いや、彼がいくら望んでも博士と呼ばれるほどに実力がまだあるとは思えないから違うと信じたい。


 嫌な予感がする年明けとなってしまったよ……

 何事もなく楽しく過ごして行ければいいんだけどな……

 まぁ先日の中国勢の事もあるから、そんな俺の願いはただの希望に終わってしまう可能性の方が高いんだけどさ。


 あぁ、不安だ……

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