第100話ーー名前負けじゃありませんか?
未だ名古屋東ダンジョンで特訓中だ。
先輩は鬼畜治療師とうどんと3人で、魔法を使わずにのままだ。
うどんはどうやら刀よりも薙刀が得意らしい。本人が言うには、遥か昔に妖狐として活躍?暴れていた時に人型でいる時に薙刀をよく使用していたという話だ。他には弓も得意だが、どうしてもモンスター相手だと一撃で屠る事がしにくいので薙刀という訳だ。その薙刀は師匠の魔法袋の中から出てきたのだが、なぜそんな物持ってるのか?と聞いたら、あらゆる種類の武器を持ち合わせているらしい……そして全て同じレベルで使用する事も出来るようだ。
先輩は相変わらず魔剣らしき物を使用しているのだが、きっと高いんだろうな〜いくらぐらいしたんだろうって思っていたら、なんと……勇者jobが発現した際に、国から……つまり探索者協会から贈られたらしい。しかも3振りもだ。これは己の身を守るって意味と、期待を込めてでの措置って話だ。
で、俺はというと鬼畜治療師が背中から居なくなって楽になるかと思いきや、人型のみっちりと砂が詰まった人形を代わりに背負わされている……どうやら最初から予定していたようだ。その重さは明らかに鬼畜治療師より重い、多分倍くらいある。そのためハンパなく足腰……いや、全身の筋肉が悲鳴をあげている。これほどキツいと思うのは久しぶりだよ。
それぞれ別に修行し続け、3日ほど経った朝だった、突然キツネが俺と師匠を呼んで話し始めた。
「主様、師匠様、そろそろ主様の口寄せの最後の4つのうちの2つは呼べますけどいかがしますか?」
「えっ?突然なんで?」
「主様の魔力がしっかりと貯まりましたので」
端的過ぎてよくわからないので、しっかりと説明をするように求めたところ、初めて顕現させるのにとてつもない魔力を必要とするらしい。
「それは先日のようにまた倒れる恐れがあるのか?」
「その恐れを加味して、十分な魔力でございます」
「えっと、前にうどんは呼ぶ時に試練があるとか言ってなかった?」
「はい、必要ですが主様でしたら大丈夫ですよ」
「その試練とやらは何を求められるのだ?」
「戦闘です」
「それには魔力を必要とするのではないか?」
「いえ、主様は魔力を使用しての戦闘は出来ません」
うーん、何だか嫌な予感がするんだよね。
多大なる魔力を必要とするとかさ……しかも縛りがある戦闘の試練とか。
でもレベルが6で止まっているのも、中途半端で嫌なんだよな〜
悩むところだ。
師匠は魔力欠乏により、また俺が倒れる事を心配してくれているけれど、それが大丈夫だとわかった途端に目を輝かせているから乗り気っぽいんだよね。
「で、なんで師匠も呼んだの?」
「試練は別空間で行われます。その際に主様の半径1m以内に居る場合は、一緒に飛ばされますので。ただ試練は主様しか受けれませんが」
ますます嫌な予感がするんだけど?
何その別空間での試練って……明らかに普通の召喚獣じゃないじゃん。
「わざわざ言いに来たという事は、うどんは横川が試練に挑んでも大丈夫だと思ってのだな?」
「そうでございます」
「横川試してみたらどうだ?」
どうやら逃げられないようだ。
覚悟を決めるか……
「名前はなんて言うの?ってかどうやって呼べばいいの?」
「はい、四神降臨の後に、朱雀・玄武・白虎・青龍のどれか1つの名をお呼びください」
「四神……」
以前から抱いていた嫌な予感が当たったよ。やっぱり四聖獣……いや、四神と言った方がいいのかな?なんで一介のただの人間のスキルに、神の名を持つものが出てきちゃうんだよ!!
さすがの師匠もびっくりしたらしくて、珍しく口を開けて固まっているよ!!
「一応、それぞれの特性を聞いてもいい?」
「はい、朱雀は火を、玄武は土を、白虎は水を、青龍は風を司ります」
「他には?」
「色々とありますけど、本人たちに聞いて頂いた方がいいかと。自分の口で話したいでしょうし」
「えっと、まだ火遁と水遁しかレベルMAXになってないけど大丈夫なの?」
「はい、ですので現在召喚可能なのは、朱雀か白虎となります」
あぁ、何となくそうじゃないかな?とは思っていたけれど、やはり火遁などは関係しているのね。
それにしても……四神か……
「……念を押すが大丈夫なのだな?」
「もちろんでございますよ!」
「横川、呼ぶかどうかはお前に任せる」
おうっ……
珍しい、何でも「試してみよ」とか言う師匠が「任せる」だなんて。
でも、これは悩むところだよね。
「主様、白虎は大きく立派なトラでございますよ?きっと香織様もお喜びになりますでしょうね〜」
だろうね……
いや、わかるんだけどさ、そのトラは神の名を持つのが問題なんだよね。
決断がつかずに悩み続けていたんだけど、なぜかうどんが困ったような顔をしているのに気が付いた。
「何で困った顔してるの?」
「えっと……言いにくい事なのですが……」
「何?」
「主様が自ら呼ばずにいると、その内勝手に出てくる事もあったりなかったり……」
「えっ?」
何その仕組み!!
勝手に出てくるってなんなんだよ、それは。
「今も出たがっておりますし……」
慌ててスキル一覧を確認するも、口寄せの狐以降は何も書かれていないようだ。
「うどんは声が聞こえるの?」
「まぁ、はい」
声が聞こえるって事は、既に俺の中にいるって事なのかな?
ってか妖狐って妖怪の一種だから、神の名を持つものとは反するんじゃないのか?それなのにまるで友人のような口ぶりなのが不思議だ。
いや、それよりも俺のスキルってどうなってるんだ!?
もう理解が追いつかないんだけど!!
「さぁ呼びましょう、まずは白虎ですよね」
「勝手に出てくるよりは……うん、そうだね」
よし、覚悟を決めよう。
白虎が出てきて、先輩がモフっている事を想像するんだ、蕩けた笑顔を想像するんだ!!
「では呼びますね……」
「わかった、見届けよう」
「四神降臨!白虎!!」
ちょっとヤケ気味に叫んだ途端、辺りはまるで空の上のような場所となった。床は宙に浮かぶ雲のように、白いモヤが広がっている。
「我が名は白虎、我が仕えるだけの威を示せ」
声の元を辿ると、100mほど離れた前方に3階建てのビルのような大きさの青と白のストライプのトラが居た。
威を示せって事は、戦うって事だよね。ここまで来たらもうやるしかない。
あっ、そういえば重しを付けたままだった。師匠に確認をとって外すと、めちゃくちゃ身体が軽い。なんか師匠たちのリアル分身を今なら出せそうだ。
「では参ります!」
デカすぎてどう相手にしたらいいのかわからないけれど、とりあえず全力で突っ込む。
これだけの巨体を支えている足だ、1つを潰せばきっと大きくダメージを与えられるだろうと考え、右足へと両腕の刀で斬り付ける。
んっ?
意外に柔らかい?
いや、相手は神の名を持つ強大なトラだ。油断をするな、師匠たちに仕込まれた事を全て出し切ろう。
「ぎゃああああっ!!」
なんだ?
トラとは違う変な唸り声なんだな。
「わかった!主の威はわかった!やめいっ!止めてっ……止めて下さい!!」
頭上から雨が降ってきたと思ったら、どうやら泣いているようだ。
えっ?
もしかしてこれで終わりなの?
「我の毛は1本1本が鉄よりも硬いはずなのに……なぜ易々と……」
「主様はお強いのですよっ!」
「お主の言う事は真実だったとは……主様、どうか仕えさせて頂きたい」
…………本当にこれで終わったらしい。
なんだろう、俺の悲壮なる覚悟を返して欲しい。
「主様、返事をしてあげて下さい」
「あぁーうん、よろしくね」
「はい、よろしくお願い致します」
よろしくされちゃったけど、こんなデカいトラ出す機会はなさそうだけどね。
「師匠、終わったようです」
「あぁ見ておった……見掛け倒しであったな」
「ですよね」
本当に見掛け倒しの、名前負けだと思う。
神の名を持っててはいけないと思うんだ。
いや、それよりもなんか疲れたよ……
色々と……色々と……
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