第3章 冬休み

第60話ーー夢は泡沫に消えた

「やっぱり人少ないな」

「まぁ小遣い稼ぎとしてはありがたいな」

「……よっと」

「話しながらゴブリンを一撃とかヨコ強くなったな」

「ドロップ拾う方が大変だ」


 予定通り俺たちは今名古屋北ダンジョンの探索をしている。


 昨日師匠たちにクリスマスのダンジョン探索を確認したら、いつも通りスキル使用不可での許可を得た。


「クリスマスなのに……まぁあれだ、心を強く持てよ」

「いつか、もしかしたらお前たちの良さをわかってくれるやつが現れると思うぞ」


 とか5人の師匠たちに哀れみを含んだ瞳で見られた上に、優しげに慰められたよ……

 ただ、「いつか、もしかしたら」と言う時に俺の方だけ見ながら言っていたような気がしないでもないのが、納得がいかない所なんだけどねっ!


 本日は朝8時に学校近くのコメダで集合して、溢れるジジババに紛れてモーニングを食べてからの探索だ。

 いつ行っても思うのが、どうしてコメダの朝はあれほどジジババに溢れているのか……どこからこんなに集まってくるのか?若い人が居ないわけではないけれど、本当に年齢層が高い不思議。まぁ今日はクリスマスイブってのもあるんだろうけどね。


 まぁコメダの謎はおいといて、探索は順調だ。キムの言う通り、今やゴブリン程度なら慌てることなく始末出来るので、サクサクと斬り伏せながら先を急ぐ。

 だけどまぁ2人も一緒だしね、無理は出来ないから予定としては10階層程度にしておくつもりだ。


 如月先輩たちが潜り始めたのは7時のはずだから、もしかしたら追いつけないかもと思い始めている。

 本当は俺たちもそれくらいの時間にしようと思っていたんだけど、2人の強硬な反対にあって断念した。「なんで休日にそんな朝早くから潜らにゃならん」とか「ゆっくり寝たい」と言われたらしょうがないよね。目的を伝えていないから無理を通せないし、言ってる事は確かにその通りだしね。

 ただ微かな希望は未だあるから、少し早歩きだけど。


「そういえば、先日の突発型ダンジョンはどうだったんだ?顛末聞いてないけど」

「そうそう、ニュースでどんなボスとかは聞いたけど、やっぱりあのパーティー強いの?」


 そういえば話していなかったな。それには当然ドロップや宝箱の話が付いてくるから、後回しにしていたんだった。


「戦い方は見ていない」

「んっ?なんで?」

「師匠さんたちとヨコはボス部屋入らなかったのか?」


 まぁそう思うよな……


「ボス部屋しかなかったんだが、全て俺1人の戦闘だったわけですよ」

「あんなに大勢で潜って?」

「師匠さんたちと世界的TOPパーティーもいるのに?」

「そう、全スキル使用の上戦えと強制された」

「鬼だな」

「あの人たちそれを止めなかったのか……鬼の仲間だな」

「だろ!?1番弱い俺を1人戦わせて見ていただけなんだよ。まぁ弱いボスだったけど」


 やはりおかしいよね、うん。

 全くどうかしてるよ。


「でも納得したわ、インタビューの時に戦い方聞かれてさ、なんか誤魔化してたから」

「そうそう、「連携が上手く行きました」とか曖昧な事しか言わんかったな。いつもは「誰々のスキルが活躍して」とか無駄に饒舌なのに」


 こいつらよく知ってるな……

 そしてキムはどこか感想に悪意があるような気がするのは気のせいだろうか。


「んで、インタビューでは語ってないと思うんだけど、宝箱が出た」

「マジで?確かに言ってなかった」

「六角棒だけは見たけど」

「金のそれなりにデカい箱でした、そして……」

「そして?」

「中身は宝剣だったんですが、褒美に貰いました!!」

「マジかっ!?」

「いくらになった!?」


 おおっ!

 この反応を待っていた!!


「オークションに出したわけだが、昨日終わって今朝振り込まれていた」

「で、いくらよ」

「焦らすな」

「1,313万円!!振り込まれたのは20%引かれた10,504,000円ですっ!」

「えっ?はっ?」

「……セレブかよ」


 マヌケのように2人とも口をぽかーんと開けっ放しで、立ち止まっている。

 ここまで驚いてくれるとは、話したいのを我慢してここまで待ったかいがあったというものだ。


「えっ?えっ?なんでそれほど稼いだのに今日潜っているんだ?」

「確かにおかしい……他の目的がある?」


 なっ!

 キムが珍しく鋭いっ!


「よし帰ろう、帰ってヨコの奢りでどこかで豪遊しよう」

「新栄に良さそうなキャバクラがある」


 アマは本当に帰ろうとしているし、キムよそれはどうせ熟女キャバクラだろう!?


「まぁ待て待て、話しを最後まで聞くんだ」

「何でございましょうかお金様」

「まだ見ぬお姉様が待っている」

「お前、完全に俺の事財布だと思ってるじゃねえかっ!?あと行くもしても熟女キャバクラには行かんっ!」


 お金様ってなんだよ、全く。キムはキムでやっぱり熟女キャバクラだったよ、いつそんな店チェックしてたんだよ。


「俺も最初はだ、お前たちを岐阜の金津園なり、錦のキャバクラに連れて行こうと思っていた、思ってはいたんだが……これを見てくれ」


 俺はそう言いながら、協会の端末をそっと見せる。


「朝振り込まれたのに、すぐに国の孤児育成教育奨学金機構へ勝手に1050万円が振り込まれていた……」

「お前さ〜そんなわざとらしい嘘……」

「本当だな……協会って勝手にそんな事するのか」

「多分クソ忍者の仕業だ」

「よし、稼ごう」

「だな、さくさく狩ってこう」


 本当にショックだった。

 朝待ち合わせの時間に振り込みのメールが届き、それを喜びの声が溢れそうになるのを必死に抑えながら読んでいたら、また着たメール。これもきっとオークションの件だと思って開いてみたら……機構に振り込みが終わったとの報告メールだった。

 すぐに口座をチェックしたら、確かに入ってすぐに消えていたお金……その時のショックといったらもう……危うく叫びそうになったよね。


「とっとと行くぞ、ぼやぼやしてんなよヨコ」

「全く夢だけ見せるとか、タチが悪い」


 つい先程までお金様とか言ってた癖に、お金がないとわかったら手のひら返しが激しい。まぁ夢を見せただけになったのは、申し訳ないけどね。ただお前たちより俺の方がショックだったんだよ!


 人もいないがそこまでモンスターもいないので、アマの言う通りにサクサク進む。こちらとしては願ったり叶ったりの状況だ。これならもしかしたら如月先輩たちに追いつけるかもしれないからね。


 時折出会うモンスターをサクッとドロップへと変えつつ歩く事数時間、10階層へと到達した。ぺちゃくちゃと話しながらでも、以前に伊東たちと潜った時とは大違いで、まだ潜り始めてから7時間しか経っていない。こうやって実際に来てみると、自分たちの体力などが格段に上がっている事を実感しやすいよね。


「どうする?もう2〜3階層潜って狩らないか?」

「いいと思う、もう少し狩ろう」

「だな、体力的にも余裕だし」


 良かった、OKがでた。

 少し遠くで人声がするから、もしかしたら会えるかもと思ってたんだよね。


 人の声がする=先に狩っている人がいるって事だから、ますますモンスターに出会う事なく、歩くスピードは早くなる。

 そして10階層ボス部屋に突入。ボス部屋は他人に見られる心配もないから、火弾をぶっ放す。2人は宝箱の夢を見ていたが、魔晶石が落ちるだけだった……まぁそんなもんだよね。


 そして11階層への階段を降りたところで、待望の如月先輩たち集団の後ろ姿をついに捉えた!!

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