第49話 すべての赤
乳香と硝煙の臭いが混じり合い、神聖な大理石の床は、どす黒い血液で汚れていた。
殺戮の場から、アマリリスだけでも救い出せたのは幸運だった。
犠牲者の血に興奮し、狂乱状態になったタマリスク兵の間で、呆然と立ち尽くす娘に、ウェルウィチアは聖壇に敷かれていた布を頭からかぶせ、包み隠した。
兵士の軍服も赤、アマリリスが着ていたドレスも、聖壇の布も、気味が悪いほど似た色合いの赤で、ウェルウィチアは頭がくらくらした。
暴れる娘を抱えあげ、大聖堂の奥に向かって力の限りに走った。
ヘリアンサスの姿が見えたところで足がもつれ、それでも何とか娘の体をかばって床に倒れ込んだ。
肩で息をしながら、じっと気配をうかがった。
周囲からのぞき込む、心配そうな視線。
ひそひそ声のざわめき。
兵士は追ってこなかった。
全く動かないアマリリスが心配になり、覆っていた布を取り除けた。
そこに現れた娘の顔を、彼は忘れることができない。
敵も味方も、自分も他人も、あらゆるものに向けられた憎悪。
世界を焼きつくし、神すらも殺しかねない狂気の目。
それは、徒に嗜虐性を発揮し、無惨に生命を奪ってゆく暴力と比べてもさらに深い、おそろしい罪業の姿だった。
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