第140話ーーご褒美のために全力でやりますよ!!

 久々の名古屋北ダンジョンです。

 正直なところ、俺が殺してしまった人たちが眠るこの場所に対して怖さとか何かを感じるかと思ったけれど、60階層まで来たけど大して何かを感じる事もなかった。ただ師匠に言われた通りに、更なる悪意に襲われても打ち勝てるだけの力を手に入れようと心の内で再確認はした。香織さんは金山さんたちの事を思い出してしまったようで少々辛そうな顔をしていたけれど、目の奥に光る力は弱まってはいなかったから大丈夫だろう。


「柳生 鉄扇てっせんと申します。こちらは鉄界てっかい、これからよろしくお願い致します。お爺様お婆様に置かれましてはお久しぶりでございます」


 東さんたちの代わりとなるパーティーと合流し今挨拶を受けているのだが、中には先日の俺が耳を削ぎ落としちゃった男……ナルシスト森こと略してナル森と、ゴリラのような風体の柴田こと略してゴリ田もいる。

 で、なぜか今挨拶をしていた柳生鉄扇さんと鉄界さん、そしてナル森とゴリ田の視線がめちゃくちゃ厳しい……ってか睨まれている。まぁ後者の2人が睨んでくるのは何となくわかる、因縁としか思えないがわかる。だが柳生さん2人に睨まれる理由が全くわからないので少々戸惑っている。


「主様何かしたんですか?凄い睨まれてますけど」

「全くわからん、ナル森とゴリ田はこの間……2週間前のアレだと思うんだけどね」

「不愉快ですね、腕の二三本切り刻みましょうか?」

「主様そうしましょう!」

「修行の成果を試せますね!!」


 ヤバイ……

 召喚獣たちが妙に好戦的だ。

 まぁ一方的に睨まれているわけだし気持ちはわかるけどね。特に柳生の2人は俺と香織さん、召喚獣たちを凄くジロジロと見てきているし。

 いっちょここは爺さん婆さんに直接聞いてみよう。


「じいちゃんばあちゃん、お孫さんでいいのかな?凄い睨まれているんだけどどうしてです?」


 じいちゃんばあちゃん呼びば本人からの申し出だ。最初は柳生さんとか奥様って呼んでいたんだけどね、なんか「もっとこう親しみがある呼び方がいい」なんて言い出したんだよ。それで色々案を出したんだ「大師匠」とかね、で結局最終的に「じいちゃんばあちゃん」と呼ぶ事になった。


「玄孫だな……まぁきっと儂らに直接指導を受けているのが気に入らんとか、親しげなのが気に入らんとかそんなところじゃろ。あ奴らは性根が曲がっておるでの」


 そんな理由だったのか……

 そういえば先日教官に聞いた話では、剣術界では憧れの的なんだったっけ。

 それにしても直接の子孫?を性根が曲がってると言い切るとは思わなかったよ。ばあちゃんに関しては一切興味もないのか、香織さんの髪を結って遊んでるし。


「ふむ……己の分を弁えさせた方がよいか。信一よ、少しよいか」


 何やら深く1人で頷くと、じいちゃんは師匠を手招きして呼ぶとコソコソと俺や玄孫さん2人の間に視線を動かして話し始めた。

 一体何をさせる気なんだろうか……だいたい想像はつくけれど。


 今回のパーティーには戸隠や風魔といった先日問題を起こした4流派の人員は送り込まれて来てはいないようだ。そして前回の人たちもそうだったけれど、今回の人たちも総じて美男美女ばかりだ……ゴリ田も見ようによってはワイルド系イケメンなんだろうし。人数は同じく12人で、盾持ち4人杖持ち4人弓持ち2人刀持ち2人という構成だ。柳生の2人は刀持ちでjobは侍らしい。ちなみにナル森は弓士でゴリ田は重装歩兵だ。ナル森はお笑い担当ではなかったみたいだ。

 そういえばそのナル森とゴリ田なんだけど、聞けば戦国時代に織田家に仕えていた森家と柴田家の子孫らしいのだ。あの森蘭丸とか柴田勝家の家系だ。それを聞くとなんか納得のビジュアルをしている気がするよね。ただまぁ師匠曰く「血に家にあぐらをかいた阿呆共だ」って事らしいけれど。


「のう、そこの4人や……鉄扇と鉄界、それと森と柴田。お主たちはどうやら勘違いしておるようじゃから言っておくが、お主たち4人如きでは、逆立ちしようともスキルを使おうとも横川くん1人にさえ傷1つ負わせる事は出来ぬ」

「お爺様!お言葉ですが、そこの森と柴田はわかりませぬが、我らはお爺様と同じく柳生の名を持つ者!そこのどこの馬の骨かもわからぬような者に負けるとは思いませぬ!」

「ふんっ……何を勘違いしておるのか知らんが、血や家とは自尊心を満たすためにあるのではないわ」


 話を聞いていると、結局のところ4人全てが血とか家系に囚われている可哀想な人たちって事みたいだね。孤児の、何処の馬の骨かわからない俺が言うのも何なんだけど、血とか家の名を持つというのは、逆にその名に恥じぬだけの努力が必要なんだろうなって思う。師匠やじいちゃんばあちゃんはきっと凄い努力を重ねたんだろうね……特にばあちゃんなんて一般家庭で育ったただのお嬢さんだったらしいから、あそこまでになるのはきっと尋常ではない修行したに違いない。


「言葉でわからぬのなら、その身を以て味わえばよい。一太や、悪いが相手をしてやってくれ」

「あぁ、4人はスキルありで全力でやっていいぞ。後からあれは全力ではなかったとか言い訳されても面倒だ。他の者で参加したい者はいるか?勝ったら……何か望む事があれば何でも叶えてやろう、例えそれが1つの国を欲しい、いや世界をその手にしたいと望んでもだ」

「一太はスキルなしじゃぞ、あぁ、気を纏うのはスキルではないから構わんが」

「はいはいはいはいっ!!私が主様の代わりにやりたいですっ!」

「我も我も!!」

「お主らはダメじゃ」

「お前たちは殺す気満々だからな、これはあくまでも手合わせだ。横川ならその点手加減も出来るしな」

「悪意を以て主様の前に立つのだから、殺してしまっても問題ないと思うんです!」

「問題あるわっ!また人員を選出するのは面倒だ」


 まぁ想像通りに話がなったね……

 それにしても師匠ハードル上げすぎじゃないですか?信頼は嬉しいけれど、世界を手に入れるとかは言い過ぎだと思うんです!!

 そしてうどんにつくねにハク、そしてあられまでもが手を挙げて立候補するとは思わなかったよ……まぁ当然の如く却下されていたけれど、その理由が俺なら手加減出来るとかハードルががががか……


 他に立候補する人はいないようだね、良かったよ。

 それでも4人でスキルありか……少し気合いを入れて対峙しないとだね。信頼を損なわないようにしないとだし、何よりも香織さんの前でカッコ悪い姿を見せたくないし。

 あとちょっと思うのは、もし彼らが俺に勝ったらご褒美があるのに、俺にはないのかな?


「ふむ……その顔は勝ったら褒美が欲しいとかそんなところか」


 おうっと、また読まれちゃったよ。そんなに物欲しそうな顔してたかな?


「勝てて当たり前というか寝てても勝てると思うが……まぁ面倒なのを相手させるわけだしな……」

「ではそうじゃのう……開始10秒以内に終わらせたら香織が接吻くちづけをするのではどうじゃ」

「マジっすか!?」

「へっ!?ちょっ!!」

「コレ香織っ、動くんじゃないよっ」

「さあやりましょう!すぐやりましょう!!」

「ちょっ!一太くん待って!!」


 香織さんが何か言っているような気がするけれどおかしいな……何も聞こえないや。


「コラコラ、待て待て待て。お前の得物はコレだ」


 4人から20mほど離れたところに立ち、開始の合図を待とうと龍牙の刀を抜いて構えていたら師匠に止められて、30cmほどの細い枝を渡された。

 まぁそうだよね、冷静に考えたら龍牙の刀は問題だった。先日次元世界にて魔力を纏わせて全力で一度振ってみたんだけど、海が100mほどに渡って割れたからね。ちなみに師匠たちがやったらもっととんでもない事になったのは言うまでもないけれど。


「……私たちをバカにされているので?」

「身の程を知らせてやりましょう」

「この間は調子が悪かった事で花を持たせてやりましたが、今日は本気を出しますがよろしいのですね」

「……」


 うん、そりゃそうなるよね。

 それにしてもナル森は面白いね、自分から絡んできたのを忘れたみたいだ。そしてゴリ田は何か喋れ、未だ呻き声しか聞いてないんだけど。


「織田さんっ!おじいちゃん聞い「さぁいざ勝負!!」てっ!!」

「でははじめっ!!」

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