第98話ーー嫉妬の嵐が凄いです

 世の中にはある一面でしか物事を捉える事が出来ない者がいる。他の事には目を瞑り、己に有意である事にしか目を向けない。

 何が言いたいかというと、先輩でのお家デート後の話だ。嫉妬によるイタ電やピザの偽発注、嵐のようなDMなどで終われば良かったのだが、俺が孤児院で生活しているという事で、国家運営による孤児院で暮らしている奴が生意気だと、孤児や孤児院を好ましく思っていない者までもが参戦してきたのだ。


 孤児院は国家運営……つまり院長先生や職員さんは公務員という扱いだ。そして俺たち孤児は税金で生活している事は確かに事実だろう。だが全て奨学金という名の借金、国にお金を借りて暮らしているのも事実だ、jobが出現し、学生という身分が終われば返済していかなければならない。だが攻撃する者たちは皆が、前者である税金で暮らしているという事だけを責め立てる「俺たちの払った税金で暮らしているくせに生意気だ」という訳だ。そして先輩のファンは、先輩が18歳という事もあり、15〜20歳半ば前後の男女が多い。そのためにその攻撃手段は過激になりやすかったりもした……そして起こった事は、爆破予告、放火未遂、誘拐未遂、大量の商品着払いなどなどだ。当然逮捕者が続出した。全て未遂で終わっている事が幸いなのだが、今や俺の孤児院の前には常時警察官が警備に立つほどになってしまっている。

 子供だけが嫉妬から暴走しての事件であれば速やかに終結しそうなものだが、先日の知事のように孤児を、孤児院を嫌いバカにしている大人もまた多い。そのために事態は俺たちの住む一部では終わらず、少しづつ拡がってしまっているのが現状で、ついにはニュースで『孤児院への嫌がらせが多発』だなんて、取り上げられるようにもなってしまっている。更には元々の俺が先輩の家にお邪魔した事さえ、忘れ去られている面も見受けられるようにもなり始めている。


 まぁつまり何が言いたいかというと……

 嫉妬怖い!!

 爆破予告って何だよ!!

 何、小さい子を誘拐しようとしてるの?

 灯油撒いて放火ってどういう事!?

 物騒過ぎて怖すぎるんだけど!!

 まぁ全部警護に付いてくれていた一全の人たちの手により、未遂に終わったらしいんだけどね……本当に師匠には頭が上がらなくなっちゃったよ。

 あぁ、もちろん俺にも直接暴漢が襲ってくる事もあったけど、普段師匠たちのような化け物レベルの人たちと手合わせしている俺としては余裕だったよ。気配も殺気もダダ漏れだし、動きは遅いし、せめて訓練になるくらいの人間が来て欲しいよね。いや……でも師匠レベルが来たらそれはそれでヤバいんだけどね。


 ただ俺が孤児院にこのまま暮らしていると迷惑をかけるのも事実なので、避難という形で師匠の家にお邪魔する事となっているのだ……あの豪邸の一室で暮らす事となっている。全く気が休まる時がない、どこかに近衛の人たちが潜んで居そうだしね。

 で、一緒に暮らすようになって知ったんだけど、元御館様……つまり師匠のお父さんは愛知県警の本部長さんだった!!そのお陰もあって、比較的速やかに孤児院の警護に警察官が配置されたというのもあったらしい。

 長男は師匠だけど、次男さんは同じく県警のエリートさんで、三男さん四男さんは師匠の補助として一全本部で働いている。五男から八男さんは各班で組長の元で働いていて、他に数人の娘さんがいるらしいんだけれど、それぞれ既に嫁いでいるらしい。しかもその内の1人は、ハゲヤクザの息子の1人と結婚しているそうだ。

 あと気になっていた事も聞けたりした。例えばなのになぜ組長なのかとかね。説明によれば、元々は武術とか研究とかそういった分け方はしていなかった。昔の形そのままに織田という御館様を筆頭にして、各家がそれの下にいた。各家はそれぞれに色んな人材を抱えてね。その際〇〇家ではなく、〇〇組と呼ばれていたのだけれど、時代やダンジョンの出現、jobなどのステータス発現と共に効率などを考えるようになり、得意分野毎に分けられるようになりとなったんだけれど、これまでのという考えが抜けぬままに班長の事を組長と呼び続けていた。そしてそれが改められる事もなく、現代にまで続いているのが原因らしい。


 本部御屋敷での生活は、とてつもなくハードだ。1日の内のほとんどを修練して過ごすのだ。師匠は事務作業などがある為に参加しない日も多々あるけれど、さすが本部というべきか……近衛の人たちや武術班の組長、見習いの人たちがいるからね、休む暇なく延々と修行となる。

 これまでは孤児院に帰る時間とか、そういった時間が休憩でもあったわけなんだけど、それすらない。しかも寝ている時にさえ、奇襲夜襲の訓練だとか言って襲ってくるから始末が悪い。分身出して置くのは禁止されているし、影に潜って寝るのも禁止されているので、最近は寝不足気味だ。常在戦場?時代錯誤も甚だしいよ!!



「横川くん、これはどうかな?」


 おうっと、せっかくのお休みでしかも先輩とデートだというのに、最近の出来事を思い出してしまっていたよ。


「可愛いです」

「ほんと?じゃあこれにしようかな〜」


 今日は大須に買い物に来ている。

 えっ?ヘイト集めまくって大変な時に更に煽るような事すんなって?師匠や元御館様……ご隠居さんって呼べと言われているんだけど、ご隠居さん曰く「そういう奴は将来的に犯罪を犯すかもしれないから、この際炙り出すのに有用だから行ってこい」だそうだ。だからさっきから視線と共に刺すような殺気に囲まれていたりもするんだけどね。


 デート……幸せだ。

 ただ惜しむらくは……


「主様、うどんは似合っておりますか?」

「あぁーうん、いいと思うよ」

「香織様と違い、感情がないじゃないですかっ!」

「カワイイヨ」

「もうっ!」


 狐のうどんという邪魔者もいる事だ。

 まぁ今回のデートはうどんありきの話ではあるんだけれどね。


 本部で暮らす事となった際に、ついでに顕在化させる事となった、獣ではなく人型としてで、俺と同じくらいの年齢の女の子の姿だ。これは本人?本獣?が強く望んだのと、話すという特異な事を隠すためには人型であった方がいいという考えの元でもある。顕現させた理由としては、あまりにも『出して下さい』とうるさいというのが1つ。もう1つは、師匠が話したい事があるという為だ。それもあって俺の修行中は、ずっと師匠のそばで仕事を手伝ったり話したりしているらしい。

 ではうどんの情報……つまりうどんが俺のスキルの召喚獣だと知っているのは、近衛の人たちと師匠たちだけというのは変わっていない。生活するにあたって、1番そこに気を使っているという面があったりもする。

 で、変化の際に服装が着物なんだけど、本人が言うには、着慣れていた物の方がイメージしやすいために、長らく着物で過ごしていた事からどうしても着物になってしまうらしい。

 で、本人が着物ではなく今時の服を着たいとか言い出したんだけれど、年頃の洋服なんて持っているわけもないし、師匠や俺がオシャレに詳しい訳でもない。そこでうどんが狐だと知っていて、尚且つ年頃の女の子といえば先輩だという事で相談した結果、今日大須でデートという形となった。

 ちなみに鬼畜治療師が「私がコーディネートしてやるよ」と名乗りをあげてくれたんだけれど、「なんか古くさいですね」とかうどんが呟き、ボコボコにされていたよ……そのため今日着てきている服は、鬼畜治療師の娘さんのお古だ。


 先輩は肌の露出が少なめで、あまり華美ではないすっきりとした服が好みのようだ。反対にうどんは派手な服が好きみたいだ、伝説の傾国の存在だったのがまたしても裏付けられる感じだ。

 先輩は何を着ても似合うし可愛いんだけれど、悔しい事にうどんも似合っているし美人なんだよね……本当に悔しい事に。まぁ中身を知っているから見蕩れたりする事は絶対にないけれど、もし知らない人が見たらモテるんだろうなっとは思う。そしてそのためにさっきから『如月さんばかりか、美人を連れていて生意気だ』っていうDMが来たり、そんな事が話題になっているようだ。


 嫉妬怖い……

 けど、嫉妬しろ!!嫉妬しろっ!!

 アマとキムはうどんという存在を知っているんだけど……もちろん口外禁止を言い含めての話だけれどね。で、2人それぞれにうどんだと言わずに、うどんの人型写真を送ったんだけど、『どうせ狐が変化した姿とかそういうオチだと思うから、嫉妬はないな。いや、それどころかそんな写真を送る事しか出来なくて可哀想』とか言ってきやがったよ!!

 その通り過ぎて悔しいっ!!


 まぁうどんの服を買いに来たとはいえ、先輩とのデートって事実には変わりないから、そこを喜ぼう!!


 老舗のみたらし団子屋さんで買い食いしたり、服を買ったり、大須観音をお参りしたりと充実した1日だった。


 さっ、明日からは名古屋東ダンジョンでの探索だ。気力も充実したし、頑張るぞっ!!

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