第62話 隠者の視点(4)
5000人の一行のために提供された、町外れの牧草地のキャンプに戻ってきたリーダーたちの一座は、重苦しい空気に包まれていた。
難民の側からしか分からない、深い断絶があった。
ちょうど、誤って河床に転落した者に対し、もう一方が崖の上から、なぜそんな所にいるのだ、早く上がってこいとせき立てているような、一方的な断絶だった。
故郷の大地にとってもまた、彼らは異質な存在に変化していた。
彼ら、幸運にして災厄を逃れたウィスタリア人が何と言おうと、この町のアムスデンジュン人が真に善良で、彼らの友愛が本物であるということを信じたとしても、
今さら、アムスデンジュン人やタマリスク人を、信用したり、許したりすることなど出来るはずがなかった。
アムスデンジュン、タマリスクの名自体が、彼らに対して行われた、一生消えない苦しみの印だったからだ。
先日の村と同じように、アムスデンジュン人は皆殺しにして食料を奪おう。
あの寝とぼけた馬鹿野郎共(ウィスタリア人)にも、一人づつアムスデンジュン人を殺させて、目を覚ましてやる、
そんな恐ろしいことを言う者もあった。
何をためらう、今さら血塗れの身に不浄を重ねることが怖いのか、
そんな
じっと黙っていたウェルウィチアが口を開いた。
「おれたちがこの先、滅びる運命ならそれでもいい。
たしかに、おれたちの姿を見た連中を、生かしておくのは危険だ。
神も、許すだろう。
だが仮に、生き延びて、未来を築く日のことを想像してみよう。
新しい土地、新しい隣人を持ち、《この》現在は過去に変わる、そういう未来だ。
しかしその時になっても、彼らを殺して、奪った。その過去だけは、決して軽くなることがない。
おれにはそう思える。
そんな人生は、今このときの苦しみと何も変わらないんじゃないか?
あんたがたなら、わかっているはずだ。
たしかに、もう遅いかもしれない。
だからこそ、未来を汚すのはもうやめよう。
あのムラの言う通りだよ、
どれほど取り繕っても、死体の上に幸福は築けないのだ。」
話し始めと同じように、静かな声で結んだウェルウィチアは、一同を見回した。
反論の声は出ないようだった。
翌日、朝霧の漂う中、町の住民に見送られて、難民達は出発した。
ウィスタリア人もアムスデンジュン人も、どうか行かないでほしいと言って泣き、まるで我が身を案じるかのように、難民のために祈った。
町にあった食料が、住人が食事に困るのではないかと思えるほど、ほとんど全て難民に与えられた。
ウェルウィチアらが代金を払おうとしても、頑なに拒んで受け取らなかった。
ムラは町外れの沿道に立ち、通りすぎる5000人一人一人に、旅の安全を祈願する印を結んだ。
難民たちもまた、遠ざかって行く町に、彼らの平安が続くことを祈っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます