勇気を出して

 二人はジンカの村に着く。

 そこでビリーは同年代の若者たちに囲まれた。


「おい、ビリー! 怪物は出てきたか?」

「ビビリのお前のことだから、途中で怖くなったろう」

「素直に言えよ、怪物なんかいませんでしたと」


 ホラインはビリーを助けず、ただ見ていた。

 ビリーは勇気を出して言う。


「怪物はいた! ぼくは見た! そこの彼が証人だ!」


 ホラインに指をさし、ビリーは逃げず言い切った。うそつきとののしられるを恐れずに、を言う。ただ見たものを言うだけだが、それこそが勇気である。


 ホラインは心の内で彼をたたえ、村の若者に語って聞かす。


「私は冒険騎士ホライン。イテヨの都バハルにて、幻獣のうわさを聞き、その正体を確かめに来た。幻獣の名はカトブレパス。見た者の命を奪う死の魔眼を持つという」


 若者たちはホラインの堂々たるたたずまいに気おされる。


「それで……いたのか?」


 若者の問いにホラインはもったいつけて意味深な笑みを浮かべた。


「ああ、いたとも。だが、もういない。この私が退治した」


 それを聞いて若者らの表情がにわかにくもる。彼らの目は一様に疑わしげ。


「それなら死体は?」

「残っておらぬ。奴めはもぐらに姿を変えて、この地上から消え去った」


 困惑する若者たちに、ビリーは目を閉じ、さもありなんと息をついた。この先は予想できる。彼の汚名は晴らせまい。


 だが、ホラインは語りを続ける。


「この世には不思議なことがあるものだ。私は冒険騎士ホライン。各地を旅する冒険家にして、騎士の者。信じられぬと言うならば、これまで私が見てきたものを、ここに語って聞かせよう」


 彼はそこらに座り込み、彼が目にした不思議なものを語りつつ、冒険旅行のすばらしさを説く。真に迫る彼の語りに、若者たちもビリーもまた耳を傾けた。

 旅の話は若者のあまる熱情に火をつける。そして新たな旅人が増えるのだ。

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