第61話ーーネタバレされちゃったよ

 先輩たちのパーティーらしき後ろ姿をついに捉えた。

 捉えたが……なんと声を掛けようか。まだ後ろ姿だけだし、あまりにも積極的だとアマとキムに企みが露見する恐れもある。

 とりあえず静観しよう、まだ数百メートルはあるし、もう少し近付いてから考えよう。


 それにしてもまだ11階層だというのにも関わらず、東さんたち12名+先輩たち4名の16名にもなる大勢が約5mほどの通路いっぱいに広がって円陣を組み、まるで強敵が現れるかもしれないのを恐れているかのようだ。こちらから見て盾の人が2人構えながら、後ろ向きのままゆっくりと進んでいるように見える。

 この階層に現れるのは、体長1.5mほどの犬の頭を持った人型タイプのコボルトや、三目狼がほとんどだ。あれほど警戒して進む必要性を感じないのだが……きっと世界的TOPパーティーはどんな低層でも油断などせずに一歩一歩確実に進むということだろう、さすがだ。


「なぁヨコ、前のヤツら遅くね?」

「どんどん近くなるな、初心者パーティーか?」

「う、うん……そうだな」


 危ない危ない、なんて声を掛けようか悩んでいたら、アマたちの話を聞き逃すところだった。

 でも確かにどんどん近付いてはいるんだよね、もうあと100m切ってる感じだし。まぁ俺たちの前にはモンスター一切出ないし、向こうは牛歩ともいえる速度だから当たり前なんだけど。


「なぁヨコ、正直に言え。お前企んだろ」

「な、なんの事?」

「如月先輩たちが潜る事を知っていたな?」

「えっ?先輩いるの?」

「白々しいわ……ここまで来ればもう見えているからな?」

「……」

「無言は肯定と判断する」


 くっ!

 ここまで順調だったのに、ついに気付かれた。


「おかしいとは思っていたんだよ、オークションのお金がすぐに消えたとはいえ、その前に何も自慢してこなかった事とか、朝早くから集合しようとした事とか」

「俺もそれは思っていた、やはり企みがあったか」

「ぐ、偶然じゃないかな?」

「そんな訳ないな、どうやって如月先輩たちが今日潜るのを知ったとかは、まぁ今更の話だしな。どうせ鼠とか烏飛ばしたんだろうし」

「やはりストーカー職、しっかり使いこなしているなスキルを」


 バレている……

 知った方法とかまで全てバレている……


「今認めて謝罪するなら許してやろう」

「……謝罪しなかったら?」

「本人にストーカーをバラすのも面白そうだな」

「師匠さんの事をクソ忍者呼ばわりしている事を伝えるのもありだと思う」


 こ、こいつらなんて酷い事を考えているんだ!?

 もしそんな事をバラされてしまったら、先輩たちには引かれて……いや、引かれるくらいならまだマシだが、最悪訴えられる可能性も。そしてクソ忍者には考えるも恐ろしい目に合わされる事間違いない。それに神出鬼没の近衛が現れて「切腹しろ」とか言われそうだし。


「すみませんでしたっ!」


 土下座しましょうとも!

 こんな事で許されるのなら、土下座なんて安いものですよ。


「やはり当たりか」

「なっ!?まさか誘導尋問!?」

「まぁ確信を持ってはいたがな、前方のパーティーが見えた瞬間からソワソワしだしたし」

「あといつも通り目が泳いでいた」


 くっ!

 俺の素直さが裏目に出たようだ。


「ヨコ、言っておくがお前のは素直じゃなくてバカと言われる方だからな?」


 ア、アマめこの野郎!

 サラッとまた俺の心を勝手に読むんじゃないよっ!


「で、許しを得るにはどうしたらいいと思う?」

「えっ?謝罪で許されるんじゃ?」

「あぁ、なんか口が軽くなりそうだな〜」

「うむ、大声でストーキングについて話したい気分だな」

「ちょっ!ちょっとお待ちくださいませっ!」


 なんかこいつら最近どんどん脅迫が上手くなっている気がするんだが、気のせいだろうか。


「その顔から察するに、脅迫とか思っていそうだな」

「うむ、不満そうな顔をしているようだ」


 うん、思っている、思いまくっている。

 どう考えても脅迫にしか思えない。


「脅迫と捉えるならいいんだ、俺たちも鬼じゃないしな。ただもしかしたら親友にそんな事を思われているというショックで、あんな事や色んな事を話してしまいそうな気がするだけだ」


 こいつ、本当に口が上手いな。

 感心するわ……


「わ、わかった。もし良かったら今回の探索分の魔晶石代金は2人で分けてくれないかな?」

「ほう、それでいいのか?」

「もちろんですとも、木村くんもそれでどうですかね?」

「どうしてもそうして欲しいと言うのなら、心苦しいがそうしてもいいけど?」

「ええ、ええ、どうしてもお願い致します」

「そこまで言うなら、心苦しいがそうしてやろう」

「だな、しょうがないけどかそうしよう」


 全くもって白々しいが、これは必要経費と思うしかない。なんたってもう少しで追いつくし。


「俺としては、親友である横川くんにに恋を成就して貰いたいと常々応援している」

「俺もそう思っている」

「お、おう」


 突然どうしたんだろうか。

 明らかに胡散臭い、俺をどうこう言うよりも胡散臭いことこの上ない。


「そこでだ、あのパーティーに近づく為に手伝う事もやぶさかではない」

「と、申しますと?」

「うむ、横川くん、君が成就したならば朝宮エミちゃんは君には必要なくなるね」

「そういう事か、その時は紹介させて頂きます」

「では、そのようにしてやろう」


 なんだろう、この偉そうなプレイは……あれか、こういう言い方をしないと自分の欲望を話せないのか?まぁどっちにしろ協力してくれるならいいか。


「なぁ、あのパーティーは男女半分づつだけど、全員カップルなのか?」

「東さんたち?」

「そう、いつテレビで見ても仲良さげだけど」


 んっ?

 これはもしかしてあのパーティーの中に好みの人がいるパターンか?

 それで男に嫉妬して、あんな悪意のある言い方をしたとか?


「もしかして木村さんは好みの女性があの中にお見えになるのでしょうか?」

「別にそういうわけではない」


 こいつの好みというと……比較的年齢が高めなのは、鎧兜を着けた武将の人かな?多分見た感じ35くらいだし。名前は確か……


「小笠原さんか」

「っ!な、だ、誰の事かな?」


 どうやらビンゴらしいな。


「紹介しようではないか、木村くんを」

「た、頼めるか?」

「うむ、先日の若狭たちが喧嘩売ってきた時に木村くんの事も見ているだろうからな、紹介もスムーズに行くはずだ。刀鍛冶の君ならお近付きにもなりやすいだろう」

「頼むっ!」


 キムは素直だな……

 まぁコミュ障だから、自分で声を掛けられないのが大きいだけかもしれないが。


「よし、ちょっと話し込んでいたせいで距離を離されちゃったから少し急ぎ足で行こう」


 駆け足はあまりにも怪しいからね、何気ない振りで、だけど3人並んで早足になる……無言になっちゃうけど。

 想いは一緒だからか、意外と早く近いところまで来れた。

 また、どうやって声を掛けるか悩んでいたらアマが俺に任せろと頼もしい事を言ってくれるので、期待したいところだ。


「すみませーん、先に行きたいんですけどいいですかー?」


 そういう事か、誰かわかっていない振りをするわけね。

 まぁ道いっぱいに広がっているし、他のシーカーからしたら邪魔に違いないからいい手だ。


「あっ、横川くん?」

「えっ?あっ……東さんたちですか?」


 よしっ、自然に遭遇したかのように演出出来たようだ。


「えっと……後ろの2人はこの間いた子だよね?」

「そうです、このメガネが天野で、そちらが木村です。僕の親友です」

「……彼ら強いの?」

「2人は生産職ですよ」

「そっか、そうだよね!」


 何故にあからさまに嬉しそうにほっとため息を吐いたんだろうか?

 だいたい先日伊賀の師匠たちと一緒にいるのを見ただろうに……若年性のアルツハイマーか何かかな?


「ところで若様たちは?」

「師匠たちは居ないですよ、3人とも修行がお休みなので、今日と明日は小遣い稼ぎがてら探索しています」

「えっ……明明後日80階層で合同探索するのに、明日までお休みなの?」

「合同探索とは?」

「あれ?聞いてないの?明明後日に僕たちとそちらのパーティーと、横川くんたちとで修行するって若からは言われているんだけど」


 そんな話は初めて聞いたんですけど!?

 世界的TOPパーティー&如月先輩パーティーと一緒に探索出来るのは嬉しいけれど、片方は4日掛けて潜るのに対して、クソ忍者と一緒に2日で潜るとかどうかと思うよ。まぁ先日60階層まで1日で行けちゃったわけだけどさ。


「全く聞いてないですね」

「……聞かなかった事にして欲しい」


 東さんたちもクソ忍者たちが怖いんですね、ネタバレしたとなると、罰があるかもしれないものね。


「えっと……東さんたちはそこの横川くんたちと知り合いなんですか?」


 俺と東さんが話していると、金山さんが不思議そうな顔で話しかけてきた。

 待ってました!!

 そうなんだよ、決して東さんたちに用があるわけじゃないんだよ!!


 あっ、その前に伊賀の人にアマとキムを紹介しとこう。同じ流派だし仲良く出来るだろう。俺だけが楽しくやっていると、怒られる可能性があるからね、特にキムが小笠原さんにお近付きになれない事を恨んで、余計な事を話しかねないしっ!

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