第166話ーーそれどう見ても棺桶だから!!

 茫然自失となっていたが、灰となって実験体が消えてなくなった事で我に返った。

 そこに残されていたのは見慣れない形……拳大の大きさだがトゲが出ている物だった。

 魔晶石らしきが残るという事はモンスターなのか?

 でもこの実験体は抜忍……つまり人間だったはずだ。人間がモンスターへと変かするなんて話は噂でさえ聞いた事がない。

 理解出来ない……何がどうなっているんだ?


 これは師匠たちに渡す事により研究されるのだろうから、壊さないようにとそっと持っていると、師匠たちが戦っている方向からこちらへ魔力の塊……まるで柳生砲や横川砲のようなモノが向かってきているのがわかったので慌てて影へと分身を潜らせた。


 そして師匠たちの方向を見れば、こちらも戦いがちょうど終わったようだ。

 一体どのような戦いだったのだろうか……ハゲヤクザは左腕が肩からスッパりと失っているし、鬼畜治療師は両腕と両膝から下を失い地に倒れている。師匠とじいちゃんばあちゃんは四肢の欠損は見受けられないものの、防具のあちらこちらが破れたり壊れたりして肌が見えているし、明らかに血みどろだ。

 師匠たちの実力で、しかも5対3というハンデ戦にも拘わらず明らかにギリギリ勝ったように見える。


「横川、分身たちを大量に出してくれ。まずは山岡と近松の治療。その後落ちている物を回収……魔法袋には入れるなよ、先程の様子から見ると何があるかわからん。あと分身を俺たちに化けさせて200階層へと向かわせて、残党が居ないか確認させつつ、ボス部屋までの露払いを頼む」


 初めて見るよ、師匠たちの息が整っていない様子で、言葉が途切れ途切れになる姿なんて。


 ここで次元世界に回収しないのは、何が仕込まれているか分からないからみたいだ。

 ハゲヤクザと鬼畜治療師は既に虫の息に近かったのでエリクサーを飲ませつつ、指示通り分身たちを200階層ボス部屋前まで走らせる。


 幸いにも残党は居ない事が確認出来たので、全力で200階層へと急ぐ。ただすれ違いになる可能性も高いので、201階層への出口付近にも全員分の変化済み分身を残しておくのは忘れてはいけない。


 サクッと師匠がボスを倒した後はまず報告だ。

 実験体の能力と動きや、気になった点を一から全て説明した……分身とはいえ3対1でギリギリだった事も含めて。

 師匠の方の戦いについて説明があったが、最後の魔力砲を俺に撃ってきたのが大きな隙となり倒せたとの話だ。それほどまでにあの魔晶石擬きを奪われたくなかったようだ。

 戦いの詳細は説明されなかったのでわからないけれど、全員が苦虫を噛み潰したような顔をしているので推して知るべしなのだろう……ハゲヤクザと鬼畜治療師の2人が重傷になるくらいだし。


 その後戦利品……といっても遺体がほとんどなのだが検分する事となった。

 まずは魔晶石擬きと実験体が口に入れようとしていたナニか、そして最初に地面にばら蒔いていた魔晶石っぽい欠片だ。これらをうどんに観させたところ、ばら蒔いていたの魔晶石そのもので100階層以降の物が色々混じっていた。灰となって消えた実験体がドロップした物と、口にしようとしていたナニかは両方とも人造魔晶石という事がわかった。ただ鑑定ではそれがどうやって造られたかなどは一切わからないようなので、帰還後に研究班に持ち込む事となった。


 落ちたものが人造であろうが魔晶石という事で、実験体は正しく人造モンスターという事だ。しかも師匠たちの考えでは、知能がモンスター並になってしまう事や、仲間を食らって灰になって消えてしまう事から推測するにあれはまだ完成形ではないだろうとの事なのだ。

 あんなモノが量産される未来を想像したら、恐怖でブルりと身体が震えた。


「横川……更なる情報が欲しい。この実験体に時戻しを掛けてくれるか」


 本人たちの口から何があったのか聞ければそれが1番情報を得る事が出来るもんね。それにもし時戻しを使用して、人にまで戻せるならそれが1番だし。

 ……ただそんなに現実は甘くなかった、掛けようとした矢先に全実験体が灰となって消えていったのだ、先に破裂するように消えた実験体が落とした物よりも一回り小さい人造魔晶石を残して。

 モンスターも同じなのだが、魔晶石の状態からは時戻しを使用しても身体が戻ってくる事はない。そしてそれは人造魔晶石も同じだった。


 ではと、師匠たちが倒した3人組の方の遺体を出してもらったのだが、こちらも身体が変容しツノが生えていた。

 俺が相対した時は確かにまだちゃんと人間だった、それなのに今は実験体を少しスリムにした感じになっている……


「それらもな、お前が実験体と相対し始めた少し後にその人造魔晶石を口に含んだのよ」

「この人たちも実験体だったという事ですか?」

「わからん……わからんがお前の見た様子とは明らかに違った。しっかりと理性を保っていたしな。だが力は段違いになったのは確かだ」


 そしてまた3人組も灰へと変わったが、実験体16人とは明らかに人造魔晶石は小さかった。

 これが何を意味するのかはわからないが、嫌な悪寒だけが漂っている。


「息の根を止めてから30分だな」

「厄介よのう……技は確かに昔交えた者と同じ系譜であったが、魔物化するとは」

「まぁ考えるのは後だ、とりあえずこの人造魔晶石はお前の時空間庫にしまっておいてくれ。それと装備を替えるのもそうだが、山岡と近松は血を失いすぎているからな、しばらくの間次元世界にて休息をとる」


 確かに2人の顔色は真っ青なんだよね。さすがに歩けないって事はないみたいだけど、フラフラしているので危なっかしいし……

 正直なところ、どうせいつものように簡単に戦闘が終わるんだろうって思っていた……それがまさかね、勝つには勝てたがこんな状態になるとは想像もしてなかった。


 その日から約20日間、次元世界で休む事となった。

 まず鬼畜治療師はかなり危険な状態だったようだ……歩いたのはただの意地だったみたいだ。なので水晶ハウス内のベッドに10日ほど寝たきりになっていた。召喚獣たちが食事や風呂の介助を甲斐甲斐しくしていた……やはり宝石関連の事で仲良くなったようだ。ただ笑うのは、ベッドで横たわる鬼畜治療師の周りに召喚獣たちが思い思いの宝石を並べていた事だ。本人たちは好きな物に囲まれていれば早く元気になると信じていたようだが、周りからするとどう見ても棺桶のようにしか見えなかったんだけどね……

 ハゲヤクザは3日ほどは顔色が悪かったけれど、大量に肉を食べる事が造血効果にでもなるのか、意外にも早く復帰する事になった。


 そして師匠とじいちゃんばあちゃん、俺と香織さんなんだけど、前回の実験体たちとの戦闘を踏まえて主のいないボス部屋内での修行に励む事となった。

 特に師匠たちの修行風景は鬼気迫るものがあり、半日は俺たちに修行をつけながらの準備運動で、半日は3人で割と本気目の手合わせを延々とやり続けるといった形だ。

 床に伏せっていた2人が復帰してからは、更に激しい修行になったのは言うまでもないだろう。


 香織さんは戦闘の事を見ていなかったし、説明してもいまいち理解出来ずにいたが、師匠たちの鬼気迫る様子を見て何かを悟ったようだった。


 そして俺たちは休息という名の修行後に、更なる階層更新への探索へと出る事となった。

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