執念が勝る

 白髪の男とホラインが次の集落に着いたのは、明け方のことだった。二人とも夜通し気を張り歩き続けて疲れているが、そんなそぶりはひた隠し。


 早起きで表に出ていた住民に、まずホラインが呼びかける。


「もし、そなた。族長にお会いしたいが、どこにおられる?」

「え、あんたら、こんな時間に……?」

「ああ、すまぬ。今すぐというわけではない」


 ホラインは急ぎはしないと伝えたが、住民は眉をひそめて彼に問う。


「それよりも、あんたらいったいどこから来た?」

「東の集落」

「まさか夜中に野を抜けて?」

「ああ、そうだ」

「はぁ、そりゃ何と……おっとろしい、命知らずな。一晩中歩いたってか。長歩きで疲れたろ、しばし休みな」


 住民はあきれたように息をつく。

 とりあえず住民に案内されて、二人は空き家で一休み。彼が言うには、太陽が地平線から離れたら、改めて二人を長に会わせるとのこと。

 二人は仮眠し、時を待った。



 そして族長と面会の時。族長は長いヒゲに埋もれた顔の老人だ。

 ホラインと白髪の男は、族長の前に立つ。


「旅人よ、よくぞいらした。何もなく、もてなすこともできないが、ゆっくりして行きなされ」

「かたじけない」


 ホラインが応えている間中、白髪の男は族長をジッと見ていた。

 やがて彼は確信すると剣を抜き、大きな声で言い放つ。


「ついに、ついに見つけたぞ! ここで会ったが百年目! 積年の恨み、今こそ晴らしてくれる!」


 ホラインが止める間もなく、白髪の男は隠し持った剣を抜き、族長に斬りかかる。

 しかし彼も年老いた。動き出しが早くとも、勢いが続かない。族長は脱兎だっとのごとく跳ねて逃げる。

 族長の側にひかえる集落の男衆おとこしゅうが声を上げる。


「こやつ、いきなり何をする!?」

「取り押さえろ!」


 男衆は白髪の男を取り囲むも、刃物を向けられ近寄れぬ。

 白髪の男は声を張って威圧する。


「邪魔するな! こいつこそ、探し続けた家族の仇!」

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