第78話ーーぺったんぺったん福始め

 直ぐに挨拶に向かうのかと思ったら、まず連れていかれたのは小さな部屋だった。


「これは若様からのお贈り物です、こちらにお着替えを」


 出されたのは着物だった。

 一応お正月という事も考えて、いつものジャージは避けてちょっとキレイめの服を着てきたんだけどダメだったようだ。正直着物なんて浴衣でさえ着た事がないから困っていると、想定済みだったようで脱がされ着付けをして貰ったんだけど……うん、なんとも、似合ってない。着せられている感というか着物に着られている感満載だ。まるで七五三の子供のようにも見える……自分の事だけど。

 そして全く着物の事など知らないしわからないんだけど、めちゃくちゃ高そうな雰囲気がする……なんか肌触りいいし。


「赤木さん、この着物ってお高いんですか?」

「こちらはお古ですので、お値段などは気にしないようにと若様から言付かっております」


 俺の思考もやはり想定済みだったようだ。うーん、貰っていいのだろうか……っていうか貰っても1人では着れないし、他で着る予定もないから困るんだけどな〜


 次に連れて行かれたのは、前回付き人さんたちと一緒に食事をした広間だった。

 そこに居たのは各組長とハゲと鬼畜の元組長、他に20人ほどだ。クソ忍者となんか顔が似た雰囲気の男女はもしかして兄弟かな?あとあのマッドサイエンティストがいない事に、なんかほっとした……まぁ面子を見る限り来るんだろうけどさ。


「おっ、小僧来たか!こっちへ来い」


 ハゲヤクザに気付かれ手招きをされた。その声に一斉に視線が俺に集中する。

 見知った顔の各組長がみんな軽く手を挙げて挨拶をしてくれるんだけど、いくつか厳しいというか、居心地が悪くなるような視線も初めて会うような人たちから飛んでくる。きっと「幹部だけのはずなのに、なんでこんなやつがいるんだ?」とかそんなんなんだろうね。

 いや、うん俺もそう思います……場違い感がめちゃくちゃあるんですけど!!

 もう帰りたいですっ!

 お年玉なんかに釣られた俺がバカだったよ!


「明けましておめでとうございます」


 ハゲヤクザの元へと移動して、正座して挨拶をすると上機嫌で返答があった。その上俺が知っているお年玉袋ってサイズじゃない袋に入った分厚い物をくれたよ。こ、これってもしかして立つんじゃないの!?

 ハゲヤクザへの挨拶が終わると、それを皮切り各組長に手招きをされては挨拶に赴いては、分厚いお年玉袋を貰うという時間が続いた。これ……合わせたら先日の探索での稼ぎに匹敵するんじゃないだろうか!?


 各組長に挨拶した時にわかったのは、各班の副長も来ているようで紹介された。そしてマッドサイエンティストの纐纈のクソジジイは、俺のあの件で組長から外されたらしく、新しい組長に挨拶された。この人の名前も纐纈……あのジジイの一人娘らしい。ただあそこまでのマッドな感じはしない人だった……まぁそれも見せかけだけかもしれないけどね。

 あとクソ忍者の兄妹かと推察した面々は、当たりだったようだ。総勢13名。ほとんどの人がどことなく偉そうで、挨拶をしても返事どころか首肯だけ、もちろんお年玉なんて貰えなかった。何人かはめちゃくちゃ好意的で、お年玉くれたり握手してくれたりしたけどね。まっ、他の人からたくさん貰えたし、期待もしてなかったから別にいいんだけどね。ただ若干何名かの不躾でたり値踏みするような視線が不快に感じたくらいだ。


「小僧、ほれここに座れ」


 全員に挨拶が終わったところでどうしようかと、どこに行けばいいのかと悩んでいたら、またもやハゲヤクザが隣の席を叩いた。そこはハゲヤクザの隣であり、鬼畜治療師の隣……つまり重鎮に挟まれる形だ。


「山岡様、横川くんの席はあちらに用意されておりますので」


 赤木さんが指し示したのは、コの字型になっている席の隅の方だった。末席というやつだろう……うん、立場的にそちらが1番合っていると思う。


「1人じゃ不安じゃろ、ここでジジイの横に居ればいい」

「ですが……」

「クドイわ……御館様になんぞ言われたら、儂の責とする故お主は気にするな」

「かしこまりました」


 ちょっ!

 赤木さんサポート約だったんじゃないの!?

 なんでハゲヤクザの言葉に負けちゃって引き下がるのさ!!

 まぁハゲヤクザの優しさなんだろうけど……なんだろうけど胃が痛い。


「お見えになるぞ、小僧は儂と同じようにして頭を下げろ」


 廊下から歩く音が聞こえたと思ったら、みんな正座をして手を付いて頭をみんなが頭を下げた。俺もそれに習って慌てて頭を下げる。


 襖が開く音がした後、足音が上座へと移動して、ドサリと音をたてて座る音が2つ聞こえてきた。


「皆の者、面を上げよ……今年も無事新たな年を迎えられた事を嬉しく思う」

「「「「はっ」」」」

「一部幹部には内々に通達してあるが、本日以て頭領を信一とする!これにより益々の繁栄を願っておる」

「「「「はっ!」」」」


 顔を上げた先に居たのは、クソ忍者と御館様と思われるガタイのいい壮年の男性だった。

 そして挨拶の言葉の後に出てきたのは、クソ忍者が御館様になるって話だ……って、やっぱり俺がここにいるのおかしくない??


「俺が望むのはただ1つ、節度を持って過ごし、各々精進を重ねよ」

「「「「御意っ!」」」」


 えっ?

 節度??貴方の口からそんな言葉が出てくるなんて……それだったら、もっと俺にも節度のある修行にして下さい!!

 それにしても儀式というかそんな感じだからかもしれないけれど、発言の度に頭を下げたり上げたりと忙しい。そしてそろそろ正座している足が痛い。


 その後1人づつ新御館様であるクソ忍者と、旧御館様に新年の挨拶へ伺う事となった。俺はハゲヤクザに連れられて一緒にだ。みんなの前だからかなんなのか、「よく来てくれた」とか「これからもよろしく頼む」とかそんな会話と分厚いお年玉を貰っただけだった。

 旧御館様の方は「話は聞いている、よろしく頼む」的な会話のみで、これまたお年玉袋を貰って終わり。

 もっと何かあるんじゃないかとドキドキしていたけれど、何か肩透かしな感じ。まぁ何もない方がもちろんいいんだけどね。


 この後どうするのかと思っていたら、自家用バスに乗って熱田神宮へと初詣となった。

 毎年毎年熱田神宮は初詣客でごった返しているのを、テレビニュースなどで見て知っていたから人混み嫌だな〜なんてうんざりしていたんだけど、他の参拝客が来ない場所へと通されて、そこから参拝という形だった。織田信長の時代から熱田神宮とはずっと深く付き合いがあるための特別な計らいらしい。

 遅遅として進まない人混みの中、参拝を待つ人たちを横目に見てサクサクと特別な場所に案内されるのってなんか……初めての体験でかなりドキドキしたのと同時に、優越感と罪悪感がせめぎ合い不思議な感覚だ。

 神主さんによる祝詞との後にしっかりとお祈りした。もちろん内容は先輩との関係がもっと近くなる事だよね!!

 ちなみに妖狐のうどんだけど、俺の体内にいるとはいえ神社とか嫌がるかと思ったら、全然平気らしい。それどころか熱田神宮の本殿を見て、『懐かしいです』なんて感想を漏らすほどだった。

 これっていざとなったら祓おうと思っても、出来ないパターン??まぁその時はクソ忍者に何とかして貰おう、うん。今日も本部に来るって言ったら『絶対に外に出さないでください』って懇願してきたくらいだし、かなりビビっているようだからね。一昨日の事だって、頑としてクソ忍者と何を話したか言わないしね。これまでに一例足りとて喋るケモノは見つかっていないらしいから、当分の間はクソ忍者たち師匠三人衆と先輩以外の前では絶対に外に出すなとキツく言われてる。そもそも召喚スキルは、ランダムで何か一種一匹のモンスターが呼び出され、それしか使役出来ないらしい。俺のように数種数匹は初めての事例なんだってさ。そりゃあみんなギョッとするわけだよ……


 参拝後はまた本部の御屋敷に戻って、今度は宴会だった。

 鯛やら海老やらが載った豪華なお膳が用意されていた。だけど宴会なのに意外にもお酒はあまり飲まないらしい。その訳は、この後昼頃から屋敷庭を近隣の方々に公開し、餅つきを行うらしいのだ。そこに出席する為にベロンベロンになってちゃまずいって事だね。

 まぁこれを聞いて思い出したのは、どこかのヤクザ組織がハロウィンとかで近隣の子供たちにお菓子を配るニュース映像だった……やっぱりヤクザ組織なの!?


 餅つきは楽しかった、杵と臼で蒸しあげた餅米からつくなんてテレビでしか見た事のない経験だからね……まぁ「へっぴり腰だな」とか笑われたけどさ。

 来客?近隣の方たちは杖が必要な老人から、その孫の世代までといったあらゆる世代の人たちが大勢きた。ついた餅はどんどん配られ、甘酒やぜんざい、樽に入った日本酒なども用意されていて、ある種のお祭りと化していた。そりゃあ酔ってなんかいられないよねって納得出来たよ。俺も餅つきに参加したり、料理を配ったりなど結構働いた。

 これに関しては一切不満なんてない。だってめちゃくちゃお年玉貰ったからね、何もせずに貰うのは怖いしさ。

 本当に貰えるんだよね?不安になっちゃう……


 俺の不安とは裏腹に、何事もなく一日が終わり、無事に孤児院に帰って来る事が出来た。

 元日がこれだと、今年1年めちゃくちゃいい事ありそうだよねっ!

 期待出来るかも!!




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