第93話ーー遠く離れていても友達です
テストは何とか無事乗り切った。
えっ?ほぼ答えが載っているプリントを渡されておいて、何とかとかってヤバいって?
それはそれ、これはこれ……
覚えるのと書くのはまた違うのですよ。
ただ今回俺は学習した、分身を影の中に潜ませておいて、念話で答えを教えて貰えば満点が取れるという事をだ。何で俺は今まで思い付かなかったのか悔やまれる……いつか資格試験が必要になったら試してみようと思う。そういった会場には、スキル使用防止の策が施してあるとか噂を聞くけれど……バレなきゃ問題ないのですよ。
まぁそんな話はおいといて、無事3人とも3年生になれそうです。
っていうかクラスのみんな全員が大丈夫みたいだけどね。若狭も今回は赤点じゃなかったみたいだし。
テスト期間中も訓練施設での修行は毎日行われた。もちろんアマとキムや先輩たち一行も一緒にね。
やはり人の口に戸は立てられないと言うべきか、アマやキムのjobがバレているのが表れだろう、俺たちが稀少jobだとの噂が出回っているらしい。その事から2人は自己防衛出来るだけの力を付けさせる事が急務なようで、先輩たち一行と共に教官と鬼畜治療師による激しい訓練が行われていた。
俺?俺はそれらを下にして、空中や壁天井を足場に駆け回りながらの手合わせですよ……相変わらずの。
ちなみにアマとキムへの延長バレンタインもずっと続いていたし、俺への嫉妬に狂った男たちの待ち伏せも続いていたよ。さすがに学校内での呼び出しはなくなったけどね、暴力に訴えようとしても勝てない事が広まった結果みたいで。そして待ち伏せも全て躱してやったよ……いちいち相手するの面倒だし、何よりも修行の時間に遅れると怒られるし、先輩に早く会いたいしね。
そして今日はまた名古屋北ダンジョンを全力疾走しております。いつもと違うのは、俺はアマを、師匠はキムを背負って走っているって事だ。
当初は護衛しながら60階層まで行くって話ではあったんだけれどさ……
「2人は走れないから今回はゆっくり行くんですね」
っと、つい走らなくていい事を喜んでしまったばかりに、何故かおんぶして走る事になってしまったのです。
ただ不思議な事に、以前より筋力や体力が付いたのか、体感では同スピードで走れている気がするんだよね。
「ちょ……目が回る……もっとゆっくり……助け……」
背中からアマの悲鳴のような声が聞こえてくるけれど……
乗り心地はどうやら最悪のようだ。
そりゃそうだよね、壁や天井走ったり、ガンガン飛び跳ねまくってるんだからさ。
だけどアマの声は聞こえてくるけれど、前方を走る師匠の背中からキムの声は聞こえて来ないんだよね。何が違うのか?上下運動がないって事なんだろうけれど、同じようにしているつもりだが違うらしい。まだまだ師匠の身体的レベルや技に追いつくのは遠いようだ。
「キム、場所交代しようぜ」
「あの悲鳴を聞かされてOKは出さん」
「頼む……吐く……ゔゔっ」
なんてやり取りが30階層で1度休憩した時にあったとかなかったとか……
うん、アマに申し訳ないので、俺はそっと渡したよ……ビニール袋に紙袋を重ねたエチケット袋をさ。
背中に掛けられたら最悪だからね!!
キムはわかるけど、アマまで告白ラッシュだったのが気に入らないとか、別にそんな事を思っていつもより多く壁や天井を走っているわけじゃないよ?「ヤベーモテ期到来……困るわ〜あっ、ヨコごめん。お前は男にモテてるもんな」とかニヤニヤしながら言ったことを根に持っているわけじゃないんだ、うん。
60階層に到達したのは、以前よりも早い時間だった。負荷を掛けて早く着くなんて、修行の成果が確実に反映されている事がわかって嬉しくなる。あの厳しくツラい時間はムダじゃなかったんだってね。
……まぁぐったりしているアマには申し訳ないけれども。
今回なぜ2人が一緒に来ているかというと、アマは薬草や木の欠片が必要で、キムは鉄鉱石を採取するためだ。
2人から聞いたところ、同じ薬草や鉱石でも階層が下に行けば行くほど質が良かったり、魔力の内包量が多くなり、より上質の物を作るために必要になるらしい。
じゃあわざわざ危険を冒して潜らなくとも、依頼すればいいんじゃないの?って思ったんだけれど、特に薬草は採取の仕方や保存方法1つで大きく品質が変わるために、そう簡単に依頼で集めれる物でもないらしい。薬草などの採取方法講座などをシーカー向けに開催しているが、受講者のほとんどが上層にしか潜らない者が多いらしい。その為今回は俺に採取方法を伝授するためにも同行となったわけだ。キムは……まぁ巻き添えに近いみたいだけどね。
薬草も鉱石も下層になればなるほど買取単価は高くなり、100階層にでもなると
テントをはって2人をとりあえず休ませ、分身を警戒用に出したあとは、いつも通り俺は休む暇なく修行だ。
そしてその後はアマたちに教わったり、休んだり修行をしたりと繰り返す事3日で帰還した。
一応、あくまでも一応2人はお客様扱いらしいので、今回の修行はそこまで派手で激しい事もなくて、かなり楽だった。
毎回この程度だと楽でいいな〜なんて思っていたんだけど……そんな事が許されるはずはないよね。
「「ありがとうございました」」
2人が師匠たちに頭を下げて帰って行った後だった……
「最近は散々海の物ばかり食べて飽きただろう?」
師匠の優しく問い掛けてくるような言葉が発せられたのは。
この優しい雰囲気は危険なやつだ。
海の物ばかり食べて飽きたとかないし……ついさっきまでダンジョンに居たんだからさ。
「いえ、魚とか美味しかったです」
「そうか魚は好きか」
「はい……」
「では川魚が美味しい所に行こうな」
まぁ何を言っても結果は決まってるって事はわかっていましたよ。
「どこに行くんですか?」
「香嵐渓から少し奥に行ったところに小さなダンジョンがあるんだがな、最近探索者が来てないので溢れる恐れがあるので間引きして欲しいとの依頼があったので受けた」
「今からですか?」
「ああ、地元住民の方々が不安に思っているからな。ちなみに如月くんたちも一緒だから喜べ」
うん、先輩が一緒なのは確かに嬉しい、嬉しいんだけどさ……やはりこの人は鬼だ。
なぜなら香嵐渓ダンジョンの別名はゲテモノ地獄だ。クモやムカデを代表とする節足動物や、ヘビやトカゲなどの爬虫類系のモンスターしかいないダンジョンなのだ。全部で100階層からなり、最奥にはバカでかいツチノコ……しかも火を吐いたりするドラゴンの1種がいる。それ故に人気が無くて、溢れてくるのが心配になるほどシーカーが来ないって事だろう。
「迎えの車は来ているからな、行くぞ」
逃げる事など許されず、久しぶりにドナドナ気分で歩きながら、帰宅の途に着くアマとキムの背を羨ましくて見つめてしまう……
「天野くんと木村くんは、これから伊賀の山奥で修行らしいぞ?2人でダンジョンに潜らせて戦闘能力を鍛えつつ、採取したりさせると聞いている」
おうっ……
あちらもえげつない修行のようだ。
あっ、歩く2人の前にお師匠さんたちが満面の笑みで現れたようだ。
俺の方を見て……うん、きっと俺と同じだね。羨ましくて見たけれど、これからの修行内容を聞かされているようだ。
思わず目と目で語り合っちゃったよ……「お互い生きて会おう」ってさ。
いつまでも絶望していても仕方がない、こうなる事はわかっていたんだしね。
向かう車の中で詳しく話を聞いたところ、3日前……つまり俺がアマたちを背負って走っている頃から先輩たちはゲテモノ地獄に行っていたらしい。年末と一緒で、探索スピードを考えての空いている時間の有効活用だったようだ。
女の子が1番嫌う場所を、その女の子たちだけで潜らせるとか……やはり鬼だよね。
「苦手なモンスターと悪戦苦闘する中、颯爽と現れる横川……もしかしたら如月くんの目には輝いて見えるかもしれんな」
なんて事だっ!!
さすがお師匠様!!
やはり一生ついていくべき人だ!!
「早く行きましょう!!」
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