第103話ーー疑問は疑問のまま終わらせる事も時には重要です

 相変わらず走っております。

 ただいま名古屋北ダンジョン43層です。もちろん俺は人と砂袋人形を背負った上での、状態低下魔法を掛けられまくりながらです。どうやら背おわられるのはかなり疲れる事らしく、今回はハゲヤクザになっている。

 並走するのは師匠と鬼畜治療師、先輩と召喚獣3人衆だ。今回は召喚獣たちもダンジョン外から一緒に人型で潜っている。

 というのも、潜る前本部にて師匠から端末5台を渡されたのだ、今いる召喚獣とこれから出てくるであろうモノの分と言って。預かったそれは、どこからどう見ても俺が持っている端末と一緒だったのだが、これは国民の数しか本来ないはず……個人の証明証みたいな物なので、余っているはずはないのだ。また改造や偽造はかなりの重罪だったはずだ。中を見てみると、それぞれが見知らぬ女性の名前が表示されており、年齢は18歳から29歳とバラバラだった。これはどのような物なのかと怯えていたら、「考えるな」と一言だけ言われた……あと「親父から融通して貰った」とも。親父さん……つまり県警のトップから融通という事は、警察で押収したもの?いや、犯罪者も確か持っていていいはずだし……いや、でも……うん、わからないけれど、ダンジョン入口で顕現させたり、囲いを作って着替えコーナーを設けなくても良くなった事を喜ぼう、うどんが服を残して同化するホラーを見なくて良くなった事を喜ぼう。


 東さんたちと金山さんたちは5日前……つまり俺たちが東ダンジョンから地上へと戻って来た頃に、先行して潜り始めていたようだ。合流予定は100階層で、本日は60階層を目安に向かっているのだが、その辺は全て先輩の体力次第といったところかな。俺としてはかなりキツいので、出来れば半分である50階層辺りで止めてくれると助かるんだけど……


 今回の探索では、全員で150階層を目指す予定と聞いている。前回100階層までは無事行けたので、余裕だろうって話だ。

 そのために、俺の時空間庫は現在レベル6となり、6m×6m×6mの広さとなっているのだが、そこにこれでもかというほどに生鮮食品を始めとした食糧を詰め込んできた。ただケースで日本酒やウィスキーの瓶、ビール箱があったりしたのが怖い……どんだけ酒盛りする気なんだよ。150階層だなんて、かなりの最前線のはずなのに、この人たちにとってはピクニック気分らしい。


 ………………

 …………

 ……


 師匠から休憩の合図が出されたのは、53階層に到った時だった。

 合図と同時に俺と先輩は地面に倒れ込むように膝を着いた。


「小僧の背中は疲れるわい、まだまだ走り方が甘い、精進が足りんな」


 なんて、ただ乗っていただけのハゲヤクザに言われたんだけど……

 途中俺に教えるためだろう、師匠がつくねを背負って走る姿を後ろから見ていたんだけれど、確かに上下運動がないというのだろうか……上半身が安定しているのが見て取れた。きっとあれが目指す先なのだろう……まだまだ下半身の強化が足りない事がわかった。


 テントを出そうと辺りを見渡すと、なんかいつもより人が多いようだ。壁際のあちらこちらにテントが張られている。

 なるべく近くにならないような場所を探し、テントを設営して食事を摂る。

 ここで、ふっと気になった事があったので質問してみた。というのも、少し離れたところでシーカー同士の争う声が聞こえてきたからだ。


「例えば他のシーカーに喧嘩売られて、もしうっかり打ちどころが悪くて殺してしまったらどうなるんですか?」

「正当防衛か否かという話か?」

「はい、地上に出てから自首した方がいいんですか?」


 現在俺のステータスは鑑定では見れないようになっている。こういった場合って、自首してステータス開示するまでバレないのかな?なんて思ったりしたからだ。それ故に鑑定阻害スキルのスクロールが闇取引で高値でやり取りされているのかな?という事にも思い至った。


「ふむ……つまりどこからステータスに反映されるかと聞きたいのだな?」


 そう。

 ダンジョンはある意味密室だ、他人に見られている事さえなければ、一方が声高に正当防衛だと主張して、相手がいなければそれが成り立ってしまうのではないかと思えるのだ。


「まぁ……良いか。これから話す事は秘密の事だ。一般には知らされていないし、これからいくら時が経とうとも知らせる事はない話だから、心して聞くように」


 師匠は俺の質問に少し悩んだあと、ハゲヤクザと鬼畜治療師に目配せをしてから、真剣な顔をして、少々声を小さくして話し始めた。


「ダンジョン内での殺人は、ステータスには反映されない」

「はっ?」

「えっ?」

「つい過剰防衛で殺しても、正当防衛でうっかりを殺しても……それどころか、自ら殺しにいっても職は変わらないという事だ」


 言っている意味が理解出来ない。

 だって学校の授業では……いや、一般常識として、犯罪を行った時点でステータスjobは変わると教えられてきたからだ。


「えっ……でも、たまにワイドショーとかでダンジョン内で人を殺したとか、目撃者がどうだとか話題になっているじゃないですか」


 そうだ、つい先日もどこかの県のダンジョンで起きた事件を特集していたはずだ。確か……ダンジョン内で喧嘩となり、うっかり相手のパーティーの1人を殺してしまったという話だ。相手パーティーの訴えにより、犯人が特定されてとか何とか。


「あぁ、訴えられた事により刑が確定するまではステータスは変わらん。刑が確定すると、【殺人犯:懲役20年】などと変わるのだがな」

「えっと……もし、目撃者がいなかったり、訴えられなかったら変わらないって事ですか?」

「うむ、あとは本人が自首するまではな」


 ダンジョン内は治外法権?

 やりたい放題じゃないか。


「ほれ、他国で数十年前に裁判員制度を廃止したとか習わなんだか?」

「いや……わからないです」

「裁判員制度だとな、ステータスを開示されると話が変わってしまうのでな、廃止になったんじゃ」


 裁判員制度ってのはよくわからないけれど、横で先輩が納得したって表情で頷いているから、ここは賢く知っていた振りをしよう。


「故にな、まぁこれも他国の話だが、犯罪者組織が国に未発見のダンジョンを隠し持っていたりする所もある。なんせ黙っている限り罪にはならんし、死体はダンジョンに吸収されるからな」

「だからダンジョンを発見したら、速やかに国に報告する事が義務付られているんですか?」

「それだけでもない。ドロップを独り占めしてやろうとか、そんな狭い了見でいて、結局溢れさせる事になるのは目に見えているからな」

「何をしても、目撃者がいなければ、訴えられなければ罪に問われないのですか?」

「まぁそうだな」

「でも弁護士とかが、ステータスに反映されていない事を主張したりしませんか?」

「弁護士はこの事実を知っている……いや、知らされる、資格を取得した時点でな。もしこの事を一般人に漏らした場合は、資格は剥奪……職名も変わる。更には国家機密漏洩犯という名の職名に変わりもする。そもそも簡単には漏らせないように、資格取得時点である手段にてされている」


 にわかには信じ難い話だ。だってそれなら噂くらい聞いた事があってもいいと思うんだけど、一切……チラりとでさえそんな話は聞いた事がない。

 あとサラッと流されたけれど、ダンジョンに死体が吸収されるってなんだ?そういえば、モンスターはドロップを残して光となって消えるが、人間の死体は見た事ないな……


「あとな、それなら他国の者が……なんて、思ったりするだろうが、細かくは言わんが出来んようになっている。またインターネットなどでも書き込めん、書き込んでも反映されないし、それどころか特定され……教育される」

「……今私たちは教えて頂きましたが、織田さんは大丈夫なんですか?」

「そうだ!師匠大丈夫なんですか?罪に問われたりしませんか?」

「心配ありがとう、大丈夫だ。だがお前たちは漏らすなよ?もしこの話が漏れたら……例えそれが勇者である如月くんでも……な?」


 な?の前の間が怖いんだけどっ!?

 とんでもない事を教えられてしまった気がするんだけど……

 明らかに先輩の顔色が悪くなっているし。

 俺が質問した事が悪いんだろうけれど、聞きたくない真実だったよ!!


 なんでこんな事質問しちゃったんだろう……

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