Madonna

想人~Thought~

Wordで描いたのをコピペしている為、ルビが変になってます。悪しからず(修正しようにも操作が重すぎて&反応しない為出来ません)。m(__)m

  Madonna(マドンナ)             


  想人~Thought~


 ―私のこの右手を、幻覚のペンキでどっぷりと染めた。そして、その手を天(そら)に翳し、綺麗な青色を汚してみようとした。…やはり、天が私の手によって汚れる事は、なかった。それならば、次はこの地面と目前の川を汚してみよう。…やはり、これもまた、結果は同じであったか。そんな事、初めから分かってはいたのだが…

 …ああ、でもよかったよ、本当。やはり私には、愛してやまない「地球~母~」を傷付ける事が出来ないという事実を、今改めて理解出来たのだから。実際にアンチエコロジーの行為をやる事なんて私には無理だから、今こうして「母を汚す」行為をイメージでやってみたのである。痛みを知る為に。たかだか此れを行っただけで、思った以上に心は痛がったのだった。取り敢えず今は、―とても気持ちの良いこの細やかな涼風を、味わおう。…と、そんな矢先。私が今居る此の地点から約二十メートル先に、「私と対照的な人物」が散歩しているのを、確認したのである。あらららら・・・・・・

 私は今、大阪府の枚方(ひらかた)市牧野(まきの)町という所にあるゴルフ場横の淀川沿いの歩道を、自転車で走っている。修理歴が甚だしく多い、約九千円のフツーの自転車だ。と、そんなことはさておき、今日はとても清々しい、晴天の春の日の午前である。京都にあるオーナー企業の大きなビルディングで常駐警備員として二十四歳の春から今日迄の三年間を過ごしており、仕事は勤務開始の朝八時に始まり二十五時間後の午前九時に終わるので、この日もいつものように川沿いの気持ち良い風を全身に浴びせながら同市御殿山(ごてんやま)町にあるワンルームの自宅マンションを目指してペダルを漕いでいたのだった。

 そしてその途中、自転車を降りたのである。アンチエコロジーのイマジネーションを行ったのも、痛みを知る為の他に、今日迄味わい続けてきた此の美しい「自然の情景」と美味しい風を、もっともっと堪能して其の恩恵に感謝しようと、思ったからである。

「私と対照的な人物」は、そんな私の心を害した。別に、「ポイ捨て」は今に始まった訳ではない。大阪だろうが京都だろうが、何処に行っても「エゴイズムという言葉すらも知らない愚かな莫迦人間共」によってポイポイ捨てられた煙草の吸殻や芥達は、地球上のそこら中で泣きじゃくっている。「私達ごみは、人間様のお役に立ってこの生涯にピリオドを打たされたのに、どうして人間様方は、自分の都合だけを考えて、そして面倒臭がって私達にこのような酷い仕打ちを施すのですか?」、とね。

 見たところ、其奴は七十歳ぐらいといったところかな。随分と人相の悪い、服装などの見て呉れもスーツ姿で短髪の自分とは正反対の汚らわしい爺さんである。

 堂々と、私の視界内でコーヒーの空き缶を道端の草地に放り投げた。私は自転車に跨り足を進め、その空き缶を拾ってサドルに乗ったままの状態で背後から爺さんに声を掛けた。

「あの、すみません」

「……んあぁ?」

 案の定、野暮ったい返事が帰って来た。私はこいつの事を壊れかけのおんぼろ老いぼれと見下しながら言葉を続けた。

「すみません、此れ、落し物ですけど」

「……んあぁ?」

「いや、だから、落とし物ですよ、って」

「んあぁ?しらん、そんなもん」

「いやいや、知らんておかしいでしょう。僕今落とされた所見たんですから」

「んああ!??だから§±×÷\仝@¶!!」

「いてっ」

 爺さんは、缶を持っている私の左手をバチンと引っ叩いて、カコーンカンコンと落っこちていった缶を拾い、ムスッとしながら歩き去っていった。

「僕、時々この一帯をボランティアで清掃してるんです。どうかこれからも、ご協力の程を宜しくお願いします」

 無言のままどんどんと歩き去って行く爺さんの背中に、大声でそう嘘を吐いた。

 二日後。勤務明けの私はこの日もまた同様に淀川沿いを自転車で。

「……おや」

 一昨日の老人が、散歩していた。この老人、考えてみると、ずっとこの道を通り続けてきた中で目にするのは今日で二回目である。まあ、別に、二回目だろうが何回目だろうがそんな事はどちらでも構わないのだが。

「…あ」

 …あっちゃー、なんてこっちゃ。早速ですかよ。何でまた、やらかしてくれるのかねぇ。コーヒーの空き缶ポイ捨て、パート2。

「すみません」

「……んあぁ?」

「僕の事、憶えてますか?」

「……んあぁ?」

「もう、とぼけないでよ。一昨日会ったばかりじゃん。本当は憶えてるくせに」

「だれやねん、おまえ」

「ここいらを清掃してる人間だよ。って一昨日言ったし。え、本当に憶えてないの?」

「しらーん」

「あ、そう。じゃあ、それはそれでいいや。あ、そうだはい、此れ」

「……んあぁ?」

「んあぁ?じゃないよ。いい加減、とぼけるのは辞めておくれ。辟易しちゃうじゃないの。莫迦な感情に付き合ってる程、僕は暇じゃなければ気もそんなに長くは無いんでね」

「…んあぁ?なんで、みずしらずのやつにごちゃごちゃいわれなあかんねん?おまえ、だれやねん?」

「誰だっていいよ、もう」

「かんけえのないあかのたにんがごちゃごちゃゆーなやおらぁ!」

「…くすっ、全然怖くねぇし。てか、関係ないって、いやいや関係あるから。だって此処、俺の大好きな場所なんだもん。俺、ここ枚方市の市民なんですから。まぁ取り敢えずさ、早くこの缶を引き取って頂けませんかね。あんまり僕の仕事を増やして欲しくないんだけど…」

「=$☣СоутоЯнагино✇@℀Ми§αо〷!!!」

「いてっ」

 …またかよ。缶を差し出している私の右手を、バチンと引っ叩いた。そして、音をたてながら転がり落ちていく缶を拾って、ムスッとしながら歩き去っていった。

 三日後。雨は降っていないものの、空(そら)は灰色の雲に深く覆われていた。その天候の中を、勤務明けの私はいつもの様に、自転車で淀川沿いを。

 ―扨、では参りましょうか。ポイ捨て・パート3。今回はコーヒーの空き缶ではなく、まだ三分の一程緑茶が残っている、五百ミリリットルのペットボトルである。

 同じ事が同じ人間によって三度も繰り返されているものだから、当然私の辟易は極みに達したのだった。ペットボトルを拾い、自転車を降りて歩行中の爺さんの前に立ちはだかる私。

「おいジイサン、ちったあ掃除する人間の事も考えてみろやコラ。仏の顔も三度撫でりゃあ、黙っちゃいないぜ」

「……んあぁ?だれやおま…」

「ハッ!!」

「ごっぐ!!」

 私は、御老人の頬にペットボトルを押し付けて差し上げた。喋る時間が勿体無いと言うか、日本語すらも碌に通じないこいつには何を言ってもムダであると今更ながら判断したからだ。

「なにすんねんおまえぇ!!」

「貴様と話す舌など持たん!」

「アッguyジュアッぐぞっく!!」

「落し物はちゃんと、持ち主のもとに返してやんねぇと、なあっ!!」

「ハガーゾゴッグファイナルボマァ!!」

 一度目よりも力を入れて再び頬にボトルを押し付けて差し上げた。爺さんは訳の分からない言葉を叫びながら私に反抗してくるのだが、大手の警備会社に勤める天理大学柔道部出身者の私には、彼の反撃など何一つ通用しなかった。

「俺は弱い者虐めは嫌いだ。だから、早速だけどもう終わりにするよ」

 私は、爺さんの胸を左手でポンと押し飛ばしてやった。怪我はしていない様だが、当然爺さんはその老体に因果応報の痛みを感じている。因みに、ペットボトルは私が処分したのであった。


 この日を境に、私は吹っ切れた。街の中でポイ捨てをしている老若男女を目にした時には、其の吸殻や芥を拾い、そいつに叩き付けて差し上げるのである。車の中から捨てている奴等には、バンッと音が鳴るように車に叩き付けてやるのである。淀川沿いの道とか広場とか公園とかで花火をやって其の残骸をほったらかしにして帰らぬとしている輩共には、家の近くの量販店で予め買っておいた大型の水鉄砲に満タンの水を含んで、そいつらにぶっ掛けて「鎮火」してやるのである(因みに淀川の河川敷での花火は禁止せられている)。当然、相手は「何すんねん!」などと怒鳴りながら仕返しをせんとするのだが、基本的に私は自転車で外を移動するので、もみ合いにならない内に(と言うよりもみ合いを避ける為に)そいつらからサッと逃げる様にして走り去るのである。自分の中に何処か腰抜けヘタレの部分があるので、自分から仕掛けて置き乍らそうやってペダルをフル回転させるのである。しかし何だかんだで私も〝人間〟という存在なので、やはり思考や行動がどんどんとエスカレートしていってしまうものなである。

 それ故に。そういう事を繰り返しているものだから、いよいよ私は暴行罪で警察に捕まってしまったのである。或る夜中、枚方市駅の直ぐ近くにある川原町(かわはらちょう)という所のカラオケバーで呑んだ後、歩いて帰っていた時の事。同町の通りの脇に置かれている誰の物かも分からない一台の自転車の籠に煙をもくもくとたてた吸殻を捨てた挙句、何を思ったのかその自転車に添加物のてんこ盛っていそうな小便をぶっ掛け散らしている、スーツ姿で強面の若い酒酔いの男がいたのだった。

〈―十二時の方向に犯行の現場を確認。これより敵の掃討へと移行し、正義の制裁を与えよ〉

〈―了解(ラジャー)〉

実際に排除をする訳ではないが私は厨二病的にロボットアニメの管制とパイロットのやり取りのようなものを頭の中で展開させながら己を奮起させた。そして着ているスーツのジャケットの懐からメモ用紙一枚と黒ボールペンを取り出し、「殺奸状(さっかんじょう) 罪名 汚物陳列罪及び器物破損罪」と記して背後からそいつの顔面に藪から棒に殺奸状を押し付けてやった。

「はっ!」

「ずごっっっグ!!」

吃驚したのと同時に、相手はそのガラの悪さの滲み出ている見て呉れから容易に想像の出来る態度で私に怒りをぶつけてきた。一応こう見えて傷害罪にはならないよう気を付けている私なので、ジャケットの襟に掴み掛かってくる相手の左手をサッと取り、怪我しない程度に関節技を喰らわせてやった。

「いでででで!何すんじゃいオルァアアァァァ!!!」

「シャラップ!天誅(チェスト)!!」

「ウギャアアアア!!」

…あ、しまった、ついつい力が入ってしまった。すると、その時だった。偶然カブで通り掛かった三人の若い男の警官達に、この場面を見られてしまったのである。私がこの犯罪者を現行犯逮捕したつもりが、逆に私の方が警官等に現行犯で取り押さえられてしまった。あまりの頓挫ぶりとその情けなさに、私の全身からは一気に力がスコーンと抜け落ちた。

 

パトカーで警察署に連行せられた私。取調室では、「莫迦でも警察になれるのか?何でこんな奴が公務員なんだ?」と思わせてしまうぐらいの、四十歳か五十歳ぐらいのこれまたガラが悪くて何処かだらしのない背広姿の男の警官がこれでもかというぐらいに煙草をスッパスッパとふかしながら室内中に副流煙を充満させている。脅しのつもりなのか分からないが、机の中央には「ええ加減に捨てろや」と今にもツッコミを入れてしまいたくなる程に吸殻がてんこ盛られた灰皿が置かれている。

「……チッ、なんだよ全く、こんな夜中に仕事増やしやがって…。ええっと、君のお名前が、阿蓋升 助清(あふたます すけきよ)君、ね。今日以外にも暴力行為をやらかしているって?」

「暴力と言うか、まぁ」

「暴行による被害届が二十八件も出てたんだけど、あれって全部君の仕業だったんだね。犯人捜しの手間が省けてよかったよ。でもさぁ君、いくら何でも"たかだかポイ捨てごときで"自分の人生を棒に振るような行為をするなんてさぁ、流石にマズイよねぇ。エコテロリストの真似事かい?ごみなんて、役所が掃除してくれるのに。彼等から仕を奪おうとしたら駄目でしょう」

「…あんた、偽物の警官だな」

「は?いきなり、何?」

「…ポイ捨てってね、実はれっきとしたね、犯罪なんですよ。廃棄物処理法とか軽犯罪法に抵触する。警察のお方が、こんな事も御存じじゃあないなんて、物凄ーく可笑しいですよねぇ?」

「うるせえなうるせえなあ、一瞬ど忘れしちまっただけだよ、そんな常識ぐらい、知ってるに決まってんだろうがよ。いちいち大袈裟になんなやこら」

「大体、役所がやってくれるって今あんた仰言いましたけど、何処もかしこも綺麗になってないじゃねぇかよ。ポイ捨てがなけりゃ、その役所の人間達は違う仕事をしてたんじゃないの?本来の業務があって、それを行っている筈なんじゃないの?犯罪なんだから、ポイ捨てしてる奴等をパクっていかなきゃいけないもんなんじゃないの?…俺はなぁ、自分の地球(ははおや)が汚され傷付いていくさまになぁ、怒りや悲しみを覚えてるんだよ。んなもん、当然の事だろうよ。許せなくて、たまらないんだよ。犯罪云々の問題以前に。だから、口先だけ一丁前にごちゃごちゃ偉そうにほざいてる頼りないあんたに代わって、俺が『悪の根源達』を懲らしめてやってたんだよ。連中はどうせ精神論とか道路脇等の『不法投棄厳禁』の看板なんて通用しない莫迦共なんだから、莫迦にでも効く薬として痛い目に遭わせてやってるんだよ。ポイ捨ての理由なんてのは、ただ単に、ちゃんと処理するのが面倒臭いというだけの、自分さえ良けりゃ他はどうだって構わないっていうやつだ。そのくせどいつもこいつもしょうもない出鱈目な言い訳をしながら己の悪を棚に上げているものだから、俺の怒りのエネルギーは蓄積をされていってたって訳だ。俺なんて、所詮はちっぽけで非力な存在だけれども、それでも力の限り、信念を貫かんとしていた訳だよ。『人任せ』なんて、まっぴらごめんなんだからな。が、しかしだ。これから軌道に乗るか乗らないかって時に、あんたらは俺を逮捕し、俺の邪魔をした。…フッ、税金でご飯を食べながら傲岸不遜にしているエゴイストなんぞには、どうせ分からないか。地球(はは)が苦しんでいる姿を見て辛い思いをしている、俺のこの心の痛みなんてさ」

「カッコイイ事言うねぇ、兄ちゃん」

「!!!」

 反射的に、こいつの胸ぐらを掴みそうになった。しかし何とか、感情を抑えることが出来たのだった。

「まぁ、『塵も積もれば山となる』って言うから、ポイ捨てが重なっていけばその内地球(ちきゅう)は駄目になっちゃうかも知れないねぇ~」

「いやいや、その内じゃないよ、もう進行してるから。実際、ポイ捨てが原因で火災が起きたり土壌が汚染されたり、野生生物が誤飲食で死んだりしている例もありますから。二〇〇六年の五月十一日には、和歌山県の白浜町で、走行中の自動車から投げ捨てられた空き缶が後続車に打つかった事でその被害を受けたドライバーが通報して、缶を捨てたド莫迦ドライバーが後日書類送検を喰らったっていう事案もあったし。芥の漂流や漂着も問題になっているけど、現在海の芥の四分の一はね、側溝とかにポイポイ捨てられてる煙草の吸殻なんですよ。まさに文字通り、塵が積もって山になっちまってる訳だ。…まったく、吸殻が水に浸かれば、ニコチン水溶液という有毒物質が生まれるというのに。そんな事も知らず、好き勝手やりたい放題やりやがって、愚かな人間共め。こいつが海洋汚染の大きな問題の一つになっているって事、御存知でした?」

「…あ、ああ、知ってるよ」

「そうですか。…あらまぁ、まさか警察官が、まさかの虚偽発言ですか」

「オイ!!犯罪者の分際ごときが調子こいて偉そうにゴチャゴチャ喋ってんじゃねぇぞオイ!!お前がいくら、詭弁とかを並べた所でなぁ、お前が罪を犯したって事実に変わりは無いんだよ!取り返しの付かない事を、したんだよ。…ああ、岡っ引きの制度でも残ってりゃあ、君はヒーローにでもなれていたかも知れないケドねぇ。韓国みたいに『パパラッチ』の制度でもありゃあ、君の人生、変わっていたかも知れないのにねぇ、ハハハハ。『郷に入れば郷に従え』っていう言葉あるよねぇ、知ってるかい?どういう環境で生きてきたらそんな捻くれた人間になるのかは分からないけれど、一応君も人間なんだからさ、それぐらいの事は分かってなきゃ。なぁ。どうしても郷に従えないって言うんなら、シンガポールにでも移住しちまう事だな。あそこはポイ捨てしたり唾吐いたり上半身裸でマンションとかホテルとかのベランダに鳥渡出たりするだけで捕まるんだからなぁ。日本よりも厳しく警官が監視してるらしいよ。て言うか君、確か警備会社に勤めてなかったっけ?関係法令とか研修でやってるよねぇ?…全く、手間を掛けさせてくれる容疑者だぜ。こんな事をすりゃあ自分の会社に迷惑が掛かるって事も、分かっちゃあいないのかね?家族が悲しむって事も、分かっちゃあいないのかい?ふん、ド莫迦だなぁお前」

「…そう言うあんたもド阿呆そうだから俺がさっき言った事なんてもう忘れてるかも知れないけど、俺は自分の信念に従って動いてたまでなんだよ。会社の研修がどうとかは全く関係ない。俺自身の問題だ。だから会社は今回のこの件には全く関係ない。『母』の為だったら、勧善懲悪の為だったら、俺は自分の身を犠牲にしても良いって思ってるし、悪魔になる事だって出来る。人間なんて辞めてやれるし、人間共の障害になってやる事も厭わない。人間だって、取り返しのつかない事をずっと重ねてきているんだからなぁ。そもそも、『正義を謳っている』おたくら警察が、不祥事をしょっちゅう重ねているじゃないか。痴漢の冤罪とか、強姦とかさぁ。東京のとある市で女子高生が元カレに自宅で待ち伏せされた挙句殺された事件も、おたくらが彼女の〝助けて〝って声をほったらかしにして蔑ろにしてたから起きたんじゃないか。一九九九年に埼玉の桶川で起きた女子大生のストーカー殺人事件、知ってるよなあ?誑かされて交際していたモグリの風俗店経営の男に、劇的な脅迫の挙句殺されたっていう。埼玉県警上尾署の奴等は、其の三鷹のと同様、彼女の救いを求める声を鹿十した。それどころか、彼女の声を蔑ろにしながらも漸く作った告訴状をほったらかしにして『告訴は一旦取り下げても再び起訴出来る』と大ウソをつきやがったり、其の告訴状や被害届を改竄捏造したり、等と、殺された彼女の事を逆に陥れるかのように物凄く莫迦にしたりしていたよなぁ!自分達警察が己の重ねてきた悪事から逃避する為に!違法じゃねえかよドアホウが!!此の警官共が懲戒免職処分だって?ふざけるな。骨ごと粉々に粛○されろ!犯人も、怠惰で杜撰な警察共も!!会見の時ヘラヘラしながら喋ってたあの『捜査一課長代理』ともう一人の横に座ってたおっさんは今何処にいる?しばき倒して地獄を味わわせてやるから、居場所を調べて俺に教えろ。二〇一一年にもまた、長崎の西海市で女性がストーカーから殺されたなぁ。その時所轄だった千葉県警の担当者方は、北海道に慰安旅行に行ってたんですってねぇ。…ふぅぅ、大莫迦者共だ。ホント、世の中は、皮肉なものよ。全く。他の都道府県はどうか知らないけど門真の運転免許の試験場は偉そうな人間多いよな。まあ俺は大型二輪のしか持っていないペーパードライバーなんだけど、税金でメシ食ってる上に試験費だの更新の講習費だの手数料だのを我々に払わせているくせにその我々に対して見下したような態度をとるのって、甚だおかしいよなぁ。鳥渡考えただけで間違ってるって分かるよなぁ。多分運転免許持ってる人達は皆俺と同じ思いを抱いてる筈だぜ。今のあんたみたいにそうやって偉そうな態度をとる権利なんて、あるのかしら?まぁその態度が、実は『マニュアル』で出来てる物なのかも分からないけど?それかは犯罪者の相手をしすぎて罪人とそうじゃない人の区別が付かなくなっちゃってるのかな?其の所為で威圧的な態度が癖になってしまってるのかな?…貴方達はさぁ、罪の無い人間によく嫌疑を掛けたりしてるよねぇ。さっきも言った痴漢の冤罪とか、自転車泥棒とかとか。……ああ、仕方がない、か。だって、おたくらだって、『人間』なんだからね。人間の言動に『絶対』なんて概念はそもそも存在しないのだからな。…まぁ、もう一度大坂府民いや日本国民の気持ちを代弁して置きますけど、…やっぱり、税金で飯を喰らいながら治安を任されている方々が、こんなんじゃあねぇ、…世も末、ですよなぁ。…」

「まあた詭弁ぬかしやがっちゃってるよ、この餓鬼。心が病んでるのか?何処かの大学の柔道部も、後輩部員に対して暴力沙汰を起こした事あったけどなぁ。大阪市内の某高校のバスケ部の"体罰"阿呆教師みたいに誰も捕まりはせんかったけどよう。まぁ兎に角、どうせお前には後々痛い目に遭って罪を償って貰うんだから、今の内に言いたい事吐き出しておきな。因みに、納税は〝法の下〟におけるお前等国民共の〝義務〟なんだから、俺等が偉そうにしようがどうしようが問題はないんだがな。お前がそうやって『俺様は客だ!』『そしてお客様は神様です!』みたいな糞莫迦げた事をほざく筋合いすらも無いんだけどな本当は、フッフッフッ」

「…やれやれ。法律も、お金も、ヒトから生み出されたものだから、皮肉なもんだよなぁ。あんたみたいな人間がいると、日本は其の内、何処かの独裁国家みたいに落ちぶれてしまうかも知れないなぁ。法律も、お金も、俺を救ってくれる存在なのか、将又否か、……」

 私は警官に中指を立てて「ファッ××フ」と最後に言い放ってやった。後日、私は罰金を支払わされたのであった。自分が犯罪者である事を分からず私からの暴行を訴えた莫迦共全員も僅かだが罰金刑を喰らった事から、酌量の余地があると認められ私の支払いは通常よりも少ない額だった。

 

 仕事もクビになった。実際こうしてギロチンに掛けられて刑を執行せられてしまうと、今まで「当たり前」の如く得ていた「収入」というものを失ったものだから、「人間らしさ」が出てしまったと言うか、悔しい事に大きく落胆してしまったのである。何と、恥ずかしい…。

 …ああ、お金が、無い…。

 あの警官に対して攻撃的な言葉を吐き連ねていた私だが、結局人間なんてものは金がないと生きていけない生物なのである。今更ながら、そんな事に気付かされた。貯金も碌に出来なかったり、クレジットカードの審査に受からなかったりもするぐらいの高くない給料だったけれども、失って初めて、自分が便利な生活に甘んじていた事を、思い知らされたのである。…畜生、やっぱり俺も、人間なんだな。呪われしこの運命には、逆らうことは出来ないのかよ。儚いものだな、人間の感情や思考はコロコロ変わってしまう複雑なものなのだから……

 アレ、君モシカシテ、己ガ招イタ此ノ結果ヲ、悔ヤンデイルノ?今ノ自分ノ姿二、嘆イテイルノ?

 ――!!何を言っている!!まさか、そんな事は。「武士は食わねど高楊枝」の精神で生きていくつもりでいるのですけれど!「悪」がヘラヘラしながら生きる――そんな理不尽さ、不平等さを、己の本心に逆らいながら黙って見過ごしていくのは、俺の務めじゃあない。俺は、何人にも出来ぬ、俺にしか出来ない役目に携われた事に、感動しているのだよ。たった一度しかない、このちっぽけな人生の中でね。

 …とは言うものの、後悔している事も、実はあるのだ。折角、自分でこういう結果を招いたにも関わらず…。

 と申すのも、此れは私がまだ警備会社に属していた時分の話になるのだが――


① 入社二年目の春。平日のこの日、私はいつものように派遣先である京都のビルディング(仮に社名を株式会社Aとしておきましょう)の正門守衛室で来場者の入館管理を行っていた。普通、大きな建物には警備員が複数人と配置せられなければならないものなのだが、この派遣先は、建物も規模も凄く大きい割には一当務につき一人しか警備員をつけさせない(警備業界ではこれを1(ワン)ポストと呼ぶ)という、随分と理不尽且つケチな会社なのである。この会社には一日二百人以上の業者や客が来場しており、それを全部一人で応対しなければならないので、意外とバタバタしてしまう現場だ (『2ちゃんねる』の情報によると、製造部や営業職などを問わず、この会社は仕事量(と売上)に反して社員の給料が随分と安いらしい。休日出勤もしばしばある割には。採用情報に掲載されている内容と、てんで違う待遇なのだと。恐らく、収入の面に於いては我々警備員と大して差はないだろう。あとそれから、有給休暇を取得すると、その『罰』として、『このご時世にお前等みたいな奴等に仕事を与えてやってんだぞ、働かせて貰えるだけでも有り難く思わんかい!有給だぁ?贅沢じゃ!甘ったれんなや!』と説教を喰らう挙句ボーナスを減額されてしまう事もあるらしい。あらまぁ、吃驚。嘘のような話と一瞬感じてしまっても可笑しくないとは思うのだが、社員達の甚だしい数の書き込みを見ていると、信憑性はかなり高いと感ぜられる。こんな悪辣な労働環境、大丈夫な訳ないよなあ!?)。オーナーは超が付く程の高級な着物やスーツを身に纏いながらこれ見よがしにムルシエラゴとテスタロッサとカレラ911と数台のロールスロイス車を乗りふらしているというのに。どうせクルマの事なんて何も分かっちゃいない、つまり「クルマ及びクルマを作った方々に対して失礼な人間」のくせに(この派遣隊の隊員数は、とても少ない。早振名 夜終(サブリナ あさひ)と、傘乃場 京一(カサノヴァ ケイイチ)と、私阿蓋升助清のたったの三人。この同期同年齢の男三人だけで、殆ど休日のない、〝ポップコーンが弾けるが如く好きと言う文字が躍る〝程の、労基法に違反したヘヴィローテイションの日々を強いられるのである。休憩時間中にも客や業者がどしどし入場=休憩時間中にも仕事をさせられる、違法のパラダイスである。因みに、何故三人とも若い男なのかというと、此処のオーナー夫人であるオーバー七十歳のオバアチャン(見た目×(ブップー!おえぇーーっ!!)、財力◎(ピンポンピンポンポーン!!!))が、夜な夜なホストクラブに通い詰める程の大の若者好きだからなのである。…。とは言っても、此の婆さんとは挨拶をする以外の事をしたことは一度もないのだが。ふうっ。そして、このオーナア老夫婦は、『チャウシェス〇の生まれ変わりだろう!』と思わずにはいられない、唯我論主義を持った人間なのである。お化けなんかよりももっともっと悍ましい、『真の恐怖』の内のお二人様なのである。少しでもお二方の癪に障る事をすれば、其の社員は即ギロチン行きだ。不当解雇?労働者の権利?そんなもの、知ったこっちゃあない。労働組合?そんな物など存在しない。存在、出来ないのです。『組合を作ろうなんぞ思っている輩がいたら、打っ潰してやる!』とオーナー様が仰っているのだそうですから。笑顔が蔓延るデスペナルティーの意識が、陰に潜んでいるのである。兎にも角にも金が全てだ金が物言うと思っているのだから、ブラック企業と言われようが何と言われようがちっとも傷付きやしない。オカネ万歳!何だか、道徳が崩壊している某共産主義の国みたいだな。この二人もまた、己の『悪』に気付いていないか若しくは棚に上げている、典型(おろかもの)なのである。そんな間抜け共だから、「客」の存在だけじゃなくて「プロレタリアート」のお陰でも自分達は飯が喰えている事を、分かっていない。…あ、もしかして私今、ほんのちょこっとだけ雇い主様の悪口を言っているのかしら?笑)。

 午前十時四十分頃。一台の、アディ・ギルというメーカーの白いセダンのアメ車が碌に減速もせずに入門してきた。車は、私の呼び掛けを無視しながら、正門を潜って直ぐの所にある正面玄関前の役員車専用の駐車スペースに堂々と止まった。左ハンドルの運転席から現れたのは、スーツ姿で三十歳ぐらいの、色黒・オールバック・ちょび髭・細見で長身といった「こいつ、堅気か?」と疑問を抱かせてしまう風情の男だった。

「いらっしゃいませ。すみませんお客様、こちらは役員の方々の駐車場となっております。案内しますので、恐縮ですがお客様専用の駐車場まで移動をお願い致します」

「…あ?」

「此処よりもお客様用のスペースの方が駐車しやすいですよ」

「は?何訳の分からん出鱈目言うとんねん?いちいち移動なんてしてられるかい、面倒臭い。こっちはわざわざ大阪から来てやってんねん、運転で疲れとんねん。俺客やぞ、誰に向かって口きいとんねんコラ?」

「すみません。しかしお言葉ですが、他の『お客様』にもご協力を頂いておりますので…」

「あー分かった分かった五月蠅い奴やな、動かしたらええんやろ」

「そうです。あと守衛室で入館手続きもお願いします」

 男は、案内しようとしている私を鹿十しながら駐車場迄ビュンと走り去っていった。

 タザワという、名前らしい。外来客名簿に記入している彼のガサツ過ぎる字から辛うじてそう読み取る事が出来た。会社名を書く欄には、「セレモニアルオケージョンズ」と記されている。直訳すると「冠婚葬祭」という意味の単語なのだが、まんま文字通り、冠婚葬祭の会社である。詳しくは存じ上げないが、そいつは大阪市内に本社があるみたいで、まぁそこそこデカい会社らしい。CMを目にする事も偶にあるが。

 タザワは、入館時間・貴社名・氏名の欄三箇所を記入すると、投げ捨てるかの様にボールペンをポイッと置いて、さっさと正面玄関に向かって歩き出したのだった。

「あーすみません、あとまだ訪問先の部署と用件と車番の記入欄三箇所が残っています」

「は?何やねん?」

「いや、ですから空欄があと三つありますので、お客様の直筆…」

「訪問先なんか知る訳ないやろうがい」

「……え?」

「イトウって"奴"宛に来たんや」

「イトウさん?……ああ、営業一課の衣刀 初(いとう はじめ)係長ですね。七階にオフィスが御座います」

「あーそう。だったら残りの空欄はお前が書いとけや」

「……はい?」

「雑務はお前等守衛共の仕事やろうが、なぁ」

「……」

 私の物腰低い応対を蔑ろにしつつ、「逆ギレ」の状態をしっかりと継続させながら、タザワは館内へと入っていった。

 

三十分後。タザワは、一課の志賀(しが)課長に正門で見送られながら退門していった。課長は、満面の笑み(と言ってもビジネス上の愛想笑いだと思いますが)をずっと保ちながら、走り去ってゆくタザワの車に頭を深々と下げ続けていた。

そうして漸く課長が頭を上げると、彼は徐に笑顔を真顔に戻しながら、守衛室へと歩み寄ってきたのだった。

「お疲れ様です、守衛さん。ちょっと、いいですか?」

「?…は、はい…」

 課長と言葉を交わすのは此れが初めてなのだが、この方が性格の良いミドルエイジである事は何となく分かっていた。そういう人物が低めのトーンで話し掛けてくると、何だか少し、ゾッとしてしまうものである。

「衣刀君宛に来ていた今のお客様なんですけどね、もうこの会社には注文を頼まないって仰ってたんですよ」

「…え、一体、どういう事で……?」

「深くは語っていませんでしたが、守衛の態度が気に入らん、と憤慨されていました」

「……」

「何か、心当たりは…?」

「…いえ、お客様が役員用の駐車場に止められましたので、先ずは来客用のスペースに御案内して、それからは通常通り、他のお客様と同様、入館手続きをして頂きました。貴社様との契約に従って、与えられている本来の業務を行った次第です。ただただ、基本に従いながら」

「そうでしたか。役員用の駐車場がどうこうというのは我々身内の問題なので、お客様にそれを言ってしまったのは鳥渡まずかったかもしれませんね。現に、大分お怒りでしたから」

「……」

「お金の話を口にするのは厭らしいかも知れませんが、セレオケ様からは百億近くの年商があるんですよ」

「そうなんですか……(そう言われてみたら、製造部の工場に大量のセレオケのカレンダアが積まれているのを目にした事があるな…)」

「タザワ様も、一時的な感情でああいう発言をされたんだったらいいのですが…」

「……申し訳御座いません。私の所為で、課長や他の方にまで迷惑を掛けてしまって…」

 私はただ「やらなければならない事」を愚直に行っただけなので、自分が悪い事をしたとはこれっぽっちも思ってなどいない。しかし課長のこうも辛そうにしているさまを目の前で見せつけられると、謝らずにはいられなかったのだ。「ヒト」と「金」との絡み合いは、とても冷酷なるものなのである。この世に跋扈しているタザワのようなニンゲン共――プロレタリアートTYPE:1(欲(カネ)に心を支配された、裕福な無産階級者達。人間が愚かだと莫迦にされている原因を作っているお方々。因みにプロレタリアートTYPE:2は、TYPE:1と正反対の、会社・家族・自分自身・そして経済の為に、年金や雇用や国債等の社会問題に辛苦しながらも日々汗水を流して働いている方々。TYPE:3は、近頃の若造共によく見られる、挨拶すらも出来ず、鳥渡辛くなれば自分を苦しみの渦中に居る悲劇の主人公と見立ててしまう莫迦餓鬼共)は、どいつもこいつも、カネさえありゃあどれだけ偉そうにしても他人の気持ちを不愉快にしてもいいと思っているのである。森羅万象の頂に立っていると激甚なる勘違いをしているのである。だから大概のヒトの運命は、志賀課長のように混沌の中で苦しめられているのである。其れは、ニンゲン自らが招いている因果応報なのかも知れないのだが。…皮肉にも。

 課長は、今日の事は総務部にもそれから大阪の本社(私が属している警備会社)にも言わないと仰言って下さった。しかしそんな課長の御厚意を蔑ろにするかのように、タザワの野郎は本社に文句の電話をぶち込んだのである。翌日の勤務明け直後に本社出頭するよう命じられた私は、本部の小会議室で警備部長に二時間程説教されながら始末書を書かされ、そして減給処分を喰らったのである。因みに、志賀課長と衣刀係長がセレオケの本社迄足を運んで謝罪して下さったお陰で、両社共々の契約解除は何とか免れたのであった。―課長、係長、本当に、申し訳御座いません。

ああ、あんな器の小さい奴よりも、弱っちぃなんてな…。そもそも、客・客でない関係なしに、「仕事」で来ておきながら自分勝手な行動をとるのは根本的に間違っているだろうが。もし私がセレオケの「客」になる事があったら、その時はタップリと偉そうにして差し上げましょうかしら?なんてね(笑)。偉そうにした所で何の利益も得られはしないし、ただ恨みを買うだけだし、そもそも偉そうにする事自体に、興味が無いし。時間の無駄。くだらない。ただ、今述べたように、実際世の中にはこうした「諧謔的且つ皮肉なる循環(サイクル)」がある事も、忘れてはならない。こんな簡単な事すらも分からない程、タザワの脳みそはツルッツルンなのである。そんなタザワの学歴なんぞを当然知る訳も無ければそもそも学歴というものに興味も無いのだが、いずれにせよてんで教養のないど莫迦に悔しい思いを強いられた事実には、身震いが生じてしまう。俺が弱くなければ、志賀課長も衣刀係長もこんな酷い目に遭う事はなかったのに。タザワも俺も、所詮は「人間」なのに、いと理不尽也。いと、不平等也。…ふっ、この時代でも、平等と条理の理念は罅割れている、…のだね。残念だけれども其れが、…やはり、人間界ってヤツなのね……逆らう事の出来ぬ、悲哀且つ悍ましい、ヒトの運命ってヤツなのね……


 ②タザワの件から二週間後。いつものように、朝私は出勤をしていた。そしていつものように、七時半頃に現場に着き、質素で狭い守衛室の中に入る。前日の勤務者は、早振名だ。殺風景で窮屈な仮眠室で着替え(更衣室やシャワー室などという贅沢なものは此処には存在しない。因みに会長室にはシャワー室に加えサウナ室が設けられている。そんな物を作らないでさ、社員達の為の仮眠室でも作りなさいよ。特にデスクワークの人達なんて皆、余所様のサラリイマン方に比べると高くはないお給料+長時間の残業で心身から悲鳴を放っているのだから。『人間』が『人間』を見下しているのである。この○コスめ!)をしながら、申し送り事項を受けたりオーナー夫婦の悪口を言い倒して馬鹿笑いしたりするのが上番(じょうばん)して先ず初めに行わなければならない事。減給になったお陰からか、いつも以上に陰口が弾む。そうして制服への着替えを済ませ、マスターキーの引継ぎ等も行ってから、八時開始の勤務に取り掛かるのである。此処のオウナー老夫婦様は大金持ちだから、荷物を運ぶ時は運送会社でなくタクシー会社にいつも依頼をしている。…いやいや。金持ち云々の話じゃあないよ。「違法行為」だよ。それは。

 早振名は、我々三人の中で一番愛想や接客態度が良い。と言うより、三人どころでなく多分うちの警備会社の中でトップスリーに入るぐらいの人格者であろう(傘乃場も性格の良い人物なのだが、早振名には他二名に無い実にホンワカした雰囲気が顔からも言動からも常に漂っている。考えてみると、彼の怒り顔を目にした事は一度もない)。性格自体が、良いのである(だから※ブルジョアジイTYPE:1二名様の悪口には私がいつも付き合わせているという形。そんな彼も結構私が言う事には笑ってやってくれているので、こちらとしてはとても楽しいものなのだが)。※ブルジョアジイTYPE:1→此の小説を読んでいれば恐らくお解り頂けるのではないかと思います。手抜きで、申し訳御座いません。…ブラック企業と呼ばれている"株式会社"は、"社員"を大事にしていないじゃないの。寧ろ、社員=道具・奴隷と考えている部分があるよなぁ。実際、此の現場がそうなのだし。だからワンマン経営をしているお方々には、毎日早朝に誰よりも早く出社して会社の掃除をしたり、全社員一人一人にモデムを無料配布したり震災のあった所に百億円を寄付したり、……等々という発想は生まれもしないのだろうなぁ。「人の価値は金で決まる!」「金さえありゃあ何だって解決出来るし何やったって許される!」「金こそが全てなのだよ!」「神=金!!」(ブルジョアジイTYPE:1にしろプロレタリアートTYPE:1にしろ、基本的に脳みその構造は同じなのである。どちらとも、阿呆且つ悪い人達なのだから)と謳っている、身も心も漆黒(くろ)ずんだ哀れ人達よ…。 ブルジョアジイTYPE:2→ブルジョアジイTYPE:1の逆ヴァージョンで、社員と仕事を大切にしていらっしゃる方。社員想いで、自分も社員達と共に汗水を流していらっしゃる方。過去の辛苦、苦痛、貧困時代、などの紆余曲折に臥薪嘗胆を重ねながら、夢を諦めずに大切にし続けて、そして成就に辿り着いた人々。ランボルギーニ乗りのドミノピザCEOドン・メイ氏や、木部レベッカさん、侍・ラン○・ラル大尉 マイヨ・○ラート大尉などなど…の如き温かい心をお持ちの方。「需要と供給」の相互関係の確立を大切に保ちながら、経済や人々の為に有産活動を行っている方。(モノづくりの国)NIPPONの誇り。


八時半頃。八時から九時迄の一時間だけは2ポスト勤務の形態となっているので、早振名は正門で交通誘導業務を行い、私は守衛室内で受付業務を行っていた。この日も朝から納品や引取をしに大小様々なトラックや普通車が多く出入しているのだが、そんな中で、初来場と思われる白い二トンの小汚いトラックがあまり徐行をせずに入門してきたのである。そのままトラックは、まるで当たり前のように、(守衛室横の)業者用の停車位置ではなく正門入って直ぐの正面玄関の真ん前に堂々と停車した。此処はオーナー夫婦がいつも使っている出入口で、今の此の時間帯はお二方がタクシーで出社してくるとても危険な時なのである。こんな所に車を停めさせている所を見られてしまうと、「何で私の乗降口に別の車が止まっているの!!何で邪魔してんのよ!!!」とご夫婦は理不尽にご立腹される。正面玄関を「お客様用」ではなく「俺様・私様用」の出入口と思っているのだ。しかもその車が小汚い"庶民的な"ものだったら、もっともっとご立腹される。自分の事を何よりも美しいと思っている金持ちは、庶民的なものが自分のテリトリーに誤って入りそうになるだけでも物凄く忌避するのだから。独裁者の癪に障る→即粛正なので、立哨中の早振名は大慌てで車のもとまでダッシュし、直ぐに移動して貰うよう運転席のドライバーに催促を始めた。

「すみません、此処は進入禁止なので、直ぐに車の移動をお願いします!」

 丁寧な姿勢を崩さない早振名。

「はぁ?進入禁止?どういう事や?」

 五十歳ぐらいの人相の悪い色黒の禿散らかった丸首ボロズボン姿の野暮ったい男が運転席から頭を覗かせた。

「そろそろオーナーが来られますので、直ぐにあちらの停車位置に移動をお願いします。此のスペースはオーナーや役員が出入りで使われる所なので」

「何でそれを先に言わへんねん!!」

 業者は冷静さをスコーンと失ったのか、藪から棒に怒鳴った。

「最初に言わなあかん事やんけ、何ボーッとしとんねん、サボっとんのかお前!?」

「いや、全くサボってなんかはいませんが、ご覧の通り。勢いよく入門して来られたので、今充分に迅速な応対をさせて貰っているつもりではありますけれど」

「何ゴチャゴチャ偉そうにぬかしとんねん、俺が悪い言うとるんか?なに人の所為にしとんねん!お前何て名前やねん!?」

 そう言いながらも業者は早振名の案内に従って所定の位置に車を停め、守衛室に入館手続きをしに来た。

 確か、納品の為に来場した小さい製紙会社だったと思うのだが、そいつの名前と会社名ははっきりと憶えていない。物腰の低い早振名をコケにした態度に私の腸が煮えくり返っていたからだ。取り敢えず社会人の常識みたいな感じで挨拶はしてやったが、禿はうんともすんとも返さずにムスッとしたまま入館名簿に莫迦丸出しの汚い字をカキカキと記入していった。

 ―本当だったら、偉そうで悪辣な態度を取っている相手が納品・引取で来場している業者、つまり「金と仕事を貰って来ている分際で、敬語すらも出来ず、トラックの運転しか出来ず、社会人としての基本的な教育すらも碌にやれていない零細会社に属している、報連相という言葉すら知らない中卒者TYPE:1※」であっても、此方が売り言葉に買い言葉の応対をしたり、攻撃的な態度を返してやったりしてはいけないのである。業者という立場の人間も仕事に関わっている以上は「お客様」と見なしましょうという小社の考えと、「より質の高い警備を目指そう!」「そしてその質の高い警備をお客様に見せよう!」といった会社特製のモットーに従わなければならないからだ。我々守衛も、雇われの身―つまり、「商品」だからだ。 ※中卒者TYPE:1→不良、弱者、甘ったれ、勉強嫌い(私の知人に想人~Thought~という鳥渡変な男がいるのだが、そいつも昔は勉強嫌いの低偏差値だったとの事で、一応大学には行かせて貰っていたのだが留年を経た挙句中退したらしい。私が言うのも何だが、学力の無い奴が、よく入学試験に合格出来たものだよな。と言うよりそもそも、何故彼は大学に入ろうと思ったのだか。親や学校の先生が、進学の理由・目的も無いのに『兎に角行け』と言ったからなのかな?笑 おっと、話が脱線してしまいました) 、世や他人にとって邪魔で迷惑で鬱陶しくて目障りな存在であるにも関わらず其の悪と愚かさに"何故か"気付かないで(気付こうともしないで)平然としている奴等。 中卒者TYPE:2→前述のプロレタリアートTYPE:2に所属。家庭の事情などから、高校進学を諦めざるを得なくなり、自分の生活含め家族の為に日々汗水を流して働いている方々。道徳の鑑。辛苦・苦痛にめげず、輝いている方々。強い心身を持ったプロレタリアート。今私には好意を抱いている女性(私の一方的な片想いですが)がいるのだが、キャバレエに勤めている彼女もまた、このTYPE:2に属する人物である(或る夜、大学時代の二つ上の先輩が経営する南海(なんかい)高野(こうや)線・堺東(さかいひがし)駅近くのバーでダーツの対戦をしたのが彼女との出逢った切っ掛け)。自分より五歳も年下の彼女とメールをしたり食事したりする度に、「俺ってちっちぇえなぁ、みみっちいなぁ。俺の存在って、一体何なんだろう……」と、思ったり感じたりしてしまう。彼女の事を、大した辛苦・苦痛を味わった事の無い自分なんかとは次元の違う存在と感じているのだ。高嶺の花なのである。…え、男だったら思い切って告白しろや!!ですって?……無理っ。恐れ多い頭が高い。お付き合いするだなんてとんでも御座いません、烏滸がましい。今私に告白しろと仰言った方は、どうせ私とは正反対のタイプの、イイクルマに乗っていて名刺も持っていて所得もお高い、さぞ人生がハッピー(別に俺の人生がアンハッピーという訳ではないが)なお方なんでしょうなぁ。ちっぽけな小生ごときが短絡的に彼女と一つになる事を求めたら、彼女に多大な迷惑が掛かってしまう。今よりももっともっと彼女の可憐さと恍惚なる素敵な笑顔から癒されたいと思ってしまうと、其れは瞬く間にヱゴイズムとなって、彼女を傷付け苦しめる。何とも、複雑な気持ち…。だから何とか頑張って、そんな彼女の事を忘れたいと思っているのだ。憧れている気持ちを殺す事の、辛さとの矛盾に苛まれながらも…。

 って、私の恋愛話はどうでもいいんだよ!だから脱線……めっ!!

 私は普通(?)の人達からするとヘンコ・社会不適合者なのかも知れない。…いや、ヘンコ・社会不適合者なのである。自分という人間が他人と違う行動をとるタイプである事に、誇りを持っているからだ。そうなると、何だかヘンコや社会不適合者という単語も私にとっては褒め言葉に思えてくるものだ。早振名に対して終始攻撃的な態度をとっていたのは、いくらなんでもあまりに酷過ぎる。早振名は人格者であり強い精神を持っている人物だから多分ダメージは受けていないと思うのだが、そうだとしても流石にこいつを許す訳にはいかない。…え、何があっても会社のモットーは守らなきゃいけないって?"ヘンコ~わたくし~社会不適合者"にその様な戯言が、通用するとでも思って?そんな呑気な事を仰っている場合かしら?”ナメ腐ってる&クソ甘ったれていやがる”此奴は、社会の制裁を喰らうべきなのだよ。怒らなければならぬ時も、あるのだ。とは言いつつ、この業者は中卒者TYPE:1=DHA・EPAが脳の中にちっとも含まれていない=ギアがカッピカピに錆び付いている所為で脳が殆ど回転していない訳だから、もしかすると自分が偉そうにしている事すら分かっていないかも知れない。罪の意識なんて到底持てる筈もなく。皮肉な事に、研修で挨拶や礼儀など細かい事もきっちり厳しく教育されそして大変な思いを重ねてから漸く給料というものを得てご飯を食べられている世の社会人の皆様方同様、そうでない此のトラック男のような連中が簡単に職を得られている上に容易く給料を貰えているのもまた現状なのだから、辟易に辟易を重ねてしまう。仮に相手が罪の意識を持てない阿呆だからと言って、放って置いて良いという訳は勿論ない。駄目なものはダメ!なのである。己の存在そのものが否定せられるべき存在である事を思い知らせるのだ。皺の殆ど無い脳みそに無理矢理でもそうインプットさせるのだ。

「…なんか、怒鳴り声が聞こえてたなぁ」

 嫌味たらしく言ってやった。業者は「あ?」と言いながら私の目を見た。そして唐突に、

「お前等の不手際を何で俺の所為にしとんねん!邪魔すんな!なんやねんお前!!」

 と再び怒鳴って来たのである。

「相手が若い奴だったら、初対面でも『お前』って連呼して良いのかね、お客さん?初めて此の会社に来るんだから、分からない事があるのは当然だ。しかし、一見には一見らしい恭しさが大事なんじゃないのか?はっきり言わせて貰うが、早振名にも私にも、そしてあんたにも落度は無い。しかしあんたは、自分が金と仕事を頂いて此処に来させて貰ってる身分にも関わらず、お客様の会社の敷地内で怒声を上げた。だから私は、あんたの事を総務課に報告しなきゃいけなくなった訳だ。どういう事か、分かるかい?我々が来場者にお伝えしている事は全て、我々の一存でなく、此処の総務が安全などを考慮した上で決定しているルールなんだよ。其れをお伝えするよう此方は総務から指示を受けているんだからな、我々に攻撃するという事は雇い主に攻撃…」

「うえーい!!」

「?うえーい?って、何?」

「もうええねん、偉そうにごちゃごちゃ言いよって、何様やねんお前!俺がお前の態度総務に報告したる」

「え、俺を通報?いやいや、辞めておいた方がいいよ。だって、そんな事したら百パーセントあんたが負けるから」

「何でやねん!?」

「何でやねんて、今言ったじゃん。…まったく、ここまで言っても全然通じてないのか。そもそも人が喋っているのを遮る行為が間違ってるし。冷静さのれの字も無いな。こんな理性の無い奴が、よく職業に就けれてるもんだ。大体、どうしてこんな汚物が此の会社に呼ばれたんだか……」

「誰が汚物やあぁ!!!」

「お前だぁぁ!!!」

 憤怒しながら汚物は一階の作業場に足を進めていったのだった。

「…早振名、大丈夫か?」

「うん、全く問題ないよ。それよりも阿蓋升、今のは流石に言い過ぎじゃ…」

「仕方がないさ。奴が俺に、毒を吐かせたんだから。自業自得だ。仲間を気付ける輩は、断じて許す訳にはいかないからな」

「其の気持ちは有り難いけど、クレームが入って君にもしもの事があったら…」

「大丈夫だよ。あれだけ低IQっぷりが顕著になってる奴に、クレームの付け方なんて分かっちゃいないから……」

 と、笑いながら言った私だが、此の蛮人はどういうルートでかタザワの奴と同様会社の電話番号を入手し、そして本社に「お前んとこの警備員が俺の事を『お前』呼ばわりしたんやあ!!!」などと文句の電話を打ち込んだのである。再び会社から呼び出しを受けた私だが、何とか上手い事言い訳をしたので、減給などの処罰は喰らわず、口頭注意だけで済ませて貰ったのだった。とは言え、私や早振名が不愉快にさせられた事と、世に跋扈しているナメ腐った俗蛮人共がペナルティを受けなければならない事に、変わりはない。


 以上の①②の二人にしろ、平気でポイ捨てする人間(ヴァンダル)共にしろ、皆悪意のオーラに心が蝕まれているのである。可哀想に。しかし其の事が、世に迷惑を掛け辛苦を与えているのだ。そんな事すらも分からないなんて、そして己の其の邪気に抗えないなんて……くすっ、カワイソウに。悪意という概念は人間にしか存在しない――其の事を、改めて思い知らせてくれる。タザワとトラック男の件は氷山の一角にしかすぎず、喫煙禁止の場所で喫煙する奴や、見た目・態度言動共に甚だ堅気離れしている巨大な老舗持株会社(株式会社Aは創業の際に此の持株会社と資本提携を結んでいたのだとか。狐に威を借られている虎。此の持株会社の資本の手助けが無かったら、楽チンポンにそして瞬く間に別工場・国内外支社を合わせて二十軒も建てるなんて事は先ず有り得なかった。こんな大会社になっていたかどうかも、疑問である。まぁそれが、世の中ってヤツ……?)の平社員、駐停車禁止の場所に車を停めて注意された事に「逆ギレ」しながら「なんや、此の若造の警備員の分際が」と私を莫迦にしつつ車放ったらかしで強引に入館しやがるお客様、「俺は社員やぞ、お前等守衛共の客やぞ!(いやいや、我々に金を払っているのはあんたじゃなくてあんたんとこのオーナー夫婦だから笑)」と恥じらいもなく逆上しながらこちらの案内・本社総務部の決めたルールを無視して勝手に「来客用」駐車場に車を止める支店長や別工場の部長役員などナド……私が勤務していた派遣先だけでも、悪人の数は多かった(同じ支店長や役員でも、愛想良くこちらに協力して下さる方は幾人かいらっしゃるのだがなあ。此の違いは一体、何なのでしょうね)。あ、あと、此の派遣先以外で、駐車場出入口での交通誘導(交通"整理"、ではない。交通整理と交通誘導は、別物)の臨時警備の為に京都のとある有名なホテルに行った時に、「おい兄ちゃん、儂ゃ○○組の者や」と堅気の私相手に脅しを掛けてくる高級外車のお方とか、駐車場満車時に黒塗りの大型ミニバンで来て、当然駐められる訳などないので向かいのコインパーキングを案内したら、「オイコラ、俺は予約客やぞ、何で満車になっとんねん?向かいのコインパーキングに行けだあ?面倒臭いわボケェ!駐車に銭なんか払えるかいボケふざけるなあぁ!!」と厚顔無恥に怒鳴り散らしながら出入口に車ごと居据わろうとする(不退去罪で通報しますよ、と脅して差し上げたら、ンアア…と顔を顰めながら移動してくれましたけれどね笑)質の悪い堅気のお方(こいつそういや、肥満体でイカツイ顔の中年の嫁さんと小っちゃい餓鬼二匹を乗せた、ポロシャツ色褪せジーパン姿の四十歳ぐらいの地味な面したオッサンでしたね。……プっ。こんな奴が存在していたら、今の世の子供達が大人になった時に、日本は一体どんな国になってしまうのでしょうかねぇ。非国民共が支配する日本なんて、まっぴらゴメンですわ)とかにも、お会いした事がありましたなぁ。…先ずそもそも、私自身もそうなのだが会社は「1号警備業務」(施設警備業務)専門の会社故「2号警備業務」(交通誘導及び雑踏警備業務)の免許を持っていないので、公安委員会に無免許及び研修なしで臨時警備をやっている事がバレたら、其の時は会社も社員も即刻打っ潰されてしまうんですケドね(汗)。だから株式会社Aでの立哨業務も、完全なる違法行為なのです。……違法パラダイス(笑)

真面目な者が馬鹿を見てしまいそうなぐらい、悪者は世の中の至る所に蔓延っている。「後悔している事」―と言うのは、今更だが、自分が悪人達から害を被った其の時にリアルタイムでインターネットのサイトに書き込むなり、②の奴の業者名と会社名を外来客名簿で確認して苦情を言いに行くなり、タザワ其の他の、己の悪を棚に上げて他人を悪者扱いしている悪人共の勤め先にカチコミに行くなりしておけば良かったなぁ…と、思う部分がある事。大人気ない発想で、結構。どうせ、常人達から見たら、私は逮捕される様が似合っている人間なのだからな。どうせ、退廃した修羅まがいの人生を送る事が私の運命みたいなものなのだから、常人的思考からすると。格好付けて良い子ぶろうとしたって、そんなものは空回りして逆に気持ち悪くなってしまうだけ。…常人的思考からすると。

 ―じゃあ、今復讐しに行っちゃえば?

…そうですよね。確かに、この際だから行ってしまえば良いのですよ。ただ――復讐の前に、やりたい事がある。あると言うか、出来た。そんな私は今、トング(エコロジスト・サーベル)とごみ袋(エコロジスト・シールド)を持って外出する準備を自宅にて行っている。「少しずつでもいいから、俺に出来ることを先ずはコツコツとやっていこう。少しでも、『母』の傷を癒せるようにな。復讐~勧善懲悪~は、それからでもいいかな…」と、独り言を呟きながら。が、しかしだ。私の目標――其れは、あくまで勧善……「完全」懲悪、なのである。例えそれが無謀な挑戦だとしても、立ち向かっていかんとする気持ちを作れば、それだけでも心は躍動感に駆られるもの。そもそも、初め(ハナ)から目標のレヴェルを低くしている者に、成就の歓喜(よろこ)びなんて訪れやしないものだ。たった一度きりの人生何時死ぬか分からないから、「『生』は『死』の為の『トライアル期間』である―」というスピリチュアリズムにも従いながら「所謂良い事」を優先して生きていこう。「死後どうしても天国に行きたいんです!」と言うより、悪人共が墜ちる・悪人共がうじゃウジャ蠢いている・と言うか悪人しか居ない世界―地獄に墜ちるのがまっぴらゴメンなのである。〝人の振り見て我が振り直せ〝―死してなお、自分が最も忌み嫌っているヴァンダル悪人共と地獄での共同生活を強いられるなんて、鳥渡想像しただけでゾッとする。吐き気がする。とても息苦しくなる。気を付けなければ…。あと、もし死後生まれ変わるとなった時、愚かな阿呆として生まれてこない事を強く強く祈らなければ。どうか生まれ変わる際は、輪廻転生をギザきぼんぬ。さすれば、死も怖くはないかな――。

アンチヴァンダルの「悪魔」と化した阿蓋升助清、此れより出撃します。


御殿山の自宅を出た。ソフト帽・サングラス・アクセサリー・カジュアルウエアといった普段着で、白昼堂々これ見よがしに芥を拾いながら街の中を歩き続ける。吸殻を始め、空き缶だのペットボトルだのお菓子の袋だのたこ焼きでも入っていたのかソースものの空きパックだの……どんどんどんどんと色々な物が袋の中に召喚せられていく。嗚呼、こりゃ凄ぇなぁ、大漁だ大漁だぁ。辟易するぜ。あまりにも芥の種類や量が多すぎて、私一人で全てを拾い切る事が出来ない。てめえらの為に吸われてやった吸殻なのに、飲まれてやった空き缶やペットボトルなのに、喰われてやった菓子袋なのに、どうして感謝のかの字も持てないのだ?面倒臭いのたった一言でポイポイ捨てやがってまったく!私は幾つかの場所に、 

〝ILLEGAL ABANDONMENT is the CRIME.So,CRIMERS had better go to hell~ポイ捨て―不法投棄は、犯罪です。絶対に、やめましょう~〝

とワールドワイドに英訳文を混じえてみた、大きな鳥居の絵をバックにしているシンプルなデザインの手書きのポスタアを貼っていった。無許可の貼紙行為なので、罪悪感みたいなものも鳥渡抱きつつ…。

こんな調子でゆっくりと歩き進んでいきながら、私は枚方市駅の近くにある万年寺(まんねんじ)山という小さな山の麓に差し掛かっていた。此の山には、水の神・オカミノカミなどを祀っている意賀美(おかみ)神社が鎮座しており、淀川を鎮守しているのだと言われている。社へと続く石段の前に偶々立っていた私は、ふと其処に足を踏み入れ、境内を目指して登り始めたのだった。長いこと枚方に住まわせて頂いているが、訪れるのは今回が初めてである。

鳥居の前に到達した私は、帽子とサングラスを外し、一礼して潜った。敷地内には梅林があり、百本近くあると思われるそれぞれの木々に美しい梅花が咲き誇っている。私以外に、人間は居なかった。

「淀川以外にも、こんな素敵な場所があったんだな。もっと早くに、知っておくべきだった……」

其の静かな空間で美味しい空気と涼風に戦ぐ木々の音を暫く堪能してから、境内の方に足を進める。

境内手前の向かって左横側には、現在活動を休止している枚方出身・男性五人組・多分日本いや宇宙で一番バンド名が長いロックバンド、AcidbreathAndroid Knife Blackcherrycat

0048(アシッドブレスアンドロイド ナイフ ブラックチェリーキャット ダブルオーフォーエイト)(略してABO(エビオ)の愛称で呼ばれている)の早期再活動を願う数多の絵馬が所狭しと飾られていた。私もインディーズ時代のものを含めた此のバンドのCDを幾枚か持っているし、京都の木屋町(きやまち)のスリランカバーでドラムスの真~Shinya~矢さんとキーボードの結希比呂~yukihiro~さんを見掛けた事がある(サイン貰っときゃ良かったなぁ…)ので、絵馬を書いた人達の気持ちは分からなくもなかった(絵馬の字はどれも女の子のものっぽいな)。

「…ちいっ、しまった、五円玉が無いっ。仕方がないな、十円玉でどうか、お許し下さい。……善を勧めむ完全懲悪、やってみるさ!」

 私は、成就を願ったのだった。


「貴方を其処まで強く駆り立てる、真の根源は何なのですか?」

「え、――」

 御神様に、そう訊ねられたような気がした。


 切っ掛けは、日本が世界に誇っている文化、「アニメ」である。


 幼い頃から、ロボットアニメが大好きだった。と言っても、子供の時分はロボット同士のチャンバラシーンしか見ておらず、内容など全く理解していなかったと言うか目を向けようともしていなかった。プラモデルも何十体と親から買って貰った事か。人々が人型の巨大なロボットを操縦して戦いを繰り広げ、数多の命が潰えていく姿―「戦争」が、当時の自分には単なるゲーム感覚でしか捉える事の出来ないものだった。アニメに限らず、戦争というもの自体をそう捉えていた莫迦餓鬼だったのである。

 だが、自慢ではないが、私は生まれてから一度もポイ捨てをした事がない。それだけが、唯一、自慢出来る事である。…って、自慢してますやん、君。笑

 高校生になってからだった。ほんの少しずつだが内容を理解し始めたのは。登場している人物達の台詞一つ一つにちゃんと耳を傾けたり、此の時分没頭していた某大戦もののシミュレーションRPGや操縦感覚を味わえる某シューティングゲームの台詞字幕にじっくりと目を向けたりするようになったのである。ロボットものに限らず、「アニメ」(ドラマや漫画などでもそうですが)というものには、感銘せられる程の奥深さは勿論、強いメッセージや教訓も含まれている事を、恥ずかしながら高校生の年齢にして初めて学んだのだった。まぁ、世の中には、大人になってからもアニメや漫画を莫迦にしている分からず屋って沢山いますケドねぇ。そういう落ちこぼれ達が、平気でポイ捨てしたり傲岸不遜な言動をとったりして世に迷惑を掛けているのでしょう、どうせ。私の尊敬する某ロボアニメキャラの方(宇宙在住・某国の軍の大佐兼総帥)は、地球人のエゴイズムや圧政に苦しめられた挙句、地球に人工の小惑星を落として地球人を殲滅しようとしていた。しかし、其れをやってしまうと美しい自然や生き物達までもが地球人の罪による巻き添えを喰らいながら壊滅せられてしまうので、「天然痘ウイルスを地球上にばら撒いてやったらいいんじゃない?」と見解を持った事がある。天然痘は、ヒトにしか通用しない生物兵器だからだ。ところが、もしそのアニメで天然痘をばら撒くという演出を施してしまうと、物語の内容や構成が崩れてしまう。現実世界に於いて地球上に天然痘をばら撒くなんて事は、正直言ってムリなので、今頃になってこうしてエコロジスト・サーベルとエコロジスト・シールドを武器に戦地へと足を踏み入れる事が漸く出来ている訳だ。…本当、今更かよ、この腰抜けヘタレ意気地なし勇気なしめが。天然痘云々の見解も、反対や批判ではない。昔も今も、大佐は私にとって人生の哲学の恩師である。私も「人間」故、もし大佐に出逢っていなかったら、………

 アニメ以外の物事から受けている影響もある。逮捕される数日前の早朝に国道171号線(イナイチ)の上牧(かんまき)と水無瀬(みなせ)をサイクリングしていた時、体育服を着た中学生か高校生の男の子達や女の子達が一生懸命に道端の吸殻やごみを拾ったり川の清掃を行ったりしている光景を目にした事がある。平気で子供達に尻拭いをさせる程にまで落ちぶれてしまった、日本人の、日本の大人達の招き出している様……。この日本国に住まわせて頂いている日本国民として、日本を愛する者として、とても悔しい。恥ずかしい。悲哀と辛苦と苦痛のプールに溺れているかの如き感覚だ。我等が尊貴なる心得――武士道は、亀裂だらけのポンコツガラクタにでもさせられてしまったのだろうか?今迄の日本の歴史の中で起きてきた数々の戦争で命を落としてきた、数多の英霊の方々が夢見ていた未来の日本人の姿は、こんなものではなかったと思うのですが?…先ず、英霊方が其の命を落としてまで我等現代人の為に築いてきて下さった、日本の此の「平和」という漢字二文字に、感謝せねばなりませぬよね?平和なのが当たり前と思うのでなく、平和さ・溢れている便利さを(意識的だろうが無意識的だろうが)当たり前のものと感じるのではなく。その中の一環である、食べたい物を食べたい時に口にする事が出来る事と、鳥渡歩くだけでコンビニエンスストアやスーパーや飲食店などに行ける場所がある事と、そしてそれらを行える程の金銭を大概の日本人が持っている事もまた、本当に有り難い、現代日本の特色。それなのに、食を得られるだけでも甚だしく有難いという事すらも分からずに、寧ろ此の有難味を蔑ろにしながら、「不味くはないが、自分の口には合わないな」とか「あたしもうお腹いっぱい、食べれな~い!」、「私はグルメである。故に、味には五月蠅いぞ。作り手の諸君よ、覚悟は良いかね?因みに、私は料理は一切出来ないのだがね」、「私はラ○○ン王なる者であります。調理師免許を持っています。ラ○○ンの味にああだこうだ言っているだけでテレビ出演したりコンサルティング会社を設立したり本を書いたりしております。他人よりも味覚が発達しております故、ほぼ毎日ラ○○ン以外の物も外食して回ってはアアダコウダ吐き連ねております。マジ凄ぇだろ、俺!たかがこんな事やってるだけで金貰えてるんだぜ!しかも合コンでのお持ち帰り率、三割だ!涎が止まんねぇだろう野郎共よ!…いいか、耳の穴かっぽじってよぉく聞きやがれ。人間ていうのはなぁ、生きる為に食べるんじゃあないんだよ。食べる為に、生きるんだよ!!!」などと偉そうにケチ付けたりブリッコかましたり莫迦間抜けな事をぬかしたりしていやがる消費階級のボンボン諸君よ、悪い様には言わないから、取り敢えずは無人島かソチミルコの人形島に流されておくんなはれ。恥を知り給へ、愚か者共が。普段の生活に戻りたければ、最低六百六十六回は懺悔をしてきて下さいね。我等人間共の為に犠牲になって下さった「食材(いのち)」達を、一体何だと思っているのだろうか?悔しいが、「辛苦の忘却」と「贅沢な衣食住に対する感覚の麻痺」が、顕著になっていますよね。皺無し短絡的脳ミソ共め、罪悪感もなく平気で食べ飲み残ししやがって。どうしても口に合わないと分かっているのだろう?てめぇらの胃袋の事なのだから直ぐに腹一杯になるミニ胃袋という事ぐらい分かっているのだろう?だったら最初から口にするなや阿呆が。野菜はお皿じゃねぇ!麺類のスープはどんぶりじゃねぇ!薬味は飾りじゃねぇぞドアホウが!「自業自得の不健康爆弾」で今直ぐ自爆しちゃえ!…私の身の回りだけでも、私の自転車の籠や家の周りに色々な芥が捨てられていたり、同自転車のタイヤの空気が抜かれていたりする悪戯が今日迄に幾度も発生しているのだが、きっとこれらも、荒廃(すた)れた恥曝しの非国民共がやった仕業なのだろうな。暇人共め、何が楽しいのだか。残念で仕方がありませんわ。折角日本人として日本国に生まれたというのに、勿体無い。「真のド阿呆」共が。日本だろうが何処だろうが関係なしに、悪い奴は居るという事なのね。日本人だって、私だって、……「人間」。

 今年の一月の下旬、私は大好きな或る関西出身・男性五人組・世界中で活動しているロックバンドの日本武道館ツーデイズライブを観る為に、有給を使って単身二泊三日で東京を訪れた。今迄に何度か東京を訪れた事があるのだが、本当に面白い所だなあ、と此の度も思わされたのだった。と言うのも、東京ではしょっちゅう地下鉄を利用させて頂いたのだが、その度に、東京メトロ線と都営線の切符を買い間違えては改札で「ブップーキンコーン」といわれ駅員さんに「すみません…」と謝りながら切符を交換し通して貰う…という、諧謔的ミスを繰り返していたからだ。流石はコンクリートジャングル・トーキョー。キャピタルオブジャパン。観光客をこんなにも惑わせそして楽しませてくれるなんて、やはり日本はスゲェ国だぜ。…って、俺に学習能力が無いだけや!(笑) 今回はJRや京王線でも一、二回迷ったし、上野のコリアタウンに行きたくて上野駅で降りるも途中で道に迷ってしまって、結局行けず終いって事もあったしなぁ……。

 そんな感じで今回も半蔵門線で切符を買い間違えながら、二日間の武道館ライブを訪れたのだった。

 

日本武道館は、文字通り「武道館」なので、内部の音響効果は他のコンサート会場に比べると劣っている。…と、言われているのだが、そんなのは全くの噓っぱちであった。優れた機材と奏 者・スタッフの技術の高さが所以でもあると思うのだが、二日とも二階の席で観させて頂いた私の心身には、兎に角、素晴らしい音響――音として具現化せられたメンバー達の「感情」が、力強く打つかってきたのである。一日目の一八時四十五分頃、門を潜り、物凄い長蛇の列に混じり乍ら私は二階の席まで直行した。武道館を訪れるのは、実は今回が初めてではなく、高校三年生の時に一回、大学四年生の時に一回、それぞれ柔道の試合で(その時は団体行動だったので道に迷うとかはなかったのだが…)。え、当時の試合の結果ですか?えっと、そうですね、団体戦では双方ともベスト4に入ったのですが、個人戦での私の成績は、確かベスト……って、だから私の話はどうでもいいんですって。もう。また脱線するところだったじゃないですか。…ただ、館内に出入りする際は、一礼をせずにはいられないのである。やはり、武道を学ばせて頂いていた、いち日本人男性として…。日本武道館に限らず、武道館という所自体、日本人にとっては神聖なる、日本の国技を司る場所なのですからね。此の神聖云々という話を或る時の真昼間に十三(じゅうそう)の串カツ屋のカウンターで口にしていたら、三つ隣の席に座っていた酔っ払いのオッサンに「それはジュードーやってたお前さんの自分勝手な考えやぁ!」と言われた事もありましたケド(^_^;)

 懐かしいなと思いながらも試合で来た時とはやはり雰囲気が違って感ぜられたのだが、巨大な天井に吊り下げられている我等が国旗・日の丸は、会場内に居る我等日本国民を見守るかの様に、今も変わらず、猛々しくそして偉大に其の存在感を誇示していたのだった。

 十九時十五分、いよいよライブが始まった。バンドがツアーで関西に来た時には何度かそのライブに足を運んでいるのだが、…流石、「聖地」とだけあって、全席をぎっしりと埋め尽くしている劇的なな数の観客(ファン)と会場の広大さ、我が心身の隅々を破壊せんが如く打ち付けてくる激しくて叙情的で心地の良い音響(感情)は、私を圧倒させてくれたのだった。ただ、其の一方で、「ああ、やっぱり、今迄観させて頂いたツアーの時と、同じ様な感じだな…」とも、思ったのである。アーティストの方々にとって感情を表現する場所―ライブには、「差別」などという概念が、まず存在しないのである。特に此のバンドは、如何なる規模 のステージであっても、演出から何までの全てを最初から最後まで全力で表現しているのだ。仮に今回の此のツーデイズにオーディエンスが一人も居なかったとしても、彼等が少しでも手を抜くなんて事は、有り得ない。其の事を私も知っているので、ツアーの時と同様の感覚で楽しませて頂いたのだった。同様の感覚―日常から逸脱した異空間…。「何故〝Live〝と言う名称なのか?其れは、『生命力』が其処に存在しているから…」と何処かで耳にした事があるが、此のバンドのライブは其の概念を超越している。だから、此の時代に生まれ此のバンドに出会えた事には、とても感謝している。人間の心の痛み・苦しみ・悲しみ・愚かさ・脆弱さ・エゴイズム・生と死…等を歌っている、此のバンドに。「芸術」という「魔力」に包まれている私――人間にも、こんなに素晴らしい方達が存在しているのだ。咽喉を潰し乍らも心の底から吐き出されるヴォーカルの声と、ツインギター・ベース・ドラムスから奏でられる唯一無二の音色とフレーズが重なり、メンバー五人が「一つ」になる。其の一つになった五人の心を、ミキサーがオーディエンスのもとまで届けてくれる。ヴォーカルの、自傷行為パフォーマンス―強烈な視覚的表現と、共に。…今回の此の約二時間のライブもまた、ツアーの時と同じ様に、会場内にいる「全ての」人達が、「一つ」になったのだった。ただ今回は、我等が日の丸も共に……。

「明日もまた、此の感動が味わえるなんて……」

 チケットを二日分買って正解だったな。恐らく明日は、今日とは違うセットリストであろう。もしかしたら、最終日らしい演出があるかも知れない…。ライブが終わってからも、感情の震えは暫く治まらなかった。


 そんな自分の心を深く傷付ける、辛い出来事があったのである。

 二日目。此の日はグッズを買う為に、開始一時間前の十八時頃に武道館へ足を運んだ。門を潜り、早速の長蛇の列に四、五分流されながら、入口前の販売場に着く。Tシャツ一枚とリストバンド一つを購入した後、販売場から少し離れた所に設けられているメンバー達使用のシグネチャモデルと同じモデルの機材を展示したブースを拝見したり、売店の焼そばを頂いたり、二階の入口の階段横に並べられている数々の祝い花を写真に収めたりした。其の羅列せられた花々の中には、業界関係者からのものに加え、現在ソロアーティストとして活動しているABOのヴォーカリスト・nori(ノリ)さんや、美少女お笑い芸人・蟻群 菓子味(ありむら かすみ)ちゃんとその交際相手のイケメン俳優・工藤 斎(くどう ひとし)君、アニメーション作家の赤井 彗世(あかい すいせい)先生、男女アイドルユニット「しりり」の霧都 麻友(きりと まゆ)ちゃんと蒼井 月(あおい ライト)君のお二人、夫婦漫才・京子♡角也(きょうこ つのなり)師匠、若手お笑いコンビ・祐二浩二(ユージこうじ)、ラーメン屋・彦龍(ひこりゅう)の店主、ホットネーポン専門カフェ・アジアコーヒーのマスターなどなど、名立たる有名人からも送られた花が沢山あった。

 開演迄、まだあと三十分あった。私は、駐車場の隅にあるベンチに腰を降ろし、休憩する事にした。周りには、自分よりも結構年下の様な風情の他のファンの男女数人がベンチに座りながら煙草を吸ったりお菓子を食べたりしていた。

 ―当然、君達は、ポイ捨てなんてしないよな。ちゃんとマナーを守って、自分が排出した芥はちゃんと片付ける…こんな事、言われるまでもない当然の事だよな。ポイ捨てなんて、愚の骨頂だよな。「金払って武道館に来てるんだから、清掃員に掃除させりゃいいんだよ。あー面倒臭い面倒臭い、後片付けなんてしてられるかい。捨てちゃえ捨てちゃえ、ポイ捨てしたったれ」なんて幼稚な考え、勿論持ってなんかいないよね。だって俺達、「同志」なんだからさ。同じアーティストを好きになって、歌詩と曲のメッセージに感銘を受けて、そして今、時と空間を共有する為に、「一つ」になる為に、此処日本武道館にこうして集った、「仲間」なんだから。


 ……裏切られたような、気持ちでした。

 何故、誰一人、ちゃんと後始末をしないのだ?どういう事だ、此の者達は、ライブを観に来たファンではないのか?いや、皆バンドのシャツやパーカーを身に纏っている。という事は、こやつらは……ファン失格!恥曝し!似非ファン!帰れ消えろ!一体お前等はバンドの何を見てきたのだ?バンドにも、此のライブに関わっている全ての方々にも、物凄く失礼である。我等日本人の聖域である武道館を汚しやがって畜生の非国民共め……よくもまあ羞恥心もなく此処にのこのこと来られたものだ、俺達同志の中にほんの僅かでもお前等みたいな連中が入ってきたらなあ、俺達の心は死んでしまうのだよ。人間不信に陥り兼ねない、邪魔をするな!お前等を同志だと思った事が恥ずかしい。馬鹿馬鹿しいぜ。二度とバンドの事を好きになるな、迷惑だ。唯だ有名人を生で観て喜ぼうとしているだけのミーハー共かてめえらは?とっとと消え失せろ帰りやがれ!二度とライブに来るなバンドに関わるな!!!て言うか滅び去れ!死に曝せや此の糞腐れ外道共が!!!!!!バンドの代表曲「Lavushka(ラウシュカ)」のCメㇿに、「さぁ、人間を辞めろ……」と歌っているフレーズがあるのだが、此の言葉は、「道徳を踏み外した人間になれ」という意味ではなく、「人間の中に潜んでいる愚かさ・脆弱さ・エゴイズム等といった負のオーラを殺せ」という意味である。勘違いしているこいつらよ、「さぁ、ファンを辞めろ……」。

 人間……にんげん……ニンゲン……ningen……нинген……阿蓋升よ、御前も罪人だ。怖気付いて腰抜かして、注意義務を怠ったのだからな――――

 思った通り、一日目とは違うセットリストだった。そして、最終日らしい演出もあった。

「此の中に、あいつらが……」

スタートした途端から百パーセント超で熱狂している同志達の中で、私は・・・・・・




「悪魔を気取っている俺が、神に祈り事か……」

 真の悪魔になれたら、どんなに喜ばしい事か。悪い魔と書いて悪魔――此の「悪い」という単語は、人間が自分の物差しで定義付けた物である。悪魔は人に取り憑いて苦しみを与えたりするから、悪い奴等なのだ、と。…では、何故悪魔は、わざわざ人に憑いてそんな苦しみを与える行動を起こしたりするのだうか?それは、…「悪」を懲らしめる為、である。本当の「悪」は、一体どちらなのだろうかね……だから私は、修羅の道を歩きたいとも思えるのである。信念と目的と、…母の為にね。

「あ、確か今日は、傘乃場は非番だったな。あいつ香里園(こうりえん)に住んでるし、会いに行くか。お休みの所悪いけど。電話してみよう」


 香里園駅の近くにある定食屋で、私は傘乃場と食事をした。

「……すまない、迷惑を掛けて」

「だからー、迷惑なんか掛かっていないって、同じ事を何度も言わせないでくれよ。もういい加減、頭を上げてくれや。それよりもさ阿蓋升、ポイ捨てしてる輩共をシバくって、凄ぇよな。カッコイイじゃん。俺もシバきたい奴いっぱいいるから、君の真似をしたいぐらいさ……」

「……現場の方は、どう?」

「君が居なくなってから直ぐに新人さんが入ってきたよ。新人と言うか、大阪の商業施設の派遣隊から来た人なんだけどね。入社歴は俺等より少し浅いけど、警察出身の四十五歳の男性の方だよ」

「警察出身か。流石は業界で二番目に天下りが多い警備会社だな」

「天下りっていうか、其の人は警察を辞めてうちの会社に来たらしいんだけどね」

「警察……嫌いだぜ。忌々しい事を、思い出させてくれる」

「警察にも良い人は沢山いるんだがなぁ。俺高校生の時にさ、自転車を盗まれた事があるんだけど、其の時はいろんな警官の人達が親身になって探してくれたよ。お陰で被害届を出してから一週間後に見付かったんだ。当時三十歳の男が、樟葉(くずは)の街中を俺の自転車でうろついてたんだって。自宅マンションの駐輪場に置いてたやつの鍵をわざわざ破壊してまで乗ろうとする気持ちが、俺には分からんなぁ」

「そんな事があったのか。警察にも良い人がいる…か。一部の莫迦の所為で他の良い人間までもが偏見を喰らう……悲しいな」

「今度の新入りさんも、元警官のプライドみたいなものが鳥渡あるみたいだけどね」

「そんなプライド捨てないと、仕事は務まらないだろうな。何処に行っても。って俺が言えたことじゃないか」

「ただ其の人さ、虫が大嫌いらしくてね、こないだ殺虫剤とか蚊取り線香とかをやたら持って出勤してきたんだよ」

「あら、守衛室に殺虫剤を持ち込まないという俺達三人のスタイルを破ったのかい?」

「ああ。あの温厚な早振名が頭に来てるぐらいだ」

「『一寸の虫にも五分の魂』が、早振名の口癖だもんな」

「うん。去年の梅田(うめだ)のホテルでの忘年会の時、『殺虫剤のメーカーで働く人間は、虫殺しという嗜虐に舌鼓でも打っているんだろうか?小さな命達が潰えていく傍でヘラヘラしながら生きていくなんて、僕には理解出来ないな』って、あいつ泥酔しながら何故か店員のお姉さんにそう言ってたわ」

「ただ優しいだけじゃない早振名の、万物への思いやり…凄いよな」

「それをあの元オマワリサンが理解してくれるかどうか…」

「くれぐれも、あの君主様と主君様御夫婦の癪に障らない様に気を付けないとだな。なんせ、作業中の業者のトラックを見ただけで『何、あのトラックは~?小汚い物を私の視界に入れないで~』って理不尽過ぎる怒り方をなさるブルジョアジイバカップルだからね」


「…今日は突然の誘いに付き合ってくれて、有り難うな。明日も仕事なのに。家迄送らせてくれよ」

定食屋を後にして、傘乃場と私は道を歩いていた。

「また飲みにでも行こうや。あ、後で俺の勤務日程メールで送って置くし」

「オッケー。また誘わせて貰うよ。…仕事、見付けないとだなぁ…」

 やがて私達は、歩道のない一方通行の道へと入った。傘乃場の家へ向かうには、此の道を通らなければならないのである。

「此の道、ほんと狭いよなぁ。通る度に、いつも思うよ」

 傘乃場が、そう言った矢先だった。

「うわっ!!」

 縦列で端にピタッとくっ付く様にして歩いていた私達の横を、白の薄汚い軽自動車がビュン!と走り去ったのである。

「どこあるいとんねんコラァァーーーいてこますぞぉぉぉ!!!」

 運転席から、歯が何本か欠けている四十歳前後の短髪で目つきが悪くてゲッソリと痩せこけた男が顔を出し乍ら怒鳴ってきた。

「……何だよ今の男、危ないなぁ。怒鳴られるような歩き方してねぇじゃねぇかよ、まったく。世の中、いろんな奴がいるもんだ。阿蓋升、大丈夫か?」

「・・・」

「?阿蓋升、どうした?」

「殺す」

「え?」

「今の男を、此の世から抹消する」

「え、ちょ、ちょっと、何言って…」

「今の男は、周りの状況を全く把握していない上に、こんな狭い道でスピードを出して走っていた。ドライバーが守らなければいけない基本中の基本事項を、行っていない。という事は、奴は其の内事故を起こす。事が起こってしまってからでは遅い。だから俺は、今から『未然防止』の作業に取り掛かる…」

「…ちょ、ちょっと待てよ、お前何言って……もしかして、またオカミに捕まる気か?折角こうしてシャバ歩いてるのに、感情に流されて人生潰す様な事したら…」

「傘乃場、有り難う。でもな、……俺は、サツに捕まった時から、もう修羅の道に入ってたみたい」

「え……?」

「実際、前科者の俺が人並みに再就職して給料を手に入れられる確率なんて、無に等しいんだよ。世の中ってやつは、そんなに甘くは無いんだもんな。でもさ、俺、これっぽっちも後悔なんてしちゃあいないんだよね。寧ろ、良い気分さ。だって世の中には俺みたいな人間も必要だって確信してるし、その俺にしか与えられていない、警察という特別な権限を持った者達でさえも出来ない、『役目』ってやつがあるんだからな」

「……お前、マジかよ」

「傘乃場、……また飲みに行く約束は、果たせないかも。……すまん」

「ちょ!オイッ!!!」

 私は、傘乃場から全速力で走り去った。私の後を追い駆ける傘乃場だが、私の脚の速さに追いつけず、彼は私を見失ったのだった。


「……何処だ」

 男を発見するのに、時間は掛からなかった。香里園駅と光善寺(こうぜんじ)駅の中間辺りに位置する線路沿いの車道上で、青信号の横断歩道を渡っていた高齢の女性が、信号無視をした男の車にはねられたのである。私が駆けつけた時には多くの人だかりが出来ていて、救急車の手配も出来ている状況だった。被害者の女性は額から大量の血を流しながら、意識が朦朧としている状態で道路脇に横たわっていた。彼女の傍には、腰を降ろして出血部をハンカチで押さえている、通りすがりの若い女性がいる。

 男は、車の横であたふたしていた。

「……てめぇ」

 男を睨み付ける私。

「…あ、…あわわ、……うわあああ!!!」

「!!!」

 男は運手席のドアを開け、逃走を図ろうとしたのだった。

「オルァアアア!!!」

「ギャアッッッ!!!」

 男の背中に、ドロップキックを打ちかましてやった。

「……いってえ、なにすんじゃいワレぇェ!!」

「…」

 バタフライナイフを、ズボンの右ポケットから出してきたのだった。周囲が、騒然としだす。

「なんやねんおまえー、ころしたるわぁー!!!」

 私に向かってナイフを振り翳してきた。

「……」

 ひょいっと躱してやった。そして右腕を掴み上げ、ナイフを奪った。

「…ええっと、殺してやる、ですって?えっと其れは、こうやって、やるのかな?」

「!!!うぎいいいいい!!!」

 男の右太腿に、プスッと刺して差し上げた。周囲が、更なる悲鳴をあげだした。

「…弱いね、君。なんか随分と痛がってるみたいだけど、君にひかれたあちらの女性は、もっともぉーっと苦しんでいますよ」

「あああ、あああ、……たす、たしゅけてぇ……」

「え?」

「…たしゅけて」

「『助けて下さい』ってちゃんと敬語を使ったら、助かったのに。哀れだなぁ、勿体無い」

「助けて下さい」

「あら、ちゃんと言えるじゃないの。何で初めから言わないのかい?…まぁいいや、今回は特別、許してあげるよ」

「おお、……おおお」

「嘘に決まってんだろうがバァーカがぁぁ!!!」

「!!…」

 男の顔面に膝蹴りを見舞った。

「…お前にもう、逃げ場はない。無様に、命乞いを続けるか?まぁ、どちらにせよ、お前に訪れるのはただ一つ、だけどな……」

 鼻血をどくどくと垂れ流して全身をがくがくとさせながら、男は四つん這いで私から逃げようとする。しかしダメージが大きいので当然逃げられる訳は無いのだが。

「……すまなかった。やりすぎたよ」

「……へぁあ…?」

 男の目の前に腰を降ろし、私はそう言った。

「……きゅうに、どないしたんや……?」

「…今、突然、冷静さが戻った。我に、返ったんだ」

「は、へえぁ…」

「酷い怪我だ。私が負わせたなんて、信じられない…。直ぐに病院へ行こう。肩を貸します、立てますか?」

 男は私の右肩を使って懸命に立ち上がった。

「…………あ・ま・い・よ」

「????」

「…俺、言ったよなぁ。お前に訪れるのは、ただ一つ、…って」

「……!!」

「お前の場合は、生きて罪を償ってはならない。逮捕?甘いぬるい。苦しんだ挙句、死んで罪を償うのだ。万死に値する罪を、犯してしまったのだからな」

「!!!い、いやあだぁぁ……」

「此れ以上ごちゃごちゃ喋っていたって時間の無駄だ。……今から私が、貴方を地獄へと御案内します。・・・莫迦にでも効く、とっておきの薬だ。では。――――」

 左腕を関節技で破壊した。其の後、致命傷程度の大外刈りを食らわせ、腹部にじっくりとストンピングを幾発も浴びせてから、ディジェスティフに、裸絞めでとどめを刺してやったのだった。




「判決を言い渡す。主文、被告人を懲役七年の刑に処す」




 ――良かったよ。あの女性、一命を取り留めて、意識も回復しているとの事なのだから。ただ……人間共がこうして「悪魔」を捕らえ、勧善懲悪と完全懲悪の邪魔をするという事は、此れからも此の世がヴァンダル共によって苦しめられ続けるという事である。何故、我が身を傷付けんとするのだ、人間諸君よ?跋扈している悪共をサバいている私を、何故間違っていると、悪であると、否定するのだね?デストラクショニズムの何が悪い?我が身の安泰しか考えていない人間共め、アンチインディヴィデュアリズムの何が悪い?アンチヴァンダリズムの何がいけないのだ?

 …そうか。「人の振り見て我が振り直せ」、という事か。

 悪い奴等が居なくなれば、善悪の区別や其の概念が失われ、世の均衡が取れなくなってしまうからなのだな。だから「母上」、そなたも崩壊の道を、お選びになったという訳ですね。小生がちっぽけ過ぎるが故、天狗の鼻をへし折る権利すらも与えて下さらないのですね。人間は、緑を削り、大地を穿り返し、自然生物の住処を破壊し、其処に建物などを沢山作ったりして、母の上で生きさせて頂いているのですよ。植物などの自然物・資源から作られた紙や箱等ナド…を平気でポイ捨てしているのですよ。其の事に、殆どの人間は気付いておりません。些細な節電―鳥渡した気遣いすらも出来ないような、そんな存在が多数を占めております。「感謝」という基本的且つとても大切な心得が、衰弱致しております。人間=土台「面倒臭がり」というエゴイズム…でありますが、其れをコントロールする為に備えられている「理性」は、故障しております。マグマに溶けて全滅してしまえヴァンダル共め。となると、どうして人間共はポイ捨てを辞めないのか?―母上、一つの答えが出ております。其れは、蛆虫(マゴット)が綺麗な所で生きていけない様に、人間共も汚い所でないと生活が出来ないからなのです。汚い―此れは、私の勝手な概念かも知れませんね。人間共にとっては、汚い=綺麗…なのかも知れないのですから。無論、蛆虫と人間は全く別の生き物。住んでいる世界も当然違います。一緒くたにしてはなりません。母上、貴女は己の身を傷め付けてでも、人間共に生を授けるのですね。此の泰平なる現代と共に、私を拒みながら。…「生命の祖」としての、責任でしょうか、母上?人間共が他の命を軽視している様に、私も人間の命を軽視している所が御座いました。怒りの矛先が向けられるのは、私だけ?まぁ、仕方がありませんか、「郷の中で郷に従っていない」わけですから。悪魔として使命を果たさんが為に此の下界に降臨したというのに、……悪魔の業も背負えぬ役立たず。

…いや、でも、ABOのとあるアルバム収録曲の詩の中に、「過ちを犯さない者、短所の無い者は、存在するのですか?愚かさを生み出すのは人間だけ。法を生むのも、人間だけ。私も罪人―ヒトそのものが、罪なる悪だから…。天使も悪魔も、所詮は紙一重。…神よ、何故裁きの権限を、我々に与えたのですか?人間なんて、儚くて脆く、狡く悪辣な魂なのに……」という一節がある。天使も悪魔も根本は同じ、やる事の目的は同じ…か。だから私は、意賀美神社に行ってお参りが出来た訳だな。神、人間、悪魔……そう言えば、世界~天界と地上界は、もともとは混沌たる一つの世界だったとの話を聞いた事がある。神々も人間同様、ストレスを抱えたり感情的になったりする事があるらしい。故に、神々は地上界(下界)の人間達に肉体という重い鎧を着せた上に、混沌を置き去りにして天界に登った(天界と下界を分裂させた)のだとか。此れは、神も人間も根本は同じであると、意味しているのかしら?某小説では、「神は存在しない?神は人が創った偶像?神は……人そのもの?」と仰っているが。いずれにせよ、神と人間を一緒くたにする事は、不可能だし有り得ないでしょう……

ABOは、もしかしたら、私と「同じ」存在?私が武道館にライブを観に行ったバンドも?だとすると、とても嬉しいな。光栄だな。こんな不衛生で狭苦しい牢獄を抜け出して、ライブを観に行きたいぜ。そして今度こそは捕まらないように、勧善懲悪と完全懲悪の目的を成就させたいぜ。…そうだ、勧善懲悪と完全懲悪を実現させる為には、どうにかしてでも天然痘を手に入れなければだよ。芥拾いが焼け石に水ならば、やはり根源を殲滅するしかない。そうした方が、楽に、且つ一網打尽で、悪共を仕留められるから。ポイ捨てせられた芥が散りばめられている街々に、ばら撒いて行くのだ。特に、繁華街と飲み屋街。賑やかである程、人の数も芥の量も多い。私の様に広大な思考を持てぬ、幼稚で莫迦な老若男女諸君に叡智を授けて差し上げるのだ。……此れが出来ない弱っちい自分が、情けなくて仕方がないよ。ただしかし、前述にもある通り、此のたった一回きりの人生が愚かな人間として生まれてこなかった事は、誠に幸福な事と思わねば。目標成就に携われていればもっともっと幸せだったのだが、…お袋、親父、俺を産んでくれて、有り難うな。二人が居なかったら、俺は……

「おい、十八番」

「?」

「手紙だ。お前の父親からだ」

「え・・・・・・」

 鉄格子越しに、若い男の監視員が私に一通の封書を差し出してきた。封書を受け取り、開封して中から一枚の白い便箋を取り出す。


『母さんが、自宅で首を吊って自殺した。「殺人犯の親」というレッテルを、近所や職場の人達などから貼られてな。あまりの重圧感に耐えられなくなって、この世から逃げ出すように安楽の世界へと旅立った。…助清、お前は今、獄中で何を思いながら過ごしている?敢えて有り触れた事を言うが、私はお前を人殺しに育てた憶えは無い。当分連絡の取り合いもなく元気にしているのかと思っていた矢先に、このような不幸が度重なった。助清よ、今更こんな事をお前に言うとは思ってもいなかったが、…如何なる理由でも、人様を殺めては、いけないのだぞ。何故そんな事が分からないのだ?一人息子であるお前を手塩にかけて育ててきたつもりだったのだが、……とても、残念だよ。よりによって何故、私の息子が犯罪者なのだ?どうして、他の人間ではないのだ?たった一度しかない人生を棒に振るとは、なんて情けない奴。過去に戻って、何もかもを修正したい。この上なく、……お前には失望したよ、助清』


 ……何故だ?私は、悪を成敗したのだぞ。私は、貴方達人間を悪から守る存在なのだぞ。私が居なかったら、貴方達は救われる事もなく、悪に苦しめられ続けていくのだぞ。

 

 

 

 お袋を よくも殺してくれたな 人間共よ




 お袋は、まだまだ生きていなければならなかった。やりたい事も、やらなければならない事も、沢山あった筈である。それらを全うし、生きるという事を大切にし、そして死ねる幸福と権利を得て、漸く涅槃行きは許されるのである。「死んで楽になりたい」と口にする者が居るが、ただ死にさえすれば楽になれるという考えは、完全なる間違い。其れで安楽を手に入れられるのならば、最初から生まれてこなければ良いのである。〝レゾンデートル〝――生きる理由や理屈、生まれてくる意味などは、分からないのだけれども……。

お袋の運命は、ヴァンダリズムによって断絶せられた。心霊学上、首を吊って死んだお袋は、地縛霊となって、首を吊る行為を繰り返しながら、苦しめられ続けていくのだろう。……永遠に。


「人間」――それは、生物界の頂に立ち、脅威と支配と破壊の意識に彩られた、悍ましい存在。だから己以外の存在が傷付いても、何も感じはしない。寧ろ、ヘラヘラしながら相手を傷付ける事だって、出来るのである。「痛み?苦しみ?そんなの、知った事では無い。自分には、関係ない。自分が痛くなければ、其れで良いのだよ。なんせ、人間は、万物の王なのだからな……」

 故に私は、此の世界では間違った存在なのである。間違っているから、勧善懲悪と完全懲悪の成就をただの夢なんかでは終わらせたくないのである。だったら、出所後エコテロリストの団体に履歴書でも送ってみるか?懲役七年――此の間に、私の怒りや悲しみ、悔しさが潰える事はないだろう。寧ろ、増幅していくに違いない。愛しき祖国に、愛しき「母」に、思いを馳せながらな……。


あれ、「絶望」するという事は、もしかしたら、「好き」という事?だから、本当は、――人間も、愛したかった・・・・・・?母が傷付かなければ、誰も傷付けず、誰も傷付かず、皆が気持ち良く幸せに生きて行けると、本当は思っていた・・・・・・?そう、願っていた・・・・・・?自分の心の中にもある脆い部分……所詮、人の子は人?何で、涙が、止まらないのだろう……

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