ログインボーナス30日目 ポーランドと浅漬けたくあん
アラームが鳴ってない早朝、配達員さんに起こされる。
顔が近い。
「おはようございます。今日のログインボーナスはポーランドです」
「おはようございます。ポーランドですか」
「ですので支度しましょう」
そうして前回のオーロラを見に行った時と同じように、空港の整備場の前から飛行場内用のバンに乗り、ジェット機の前まで連れて行かれた。
これから俺と配達員さんはポーランドへ向かう。
ジェット機が着く時間は向こうの時間で午前10時らしい。
そして俺はジェット機内で10時間、ご飯を食べたり、配達員さんと遊んだり、寝たりして過ごした。
…………そんな事はなく、目が覚めると目の前に知らない天井があった。
横を向くと、隣のベットで配達員さんが寝ていた。パジャマ姿が可愛い。
彼女がいるので拉致ではないことが分かる。拉致だけれども。
ベットランプ脇のコンセントで俺のスマホが充電されていた。丁寧に機内モードになっており尚且つWi-Fiに接続されていた。
時刻は0時00分。
えっ? 零時? 昨日はいつもより早く寝たのに……天気欄にワルシャワって書いてあった。
現在地ポーランドなの!? まじか。
カーテンを開くと文化科学宮殿が七色に輝いている。
ワルシャワじゃん。
ワルシャワと言えば地図が、ネット小説系のアニメ化作品OPに出てくる都の全体絵に似ているんだよね。川とか。
「ああ、起きましたね。おはようございます。今日のログインボーナスはポーランドともう一つあります」
目を覚ました配達員さんが寝ぼけまなこを擦りながら、流暢に伝達事項を伝えてくる。
伝達事項というよりは事後報告だが、これ。
「もう一つのログインボーナスの浅漬けたくあんです」
配達員さんはそう言いながら、冷蔵庫から棒コンビニの袋を取り出し手渡してきた。
中にはウコン色に染まった、たくあんが入っていた。
でかでかと”たくあん”と商品名が、筆直筆!! と言わんばかりの迫力ある書体で書かれている。
俺は受け取った、たくあんを冷蔵庫にしまった。
「現在、日本時間では7時だそうですよ。朝ごはん食べましょうか」
この女、時差を合わせる気サラサラないな。
「漏れていますよ、声」
「えっ? 本当?」
「冗談です、この時間帯だと食事処はやってないので、BARでも行きますか?」
「朝からお酒はちょっと……」
深夜に朝から、なんて言えると思いもしなかった。
「今どき軽食がないBARの方が珍しい気がしますけれど」
配達員さんと共に寝巻を着替えホテル内のBARへ。
よく漫画である、見ないでくださいね、イベントは起こらなかった。
ただ単に、配達員さんは髪を整えないといけないので洗面所へ、俺は部屋でと別れて身支度を整えただけである。
そして今日の彼女は黒いスーツを身に着けていなかった。ペールトーンのブラウスにジーンズとラフな格好だ。
バーテンダーさんの言葉を配達員さんが通訳してくれる。
俺たちが来店した時「今夜は君たちが最後の客になりそうだ」ポーランド語で呟いたらしい。
配達員さんが要件を伝えると「OK!」笑いながら英語で返事をしてくれた。
バーテンダーさんが目の前で支度を始める。
配達員さんは「今起きたばっかりなので朝食が食べたいです。お願い出来ますか?」と言ったらしい。
配達員さんに言って俺の疑問を聞いてもらった。「深夜に朝食を頼んでも平気なんですか?」と。
返答を配達員さんが訳してくれる。「ここはホテルだから、君たちみたいなのはよく来るよ。あと俺は昔料理人だったから慣れてるよ」
目の前に3つのマグカップと皿に乗ったパンが置かれた。
マグカップにいは3種類のスープが入っている。
食べ方を考えていると、配達員さんは普通に食べ始めた。
パンの上部に切れ目が入っていて、それを外しスープを流し込む。
スプーンでスープを楽しんだら、滲み込んでいるスープでパンを食べるようだ。
俺も真似して食べ始める。
ドスの効いたような深紅の赤かぶスープ、黄金色のチキンスープ、キノコが主役の具だくさんのスープ。どれも美味しかったが一番口に合ったのはチキンスープだった。普段から見慣れている、飲みなれているのがあるからだろうか。
パンを食べ終わると目の前に2つの皿と1つの小皿が出された。
個人で食べる感じではなく、2人で分けることを意図されているようだ。
皿に乗っている料理の個数が偶数なのである。
一見すると、餃子にロールキャベツ、にしんの和え物である。
まず初めに、ピロギと言う餃子に似ている物を一口。
ジャガイモの甘みとキャベツの食感が包まれていた。
茹でられたもののようで、分厚い水餃子と言った感じだろうか。
2つ目はキノコに包まれていた。ポーランドの人たちはキノコが好きなのだろうか。
配達員さんはロールキャベツを食べていたので、皿を交換する。
このロールキャベツの名称はゴウォンプキと言うようだ。
ナイフで食べやすい大きさにして一口。
ロールキャベツがトマトソースで煮込まれており馴染みが深い。
煮込まれたキャベツは甘く、ソースは酸味が強い。
合わせて食べるから美味しいのだろう。
そして包まれていたのは肉とお米だった。
お肉とご飯の練り物だ。
海外でお米に出会うと帰郷感がするのはなぜなんだろう。
締めに、にしんと玉ねぎの和え物を一口。一番馴染みが深かった。
シレヂと言うみたいだ。
配達員さんが支払いを済ませる時、マスターから「今夜も来てくれていいんだぞ」と言われたそうな。
部屋に戻ってきて一息。
「下にプールあるんですけれど泳ぎませんか?」
そう言った配達員さんからオレンジ色のクソダサい水着が手渡される。
配達員さんが泳いでいる中、プールサイドに足を浮かべているだけの俺は、1人アラスカのオーロラを思い浮かべていた。
配達員さんはちゃんと水着を用意してたみたいだけれど、黒いビキニなので泳いでいる最中に外れてしまわないか内心ドキドキである。
「温泉に浸かっているみたいですね」
配達員さんが俺の姿勢を例えて内心を貫いてくる。
彼女は30分くらい泳いでいた。
ハァハァと息を切らしている。
用意していたペットボトルを手渡す。
「海でも渡れそうな勢いで泳いでいましたね」
「泳いでいる最中、虚しくなってくるので2度とやりたくはありませんね」
「えっ?」やったことあるんだ。
配達員さんの目が少し虚ろに傾きかけている。
この人はシャチか何か? オルカ?
「えっと、泳がないんですか?」
配達員さんが話題を変えようとして、訪ねてきた。
「泳げは出来ますけれど、あんなスピード出ないです」
「私に掴まって泳ぎますか?」
「死にます」
「流石に重さ倍になるので速度出ないと思いますが……」
「リターンで死にます」
「なるほど、一回やってみましょう」
拝啓…………遺書の出だしって拝啓で合っているのだろうか。
配達員さんの太腿に掴まって泳ぐなんてラッキーイベントはなく、肩を組んで泳いだ。
1000ミリくらい泳いで沈んで笑い合った。
小さな温水プールがあったので、2人して冷えた体を温めて上がった。
部屋に戻る途中、肩を組んで泳いだのを見ていた、夜勤のホテルマンにからかわれた。
ポルトガルの時計は5時まで進んでいた。
「少し休憩しましょうか」
そう言った配達員さんはベットの上で正座をし、太腿をぽんぽんと軽く叩き俺を膝へ招いた。
しかし俺は何のことかと戸惑っていると「こちらへ来なさい」と威厳のある声で言われた。
従い体を配達員さんに近づけると、頭を持っていかれた。
遂に首を持っていかれたと思ったが、頭が着地したのは配達員さんの太腿であった。
膝枕である。
「鈍いですね」そう配達員さんに耳元で囁かれた。
「少し眠ってもいいですよ、起こしますから」
お言葉に甘えて目をつむっていると、配達員さんが優しい歌を紡ぎ始めた。
子守唄の様な、ゆったりとしたリズムがとても心地よい。
聞いたことがない言葉だが配達員さんの故郷の言葉だろうか。
体が浮遊感に包まれた時、意識が途絶えた。
体がゆすられたので目を開ける。
「おはようございます。ゆっくりと眠れましたか?」
「はい、とても。ありがとうございます。それより足大丈夫ですか? 痺れませんでした?」
「大丈夫ですよ。鍛えていますから」
配達員さんがマップを出して言った。
「何処か行きたい所ありますか?」
「うーん、今いっぱいいっぱいなので、ゆったりとポーランドの空気を味わいたいですね」
配達員さんとホテルをチェックアウトしてワジェンキ公園へ。
都市部だというのに広い公園で緑が豊かだった。
雲一つもないと言ったら嘘になるが、そう例えたい空模様だった。
配達員さんと手をつなぎながら、公園内を散歩する。手をつなぐのは俺が迷子にならない為という情けない理由。
鳩や孔雀とった鳥類をよく見かけたが、あれは野生なのか?
鳥類だけではなくリスなどの小動物も見かけることが出来た。
多種多様な花、植物も管理されており、配達員さんは色とりどりの花と調和して引き立っていた。
連れなのに頼んで写真を撮った。
仕返しにとか、他の公園を訪れていた人にカメラを渡して、ツーショット写真を撮ってもらった。
すごく嬉しい。
目で見て、鼻で匂いを感じる。体で公園を満喫した。
公園を外れて緑が映える遊歩道を歩いていると路上スタンドに出会った。
ザピエカンカと言われる長いパンピザの様なものとジュースを2つずつ買って、近くのベンチで座って食べた。
原宿でクレープを分かち合う男女のごとく、違うトッピングをしたザピエカンカを分かち合った。
凄い、ポーランドで青春してる。
食べ終わると止まっていたホテルに戻り、配達員さんが車を出してくる。
空港に行くのかと思っていたら、これからクラクフという街に行くらしい。
クラクフに着いた頃、ポーランドの時計は15時を回っていた。
日本時間にして22時である。
クラクフの如何にも高級感漂う店で食事を摂る。
路地に付けられた席で料理を食べる。
肉魚野菜、どれも美味しかったが、どれもキノコが添えられていた。
キノコが嫌いなわけではない。
ただ、ポーランドの人はキノコが好きなのだろうか。本日2回目である。
流石にデザートにキノコは含まれていなかった。
「もしかしたら粉末状のキノコが含まれているかもしれませんよ」と配達員さんに言われて背筋がゾッとした。
配達員さんは運転があるからと言って不満げにビールを飲むことを諦め、帰り際に店主に金を払いワインを買っていた。
ホテルの部屋に着いた時には、時刻は16時を跨いでおり、交互にシャワーを浴びた後ベットで眠りについた。
因みにワルシャワから300キロ近く離れているこのホテルにもプールがあった。
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