第15話 禁令を司る少年2

いつも通りに授業が終わり、逃げ出そうとした友也は幸二の手によって捕まったため、珍しく(というか、ここに来てから始めてかもしれない)1人で帰っていた

 ちなみにその頃の友也は


「……やっぱり、仕事をほっぽって帰ると思った」


玲にため息をつかれていた。


「何故バレた」


「お前宛の仕事が貯まってるんだ。恨むなら光輝を恨むんだな。まさか光輝が友也の仕事部屋で始めるとは思わないだろ? 友也の部屋があそこまで大破してりゃなー」


そういって玲はちらりと友也の隣の光輝を見る


「お前か二階堂」


「発想まで似てたよ。光輝も逃げ出そうとしてたじゃん」


「それは言わないでくれ。玲央」


「実は似た者同士なんじゃないの? 」


「書類の溜め込み枚数も一緒」


いつも仕事をやっている玲と玲央から言われては取りつく島もない


「ていうか、玲仕事は? 」


「光輝が言える立場じゃないんだが……。まあ、今日の分は後はお前ら2人の書類の印鑑だけだな」


「やっぱり、そういうところが面倒だよね……うちは」


「事後書類くらい上司の印鑑要らないようにならんかな……」


「そうなるとその件が消される可能性が危惧されるから要るんでしょ」


「後で資料にして目を通すだけにして欲しい」


「それ、玲が忙しい人だから言えることだね……」


書類を片付ける友也と光輝をおいて2人は話を続ける。やっと書類に一区切りをつけた友也が口を開く


「そういえばさ、今日は誰が山里を見てるの? やっぱり博夢が見てんの? 」


友也は嫌な予感がした。そして、その予感は正しかった。


「ああ。陣だ」


「……え? 」


「だから、今日は陣が見てる」


「……いや!何であいつにしたの玲!? 他にももっと良い奴いたじゃん! 」


「まあ、陣は昨日帰ってきたばっかりだし、なんだかんだ面倒見良いし大丈夫だろ」


「どこが!? 視線だけで人を殺せそうな奴のどこが面倒見良いか言ってみろ! こうしちゃいられねえ、ちょっと見てくる! 」


玲の返答も聞かずに光輝は飛び出した。扉からは光輝の方が近かったため


「おい! 書類! ……全く、仕方のない奴」


「そんなに大事かね。山里零香」


「全くだよ。ほっときゃ良いのに……」


「それ、玲は言えないから」


玲の言葉に2人は切り返す。


「友也みたいに心を読めなくても分かるよ。玲はあの子の事をすごく大事に扱ってる。でなきゃ俺等に護衛任務なんて回ってこない。違う? 」


「そのくせ、最近あまり教室に来てないよな? あれは山里零香との接触を避けるため? 光と重ねるから? それが嫌だから玲は接触を避けてんの? 」


「黙秘権を行使する。お前らに話すようなことじゃない」


「玲もわかってるでしょ。いつまでも俺等に隠し事はできないよ」


「痛いくらいに分かってるよ。友也、書類終わらせとけよ」


そういうと玲は席を立ち出ていった。


「……今なら、書類おいて逃げ出せるんじゃない? 」


「……いや、二階堂じゃないんだからやらないよ。そんなことより、あんなに黙秘する玲は始めてだな」


「いつもは俺等には隠し事は無理だとわかってるからすぐに言うからね。……それより、陣の方はどうなってるんだろうね」


「知ってるくせに。予想が正しければ今ごろ」


山里と鉢合わせてるんじゃない?

その言葉通り、零香の目の前には鋭い目の男がいた。この道を通る事が分かっているかのように壁に寄りかかって待っていた


「……」


「……」


零香的には知らない人だし通りすぎたいのだが、一本道で他に道はない。雰囲気に気圧され、動けないでいると相手の方から話しかけてきた


「山里零香だな」


「え……はい。そう、てすけど……? どちら様ですか」


「高瀬から聞いてないのか? まあ、直接会うのは初めてだからな。沼渕陣だ。能力名は。言葉通りの意味だ。写真じゃ実物と違うから分からなかっただろ? 高瀬は気づいてたのか見てなかったのか……まあ、どっちでも良いさ。あんたは今から、死ぬんだから」


そういうと陣は指を鳴らす。

あっという間に景色が変わり何ももない空間になっていた


「ここは俺のバトルフィールド。ここには俺とあんたの2人だけ。ルールは簡単。ルールに触れると罰が下る」


零香は訳も分からず逃げ出そうとする


「逃げようったって無駄さ。ここに出口はない。出られる条件はただ1つ。冥土の土産に教えてやる。俺かあんた、どちらかの命が無くなるまでさ」


そういうと陣は懐から拳銃を取り出した。

 一方のその頃、学校の屋上には、玲が1人でいた。まもなく、扉が開く


「玲。何してんだ? いつもは仕事してるだろ」


「……月浪先生。先生こそ、仕事はどうしたんですか」


「俺がいつも仕事してると思うな。休憩中だ」


「先生こそ、俺がいつも仕事してると思わないでください」


「確かにな。悪いな。玲はいつも仕事してるイメージだからさ」


「政府が勝手に俺に仕事を寄越してくるだけです。したくてしてる訳じゃない」


「そりゃそうか。まあ、でもこうやって話すのも、久しぶりか」


「……そうですね。月浪先生」


「山里零香はどうなると思う? ……流石に、沼渕には勝てないだろ」


「流石にじゃないです。確実に負けます」


「だろうな。じゃあ、なんで沼渕をけしかけた? あいつを殺したいのか」


「先生。山里零香は訳もわからないこの場所でしばらく過ごしました」


「……そうだな」


月浪は訳がわからない表情をする。


「俺が言える立場じゃないですが、そろそろ彼女にも息抜きは大事ですよ。そして恐らく今回陣が指定するルールは''どちらかの命がなくなるまでこの空間から出られない''でしょうね」


「……なおさら、ヤバイんじゃねえのか? それ」


月浪は眉を潜めるが玲は表情を変えずに続ける


「陣はなんだかんだ言って面倒見が良いんです。そして、死を目の前に山里零香は訳も分からず愚痴り出すことだと思います。吐き出した方が良いこともありますしね」


全貌を理解した月浪は口角をひきつらせる


「……荒療治過ぎるしお前が言えることじゃねえ」


「今頃、陣は大変なんじゃないかな。なにせほぼ初対面の人相手に愚痴を聞かなきゃならないんだから。陣も陣で面倒見が良いから拳銃なんて構えてたら即座におろして慰めてるだろうし」


玲の目には陣に対する同情の色が出ていた


「……長いだろうな」


「……そうだと、思いますよ。初対面だからこそ、言いやすい事ってあるし」


玲の予想通りの事が陣や零香の間で起こっていた。零香は涙が止まらず、陣は必死に慰めていた


「わ、悪かったよ( ? )そんなに泣くなって……」


陣は脳内で混乱していた。今までこういう状況には何度も経験してきたが、この反応ははじめてである。


「何で、何で勝手にここに連れてこられて殺されなきゃならないのよ! あなたたちの事情なんて知らないじゃんそんなこと!! 」


零香の有無を言わさないような雰囲気に陣はすぐさまに負けた。零香はその場に座り込んでしまった


「わ、悪かったって。というか、そんなに来たのは最近なのか? 」


「……今年の4月に来たばっかり」


「すげえ最近じゃねえか! じゃあ、混乱もしてるか……。この様子だと、精鋭科の方もほぼ玲の独断か」


「……」


零香は無言で頷いた。陣はどうして良いか分からず、とりあえず頭をなで始める。はた目でも分かるぐらいに、陣はたじろいていた。正直、命乞いは聴く覚悟はできていたが、逆ギレ( ? )は聞く予想はしていなかった。その後2時間は零香の言いたいことが募っていった。そして、陣は律儀にもそれに付き合っている。聞いていくうちに、零香への同情と憐れみが上昇していくと比例して、殺意がかなり急降下していったようだ。












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