第90話ーーバレませんよね?
東さんたちがようやく、ようやくあと2日も歩けばダンジョン外に辿り着くだろうという場所に到達した事により、俺の修行も終わる事となった。
肝心な身体の調子はというと、前と変わらなかったかな。いや、確かにうどんの言った通りに魔力量が増えた気もする。そして新たなスキルが生えて、何かまた凶悪なのもあったりしたけれど……うん、使う事はないだろう。つまり炎獄と同じようなモノだ。下手に使用しようものならば、東さんたちがとんでもない事になりそう……闇遁の方はまだしも、水遁の方が……ね。
「もし見たいと思うなら、1人でボス部屋で使え、それ以外では封印だ。ただ身体の事もあるからな……やはり当分は封印だ、いつか下層で使う事があるかもしれん、それまでは決して使うなよ」
と、スキル名を知ったクソ忍者が言うくらいだからね。その名も氷獄、説明は炎獄の氷版だ。そんなもの使えるはずもないよね、うん。
で、まぁダンジョンから出てくる事になったんだけどさ、その時にふっと鬼畜治療師が漏らした言葉が問題だった。
「香織、石はとりあえず私が宝石店に磨くように依頼を出すけどね……誰にも見せるんじゃないよ」
「えっ?何でですか?」
「あんた、あれ3つで下手したら一兆を越すよ?そんなもん知られたら、毎日泥棒騒ぎだよ……いや、そんなもんじゃ済まないね」
「……チョウ?」
「あぁ、そうだよ。数千億から一兆円は下らないね」
「ええっ!?」
「ええっ!?そ、そんな物やっぱり貰えないですよ!!」
先輩の驚きの声と共に、俺もつい声を上げちゃったよ。
えっ?数千億から一兆円って何??宝石ってそんなに高い物なの?世の男性はそんな高い物を女性に、やれ婚約だ、やれ結婚だとか言って渡してるの!?
先輩に渡したのは後悔してはいないけど……いないけど、ちょっと報酬に差がありすぎるんじゃないかな!?
「なんだい、あんたたちわかってなかったのかい?世界最大級の大きさだよ?世に出したら、富豪やら何やらがこぞって買い求めるだろうさ」
「「ええっ!?」」
「横川はそれをわかっていて香織に差し出したんじゃなかったのかい?惚れた女に一兆円の宝石を贈るなんて、豪気だと感心していたんだけどね〜」
くっ!
なんて言い方をするんだよ!
そんな言い方されたら、反対意見なんて今更言えないじゃないか!!
いや、先輩に贈るのはいいんだよ……それよりもそんなバカ高い物を何で惚れてもいないババアに贈らなきゃならないんだよっ!
「ま、まだ付き合ってもいないですし、そんな高い物貰えないですよっ!」
「男がくれるって言うんだから貰っときゃいいんだよ。香織は気にしなくていいんだ、それにそれを加味して横川を判断する必要もないよ」
「まだ付き合ってもいない」という先輩の言葉に、どこか可能性を感じざるを得なくて喜んでいたと言うのに、このババアなんて事をダメ押しのように言うんだよっ!こっちは加味しまくって貰って全然構わないのに!!
「まぁ横川の言いたい事もわかる、確かに報酬に差があり過ぎるな」
「若までそんな事を……男が一度言った事を変えるもんじゃないですよ」
「近松の言う事もわかるが、この阿呆は宝石の値段など知らんかったようだしな」
「まぁそうですね」
さすがのお師匠様ですよ!!
そのババアから宝石を取り上げちゃって下さい!!
めちゃくちゃ不満そうな顔をしているから、かなり宝石に執着ありそうだけど……
「だがな横川、この宝石は確かに売ったら高い……高いが、それはあくまでも売ったらの話だ。先程も言った通りにこれは世には出せん。近松も如月くんも磨いた後は家で1人眺める事しか出来んぞ?例えお前が手に入れても同じだ。如月くんはアイテムボックスに入れておけばいいが、お前はそんな物貰ってどうする気だ?」
うーん……
確かにそう言われたらその通りかもしれない。
お年玉を貰った時でさえ、大金過ぎて夜眠るのが怖かったのに、数千億とかの宝石持ってるって思ったら怖くていられない気がするな。
「すみません、欲に目が眩みました。というか逆に先輩も現金の方が良くないですか?宝石は師匠たちに渡して、磨く時に1部を宝石として貰うとか」
イケナイイケナイ、自分の事ばっかりか考えていたけれど、先輩だって困るよね。宝石が現金化出来ないとなったら、今回の報酬はほぼなくなってしまうわけだし。
「あっ、横川くんの提案でお願いしたいです」
おっ、先輩も賛成してくれたようだ。
心做しか今の提案で先輩との心の距離が近付いた気もするし。
「そうなると……横川、魔晶石を半分に分けて如月くんに渡せ」
まっ、そうなるよね。
だけど全く問題ない、ここ最近オーガの魔晶石も集めまくったしね。だいたい1人約170万円くらいにはなるはずだ。
「えっ?でも私、宝石まで貰うのに……」
「いいんだよ、それは貰っときな」
「でも、私のせいで横川くん倒れちゃったし……」
何度あれはうどんのせいであって、先輩は一切悪くないと説明したのに、未だ罪悪感があるようだ。
「ふむ……では外に出たらすぐにバレンタインデーだ。横川にチョコでもやってくれ」
おおっ!!
お師匠様は神ですか!?
なんて素敵な提案をしてくれるのですか!!
「えっと……そんな事じゃ割に合わないんじゃ」
先輩は自分の価値をわかっていないようだ……
そんな事どころか、俺にとっては最高のご褒美ですよ!!
「あぁ、如月くんはまた獣たちの毛皮が恋しくなるだろうから、どうせなら自宅に招いてやってくれ。そうしたらチョコを渡すのも、毛皮を堪能するのも同時に出来るだろう」
「いいかな?横川くんはそんなので」
「はいっ!」
お師匠様はやはり神だったようだ。
前からそんな気はしてたけど、うん、間違いない。一生付いていきます!!
その後先輩から住所を教えて貰った。
まぁ知ってるんだけどね……「大丈夫です、わかります」とか言いそうになっちゃったよ……危ない危ない。
2月14日はちょうど日曜日で、その日はお母さんがいるらしいけれど、何も問題ない。問題ないどころか、未来のお母さんにご挨拶を出来るというチャンスだ。
大鷲で一気に出口まで移動し、東さんたちに収穫物を渡した後、今回の突発型ダンジョンの探索は無事終了する事となった。
その後探索者協会へと移動し、魔晶石の精算。額は予想通りの176万円だったのだが、その後が素晴らしかった!!
なぜなら、「14日に来る時に、住所だけだと迷うかもだから」と、協会から先輩の家まで2人で一緒に帰ることとなったんだよ!!まぁ話すことは探索のことばかりになっちゃうのはしょうがないよね、共通点はそれなんだから。だけど、夢にまで見た日常での2人での帰宅だからね、めちゃくちゃ嬉しくて内容が少し殺伐としていた事なんて、全く気にならなかったよ!!
「あっ、今日はとまってない」
「えっ?どうしたんですか?」
「あっ、最近よく庭の木に烏がとまってるんだよね」
「へー……そうなんですか?」
めちゃくちゃ焦った……
焦りまくったけど、何とか平静を保ったよ。
バレてないよね?
「うん、いつも1羽が部屋の前の木にいるの、烏ってみんなから嫌われたりするけど、意外と可愛いんだよね」
うん、バレていないようだ。
良かった……
「確かに可愛いですよね、慣れちゃえば」
「だよね。だから今度来た時に烏も出してくれていいからね」
「鼠は?」
「うーん、見た事ないから何とも言えないけど、1度見てみたいかも」
「じゃあ出しますね」
「うん、じゃあ14日の1時に待ってるね」
「はいっ!」
めちゃくちゃ14日が楽しみだ、楽しみだが……烏をどうしよう。1羽を木にとめておく?いや、そうすると9羽しかいない事が問題になるか?でもあの様子だと比べてみたそうだったしな……いや、そもそも烏たちはみんな同じ個体なのかな?じっくりと比べて見た事ないから何とも言えないけど、烏を見てバレる事はないよね……
あぁ……わからん!!
もうなるようになれだっ!!
とりあえずは手土産を何にするかを考えよう、うん。
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