未明
紡ぎきれない言葉、描きかけの一コマ。何方も好きで生み出して、好きで向き合っている筈なのに、同じ夢を託した筈なのに、前者の文章の羅列に向き合う気にはなれなかった。
同じ数だけ生み出すと決めた筈の物語は、文章に書き起こせないもどかしさと共に、教室の片隅に飾られたゼラニウムの花びらのように散っていく。天秤が傾いていく。
色や形での表現の方が楽しく思えて、自分に向いていると思えて______実際それは事実だけれど______「表現できる」という喜びに流されて、「言葉で綴りたい」というその夢は、教室の窓から流れ込むそよ風のようにあっけなく消えていった。
朝日を浴びたような明るい赤色の筈のその花が、夜の惣闇に覆われたような深紅に見えて仕方なかった。
いつか見た理想像を抱えて叩くキーボードはあまりにも重すぎて、残酷なまでにこの現実を思い知らせている。嘆いても何も変わらないのに、たった一人の願望と何処から湧いてきたのかも分からない自信に縋り付いている。「いつか僕だって」という、根拠の欠片も無いようなそれは、ある時は原動力に、ある時は枷に成り下がる。
だけど僕は、自分が成り得る最高の僕に成りたかった。
好きな事で生きて散る、文面にすれば簡単なようで、それはあまりにも困難。自己表現、存在証明、誰かを救うこと、全て叶えようだなんて、少年少女が画面の向こうのヒーローに憧れるのと同じくらい単純で無謀だった。
_________それでも僕は、描いて、書いていたい。誰かが創った世界の美しさにまだ取り憑かれていたい。僕も何だって出来ると思い込んでいたい。それこそ、過ぎ去ったあの頃のように。
例え我儘に過ぎないとしても止めない覚悟ができている程には、もう既に創ることに魅せられ、溺れてしまっていた。
現実の見えていない哀れな子どもだと思われても、もうどうでも良かった。この鮮やかな景色をずっと見ていたい。
僕の視界が灰色になって仕舞わないように、最高の人生だったと笑って死ねるように、この揺蕩うような夢を見ている。
________そうだ、例えそれが憂鬱になったとしても、僕を彩るのは創作唯一つだ。創りたい物語を使いたい手段で幾つも生み出していくこと、それを望んでいたんだ。_____例え馬鹿馬鹿しくても。
大丈夫。きっと何でもできる。例えそれが思い込みであっても。
拝啓、未だ見ぬいつかの僕へ。君は君のやりたかった事ができていますか?
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