第34話ーーお魚天国槍衾

 サンマやらタチウオなど流線型の尖った魚がビュンビュンと飛んでくる。

 下からは床と同化するように身を隠していた、ヒラメなどが突然身を起こし突っ込んでもくる。

 他にも色んな魚がいるけれど、残念ながら名前を知らない。わかっているのは、全て海の生き物であるという事だけだ……きっと壁の光と合わせて、ここは海の中だと表しているのだろう。

 ただその割には貝などは一向に見受ける事が出来ないが。


 まぁそんな事はどうでもいいので、とりあえず刀で弾き斬り伏せながら歩みを進める。


「ちょうどいいから、今日はサカナ編の漢字を言ってきな」


 本日は計算問題ではないらしい。

 漢字か……


「サンマ!」

「サンマは違うよっ!間違えたり止まったら、状態異常魔法掛けてくからね」


 そういうのは掛ける前に言って欲しいです。

 突然足が石になったので、躓きそうになったじゃないですかっ!


「鮃、鱒、鮭……鯉?」

「何で疑問形なんだい?」

「鯉、イルカ、鯨……」

「はい、間違い!」


 くっ!

 何が間違いなんだ?

 とりあえず海の生物言ってけば合ってると思ったのに!


 状態異常魔法を掛けては、治癒して、また掛け直すという事を繰り返してくるのが辛い。

 特に睡眠魔法がキツイ……

 寝落ちて、覚める、その一瞬の隙間に魚が飛んできていて、突然目の前にいたりするのだ。

 これ、今のところは前方からしか飛んでこないけれど、もし四方八方から飛んでくるようになったらヤバいかもしれない。


「ほら、続けなっ!あんたも一応小学校くらいはちゃんと通ってたんだろっ」


 小学校どころか、今は高校生だって言うんだよっ!

 だいたい今どきパソコンに文字を打ち込めば勝手に出てくるんだから、いちいち漢字なんて覚えていなくても暮らして行けるんだよっ!

 小説やゲームにはちゃんとフリガナあるし、前後の文章読めば意味わかるしね。


 あれか?

 鬼畜治療師は、手紙を文とか言っちゃったり、巻物で生活でもしてたりか!?

 似合わねぇ〜


「あんた殺すよ?私だってメールもするし、パソコンも使う。パソコン技能検定2種も持ってんだよ」


 い、意外っ!

 ってか、何で俺の後ろにいるのに心を読めるんだよっ!

 そういえば今は亡きアマたちにも、よく考えを読まれていたっけ……

 あれ?

 もしかして俺って、考えている事が周りに伝わる……何だっけ、昔漫画やドラマになった……えっと……あぁ、サトラレだったりするのか!?

 それだったら納得出来る、うん。

 ……いや、それはそれでマズい。

 クソ忍者だとか、ハゲヤクザだとか、鬼畜治療師だとか……いや、だからこそこれまで特訓が以上に厳しかったのか!?

 やっぱりそうだ!

 よし、これからはなるべく考えないようにしよう。

 とりあえず鬼畜治療師は……美人治療師か?

 美人治療師、美人治療師、美人治療師……


「ぶふっ」

「笑う余裕があるなんてね〜今度は木へんだよ」


 ダメだっ!

 何も考えず、無心になってやろう。


「黙ってんじゃないよっ」


 くっ!俺にどうしろと言うんだ……


「木、森、林……橋っ!」

「ほらもっと続けな」


 ………………

 …………

 ……


 1時間ほど進んだところで、3階層への階段へと着いた。

 2階層は幅3mほどの道だったが、ここからは大きい広間のようだ。


 確かにこのダンジョンは生活を一変させる物だ。

 今のところは小魚?……小魚しか出てきていなかったが、3階層を階段から覗いただけでもマグロっぽい大きな魚がチラホラと宙を回遊しているのが見える。

 こんなものが大量に採れるようになったのなら、海での漁で生計を立てていた漁師さんたちは商売上がったりだろう。

 だからといって、漁師さんがこのダンジョンへ潜るのはかなり危険だ。

 俺は、クソ……師匠や組長に地獄のような目に合わせられているから、何とか弾丸のように飛んでくる魚に俺は合わせる事が出来ているけれど、初見ではキツイのではないだろうか……

 投網って手もあるのかな……うーん、勢いなどを考えると、破られたりしそうだ。


 まあその辺は政治家や偉い人たちが考えるだろうから、俺は前に進まなきゃ。


「グッ……」


 足を踏み出し、注意を払いながらしばらく進んだところで、どこかに隠れていたらしい魚が斜め後ろ横の近距離から飛んできて、俺の肩甲骨のところにぶち当たった。


 鎖帷子のお陰で刺さりはしなかったけど、ぶつかった事で体勢が崩れたところに、前方などから一気に魚が押し寄せる……


 なんとか躱したり、斬り伏せながら階段の所まで後退した。


「あんた忘れているのか何なのか知らないが、スキルを使ってもいいんだよ?」

「スキル……」


 火球を前方にぶっ放しながら前進?

 いや、それだけだと今みたいに隠れていたのには、対処出来ない、

 他には……


「分身!俺の左右後方を警戒し、迫ってくるモンスターを斬り伏せて」


 スキルレベルが上がったことで、簡単な命令を出来るようになったから出来る事だ。

「はい」とか「わかった」など声を出しての返事や、頷きが返ってくる事はないが、4体の俺のそっくりさんが無言で指定した場所に動いてくれる。


「何度見ても気持ち悪いね……まぁ喋らないだけマシか。でもあれだね、これならパーティーを1人で組めるね」


 えっ……

 言われてみれば、確かにそうだ。

 師匠たちとしか組めないかと悲観していたが、それは解消されそうだ……

 これって喜んでいいのかな?

 分身とパーティーを組む……

 パーティーでの揉め事で多いのが、収益の分配だ。誰が貢献したとか、誰がお宝を見つけたかだとか、倒しただとかで揉める事が多いらしい。酷いと殺傷事件にまで発展するらしい。時折裁判にもなり、金額が多いとワイドショーなどの色んなニュースで取り上げられ話題にもなるほどだ。

 それが起きない、絶対に起きない……もし万が一分身自身が意志を持ったとしても、分身を解けば終わりだ。

 次に役割分担だが、俺が指揮権を持ってるわけだから問題は起きない。


 んっ?

 いい事ばかりじゃないか?


 ちょっと想像してみよう……あかん、怖い。


 ダンジョン内で他のパーティーと会った時の事を考えたら、大騒ぎになる事間違いなしだ。

 良くて5つ子?と思われるだけだが、全く同じ顔、同じ装備の人間が迫ってきたら、下手すると泣き叫ばれる。

 自分の事をこう言うのも何だが、気持ち悪い事間違いない。


 って、違う!

 俺の夢は如月先輩と一緒にパーティーを組む事何だよ!


 そのためにも、強くならなければ!!

 という事で、さっさと進むとするか。


「ごふっ!!」


 マグロに弾き飛ばされた。

 デカいし早い。


「饗談の者が受け止め……あぁあんたはNINJAだったね、アメコミなどそういった物では正面から受け止めて力比べするのがスタンダードなのかね」


 どうなんですかね?

 確かにそんなイメージがないでもないけど、俺には無理だ。

 だからといって、避けながら一刀の元に斬り伏せるような事は出来そうにない。

 なんせどう見ても胴は一抱え以上ありそうだ。

 これは、避けながらちまちまと削るしかなさそうだ。


「あんたのパーティーは分身なんだから、火でも何でも飛ばしても大丈夫だろうに」


 呆れたような声が聞こえてきた。

 確かにそうだろう、フレドリーファイヤーなんて関係ない。当たってしまっても、分身を出せば済むんだから。


 だがそれでも俺はそれはしない!

 そんなのに慣れてしまったら、いつか如月先輩と組んだ時に困るからねっ!


 まるでスペインの闘牛士のように、避けつつ両手に持った刀でチクチク傷を付けること数十分、ようやく光へと変える事が出来た。


 そして床ですごい勢いでビチビチと跳ねるマグロ。その他にも、俺が1匹に夢中になっている間に襲ってきていたであろう他の魚が、分身たちに斬り伏せられたらしく、床の所々でビチビチと跳ね回っている。


 まるでテレビで見る、海で漁をする船の上のような光景だ。

 ここがどこだかわからなくなってくる……


「こんなもんスパッとやりな、スパッと」


 鬼畜治療師が後ろから近付いてきて、手刀で一抱えもあるマグロの頭を切り落とした。


 怖っ!

 木の枝のような、刀に似てなくもない形状の物でもなくて、手刀でスッパりと切り落とせるのかよ……

 しかも断面は解体ショーのマグロの切断面より美しいし……


 多分これ、クソ忍者やハゲヤクザも当たり前のようにやるんだろうな……

 これからは態度言動には気をつけよう。

 そうしよう。

 じゃないと、手刀で頭からバッサリやられそうだ。


「どんどん行きな」


 その後も漢字問題や算数問題を出されながら、色んな魚にぶちかましを浴びながら、何とかボス部屋前まで辿り着いた。


「よし、戻るよ」

「えっ?ボスは……」

「シャチらしいし、食いもんは出ないらしいからね、要らないよ」


 そんなバカな……

 本当に海産物目当てかよっ!


 来た道を戻りながら、お魚回収をしつつ、地上へ出たのは13時を過ぎた頃だった。

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