第89話ーー反動なんかじゃない!

 気を失ってから目が覚めたのは4日後だった。

 そしてまた気を失って6時間で復活した。


 俺は当然ながら全く知らないし、気を失った事でさえよくわかっていなかったのだが、師匠たちや先輩、そしてうどんに説明を受けた事で自分がどうなっていたのかを知った。


 まず出していたトラが全て消えたそうだ。そして同時に俺は突然白目を剥き、血を吐きながら後ろへとひっくり返ったらしい。それを受け止めたのは、いち早く異変に気が付いたクソ忍者で、すぐさまテント内に運び込まれたらしい。近松さんと先輩が回復魔法を掛けるも、脈は遅いままで今にも命の灯火が消えてしまいそうになっていた。そこで心臓への圧を加えたり様々な事をしたが反応なく、これはもうダンジョンから外に出て病院へと担ぎこもうかと話している時だった……


「主様はお師匠様が仰った通りに、スキルの反動がきているだけですので、ご心配されずとも幾日かしたら自然に目を覚まします」


 と、聞き慣れた声色の、だが見知らぬ10歳ほどの着物姿の少女が突然話し始めたらしい。

 もちろん「お前は誰だ?」となるのだが、驚く事にその少女はうどんと名乗った。そう、キツネが化けた存在だったのだ。


 うどんが獣姿ではなく、なぜ少女姿になっているかも問題だが、今はそれよりも俺の事だとなった。そしてなぜトラたちは消えたのに、同じ召喚獣であるうどんが存在しているのか?なぜ危険性を先に言わないのか?そしてなぜ直ぐにその話をしなかったのか?を師匠が問いただしたところ、うどんはその顔にバツが悪そうな表情を浮かべ語った。


 まず俺の状況なのだが、人間は誰しもが体内に魔力を保管する目に見えない臓器のような物を持っているらしい。そして魔力依存スキルを発動する際にはそこから放出されている。魔力とは人間の生命活動を支える源の1つでもある為に、それを全て使用し切ってしまう事は死に繋がってしまう。そのために魔力庫にはリミッターが存在し、それに近付くと倦怠感や頭痛など様々な症状となって表れるし、限界に近付くと使用出来ないようになっている。また、先輩のようなスキルとしては発現はしていないが、俺にも体内にもう1つの魔力庫のような貯蓄用器官が存在しているらしい。

 そしてレベル10の炎獄のような人智を超えるスキルは、全てのリミッターを外し魔力を一気に放出する事で成し遂げる技らしい。

 リミッターが外れている為に、倦怠感など身体に異変を知らせるものもなく、俺は平気な顔をしていられたと。その為にそのまま俺は氷壁を幾つも発動したり、トラたちを顕現させる事も出来ていた……残り少ない魔力庫から魔力を引き出しながら。


 だが俺はトラを出しても倒れなかったのに、なぜ突然その時が来たのか?

 それは全てうどんのせいだった!!

 どうやら俺が倒れる寸前にレベル10へとなったらしい、そして同時に出来るようになった人化を行った……まだレベル10になったばかりで魔力が足りなかったために、パスの繋がる俺から無理やり引き出して。それでも魔力が足りずに、予定では妙齢の女性に化けるはずが、少女姿になるのが限界だったらしいが、そんな事はどうでもいいだろう。

 結果、トラたちの魔力を強制的に体内に戻して生命維持活動を続けさせようと、身体が勝手に反応したが足りずにぶっ倒れたとの事だった。

 つまり俺は自分のスキルに殺されそうになり、助かりもしたという事だ。


 ではなぜ事前に説明をしなかったのか、それはすっかり忘れていたらしい。そしてなぜトラたちは消えたのにうどんは顕現したままなのかは、うどんだけは特別な存在、それはずっと顕現している事からも、話す事が出来る事などと同じらしい。ドヤ顔で語って師匠にゲンコツでしこたま殴られて先輩に泣きついたらしい……これは鬼畜治療師に聞いたんだけどね。


 これから炎獄のようなスキルを使用する度に、このような状態になるのかという話だが、連発しない限り大丈夫だろうとの事だ……まぁ封印と言われてるし、連発とかありえないとは思うんだけどね。

 今回の事で、体内の魔力庫が強化されたので一気に魔力貯蓄量が一気に増えるらしい。あとうどんも以降は自力での変化は可能なので、俺に負担が来る事はないそうだ……まっ、当分外に出してやる気はないけれどね!!


 うどんの見立てでは、当初約10日は眠ったままだろうと予測だったらしいのだが、なぜたった4日で目覚める事が出来たか?これもまたうどんが原因だ。魔力の欠乏状態で倒れているならば、外に出ている魔力うどんを中に戻せば早まるのでは?という推測を元に、無理やり押し込んで魔力を俺に供給するように師匠が命じた事が功を奏したのだろうという話だ。

 ただ先輩に聞いたところ、うどんが獣化すると魔力を使用する事が目に見えているために、少女姿で俺の中に戻る事を強制したのだが、寝ている俺の腹に少女の首を掴み押し込んでいく姿は、とてもとても猟奇的というかホラーのようだったらしい。


 で、1度目が覚めたのになぜまた気を失ったのかだけど……

 初めに目を覚ました時に、1番最初に目に飛び込んで来たのは先輩の姿だったんだ。どうやら先輩は自分のためにうどんやトラたちを顕現させていたために起きたと気に病んだらしく、ずっと付きっきりで看病してくれていたらしい。そしてたまたま俺が目を開けた時は、床ずれが起きないようにとか細い腕でひっくり返そうと身体に腕を回した時だったのだ。

 すぐそこに先輩の綺麗な顔が!!

 状況がわからず、でもその状態に興奮して思わず「うわあああああっ!」と叫んで、興奮が過ぎて気を失ったようです……お恥ずかしい。

 でもでも……看病して貰っていた記憶がないのが悔しい!!


 そして6時間後、再び目を覚ました時に近くに居たのは師匠たちと先輩の全員が俺を囲んで見守っている姿だった。

 その後今回の気を失った理由などの顛末を話され聞かされたってわけだ。


「目を覚まして良かった。後ほど身体を動かして、不具合がないかゆっくり確かめてみろ。あとな、もしお前が望むなら腕のいい陰陽師を紹介するがどうする?」


 と、師匠に真剣な表情で問われたよ。

 うん、それは全ての話を聞いて俺も思ってたんだよね……本当に封印した方がいいんじゃないかってさ。


『それだけは!!それだけは何卒ご勘弁を〜!!これからはちゃんと事前に全て説明しますし、伝えますので!!』


 って必死に中で叫ぶから、とりあえずは保留という形にした。

 ただね、何でレベル10になってすぐに人化する事を考えた理由がさ……食事をする際に鼻を突っ込んで食べるのが嫌だったから、スープなども楽しみたかったからとかそんな下らない理由だったのがね……

 もうさ……

 そんな下らない事で、宿主を殺そうとしたのかよっ!?って思わず叫びたくなるよね。


 ちなみに俺が死ぬと、うどんの存在も消えるらしい。現在のうどんはあくまでも俺のスキルとしてのためなのが理由だ。その為に今回俺が倒れた時も、死ぬ事はないとわかっていたので安心していたので、師匠たちの救護の様子を黙って見ていたらしい。少し慌てっぷりを楽しんでいたとも……

 本当に性悪キツネだよ。

 うどんは歴史上の伝聞は、全て権力者に擦り付けられたとか言っていたけれど、やっぱり真実なんじゃないかって思うよね。傾国の美女かどうかは、俺は姿を見てないからわからないけれどね。


 4日眠っていたわけだけれど、東さんたちは未だにダンジョンを出ていなかった。それどころか、未だに道程の半分にも達していなかったのだ。

 俺の件で師匠は金の斧や魔晶石を渡し忘れていたために、稼ぎがないとという事で狩りまくっているんだろうね。


 なので、俺も身体の調子を確かめるついでに修行する事となった。主には魔力に頼らず身体能力のみで戦闘出来るようになる事という、これまでの修行方針を再確認しながら、魔力庫を鍛え大きくする必要もあると、分身たちには魔法スキルをぶっ放し続けるという、結局はいつもと変わらない日常に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る