第141話ーー少し便利なナニカ

「これ以降二度と横川を含むここにいる者たちに下らぬ因縁をつけるなっ!次はないっ」


 戦闘は直ぐに終わったよ。

 だって10秒以内じゃないとご褒美貰えないしねっ!!

 でも結果は……ほんの少し過ぎたらしい。ちょっとそこのところは納得いかないんだけどね、俺の中でのカウントは9秒だったし。だけど師匠たち全員が過ぎていた口を揃えて言うので、もしかしたら気がはやるあまりに数え間違えたのかもしれないと思うしかない。

 クソー香織さんのキスがーー!!

 もう1回やらせてくれないかな?ダメだよね、やっぱり……クソっ悔やまれるっ!!

 そして香織さん!あからさまにホッとしないで下さい!!凹んじゃうから!!


 どうやって戦闘を終わらせたかはいたって簡単だ。開始と同時に魔力を足に纏わせて突っ込み、盾をゴリ田ごと吹っ飛ばした。魔力の纏い方には色々やり方があって、今回は手のひらからを中心に薄い円を描くように纏ったんだ。それにより盾全体に衝撃を与えて後方へと吹っ飛ばしたってわけだ。次にまずは右横にいる柳生の片割れの刀持つ両手首へと手刀を当て折りつつ、左手の掌底を下から肘へとぶつけ折った。で、邪魔なので軽く蹴飛ばしつつその反動を以て反対側にいるもう片方の柳生の元へと跳び、同じ作業を繰り返した。その少し離れた後ろにいて弓を構えるナル森の元へと跳んで、前回耳ごと刈り上げたはずなのに、なんかオシャレっぽく整えられた自慢の髪の毛の頭頂部を毟ってハゲヤクザの友達っぽくしながら、両肩へと手刀を当てて折って終わりにした。

 うーん、どこで時間を取ったのか……手加減具合が難しいのもあったとは思うんだけどわからん。いや、アレだな髪の毛を毟ったのが良くなかった気がするな……なるべく多くと考えた事で時間を取られたな。ハゲヤクザの友達を増やそうと思ったのがいけなかったんだな。

 あっ、そういえば枝を一切使ってないや……まっ、いいか。


「小僧、何ぞ言いたい事でもあるのか?」


 しまったー!!

 ほんの一瞬だけ、ナル森の頭と見比べてしまったのに気付かれたようだ!!


「これ、山岡のよ。一太はきっとお主の頭に植毛でもしてやろうと抜いたに違いないんじゃ、怒らんで褒めてやれ」

「ほう……そうかそうか」


 ちょっと!!

 じいちゃん何言っちゃってくれてんの!?

 ハゲヤクザが頭から湯気じゃなくて、魔力を吹き上げながら迫ってくるじゃないですかっ!!


「ち、違いますっ!」

「何がどう違うのか教えてもらおうか!!」


 ……全力で逃げる事数分、捕まってボコボコに殴られた。ただやっぱり髪の毛には思う事があるのか、これまでもそうだけど絶対に髪を毟ったりはしてこないんだよね……きっと何か後悔する事があるんだろうね、うん。

 まだまだスピードに差がある模様です。魔力の纏い方の差なのかな?いつかあのハゲ頭をペチペチ叩いて逃げ切る事が目標にしよう。

 そういえば渥美で一全の人たちの儀が終わった後に、俺たちも掃討に協力という事でダンジョンに潜ったんだけど、幸運の香織さんがダンジョン発生からこれまでにたった5個しか出ていない物をボスからドロップさせていた。それは河童の物と思われる皿だ。しかもこの皿はただの皿じゃない、黄色がかった白い皿とその底から円状に緑っぽい毛が外に向かって出ているのだ。それはまるでお皿付きのカツラだ。ちなみにこれが一体何に使えるかはわかっていない、ただ皿に水を入れると髪の毛がふわふわと浮き上がるという不思議な特性を持つが、一体何の役に立つかはわかっていない。どうしてこんな事を突然思い出したかと言うと、ナル森の頭がちょうど同じような形になっているからだ……もう少し綺麗に毟ればだげど。



「横川……くんはわかりました、わかりましたが、他の者も同じレベルだと仰られるので?」

「如月くん以外の4人は横川の配下だ。そして如月くんは横川にはまだ及ばぬが、それでも己らとは比べ物にはならん。もし不服なら手合わせをしても構わんが、手加減はさせんぞ?加えて治療もする気はない。それでもいいのならばだが如何する?」

「いえ……かしこまりました」


 さっきの話聞こえていたと思うんだけどな……うどんたち相手にしたら、確実に殺しに来るって事を。自分たちの方が強いと思い込んでいるから、耳に入ってても抜けてくのかもしれないね。

 それにしても何なんだろうな〜

 これから一緒に潜るんだからもっと楽しくやろうとは思わないのかな?どちらが強いとか弱いとかマウント取って何かいい事でもあるんだろうか。

 ヤダヤダ、ああはなりたくはないね。


「ではここで8時間ほど睡眠と食事休憩を取った後、100階層へと向けて発つ」

『はっ!!』


 ………………

 …………

 ……


 12人の広告塔……どうやら『迅雷じんらい』という名のパーティー名らしい。何が迅雷なのか全くわからないけれどそうらしい。どうやら柳生鉄扇がリーダーで彼が決めたらしいのだが、今回の事でリーダーは伊賀で魔法使いの東雲しののめさんに代わったようだ。この人はとても腰が低く、丁寧にも師匠だけではなく俺たちにまで1人1人に挨拶をしてくれたので、これからはもう絡まれる事はないと信じたい。まぁ東さんたちの例があるから何とも言えないけど。


 その迅雷が休憩をしている間はずっと手合わせをしていた。スピードは追いつけないにしても、そろそろ1本……いや、せめてかすり傷ぐらい負わせたいところだけれど、未だに触れる事さえ出来ていない。師匠だけではなく、5人の中で1番戦闘力が低いと言われる鬼畜治療師にさえだ。

 それなのに手合わせは2〜3人対俺だったりする時もあるんだよね……もう、ボコボコですよ。特にハゲヤクザはついさっきの事を根に持っているらしくて、当たりが強いのでキツい。


 香織さんは相変わらず魔力を扱う練習をしている、テントの中で隠れて。召喚獣たちは俺の相手をしていない師匠たちと手合わせをし続けてる。

 俺は魔力を練ったり纏ったりする修行が終わったわけではない。更なる応用技を習っている。それは中国拳法で言うところの発勁はっけいのような技だ。これは物理無効・魔法無効の相手が出た場合を想定しての事だ。魔法無効なのに魔力使用?と疑問に思ったんだけど、対象に魔力をぶつけるわけではない。踏み込む脚に使用したり身体の中で運用するのだ。踏み込んだ時の反発エネルギーや腰の回転エネルギーなどを腕へと伝え、水を掬うような形にした手の平で対象へぶつけるのだ。これにより対象の内部を破壊する事が出来るようになるらしい。踏み込みの力を使用するために最初は地面の上でしか使用出来ないが、コツを掴んだ後に魔力をそのエネルギーの代用とすれば宙でも同じ事が出来るようになるそうだ。

 で、今俺はそれを絶賛修行中なんだけど、なかなかに難しい。全身に魔力を纏う事で身体強化していないと、本来敵にぶつけるはずの力が俺の内部に衝撃を与えるのだ。身体強化だけではない、姿勢も大切だし腰にも負担がある。やりすぎてだんだん普段どうやって身体を動かしていたのかさえわからなくなってくる気がするんだよね。

 ちなみにこれは召喚獣たちは出来なかったので一緒に練習していたりもする。


 気……即ち魔力の運用をするようになってからつくづく思う事は、人間の可能性って凄いなって事だ。世界中の人のほとんどがjobやスキルに目を奪われがちだけど、そんなのなくても人は強くなれるんだって思う……現に師匠たちは尋常じゃない程だし。師匠たちはスキルというものを便利なナニカ感覚にしか思っていないようなんだけど、きっとその考え方が1番いいんだろうと思う。


 どうやらようやく出発のようだ。ハゲヤクザと鬼畜治療師が東さんたちの時と同じように迅雷に着いて行くらしい。俺たちは別行動で一気に100階層まで走るみたい。未だナル森や柳生の2人の視線にどこか恨みがましいものが含まれている気がしたから良かったよ。ゴリ田?ゴリ田は何故か怯えた表情を浮かべているんだよね……よくわからん。

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