第79話 山上はお祭り騒ぎ
ウィスタリア人は愚直なまでに、ウェルウィチアの作戦や、老レジスタンスが伝授した戦術に忠実に戦っていた。
必ず命中するという確信を得てから引き金を引き、発砲したらそれが命中してもしなくても、素早く身を隠し、狙撃地点を移す。
敵が自分を狙っていないことを確かめてから、相手に素早く狙いを定める。
基本的にはこれだけで、彼らには、個々に指示を与える司令官のようなものもいなかった。
自律的な個々の動作が、連携してひとつの意思を持った攻撃となるまで、繰返し行った訓練、山じゅうに張り巡らせた罠、
河原の石を積んで塔を作るような地道な作業が、彼ら自身も信じられないような、大きな成果をもたらしていた。
日没後、
山頂のウィスタリア人の陣地は、前夜の重苦しい空気、あるいは今の下界にある敗走の苦渋からは一転、戦勝祝賀のお祭り騒ぎだった。
まるで勝ち目がないと思われていた敵が、彼らの前で慌てふためき、右往左往してぶざまに逃げていった。
彼らの祖国を思うがままに
こんな痛快な話はなかった。
敵兵を少くとも150人は殺した、という算定が大半を占め、中には200人、と言う者もあった。
形となって残った戦果としては、56丁の自動小銃、1000発以上の弾丸、68発の手榴弾、迫撃砲が1門。
今回の戦闘でウィスタリア人が費やした物資の、優に3倍の武器補給となった。
戦闘に参加した英雄たちは、割れんばかりの拍手と喚声で迎えらた。
ピスガ山に酒があるはずもないのだが、みな異常な興奮に酔っていた。
完璧な勝利の前に、数少ない戦死者の家族が大っぴらに悲しむことも、何だか憚られるようだった。
過熱ぎみに高揚した雰囲気を
今は発散するだけ発散させて、明日の英気に繋げるべきなのかは、ウェルウィチアにも判断が難しかった。
ただ、この敗北に懲りて、敵は引き揚げて行くのではないか、という観測は、きっぱりと否定した。
いくら落ちぶれても敵は帝国、方法は多々あれ、他国を征服することで成り立ってきた国だ。
征服しようとする相手に鼻っ柱を折られて引き下がるようなことが、許される筈もない。
もはやタマリスク軍には、何がなんでもウィスタリア人を叩き潰す以外の選択肢はあり得ない筈だった。
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