第161話ーーテレビの中に君を見つけた
じいちゃんの家はやはりデカかった。
一般の人から見たら観光名所って勘違いして門から入ってきてもおかしくないような所だ。その一角を占める離とは名ばかりのデカい屋敷にお邪魔した。
ダンジョンから出たあとは、しばらくの間はあの城のボスの事を未だに引き摺っているのかまだご機嫌斜めの様子だったけれどら食事などをしている内に眉間に刻まれた皺も少し柔らかくなってきたかな、なんて思い始めた頃協会会長さんがやって来た。
まずは今回の皇居に発生した突発型ダンジョン攻略への感謝と労いの言葉だった。あと矢張りメディアからサポートメンバーの紹介を求める声が大きかったらしいのだが、じいちゃん発案通りに全滅したとの発表したとの報告だ。
次に名古屋南支部の犯罪者共の話となった。こちらはまだ調査中らしく判明している事柄だけの報告だ。
やり始めた時期は驚く事にかなり昔で、ある種南支部の伝統のような形で申し送りされて続いてきたようだ。もちろん中にはまともな人間もいたようだが、そういう人間のほとんどが脅迫されたり……消されたりしていたらしい事が取り調べで判明している。
それらには反社会的勢力やテロ支援国家……そして一部政治家の影がちらほら確認されているらしい。
今回の件で協会内の自浄を進める事となるが、世間からの批難は当然免れないので、組織が刷新される事もあるだろうとの話だった。
「あっ、思い出した!あの市川って人の事!」
ずっと気になってたんだよね、どこかで見た事があるような気がして。そしてようやく協会会長さんの「政治家が絡んでる」って発言で思い出した。
「知り合いか?」
「いえ、去年の夏に栄ダンジョンでの勉強会に行った時に絡まれたって話を風間教官から聞いてませんか?」
「覚えていないが……それが何か?」
「絡んできたのは知事の息子たち……あの若狭たちと一緒に絡んできて突発型に巻き込まれて死んだヤツらなんですけど、その時に一緒にいた指導教官が市川ってヤツでした」
「ふむ……という事は、あの知事とも繋がっていた可能性があるという事だな。調べればその関係者や派閥の政治家も絡んでいる可能性も大いにあるな」
「その情報はまだ上がってきていませんね……命じてもう一度調べ直させます。ありがとう横川くん、思い出してくれたお陰で助かるよ」
そうだよ、職業差別バリバリの嫌なヤツがそうだったよ。あー思い出してスッキリだ。
報告はもう終わりなのかななんて思ったら、まだあるらしい。それにはテレビがあるとわかりやすいとの事で、ニュース番組が流れる事となった。
確かにNHKを選択しているはずなのに、どこか民放と変わりないような内容の番組がダラダラと流れるのを横目に協会会長が口を開いた。
「この度ウイグル自治区にあるダンジョンにて、世界最高階層である302階層へ到達したとの報告がありました」
「……302?」
「はい、一昨日その報告が世界の協会へと流されました。そして本日……そろそろだと思いますが、発表があるはずです」
302階層だなんて、師匠たちでさえ到達していない領域だ。それに公式の世界最高到達階層でさえ大きく凌駕している事に驚いていると、突然テレビの画面が切り替わりアナウンサーが緊張した面持ちで立っていた。
『速報を申し上げます。一昨日にウイグル自治区にあるダンジョンにて、これまでの公式世界最高到達階層を大きく更新し302階層到達したとの発表がありました。繰り返します、ウイグル自治区にて公式世界最高到達階層を大きく更新して302階層へと到達したとの発表が中国政府から行われました……パーティー自らのインタビュー映像があるそうですので、そちらをご覧下さい』
画面が切り替わり少し荒い映像が流れ始めた。
そのパーティーメンバーはパッと見25〜28人で、誰もが大きく壊れた汚れた武器防具を纏い、顔は疲れ果てて居るようにも見えるがどこか誇らしげな顔をして映っている。
画面はずっとそのパーティーメンバーのリーダーらしき人のインタビューを映していたのだが、話が一段落した際にカメラがダンジョン入口を映したのだが、そこで俺は衝撃を受けた。
「い、今……チラッとですが、若狭が映りませんでしたか!?」
「何?」
「身体がめちゃくちゃ大きくなっていましたが、顔は若狭だったと思います」
「山岡、近松は気付いたか?」
「いえ……ですが気になりますな」
身体は大人顔負けというより、つい先程まで戦っていた鬼のような肉体をしていたし、目が異常にギョロっとして光っていたけれど、確かにあの顔は若狭だと思うんだ。
幸いにして映像はしっかりと録画されていたらしいので、それを預かり協会会長に席を外して貰った後に何度も確認する事となった。
その結果、若狭だけではなく秋田さんを含めた亡命したと思われる人間の顔が数人一瞬だが見つけられた。そしてその姿は若狭だけでなく全員が身体が大きく変容しており、一様に目が爛々と光っていた。
「あの身体……そして目付き……纐纈か……それとも」
「ウイグルと言えば中国政府によるウイグル族弾圧に伴う強制収容や、人体実験の噂が絶え間なく流れ続ける場所ですな」
「あの纐纈ならば、そのような場所を求めたのも理解出来る」
「アレらはその集大成を施されたのか、それともただの実験体なのかわかりかねますね」
もしかして今回の大幅な階層更新は若狭たちも大きく関係しているのかな?
あいつの事は確かに好きではないけれど、別に不幸になれとまでは願ってもいなかった。だから久しぶりに見た姿の異様さには衝撃を受けた。香織さんも秋田さんに同じ事を思ったらしく、心配そうな顔で静止した状態の画面の中の秋田さんを見つめているようだ。
それにしても纐纈さんか……
やはりマッドサイエンティスト道?を突き進んでいるんだね。
まさかの亡命の目的が人体実験出来る場所だったなんて……若狭や秋田さんはちゃんと分かって着いて行ったんだろうか?
「こんな事であ奴らの居場所がわかるとはな……だが場所が場所だ、手を出せん」
「そうですな、しかも階層更新を発表した後では守りもかなり厳重となっていましょうぞ」
「チッ……面倒な」
んっ?
もし厳重じゃなかったら行くつもりだったのだろうか……
もしかして中国語が出来るのって、こういう時のためとかじゃないよね?
まぁ怖い事を考えるのは止めよう。
それよりも302階層か……俺が言うのもなんなんだけど、あのインタビューに映っていた人たちって、どこかナル森たちと同じ匂いを感じたんだけど、やはり広告塔だったりするのかな?
「あぁ、映っていたのはお前の推測通りだ。ここ10年近くはあのパーティーが中国政府公認の広告塔だな」
「では本来のパーティーってのはどんな人たちなんですか?」
「やはり日本の我らと同じく、古き流れを持つ武術集団だ」
やはり広告塔だったようだ。
中国の歴史は3000年だっけ?5000年だっけ?どちらにしろ日本よりかなり長い歴史を持っているわけだし、中国拳法とか色々聞いた事あるわけだから同じような存在がいてもおかしくないよね。
そうなると気になる事が出てくる……
「師匠たちとどちらが強いんですか?」
「ふむ……どうであろうな、直接死合った事はないからわからんのが本当の所だ」
「儂は1度戦場にて刃を交えた事があるが、1対1ならば五分であったな」
「今回の発表はあの広告塔たちを301階層まで連れて行ける能力がある事と同義だ。かなりの数が育ったのか、それとも圧倒的な能力を持つ者が生まれたか……」
同レベル、もしくはそれ以上って事!?
名古屋北ダンジョンで襲ってきたのが、ロシアじゃなくてもしその集団だったら、俺たちは今ここでのほほんと飯を食っていられなかったって事だよね!?……怖すぎる。
「纐纈の研究結果が付与された事も考えられはするが、それにしては時期が早過ぎる気もする……もし若狭や秋田たちのように全ての者が変容した場合は、更なる更新……いや、世界の覇権に欲を出してくる事が考えられる。そうなれば横川や如月くんの力を邪魔に感じて狙いに来る事は明白だ。今まで以上に身辺に自ら気を付けろ」
そうか、纐纈さんたちが中国に亡命したと確定したって事は、同時に師匠たちを含めて俺たちの情報は全て知られているって事だもんね……
師匠たちにいつか追い付ければ……なんて呑気に考えている場合じゃないようだ。早く師匠たち以上にならないと生き残れない。
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