第104話ーーお盛んですね

 ここは天国か!?


 目を開けると、枕元に座って俺を見ている先輩の姿がそこにあるんだけれど!!


 天国?

 いや、きっと夢だ、夢に違いない。


 うん、そうと分かればもう少し見ていたいから、このままでいよう。


「横川くん起きないとだよ、お師匠さんたちがご飯用意してくれてるよ」


 微笑む先輩は天使だ……

 起きる気になんてならないですよ。


「さすがに疲れたのかな?あれだけ重い物背負って全力疾走したあとに、激しかったもんね〜私が気持ち良くして貰っている時、ずっと頑張ってたもんね」


 そうだ、思い出した。

 昨日食事をとった後、ハクとつくねがマッサージをしてくれると言い出したんだ。前回地上へと帰った時も夜にお願いしたのだが、全身の筋肉痛が楽になるほどいい腕をしているのでとても助かる話だ。

 まずは先輩がハクに連れられてテントに消えた、そしてしばらくすると……


「あっ!……ソコダメッ!!……はぁぅぅっ……気持ちいいよ〜」


 なんて艶かしい声が漏れ聞こえてきたんだよ。いくら中で行われているのがマッサージだとわかっていても、わかっていても声から色々想像して興奮しちゃうのはしょうがないよね!?男子高校生……いや、男ならば誰でも同じはずだ。

 それを理解してくれないのが、鬼畜治療師ですよ。


「へー、あんた元気そうだね〜!じゃあ、手合わせを行おうかい」


 だなんて、めちゃくちゃいい笑顔で言われ、砂袋を背負い直してめちゃくちゃ激しい手合わせをさせられたんだ……

 そして……うん、その後を覚えていないから、きっと倒れてそのままテントに運ばれたのだろう。


「なんか横川くんが寝たあと、ハクちゃんがマッサージしてくれたらしいからお礼言っておいた方がいいかも」


 言われてみれば、昨日感じていた身体の痛みがない気がする。


「香織っ!坊主は起きたのかい!?とっとと耳引っ張って連れてきなっ!」

「ほら、行こっ」


 天国は終わった模様だ。

 だけどこのひと時の記憶をしっかり大事にしておこう!!


 起きて行くと、朝?っぱらからビール片手に肉を焼いているハゲヤクザの姿がそこにはあった。

 どれほど前から飲んでいるのだろうか?師匠たち3人の足元には350mlの空き缶がたくさん転がっているんですけど……


「ようやく起きてきたか、ほれとっとと食って100階層へ向かうぞ」

「はい……あっおはようございます」


 うどんをはじめとした召喚獣3匹たちは、既にめちゃくちゃ美味しそうに肉を頬張っている。やっぱり肉が好きなんだな〜って感じがヒシヒシと伝わってくるほどの満面の笑みだ。魔力で構成された身体のどこに消えていくのかは、いつ見ても何を食べていても不思議だけれども。


 3cmはある分厚いステーキと、野菜たっぷりのコンソメスープを美味しく頂いた後、腹ごなしに軽くストレッチなどをした後、また走り出した。


 69階層で師匠に「寄っていくか?」とこっそり聞かれたけれど、今日はほんの少しでも寄り道をしたくないので、首を横に振った。

 気持ちは嬉しいんだけどね……また今度、あの場所で1人ゆっくりとテントでもはって休んでみたいとは思う。それで何かが思い出せるとか、そういう訳でもないんだけれどさ。

 また申し訳なさそうに、「すまぬ、まだ見つかっておらん」とか言われたが、本当に気持ちは嬉しいけれど、特に何も思う事はないかな……もし見つかったとして、どうしたらいいのかもわからないし。

 それと、この件を知っているであろうハゲヤクザと鬼畜治療師は何も言葉を発する事はなかった。ただ優しく微笑み、背中からは優しい雰囲気がしただけだったけれど……嬉しかった。色々どうかと思う事は多々あるけれど、それでもこの人たちと巡り会えた事は、人生において喜ぶべき事だろう。

 ……って何をしんみりしているんだ、まだあと31階層も走り抜けなきゃいけないんだから、気合いを入れなきゃ!!


 東さんたち一行に追いついたのは、97階層だった。前回は蹴ったりして通り過ぎたけれど、今回はどうするのかと、ほんの少し東さんたちを同情し、ほんの少し楽しみにしていたんだけれど……会わないよう遠回りして追い抜いただけだった。

 そして到着した100階層、やっぱり昨日と同じくらい疲れたよ。ボス部屋前に着いた時には地面に倒れ込んでしまったし。


「よし、ではササッと飯を食って、風呂に入って寝るぞ」


 良かった……

 東さんたちが来るまで手合わせをするとか言い出したらどうしようかと思ってたよ……って風呂!?

 ダンジョン内で風呂だなんて聞いた事ないんだけど!?


「ゾンビゾーンを通るとな、どうしても臭いが気になるだろう。特に今回は如月くんも一緒だし、これから数日間潜り続けるしな」

「ありがとうございますっ!」

「という事で、横川は穴を掘れ、そして持ってきたブルーシートを穴に沿って敷け」


 なんでブルーシートなんて詰め込むんだろうと思っていたんだけど、この為だったのか。


 言われた仕事を終えて伝えると、師匠はうどんを連れて行き、水魔法で水を貯め、火魔法で湯に変えた。そして、俺の方をチラりと見てから、土魔法で囲いを作った。


 なんで俺を見たんだろうか……

 あれかな?覗き見するとでも思ってるのかな?こんな場所で覗きなんてしませんよ、他に遮蔽物など何も無いからすぐバレるじゃないですか!!

 それくらい、俺でもわかるっていうのに……まぁ……チャンスがあればチャレンジするけどさ。


「よし、いい湯になった。女衆は風呂にしてこい」

「ありがとうございます」

「お先に失礼致します。御館様、2人の見張りをお願い致します」

「うむ、しっかり見ておくから安心して行ってこい」

「お前なぞ覗かんわっ!」


 2人??

 2人って誰かと思ったら、ハゲヤクザの事だったよ!!

 師匠がさっきチラりとこっちを見たのは、俺じゃなくてハゲヤクザの事だったのかも!?


 さすが絶倫ハゲだ。

 そういえば、先日ハクとつくねを伴って本部の屋敷に戻った際に、まだ召喚獣だと教えていなかったハゲヤクザは2人を口説こうとしていたんだったよ。「惚れた、一目惚れだ」とか言ってたんだけど、それを見ていた師匠曰く「いつもの手だ」との事らしい。まっ、その後ネタバラししたら、顔を真っ赤にして膝から崩れ落ちていたのは見物だった。ただ次の日からの朝の修行の当たりが激しくなった気もしたけれど……

 ちなみに子供は全員で28人いるらしい、そしてお孫さんは13人、曾孫まで既にいるらしい。元気過ぎるよね。


 先輩の嬌声が聞こえてくる……

 覗き見してみたい気持ちが疼くところだが、会話の内容を聞いていると、どうやらうどんたちを獣形態にさせてモフりながら洗っている様子なので、もし覗いても毛だらけで肝心なものは見れないだろうね。


 それにしても女性のお風呂はなんでこんなに長いのか……

 ダンジョンの中だっていうのに、あまりにも出てこないから、師匠が手合わせでもするかって言い出したほどだからね。もちろんハゲヤクザも一緒に。

 そして出てきたのは、俺がボロボロになった頃だったよ……


 それでも湯上りの先輩の姿を見れたので、精神的には疲れは吹っ飛んだけどね!!



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