第16話ーータダより高いものはない

 スライムと同化したあの日と、その後2日間、俺たちは1階の壁際で3人だけで勉強をさせられて、夕方は整地ローラーを曳いて走りまくるという時間を過ごした。

 一日目は色々あったけれど、その後は何事もなく、そのおかげで俺がローラーを曳く数も減った。具体的には60回、アマとキムは20回と25回だ。

 日々のシゴ……特訓のお陰か、60回程度だったら全然余裕だった。……まぁ教官の前ではしんどいフリはしたけどね。下手に余裕だなんて言ったら、どれほど走らされるかわかったもんじゃないからね。

 それに比べてアマとキムは……たったあの回数でへばるとは情けない。えっ?生産職だからそれでいいって?それじゃ、面白……この世の中何があるか分からないからね、鍛えておいた方がいいと思うんだ。


 そして今日からはまた訓練所での特訓らしい。

 俺たちに、高校2年生の素敵な夏休みは訪れない模様。


 扉を開けて入ると、クソ忍者と教官が揃い踏みでした……めちゃくちゃニヤついているよっ!?危険な雰囲気が漂いまくってるんだけどっ!?

 帰りたいっ!嫌な予感しかしないっ!

 アマとキムも世界的な師匠が来ている模様……でもなんか俺たちと違って、とてもにこやかな穏やかな雰囲気なんだよな……おかしい。


「夏休みも約半分を過ぎた、ここで成果を1度確認するから、ステータスを出せ」

「もし上がっていないとなると、普段手を抜いてやっていたと見なすからな」


 待ちに待ったステータス確認だけど、何その発言!

 ステータスってそんなに簡単に上がるものじゃないってわかってるよね!?


 頼む……少しでもいいから上がっていてくれ!


「ステータス表示、開示」

「どれどれ……」

 ◆

 横川一太 Age16

 job―[NlNJA Lv2]

 体力―CC

 魔力―C

 力 ―D

 知力―D

 器用―DDD

 敏捷―CC

 精神―CCC

 ◆


 おおーっ!

 軒並み上がっている……ってかエグい上がり方をしている。

 基本的に、FからFFやFFFには上がりやすいけど、文字が変わるFFFからEには上がりにくいと言われている。

 それが2つも跨ぎ変わるって……どれだけスパルタだったかの証明している。

 訓練前は3F探索者だったのに、1Dになるとか前代未聞じゃないのかな……


「まぁまぁかな」

「師匠申し訳ございません、私の不徳の致すところでございます」


 えっ?これで納得しないだ……と!?

 教官も、何謝っちゃってるの?不徳の致すところって……これから俺をどうする気だよ!?


「よし、次はスキルだ」

「スキル開示」

 ◆

 固有スキル―火遁(Lv1)・闇遁(Lv1)・口寄せ(Lv1)・分身(Lv1)・刀剣術(Lv5)・手裏剣術(Lv3)・跳躍(Lv4)・毒耐性(Lv7)・麻痺耐性(Lv5)

 ◆

 火遁(Lv1)……火球(Lv3)―火の玉を前方に3つ同時に放出できる。

 闇遁(Lv1)……影潜り(Lv4)―120分間影の中に入る事ができる。対象が動いた場合は自動的に動く。中から外の様子を見聞きできるが他の行動は出来ない。

 口寄せ(Lv1)……鼠(Lv2)―鼠を2匹魔力によって召喚できる。鼠は魔力で出来ている為に死んでも再度の召喚が可能。念話により意思疎通が可能。攻撃は不可能。存在時間は2時間。

 分身(Lv2)……分身(Lv2)―魔力で出来た分身を2体作る事が可能。本体と全く同じ動きをする。存在時間は2時間

 刀剣術(Lv5)……忍刀を扱う事が出来る(80cm未満)。2本装備可能。

 手裏剣術(Lv3)……手裏剣を投げる事が出来る。

 跳躍(Lv4)……身体能力+4mの高さまで跳躍距離が伸びる。

 毒耐性(Lv7)……毒に耐性がある。

 麻痺耐性(Lv5)……麻痺に耐性がある。

 ◆


 ステータスより更にやばかった。

 スキルレベルの上昇にも、ステータスと同じような仕組みがある。それはLv1〜4までは比較的上がりやすいが、Lv5〜はとても上がりにくいと言われている。

 それなのにだ、毒耐性がLv7で、麻痺耐性がLv5ってどういう事!?俺はどんだけ毒飲まされてたの!?


 ヤバイ……

 目の前に2人犯罪者がいる。

 傷害犯だろ、どう考えても。

 誰かっ!誰か、捕まえて下さいっ!


「毒は7か……まぁこんなもんか」

「毒はもう手持ちの物では効きませんので、これくらいかと。ただ麻痺が意外に上がりませんでしたね」

「まぁ麻痺は難しいから仕方ないな」


 最近毒入ってないな〜って思ってたのに、毒は入っていたけど、耐性のおかげで効いてなかっただけかよ……

 クソ忍者と違って、教官は優しいなんて思っていたのは間違いだったようだ……

 クソ師弟だった。


 アマとキムの生産施設の方からは、優しい声と、2人の嬉しげな声が漏れ聞こえてくる。きっと2人もステータスやスキルが上がっていたんだろう、そして優しく褒められているんだろうね……代わってくれないかな……マジで。


「よく、頑張ったな横川」

「戦闘教官として、お前の頑張りがわかって嬉しいぞ」


 えっ?何?

 突然猫なで声で褒められても怖いだけなんだけど……

 もしかして俺、生産施設の方向いて羨ましげな顔してたのか!?


「頑張ったお前に褒美をやろうと思う」


 褒美……

 もしかしてお休み?

 それとも如月先輩……は無理だとしても、女の子とキャッキャウフフと遊ぶセッティングしてくれたり?


「えっと……」

「これだ」


 渡されたのは巻物だった。

 うん、期待していなかったから大丈夫……うん。


「えっと、これは?」

「鑑定阻害のスキルスクロールだ」

「お前の職やスキルは異質だからな、下手に鑑定されて面倒な事にならないようにと、師匠が用意して下さったんだ」

「ほら、読め」


 鑑定阻害スキルなんてあるんだな、正直知らなかった。確か鑑定スキル持ちは、みだりに鑑定してはならない、またそれを職務以外で口外する事を禁ずるって法律があったはずだけど……まぁ、人の口に戸はたてられないとも言うからね。


 さて、ではありがたく……

 っと、先に大切な事を確認しなければ。


「無料ですか?」

「あぁ、これをお前が使用してスキルを得ても、金銭の要求はしない事を誓おう」


 よかった。

 ではありがたく使用させてもらおう。


 巻物の紐を解き、するすると広げていくと約40センチメートルほどの長さになった。中身は全く何が書いてあるかは読めないけど、文字と魔法陣の様なものがある。


「魔法陣の中心に焦点を合わせて、使用すると言え」

「使用する」


 言葉を発した直後、文字と魔法陣がオレンジ色に発光したと思ったら、魔法陣だけが宙に浮き上がり、俺の胸の中へと飛び込んできた。

 そして光消えた後に残ったのは、魔法陣が消えた文字だけの巻物だ。


「使用したスキルスクロールはそのようになる。その文字は内容説明と、神へと捧げる言葉だと言われている」

「じゃあ、ちゃんと得ているか確認しろ」

「はい、スキル表示・開示」


 ◆

 鑑定阻害(Lv8)……鑑定Lv8以下の鑑定を阻害する。

 ◆


「おおっ!ありがとうございます」

「レベル8か……意外と高かったな」

「レベル8!?横川、それもし普通に買おうとしたら、億超えするからな!?……もしかしたら10億さえ」


 えっ?マジっすか!?


「おう、表には出ないが、犯罪者たち御用達で、裏社会では高値で取引されているな」


 先に言ってくれよ……

 いや、先に言われたら怖くて使えなかったかも!?

 でも、やっぱこんなのをぽんっと渡してくるなんて、日本のTOPシーカーなんだな、このクソ忍者……何となく納得したくないけど。


 んっ?

 無料でこんなのを渡してくるってことは……もしやとんでもない事をこれからさせられるのか!?

 いやっ、き、きっと未来明るい若人へ毒を飲ませ続けた事への謝罪だ。1歩間違えば死んでいたわけだからね。

 そうに違いない、うん。


「さて、こんな言葉を知っているか?」

「な、なんですか?」

「タダより高いものはない」

「……」


 やっぱりかー

 無事に二学期を迎えられるのかな〜

 もう少し生きていたかったな〜


「冗談だ」

「……」


 冗談に聞こえないんだよな〜

 確かにクソ忍者も教官も目は笑っているけれど、雰囲気的が笑っていないんだよね。


「ちょうどこれからうちの氏族の奴と、海に行くんだが、一緒にこい」

「氏族?」

「あぁ、今で言うとなんだ……」

「師匠、クランです」

「そう、それだ。クランで海に行くから、一緒にこい」

「訓練ですか?」


 今度は泳ぎ方か?それとも砂浜での下半身強化か?


「いや、訓練ではない」


 信じていいのだろうか……

 ってか、これって行くか?行かないか?ではなくて、って命令なんだよね。

 つまり選択肢はないって事だ。


「わかりました。アマとキムは?」

「あいつらはあいつらでそれぞれ合宿があるから、気にするな」


 あいつらって顎でクソ忍者が指した先には、悲壮感漂いまくってるいる2人が居た。

 あいつらの合宿も、何だかヤバそうだ。


「孤児院に荷物を取りに行かないとですね、あと合宿の旨を伝えないと」

「安心しろ、全てもう伝えてあるし、荷物も用意してある」


 あぁ、逃げる余地さえないのですね。


「わかりました」

「よし、いい覚悟だ」


 あっ、やっぱり覚悟が必要なんじゃん!?


「行くぞ」


 教官運転、後部座席に俺とクソ忍者という、明らかに連行状態で連れていかれたのは、渥美半島ダンジョン横にある温泉旅館だった。


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