【豺ア蛻サ縺ェ繧ィ繝ゥ繝シ】チート剣もったまま召喚されたら異世界がバグった

甘木智彬

最終話 決戦、魔王城!

【これまでのあらすじ】

ゲーム世界に勇者として召喚された俺は、ゲームから引き継いだキャラクターの能力を活かし、順調に魔王軍の幹部たちを撃破。満を持して魔王城に潜入し、魔王に一騎打ちを挑んだ。しかし魔王の強さは想定外のもので――



          †††



「フハハハッ、この程度か勇者! 口ほどにもないわ!」


 おぞましい暗黒のオーラをまとう魔王が、勝ち誇った顔で哄笑する。


「くっ、クソッ……」


 満身創痍の俺は聖剣を杖がわりにフラフラと立ち上がった。


 魔王城、謁見の間。


 踏み込んだときは豪華絢爛な装飾を誇ったこの広間も、今や、俺と魔王の戦いでボロボロだ。床のタイルは割れ砕け、壁にも亀裂が走っている。だが肝心の魔王には傷一つなく、勇者の俺は息も絶え絶えだ。もう帰りたい。


「勇者さま!」

「ちょっと、大丈夫かよ!?」


 パーティーメンバー、聖女ちゃんことミシェルとツンデレ女盗賊のティナが駆け寄ってくる。二人とも頼りになる仲間だ。ミシェルは治癒の奇跡や支援魔法を使いこなし、ティナは魔王城の警備をかいくぐって俺たちをここまで導いてくれた。直接戦うのは俺の役目――なのだが、魔王が想定外に強い。


 俺の傷を見て、ミシェルがすぐに回復魔法をかけてくれる。だが、なかなか治らない。聖女の奇跡を相殺するほどの、強力な魔王の呪いが俺の体を蝕む。


「思ったよりは楽しめたな。だがそろそろ飽いたぞ、勇者よ。仲間ともどもトドメを刺してくれよう……」


 ズゴゴゴゴ、と魔王城が震え、魔王の体が一回りも二回りも大きくなったような錯覚を覚える。その暗黒のオーラが、さらに勢いを増す。


「そんな……」

「アイツ、まだ本気出してなかったのかよ……!?」


 ミシェルが顔を青ざめさせ、普段は勝ち気なティナも声を震わせていた。俺も、思わず苦虫を噛み潰したような表情をする。マジでここまで強いとは聞いてない。


「勇者さま……」

「ど、どうするんだ?」


 二人がすがるような目で俺を見てくる。


 下唇を噛んで、悩み――俺は決心した。


「――わかった」


 俺は聖剣を放り捨てる。俺が諦めたと思ったのか、「そんな?!」「何を!」とミシェルとティナが絶望したような声を上げた。


「ほう、潔く負けを認めるか?」

「……いや、違うさ。奥の手を使わせてもらう。『次元収納』」


 俺はいわゆるアイテムボックスの魔法を唱え、異次元の倉庫から『それ』を引き抜いた。


 姿を現したのは、黒塗りの鞘に収められた、何の変哲もない剣。


「勇者さま、それは」


 ミシェルが目を見開く。聖女として俺を召喚した彼女は見たことがあるだろう。俺が最初から持っていて、誰にも触れることを許さず、厳重に保管していた剣だ。


「なんだ、それが貴様の『奥の手』か」


 魔王が鼻で笑う。すぐにトドメを刺すでもなく、腕組みしてふんぞり返っているあたり、完全に油断しているな。


 だが、そこを突く。


「そうだ。……俺の持つ、最強の剣だ」


 ――俺が元の世界で、ゲームにチートツールを入れて作成した最強の魔剣『ニブルヘイム』。


 絶対に使うまい、と決めていた。なぜなら、ひとたびこの剣を振るうと、ゲームの挙動がおかしくなってクラッシュしてしまう、最悪のバグが発生するからだ。


 だが背に腹は代えられない。ここでやられるくらいなら、背後の二人を無残に死なせてしまうくらいなら。


 俺はこの剣を使ってでも、魔王を倒す――!


「二人とも、離れろ」


 俺の言葉に、ミシェルとティナがサッと距離を取った。魔王は相変わらず、面白がるように、余裕綽々な態度で静観している。


 目にものを見せてやるぜ――


 俺は一息に、『ニブルヘイム』を抜き放った。


 鞘走る、夜を溶かしたような漆黒の刃。




 ぞぐん、と怖気が走った。




 異様な存在感。魔王が本気を出したときの威圧感どころではない。まるで、世界そのものが怯えるかのような大気の震え。筆舌し難い狂気じみた『力』の余波が、刃から全方位に放射されているのがわかる。感じられる――


「な……ん、だ。その剣は」


 魔王が薄ら笑いを引っ込め、気圧されたかのように二歩、三歩と下がった。


「最凶の魔剣――『ニブルヘイム』だ」


 凄まじい、凄まじい力が、魔剣から俺に流れ込んでくる。ああそうさ、こいつは正真正銘チートの塊だ。使い手の身体能力の強化から、即死効果に魔法威力激増、各種バフに状態異常耐性。カタログスペックで言うなら、まさに世界最強。この刃は神さえ一撃で弑す。


「行くぞ、魔王」

「やめろ……やめろ、来るな!」


 実力者であるからこそ、魔王にはこの剣に秘められた異常性を感じ取れたのか、怯えたように表情を歪ませる。


「きっ、消えろ勇者ァ!」


 魔王がブンッと腕を振り、暗黒のオーラを刃のようにして放った。


 遊びなし、容赦なしの本気の攻撃。無数の刃が生成され、まるで魚の群れのように襲いかかる。あまりの密度に視界が黒く染まる。


 だが、俺は恐れることなく踏み込んだ。


 ゴォッ、と滝のような刃の嵐が俺を包む。


「勇者さまぁ!」

「いやあああ!」


 背後でミシェルが叫び、ティナが可愛らしい悲鳴を上げる。だが――


「馬鹿な!?」


 驚愕したのは魔王だった。空間が捻じ曲がったかのように、暗黒の刃がひとりでに逸れていき、霧散したからだ。


 魔剣『ニブルヘイム』により、俺の防御力は極限まで高まっている。魔王の本気の一撃はこの鉄壁の守りを貫くどころか、存在の格で押し負けて消滅したらしい。


「覚悟しろ魔王! 俺の魔剣を受け縺ヲ縺ソろ!」


 俺は雄叫びを上げながら、神速で突っ込む。


「うおらあああ縺縺ああァァッ!」


 そして全力で、魔剣を振り下ろす!


「ぐわああ縺縺あァァァ――ッ!」


 魔王は避けきれず、ばっさりと胴体を切り裂かれた。


 強大な魔力により、傷口がすぐに塞がろうとする。だが、許されない。そこにはあらゆる理を無視する、死と破壊の呪いが込められていた。


 ボグン、ボグンッと不気味な音を立てて、魔王の体が歪んでいく。


「そ、んな……我には9つの心臓が、一撃で斃されることは、絶対にないはず……なのに、いや、嘘だろう!? ちょ待ァあ゛縺縺ッ!!」


 情けない断末魔の叫びとともに、傷の呪いの耐え切れなかった魔王の体が、冗談のように弾け飛んだ。


 とてつもない魔力の暴風が、謁見の間に吹き荒れる。


 そしてそれが収まったとき――魔王は、影も形もなく、消滅していた。


「……勇者さま、が」

「……勝った、のか?」


 半ば茫然としたように、背後のミシェルとティナ。


 少ししてから、それは確信に変わる。


「やった! やりましたわ、勇者さま! さすがです!」

「すごい、すごいぞ! 心配かけやがって!」


 嬉々として二人が駆け寄ってくる。


 それを気配で感じる――だが、俺は――必死で、こらえようと――抑えようとしていた――が、ダメだ、これは、この力は――




「――来るな!」




 俺の叫びに、二人が足を止めた。


「……勇者さま?」

「おい、どうし……」


 俺が振り返ると、二人がハッと息を呑んだ。


 なぜなら――いや、なぜだろう? 俺は今、どうなっている――?


「ミ繧キェル、ティ繝……」


 口が、体が、――もう、うまく、動かn――


「ニ、ゲ、ロ――」




 ボグンッ、と体が捻じ曲がった。




     †††




「何だよ!? 何なんだよ、アレは!?」

「わかりませんよ!」


 魔王城。


 聖女のミシェルと女盗賊のティナは、必死に走って逃げていた。


 勇者が見事魔王を討ち果たし、喜んだのもつかの間。魔剣を片手にもがき苦しみ始めた勇者が、魔王がそうしたように、異様な音を立てて弾け飛んだ。


 一瞬、何が起こったのかわからなかった。勇者が誰にも触らせなかった剣。あれには強力な呪いが封じ込められていたのか、あるいはその反動か? と思ったが、異変はそれだけにとどまらなかった。


 勇者が消し飛び、その場に残された魔剣が床に突き立って――それから『侵食』が始まったのだ。見るもおぞましい繧ィ繝ゥ繝シ――正確に知覚することができない、『繧ィ繝ゥ繝シ』としか呼びようのないものが、一気に広まり始めた。


 勇者の消失を嘆く暇すらなく、繧ィ繝ゥ繝シに本能的な恐怖を感じた二人は一目散に逃げ出したのだ。


「ヤバイ、追ってくる!」


 ティナが背後をチラと振り返り、悲鳴を上げた。


 魔王城の石壁が繧ィ繝ゥ繝シに取り込まれ、みるみるうちに縺昴?蟄伜惠繧呈ュェ縺セ縺帙※縺?¥。だが、『追ってくる』という表現は正しくなかった。もし二人が鳥の視点を持っていたならば、謁見の間を中心に、繧ィ繝ゥ繝シが全方位へ広まっていくのが見えただろう。


「見てはいけません! 取り込まれますよ!!」


 額に汗を浮かべながら、ミシェルは警告した。もしあれが強力な呪いによるものならば、視覚から感染することもありうる。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだから――


 ミシェルの警句に、顔面蒼白になったティナが、慌てて前に向き直った。


 しばし、二人は無言で走る。長い長い魔王城の回廊。ただ背後から繧ィ繝ゥ繝シが周囲の空間を次々に蜿悶j霎シ縺ソ縲蜥?蝴シ縺励?∝酔蛹していくおぞましい髻ウ縺?縺が響き渡る。


「――見えました! 出口です!」


 ようやく出口が見えてきた。外の光にすがるようにして足を速める二人。


 だが、気の緩みからか、ティナが石畳の段差につまづいて転んだ。腕利きの盗賊としてあるまじきミス。


「きゃっ!」

「ティナ!」


 思わず振り返ったミシェルは、城を鬟イ縺ソ霎シ繧?ほどに膨れ上がった繧ィ繝ゥ繝シを視界に入れてしまう。


「おぅっぷ」


 視覚が焼き切れるかと思った。強烈な吐き気、おぞましい感覚が眼から脳を直撃する。


「ミシェルッ!」


 口元を手で押さえ、その隙間から胃液を噴き出すミシェルの姿に、背後がヤバイと察したティナは慌てて立ち上がろうとする。


 が、できない。


「……え?」


 なぜならその足は――既に繧ィ繝ゥ繝シに蜿悶j霎シ縺セ繧後※縺?◆。


「えっ、やだ、やだァ!」


 じたばたと暴れて、逃げようとするが、その肉体は足からじわじわと萓オ鬟溘&繧後?∝、芽ウェ縺励※縺?¥縲。


 体が冷たい。


 いや、熱い?


 わからない!


 自分の体なのに、わからなくなっていく――


「たすけて! ミシェル、た縺吶¢でえ!」


 ボグ ボグン ボグンッ


「ひ……ッ!」


 目の前で歪に螟芽ウェしていく友人に、ミシェルは吐き気をこらえながらふらふらと後ずさることしかできない。


「だずげ――だ繧。縺吶¢縺ヲ! いやだ、こんなの縺?d縺?よぉ!」


 ティナは泣いている。しかし、もはや見る影もないほどに、いや正確には知覚できないが、もう、その姿は、人というより繧ゅ▽繧後◆菴輔°――


「繧ソ繝翫き繧ソ繝ュ繧ヲ――ッ!」


 最期に、人ならざる声で勇者の名前を呼んで、ティナという存在はどろりと蟠ゥ螢翫@縺。


「ひいいっ!」


 あまりにも冒涜的な光景に、引きつったような悲鳴が出る。


「………嘘です……こんなの、嘘です……!」


 受け入れられない、とばかりに首を振り、ミシェルは後ずさり、そして弾かれたようにまた逃げ始める。


「こんなの、嘘です――!」


 だが、新たな犠牲者を平らげた繧ィ繝ゥ繝シが、それでもまだ足りないとばかりに今度はミシェルへ鬟滓欠繧剃シク縺ー縺。


「嘘、嘘、嘘」


 ありえない、ありえない、ありえない。


 ひたすらに走る。見開かれた瞳は何も見ていない。全てを拒絶してただ逃げる。


 回廊を抜けた。魔王城の外へ。紙一重の差で、背後から霓滄浹縺響き渡る。魔王城が完全に蜿悶j霎シ縺セれ、蟠ゥ螢していく音。


 どこまで、どこまで逃げればいいのだ? ミシェルは自問した。根拠なく、外に出たら安全なのだと、先ほどまでは思っていた。


 だが実際はどうだ、背後の異様な存在感は全く消えていない。


 どころか、ますます――


 自分は、逃げているのだろうか?


 繧ィ繝ゥ繝シは、どこまで追ってくるのだろうか?


 見てはならない。見てはならない。見てはならない。


 だが見なければわからない――


 恐怖と焦燥感から、ミシェルは思わず、振り返ってしまう。




 そして、視た。




 魔王城を丸ごと蟷ウ繧峨£螟ゥ繧偵▽縺ほどに巨大化した繧ィ繝ゥ繝シが、ありとあらゆる方向へ、ますます蜍「縺?r蠅励@ながら、閹ィ繧御ク翫′縺」縺ヲいくそのさまを。


 バツンと頭の中で何かが千切れる音がした。


 どばっと耳と鼻から体液が噴き出る。


 やけに粘着質な涙が目から溢れた。


 視界が赤く染まる――


「あ、……あ縺、ああ縺……」


 足から、力が抜けた。


 心が、ぽっきりと折れた。


 その場にへたり込む。


 こんなの――逃げられるはずがない。


 魔王なんて、比較にならないほどの厄災だ、これは。


 勇者は――あの人は、何というものを解き放ってしまったのか。


「神よ……」


 稚児のように震えながら、ミシェルはただ祈り始めた。


「神よ、どうか奇跡を……!」


 聖女としてあらん限りの力を振り絞り、救済を願う。




 すると、それに応えるように、神々しい光が天から差し込んだ。




「これは……!?」


 ミシェルも、聖女としての人生で数えるほどしか目にしたことがないが、間違いない。まさしく神の恩寵、天啓の光ではないか!


「神よ! どうか我らをお救いください、このままでは世界が!」


 必死で訴えた。魔王に関しては、『自力救済せよ』と人類を突き放した神だが、この厄災はどうあがいても人の手に負えるものではない。魔王が世界を征服しても人類が魔族に弾圧されるだけだが、このままでは本当に世界が滅んでしまう。



『――ミシェルよ――』



 一心に祈るミシェルに、神の声が届いた。


「おお、神よ! あのおぞましき繧ィ繝ゥ繝シを、どうか……!」


 希望を見出し、さらに祈る。だが――



『――ごめん――』



 神は、一言、謝った。


「……え?」


 突然の謝罪に固まるミシェル。神が謝る? なぜ?




『――アレはちょっと無理――』




 そう言葉少なに告げて。


 あっけに取られるミシェルをよそに、神々しい光はスゥッと消えていった。


「……えっ? は? 神よ! 神よ!?」


 取り残されたミシェルは天に祈るが、神はうんともすんとも言わない。


 代わりに、周囲のおぞましい存在感だけが増していく。祈りに集中している間に――ミシェルは、完全に繧ィ繝ゥ繝シに取り囲まれていた。


 異様な感覚。へたり込んでいたミシェルは、いつの間にか、足から腰にかけての感覚が譖匁乂縺ォ縺ェ縺」縺ヲいることに気づく。


 見れば、地面に泡立つ繧ィ繝ゥ繝シが法衣ごと肉体を陜輔∩、徐々に陞榊粋縺励h縺と陟「縺?※いるではないか――


「あ……あは……はは……あはは縺ッ縺ッ縺ッ……」


 でろりと、体中から譛ェ遏・縺ェ繧区カイ菴を垂れ流しながら。


「あひっ、ひは縺ッ縺ッ縺ッ……! 縺?≧縺オ縺オ縺縺オ縺オ縺!!」


 ミシェルは歪んでいく声で笑った。


 何もかもが理解できずに、ただただおかしくて。


 周囲を取り囲む繧ィ繝ゥ繝シが、獲物に群がる蛇のように、ミシェルに蜷代°縺」縺ヲ荳?譁峨↓谿コ蛻ー縺励※縺?¥――



 ボグンッ



 だが、それしきで満足するはずもなく、さらに骼碁ヲ悶r繧ゅ◆縺偵◆繧ィ繝ゥ繝シは爆発的に全方位へと諡。謨」縺蟋九a繧――




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