第162話ーー輝くメガネ
本来は数日鎌倉観光がてらじいちゃんの家にお世話になる予定だったんだけれど、昨日の件を受けて急遽名古屋へと戻る事となった。
中国の発表を受けて、国会ではシーカーへと支援策不足をネタに野党が政権の面々を問い詰めたりとの舌戦を繰り返すようになった。流れではシーカーが協会を通した時の税金関連がもう少し安くなるかもしれないけれど、ただのパフォーマンスのような気もするので期待は出来ない所だ。
またメディアも日本の探索状況を連日放送し、何度も故人である東さんたちパーティーが亡くなった事を惜しんだりしている。そして東雲さん率いる迅雷の面々も、各放送局の番組で決意を最もらしく語っていたりもする。
この風潮は日本だけではなく、世界中のあらゆる国で起きているらしい。同じように税金がどうだとか、社会における地位を上げる事だとかが叫ばれたりしているようだ。ニュースでチラリと聞いたところによると、それにより各国の武器防具や薬品メーカーの株が軒並み上がっているらしく、これは一全流が経営するメーカーも含まれるとの事だった。
それほどまでに中国の発表は世界に大きな衝撃を与えたという事だ。
連日ダンジョン関連の話題で溢れている中、今度は日本から世界へと向けて衝撃的な発表があった。
それは蘇生薬の精製が出来たという話だ。
発表元は伊賀と一全の両メーカー共同で、死後10分以内ならば息を吹き返す物らしい。
師匠によると本当に精製に成功したのは伊賀の服部さん率いるチームらしいのだが、元々の蘇生薬を発見したのが俺たちって事から一全との共同発表という形となったらしい。
でも俺たちが見つけたのは、確か死後1時間以内だと記憶しているんだけれど……なんて思ったら、熟練度なのかなんなのか今も試行錯誤を繰り返しており、少しづつ1分単位で伸びたりはしているらしいんだけれど、確実に精製出来るのが10分という事で発表に至ったとの話だ。たった10分かもしれないが、それでも救える命は格段に増えるだろうから発表を急いだという経緯があるようだ。
ただまだ大量に精製出来るわけではないので、1つ当たりなんと2500億円という高額販売となるらしい。それだけでも驚きなんだけど、なんと1つ売れる毎に俺に販売額の1%づつが今後5年間振り込まれる事を教えられた。どうやら発見者としてらしいんだけど、少し申し訳ない気もするよね……新たに精製した事には全く関わっていないんだし。ただこれなもう上層部で決定した話らしく覆る事はないそうなので、今度アマに会ったらせいぜい何か美味しい物をご馳走してやろうと思う。
そしてその記者会見を見ているんだけれど……なんと!そのアマが隅の方に映っているんだよね!!
前日に『明日のニュースを楽しみにしているように』なんてLINEが確かに着てはいたけれど、まさかこんな大ニュースの製作者チームの末席とはいえ一員として映るだなんて思ってもいなかったよ!!
なんかいつもよりメガネが光っている気がするし、頭良さそうに見えるし。
そんな事を思いながらテレビを見ていたら、キムからLINEが着た。内容は……『アマのような世界的発表じゃなくて個人的な話だけど、大ニュースがある』だと!?
個人的ニュース……うん、なんか想像がつくねこちらは。どうせどっかの熟女といい感じになったとかそんな話だろう。わざわざ焦らしてくれなくてもいいのにと思うけれど、3人揃った時に言いたいらしいから、それまでに別れてしまえとの呪いだけを掛けておこう、うん。
俺たちはというと、今まで以上に激しい修行を次元世界でや近隣のダンジョン内にて繰り返し続けていた。
中国と蘇生薬の発表の熱が少し落ち着いたと思った矢先、また協会会長がわざわざ一全本部まで来た。
どうやら師匠たちの想像通りに中国の動きが活発になっているらしいので、牽制のためにもある程度の階層まで更新して欲しいとの政府中枢からの要望が内々にあったらしい。
そして協会会長は忙しいらしくどこかへと去って行ったのだが……
階層更新自体は師匠たちも賛成らしい。理由は要請と同じく中国への牽制の意味が強いようだ。だが迅雷の面々をどうやって連れて行くかが問題となる。
ここでふと気になったんだけど、公式非公式問わずに世界最高とはどれほどまで行っているのかだ。
「わからんが……多分お前も行った階層だと思うぞ?」
俺が行った階層って200階層が最高のはずだ。少なくとも師匠たちはそれ以上なわけだし、先日の中国の発表もある。
意味がわからなくて悩んでいたら、師匠たちと香織さんが呆れたような顔をして俺を見ていた。
「本当にステータスというものがあてにならない事がわかるな……お前は八岐大蛇を忘れたのか?」
「あっ!!」
そういえばそうだったよ。
隠し部屋扱いで、7800階層だった事なんて忘れていたよ。
それにしてもそんなにみんなで呆れた顔をしなくてもいいのに……まぁ自分でもちょっとアホかな〜とは思う事があったりするけれど。
「やはり小僧の次元世界しかないが……」
「うむ、アレらに知らせる訳にはいかんな」
「見破れる存在がいなければ、いっその事一太にアレらに化けさせて発表という手もあるのだがな……」
「まぁすぐにバレましょう。それに一太はどう見ても演技力なんてものは皆無のようだからね。見せかけは化けれても、カメラの前で長時間インタビューなんてものを受けたら一発でバレるよ」
分身を見破るスキルもあるのか……まぁそりゃそうか。
ただなんか話題が俺の演技力になっていて居心地がめちゃくちゃ悪い。
「無難なのはやはり次元世界だな」
「気絶させて大穴にでも放り込み、場所がどこかわからぬようにして運ぶのが良案かのう」
「ふむ、まぁそれが1番マシか」
どうやら話は決まったようだ。
演技力の話のら辺からほぼ聞いていなかったけど、やはり次元世界らしい。まぁそうなるよね、だってたった100階層さえキツいんだから……少しはマシになっているといいんだけれどね。
迅雷のスケジュールは2週間後から空いているそうなので、それまでに色々な準備を整える事となった。
で、俺と香織さんにじいちゃんばあちゃんは久しぶりに日間賀島へとやって来ている。目的は修行ではなく仕入れだ。長らく潜るなら、たまには新鮮な魚も食べたいよねって理由。ちなみにここに来るのにはクルーザーでもフェリーでも大鷲でもなく、水中を走ってくるという鬼のような方法だった。
日間賀島はいつの間にか開放ダンジョンとして一般の人も探索出来るようになっていた。ただあんまり人は居ないようだけどね。ドロップは新鮮な魚介類だけだから、倒しても魔法袋を持っていなければほとんど運べないし、持っていたとしても傷む前にって制約があるから戻ってくる頻度が高くないとだから、よほどの腕がないと儲からないんだよね。
なので、ここに1週間ほど篭って地元の方のためにガンガン魚介類を出荷してから帰る事となった。しかも市場への無償提供だ。その代わりに宿と朝夕食は無料にして貰ったんだけどね。
そしてあっという間に時間は過ぎ、探索日となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます