第80話 不滅の軍隊

ウェルウィチアの予想が当たった。


タマリスク軍の組織は、ウィスタリア人が期待したよりも遥かに強靭きょうじんで意思強固だった。

全軍の5分の1を失う損害を出しながら、その日の内に部隊を再編成し、作戦を立て直し、翌日には前日の死地となったピスガ山に押し寄せてきた。


その鋼の統率に、ウィスタリア人は背筋が寒くなる感覚を否めなかった。

前日に戦ったウィスタリア人は皆、戦闘の実際の労力以上に、綿のように疲労し、立っているのもやっとだというのに、

遥かに多く消耗したはずの赤い軍隊は、集中砲火の恐怖も、戦友のおびただしい死もまるでなかったことのように歩を進めてくる。


戦闘部隊としての能力も、前日とは明らかに違っていた。

山狩りを念頭に置いた隊形が改められ、登山路を進む本隊から、左右の尾根までの両翼に前傾した散兵線を複数配置した、Vの字をいくつか縦に連ねたような陣形を取っていた。

ウィスタリア側が茂みや岩陰に隠れて攻撃しようとすれば、両翼の兵士に発見されて反撃を受けた。

仕掛け爆弾などのトラップもことごとく看破され、タマリスク軍に被害を与えることなく処理された。


麓の司令部との情報連絡線の長さが障害となっていた指揮命令系統も、攻撃部隊に同行する戦闘隊長に大幅に権限委譲され、問題が起きても迅速に対応が取れるようになっていた。


タマリスク軍が歩を進めるに従い、ウィスタリア人が、事前の予想よりもずっと入念に準備して戦闘に臨んでいたことが明らかになった。

灌木の茂みを縫うように掘られた、幾本もの塹壕が両翼の兵士によって発見された。

地面を掘れない場所では、石を積んだ胸壁が組まれていた。

迫撃砲への対応を考えてか、随所に、丸太を組んだ上に石を積んだ掩蔽えんぺい物まであった。


塹壕ざんごうと言っても、大人が腰をかがめないと身を隠せない浅いもので、明らかな急ごしらえだったが、それでもウィスタリア人はそこを攻撃陣地とし、勇猛果敢に戦ったのだ。


自分達の相手が、全力で戦うべき敵であることを理解し、タマリスク軍はもう油断しなかった。

ウィスタリア人は地の利を生かし、粘り強く戦ったが、全員が自動小銃を備えたタマリスク軍の火力の前に、

力づくで山の上方へ押し上げられるようにして、じりじりと後退を続けていった。


夕暮れ、タマリスク軍の前線は、ピスガ山の7合目付近、山頂の岩体部から、わずかに谷ひとつ隔てた場所にまで迫っていた。

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