第92話ーー呼び出しの意味が違うようです

「おっ、生きてた」

「爆弾とか届かなかったか?」


 昨夜LINEしたというのに、ニヤニヤしながらのこの発言……全く親友だというのにどういう事なの!?


 今日は久しぶりの学校だ、新学期始まって既に1ケ月経っているのに初登校だなんて、いくら大丈夫だと言われても本当に卒業出来るのか不安になる。

 気になるのはアマとキムも出席者しているところだ……偶然登校が重なった訳ではないような気がするんだよね、師匠たちに俺たちの心の平穏をコントロールされているような気がする。現に俺の今週の予定は全部登校して、その後訓練施設へ集合という日程なのだ。

 なぜ示し合わせたような予定になっているのかと思っていたら、それは先生が来た事で判明した。明日から金曜日まで期末テストがあるらしいんだ。本来の期末テストはもう少し後のはずだけど、このクラスは卒業後の予定が決まっているためと、俺たちのように修行や探索に忙しいという事での日程のようだ。

 新学期始まって初登校だというのに、次の日からテストとか不安しかないけれど、先生が言うには2学期末のテストと内容は同じらしい……ヤバい、ギリだったから不安が消えない!!


「襲われる事はなかったけれど、院に帰ったらピザパーティーになったよ、何故か俺が頼んだ事になっていて」

「いくら分くらい?」

「だいたい10万円弱かな」

「巨大掲示板にヨコの名前とか住所電話番号が晒されたみたいだぞ」

「それでか……非通知もパンパなかったわ」


 そう、鳴り止まぬSNSの知らせや非通知の電話などを処理しつつ帰宅したら、ピザ屋の配達員と玄関で一緒になったんだ。そして知らされた俺の名前での発注という不思議。もちろんイタズラたと断るつもりだったんだけどね……


「まぁまぁ、ちょうど今から夕食の支度をする所だったのよ〜みんなに幸せのお裾分けだなんて嬉しいわ」


 なんていう院長先生の純粋な喜びの声に、断る事なんて出来ずに協会端末で決済したんだよね。

 この調子だと他にもうなぎ屋とか色んな所から届くかと怯えていたけれど、それはなかったので安心したけれど。ちなみにピザの犯人は検討がついている。犯人……それは配達員の男だろうってね。理由は簡単、持ってきた時ニヤニヤしていたし、普通に受け取って払ったらビックリしていたしね。あと院長先生の言葉にも俺より驚いてたしさ。もうバレバレだったよ……訴えはしないけどね。なんでかって、院長先生を初めとした先生たちや、小さい子たちがめちゃくちゃ喜んでくれたからね……若干俺自身が頼んだわけではない事が悪いと思えるほどだったし。


 俺は食べれなかった……量的な問題ではなくて、先輩作の脱臭炭が胃にかなりきていたようで……ね。

 そうなるとチョコはどうだったんだ?って話になると思うんだけど……全12個入の物体Xだったよ。この木刀でロックゴーレムさえ斬れるようになった俺が、どうやっても斬れない黒い塊とか、訓練後口の中がズタズタになっている状態で超激辛カレーを食べさせられたような刺激ある塊だとか……うん、全部が全部そんな感じだった。

 それでも捨てずに全て食べきった俺はエラいと思う。

 涙が零れたのはきっと嬉しさのせいだと思うんだ……そう信じたい。


「ってかアマは何なのあの写真のチョコレートは」

「ついに俺にもモテ期が来たのかもしれん。販売員の子たちや薬師仲間から貰った」

「義理だろ?」

「素直に羨ましいと言え」

「べ、別に羨ましくなんてないわ!それに俺はエミちゃんからも孤児院にチョコが届いてたしな」

「はっ!?ふざけんなっ!昨日はそんな事言ってなかったじゃねえか!!」


 ふふふ……このアマの反応が見たかったんだよね、昨夜我慢したかいがあった。

 届いたのはピザだけじゃなくて、えみちゃんからのチョコレートが宅急便で届いたんだよ。『お互い頑張ろうね』っていう直筆メッセージ付きでね。


「なぁお前らなんで俺には何も聞かないんだ?」

「えっ?キムはアレじゃん、どうせ山ほど貰ってるのは毎年の事じゃん」

「そうそう、今年は日曜日だったから学校がない分少ないかな?って思うくらいだろ」

「それでも何かあるだろ?」

「今年は荷物持ちしなくて良かった」

「今年は心の平穏が保たれた」

「寂しい……」


 そんな不満そうなされても……

 毎年顔だけを見て惚れたのか、同級生だけじゃなくて上下級生に呼び出されたり、待ち伏せされたり、ロッカーなどに詰め込まれたりしていたんだよね。そして1人では持ちきれない分を荷物持ち代わりに持たされた俺たちの気持ちと言ったら……

 まぁ今年もロッカーや机の中に詰め込まれていたみたいだけれど、魔法袋があるから大丈夫だろう。

 何よりも、直接渡すのが恥ずかしいからといって、俺たちが呼び出されて配達員代わりにされる事がなくて良かったよ。


 そういえば猿こと若狭も学校に来てはいたけど静かだった……相変わらずじっとりとした視線と時折ニヤつく視線が気持ち悪かったけど。また何かを企んでいるのかな〜?今度こそ何かやらかしたら一全流を破門になるんじゃないの?その辺考えて大人しくしておいて欲しいところだけれど、まぁそんな事を考えられるようだったら両親を失ったりする羽目にもならなかったんだろうけどね。

 ってか、1番気になるのは、まだ草履取りなのかどうかって事だね……


 授業は全てこれまでの復習というか、プリントを渡されての自習だった。プリントに全て要約が書いてある感じ。きっとこれさえしっかり読み込んでおけば、テストは余裕だって事なんだろうね……助かった!!


 だけど……だけどさ……授業の合間合間に俺たちにこんな災難が襲ってくとは思わなかったよ!!

 バレンタインデーは昨日だったはずなのに、キムはチョコを渡され告白ラッシュだ。「私だけの武器を作って下さい」なんて言われている様子を見ると、どうやらjobを知って将来豊かだと踏んでの打算的な者も多数いみたいだね。まぁいつも通りの顔だけでの告白も山ほどいるみたいだけれど。

 アマはキムへの取次ぎ&時折告白もされているようだ……こちらはほとんどが打算的な告白のようだけど。

 そして俺はというと、男子学生からの呼び出しだ。内容は昨日の先輩のお宅訪問の件だ。総じて「生意気」だとか「身の程知らず」だとか言って暴力に訴えてくる人たちばかりだったよ。なんで2人はどこか甘い雰囲気がある時間なのに、俺だけ殺伐としているんだよ!!まぁ殴り掛かられても避けれるし、師匠たちに比べてたら圧も威力もスピードも無いに等しいので、何も問題はないんだけどさ!!それよりもウッカリ反撃してしまわないようにする方が大変なくらいだった。


 だから授業全てが終わったら、3人揃って急いで学校を出たよ……初めてじゃないかな?こんなに訓練施設に早く行きたいと思ったのは。

 朝はちょっとお腹の調子が悪くて、遅刻気味だったので急いでいたのもあり正門ではなくグラウンド横の壁を飛び越えて登校したから気付かなかったんだけれど、どうやら正門前で俺を待ち構えている人たちが山ほどいたらしい。まっ、面倒くさいので全力で駆け抜けたけどね……アマとキムが他校の女子生徒に捕まっていたけれど知らん!!

 う、羨ましいから放置とかじゃないから!!

 施設に着くのが遅れて、師匠さんたちに怒られればいいとか少しも思ってなんてないから!!


 全力で施設に走って行くと、既に先輩がいた。でも金山さんたちは居ないので不思議に思って聞いてみたところ、先輩もキムのような状態になる事が予想される為に休んだみたいだ。そういえば毎年バレンタインデーの日は学校に来ていなかったのを思い出したよ。そりゃ今年はもっと大変な事になるのは予想出来るもんね……所在地が確実にわかるのは最後だし。

 ふふふ……そんな先輩から手作りを貰ったと考えると、改めてニヤつきが止まらないよ。

 ……チョコという名の物体Xではあったけどさ。


 本日の指導はハゲヤクザと鬼畜治療師と久しぶりの教官だけだった。先輩たち一行とアマとキムは教官指導の元に筋トレがメインで、俺は2人といつも通り手合わせという名のシゴキだった。


 ちなみにアマとキムは1時間ほど遅刻してきたんだ。当初は怒られると思っていた……思っていたんだけど理由を知り、そして俺だけ早く来れた事を知った師匠たちは、優しい目で肩を叩いてきたよ……


「あれね……まぁ心を強く持ちな」

「小僧……飴でも食べるか」

「横川、頑張れよ」


 とかって、無駄に優しい言葉を掛けられたよ……

 クソーッ!!

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