望まぬ願い

 翌朝、まずホラインは二人の従者を問い詰める。

 客間にて二人を呼び出し、二対一で向かい合う。


「お二人におたずねしたい事があります」


 ギンビヤの二人の従者は、ホラインの真剣な様子にとまどう。

 男の従者が問い返す。


「いったい何がどうしたのですか」


 ホラインに腹芸はできぬ。彼はそのまま愚直に問う。


「正直にお答えしていただきたい。お二人はワガド再興をお望みですか」


 二人の従者は警戒した。

 今度は侍女がホラインに問う。


「ホライン様、あなたはマリの騎士ですか?」

「違います」

「ならばなぜ」

「お二人はギンビヤ様のお心をいかにお考えですか」


 その問いを男の従者は切り捨てる。


「ギンビヤ様は皇女殿下であられます。皇女殿下まさにその方が帝国の再興をお望みになられぬことがあり得ましょうか」

「あると言ったらどうされますか」


 真顔のままたずねたるホラインに、男の従者は沈黙した。その代わりに侍女が答える。


「貴人には貴人の務めがございます。わがままは通りませぬ」

「……お二人のお考えはよく分かりました」


 ホラインは静かにゆるりと剣を抜いた。白銀しろがねの涙きらりと刃を伝う。

 二人は同時に声を上げる。


「ホライン様、何をなさいます!」

「お二人には今まで黙っておりましたが、騎士ホライン、ギンビヤ様と主従のちぎりを結びました。同じあるじを持つ者ながら、お二人はギンビヤ様をないがしろにしておられる。主を軽んじ、かいらいにせんとするは、奸臣なり。騎士として、主へのあなどりゆめ許すまじ。いざ、いざや、覚悟なされよ!」


 すごんで迫るホラインに、男の従者が言い返す。


「ギンビヤ様がそうお望みになられたのか」

「ギンビヤ様のお望みは、みなの野心をあらたむこと。そなたら二人、野心ありて忠心なし!」


 ホラインが断じて剣を振りかざすと、どこで様子を見ていたのか、ギンビヤが割り込んだ。


「もう十分です、ホライン様!」

「ギンビヤ様! この者らは――」

「良いのです。誰も命を奪えとは申し願っておりませぬ」


 ギンビヤは従者を庇い、ホラインの前に立つ。

 彼女の強いまなざしに、ホラインは剣を引いてさやに納める。


「出過ぎたことをいたしました。主に剣を向けた非礼をお許しください」


 そう言って騎士ホラインは退室した。

 ギンビヤの従者は野心を持っていた。これなら屋敷の者たちも何事か企みおろうと、ホラインはすべてをあばく決意をする。

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