ヴィーナスの女たちⅡ リバーボート 【ノーマル版】

ミスター愛妻

ヴィーナスの女たちⅡ リバーボート 

第一章 ダイアナの物語 能天気

シャレムのひまわり娘

 ネメシスの元領主で、いまは黒の巫女の女官長をしているシルビア。


その姪のダイアナは、とてつもない困ったチャン……

 今日も今日とて、ネメシス城下で騒動を起こし、シルビアの眉間には皺がよるばかり……

 しかし、この困った娘、ダイアナがさらわれた……


 なんとかお転婆ぶりを発揮して、逃げ出したダイアナは星空の下、出会ってしまった。


     * * * * *



 シャレム騎士団領のダイアナは、ある意味困った女である。

 何がというと、あまりに周りの空気に無頓着、良くいえば図太い女なのである。


 ネメシス城の主でもある、シャレム騎士団領女官長の立場にあるシルビアを、今日も困らせている。

「シルビア様、ダイアナ様が!」

「今度は何をしでかしたの!」

「城外で子供たちを集めて、その……レスリングを……」


 さすがにシルビアもあきれ返った。

 女の身で有りながら、子供相手といえどレスリングなどと……

「ダイアナをここへ呼んできなさい!」


 ダイアナとは、シルビアにとっては亡き夫、ネメシス伯爵の姪、シルビアにとって義理の姪にあたる。

 その姪がお年頃になり始めると、シルビアの美しい顔に皺が増えるばかり……


「ダイアナ、何を考えているのですか!」

「だって、子供たちが遊ぼうというのですから……」

「なぜレスリングなのですか!」


「最初は審判をしていたのですが、つい物足りなくなって……」

「貴女は女ですよ!物足りなくてレスリングですか!」


「……だって……」

「だってもへちまも無い!」


「反省しなさい、私、亡き夫にあわせる顔がないではありませんか!」

「はい……」


 ダイアナが逃げるように部屋を出て行ったあと、シルビアのため息は大きい……

「あれでは誰の妻にもなれないわ、誰か婿養子をとりネメシス伯爵家をと思ったのだけど……仕方ないわね」


 シルビアの部屋から転げるように出てきたダイアナは、

「叔母様ったら、なにもあんなに怒らなくても……」


「おや、ダイアナちゃん、また叱られたの?」

「はい、いつものように」


 声をかけてきたのはネメシスの庶民階級のおばさん達、ダイアナは結構、ネメシスの人々には好かれているのである。


「まぁ、これでもお食べよ、シルビア様もダイアナちゃんのことが心配なのよ」

「でも、街中の噂よ、レスリングしていたって、本当なの?」

「楽しそうだったので……」


「しかし、レスリングはやり過ぎかもね!」

「やっぱり?」


「一応、お年頃なのだから」

「お年頃ね……私、誰かの妻になれるのかしら?」

 おばさん達に大受けのダイアナだった。


「あんたほど綺麗だったら、黒の巫女様のご寵愛を受けられるかもしれないわよ」

「そりゃあ脈はあるわね、だってシルビア様の姪だもの」

 おばさん達はかしましい、好き勝手な事をいっている。


「でも義理の姪よ、叔母様はそれは本当に綺麗だけど、私とは血が繋がっていないわ、繋がっていればいいのだけど」

 南部の華とまでたたえられているシルビアの美貌を思うと、ため息がでるダイアナだった。


「私、しばらくおとなしくしなくっちゃ」

「当分お家で謹慎?」

「違うわ、当分、街のカフェでお茶をして、女らしいところを叔母様にお見せするの」


 次の日から、それなりに着飾ったつもりのダイアナが、ネメシスの街中をウロウロ、目立つ事この上なしですが、センスは極悪、お世辞にもネメシスのプリンセスとは思えません。


 幾日か何事も無く過ぎましたが、いよいよ今度は警備担当者から苦情が出ます。

「シルビア様、ダイアナ様を何とかしてください、一応はネメシスのご領主の血筋に当たる方、何かあっては遅いのですから」


 シルビアの顔にまた皺が……

「まったくダイアナのおかげで年をとるわね」


 シルビアがため息交じりに独り言を漏らし、ダイアナを呼ぼうとしていた時、とんでもない事が起こったのでした。


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