第97話ーー宇宙の真理を見たようです
ピンポーン!!
2回目のチャイムを押して、ドキドキしながら反応を待つ。
前回はドキドキし過ぎていて、周りの視線などに気付きもしなかったけれど……うん、誰かがじっとこっちを見ている気配があるね。俺の気配察知の範囲外だけど、確かに殺気混じりの視線がある。きっとこれがSNSなどに拡散した奴なんだろう。そしてまた今回も、今頃必死に書き込んでいるんだろうね、なんたって今先輩が玄関まで迎えに来てくれているし。
そう、また俺は先輩のお宅にお邪魔しに来たんだ。
なんでこうなったかといえば、話はゲテモノダンジョン脱出にまで話は戻る。
サクッとボスを倒して脱出後、探索者協会へとそのまま向かった。収穫は意外にも結構なお値段になった、ざっと計800万円程だ。ちなみにGの羽根なんだが、1枚700円での買取だった……なぜこれ程までに高いのか?どうやら撥水性、強度などから俺が知らないだけで家屋の瓦がわりに使われている事もあるらしいのだ。他の虫素材も生活に密着したところで色々使われているとの話を協会職員の方から聞かされた。
まさかの事実だったよ……虫関係素材が、そんなに近いところで代活躍しているだなんてさ。
上記の事を知った時の先輩たちの表情と言ったら……顔真っ青で愕然といった感じだった。まっ、そりゃそうだよね、もしかしたらGハウスの中で暮らしているのかもしれないわけだし。
帰りの車は2台に別れてだった。先輩たち一行は、金山さんの運転する車で来ていたんだ。「一緒に乗ってく?」とか魅力的なお誘いがあって、ついフラフラと金山さんの軽乗用車に向かって行きそうになるのを首根っこ掴まれて、師匠たちの車に乗せられた。せっかく両手に花状態を味わえると思ったのに!!
誕生日なんだけど、アマとキムに連絡をお願いとったところ、やはりすっかり忘れていたようだ。そして彼らは2泊3日の予定でダンジョンにちょうど突入する寸前だったらしく、めちゃくちゃ羨ましがられた。そして毎年恒例の誕プレ交換会は今度休みがあった時ってなんった。猶予が出来て良かった……ことしは何にすべきか。ちなみに2人に贈るのではなく、俺はアマに、アマはキムに、キムは俺にといった感じだ。同時に2人分の誕プレを買えるほどのお金はなかったからね、値段も3,000円までと縛りを作っていたんだけど……今年はそれももういいかなって思っている、それなりに稼ぐ事も出来ているしね。って言っても、10,000円くらいまでが限界だとは思うけど。
で、ですよ。
結局師匠たちに誕生日という事でお休みにして貰ったのに、早々に何の予定もない事が判明してしまったわけでもありまして……
ここで俺は勇気を出してみた、具体的に言うと先輩に『明日誕生日なのでお祝いして下さい』と素直にLINEしてみたのですよ。そしたらなんと!!『じゃあケーキ作るから、良かったら家に来てね』だなんて、奇跡の返事がっ!!
出して良かった勇気!
言ってみるもんだね!!
ただちょっと『ケーキを作る』という言葉に不安を感じないわけじゃないけれど……
さすがにケーキはきっとお義母さんが手伝うはず……さすがに修正してくれるはずと信じたい!!
大きさによっては、俺の命日は明日かもしれなくなっちゃうしねっ!!
約束が出来たことで浮かれていたら、当然師匠たちにも気付かれる訳でして……
だが意外にもみなさん優しく、喜んでくれた。
あと「誕生日プレゼントは何が欲しい?」って聞かれたんだけど、装備は夏に頂いたので十分間に合っているし、お年玉も貰ったしね。だから特に思いつかないのし、気持ちだけでありがたいとお断りしたんだけど、師匠としてそうはいかないとか何だかんだ言われてた。そして結局決まったのは……
一昔前は、車の免許などは18歳にならないと取れなかったらしいのだが、シーカーとして活動する際に遠出する事もある為に、高校3年生になっている事と、シーカーとしての活動を行っており免許取得が望ましいと探索者協会の推薦を貰う事で可能となる。
そういう事から、免許取得と車とバイクの代金などその辺に掛かる費用全て払ってくれるという話になった。車だけじゃなくてバイクも?って話なんだけど、そこはハーレーダビッドソン乗りの師匠の強い押しがあっての事だ。俺としては特にバイクに魅力を感じていなかったんだけど……
「後ろに如月くんを乗せてツーリングとかいいんじゃないか?ほら想像してみろ、背中からぎゅっと掴まれて……」
なんて珍しく師匠が饒舌に、しかも俺が興奮するような事を言うから、つい「最高ですね!お願いします!!」と言ってしまったのです。
まぁ、3月半ばから2ヶ月ほどの予定でダンジョン探索があるらしいので、早くても免許取得は夏前くらいになるから、まだまだ先の話になるんだけどね。
「おはよう、いらっしゃい」
先輩の笑顔が眩しい!!
そして今日も可愛い!
「お邪魔します」
「あっ、モフ……横川くんいらっしゃい!」
またしてもお義母さんがモフ川って言おうとしているし……
平日なのになぜいるんだろうかと思ったら、どうやらモフモフたちに会いたくて急遽仕事を休んだらしい。そこまでハマっているとは思わなかったよ。
前回と同じリビングへと案内されて、目の前には脱臭炭の数々……じゃない?普通の色をした、美味しそうな匂いのする料理の数々が所狭しと並んでいる。
これはどういう事だろうか?もしかしてたった2週間ほどで、劇的に腕が上がったのだろうか?
「モフモフのお礼に、食事は私が作ったのよ〜」
「本当はね、料理も私が作るつもりだったんだけど、お母さんがどうしてもって言うから」
「嬉しいです、ありがとうございます」
「あっ、でもケーキをは私が作ったから期待しててね」
「はいっ」
お義母さん、ナイスです!!
もし目の前に並んでいる料理と、まだ見ぬケーキの全てが全て先輩の手づくりだったならば……それはそれで嬉しいけれど、多分胃が死んでいたと思います。
ズボンの中で小刻みに震え続けるスマホを感じながら、大変美味しく料理を頂いた。さすが製菓学校の先生なだけあるよね、どれもがめちゃくちゃ美味かったよ。
そして満を持してのメインディッシュ……チョコレートケーキよりも更に黒い大きな塊が出てきた。先日見たGたちよりも黒光りしているソレ。
「横川くんのためだけに作ったから、たくさん食べてね」
言葉も気持ちもめちゃくちゃ嬉しい。
だけど直径30cm、高さ20cmもあるコレを1人で食べるのは無理があると思うんだ……もし味がまともであっても、かなりキツい量だと思うし。
「ありがとうございます!!でも僕だけでは勿体ないので、よかったら一緒に食べましょう」
「……料理中に結構つまんじゃって、お腹いっぱいなのよ。それに香織がモ横川くんのために作ったのだから、私が食べたら怒られちゃうから」
お義母さん……もしかしてその一言を言うために、さっき料理をめちゃくちゃたくさん食べてたんですね。
でもね、目を逸らしながら言ったらダメだと思うんです!!
「もうっ!お母さんは余計な事言わないでっ!ほら、食べて食べてっ」
覚悟を決めて口にしたソレは……
何も言いたくない。
ただ俺はもしかしたら宇宙の真理が見えたかもしれないとだけ。
まぁ後の流れは前回と一緒だ。そして食べきれなかったケーキをお土産として渡された事も、トラを置いてきた事も、孤児院にピザが届いていた事もね。
それから4日後に、アマとキムとは会った。そして無難にお互いTシャツとかを送り合い、ちょっと豪華に矢場とんで食事をした。
ゆるやかな日常を楽しみ、未来に夢を見ているこの身に、大きな悪意と欲望による波が押し寄せて来ているなんて、この時は思いもしていなかった。
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